相続税の非課税枠とは|内容と注意点
相続税は、被相続人が所有していたすべての財産に無条件にかかるわけではありません。
相続税の基礎控除をはじめ、非課税財産や、控除や特例制度の利用によって相続税がかからなくなる金額があり、生前対策を行うにあたっても考慮しておかなければなりません。
今回は、相続税の非課税枠について解説します。
1.相続税が非課税となる場合は?
相続税がかからない場合は次の2つです。
- 相続税の非課税財産がある場合
- 相続税を計算する際に使う控除・特例制度がある場合
非課税財産は次項で解説する特定の財産のことで、そもそも相続税の課税対象にならない財産です。
もう1つの控除・特例制度は、課税対象となる財産の額や相続税額から一定額を差し引ける制度になります。相続税の基礎控除もこれに含まれます。
2.相続税の非課税財産とは?
最初に、相続税の非課税財産からご説明します。
相続税がかからない非課税財産は、相続税法で詳細に定められています。具体的には次の通りです。
- 墓地・仏壇など日常礼拝の対象となる財産
- 生命保険金等の非課税枠
- 死亡退職金等の非課税枠
- 国・地方公共団体・公益を目的とする事業を行う特定の法人へ寄付した財産
- 公共事業用の財産
- 心身障害者救済制度の給付金を受ける権利
- 個人経営の幼稚園事業等の財産
- 皇嗣が受ける物 など
上記の非課税財産のうち、特に注意していただきたい3点について解説します。
【参考サイト】No.4108 相続税がかからない財産|国税庁
(1) 墓地・仏壇などでも骨董品は課税対象
墓地・墓石・仏壇・仏具などで非課税財産となるのは、日常礼拝のために必要であると明らかに認められるものに限ります。投資や趣味、売買の対象であれば、相続財産として相続税の課税対象になります。
また、相続開始日までに支払いが済んでいるものでなければ非課税財産として認められない点にも注意しましょう。
ローンで購入し、相続開始日時点で残高がある場合には非課税財産にならず、さらにそのローン残高は債務控除の対象になりません。
もう1つ判断を誤りやすい点として、相続が発生した後に、遺族が相続財産から購入した墓地などは非課税財産にはなりません。被相続人が所有していた墓地などを相続したわけではないからです。
ご自分の墓地などを購入する予定がある場合には、生前に現金で購入しておきましょう。
購入した墓地などは所有したままお亡くなりになっても、非課税財産であるため相続税はかかりません。さらに現金で購入したということは、その分、相続財産が減るため、相続税の節税に繋がるからです。
なお、購入の際、被相続人名義の領収証をいただいておくことを忘れないでください。
(2) 死亡保険金等・死亡退職金等の非課税枠
被相続人の死亡保険金や死亡退職金は、相続後の遺族の生活を守るためのものであることから、次のように非課税枠が設けられています。
500万円×法定相続人の数=非課税枠
法定相続人の数には相続放棄した人も含めてカウントします。仮に、生命保険金の受取人として指定されたのが相続人1人であったとしても、非課税枠は法定相続人の数に応じた額が適用されます。
ただし、非課税枠が適用されるのは財産を相続する相続人のみとなります。
仮に相続放棄した人が生命保険金を受け取ったとしても、相続放棄した人は相続人ではないため非課税枠はなく、受取額全額に対して相続税が課されます。
よって、生命保険金の非課税枠を利用した相続税対策では、受取人の設定が重要になります。
[参考記事] 相続放棄をしても死亡保険金はもらえる? 受け取る条件と注意点(3) 寄付が非課税となる公益法人は限定される
「国・地方公共団体・公益を目的とする事業を行う特定の法人へ寄付した財産」のうち、公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄付する場合についてです。
世の中には多くの公益法人があります。寄付という行為は同じでも、寄付する先によっては非課税財産の対象にならない場合があります。
非課税財産となる主な公益法人は次の通りです。
- 独立行政法人
- 国立大学法人、公立大学法人
- 私立大学法人
- 公益社団法人、公益財団法人
- 社会福祉法人
- 日本赤十字社
- 日本ユニセフ協会
- セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン など
3.非課税に近付けるための控除・特例制度
財産自体に相続税がかからない非課税財産とは別に、それ以外の財産であっても、各種の控除や特例を活用することで、非課税財産に近い効果を得ることができます。
控除と特例には、財産の金額を減らすことができる制度と、相続税額自体を減らすことができる制度の2つがあります。
(1) 相続財産の金額を減らす制度
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人が居住用や事業用に使用していた土地が一定要件に該当する場合には、その評価額を最大で8割減額することができる制度です。
1億円の土地が2,000万円になるということであり、非常に大きな節税効果があります。
[参考記事] 小規模宅地等の特例|土地の相続税評価額が最大8割引基礎控除
すべての相続において、どの相続人にも適用される控除額であり、適用要件はありません。
次の算式により計算された金額を、相続税の対象になる財産の総額から差し引きます。
差し引いた金額がゼロ以下になる場合には相続税は非課税となり、申告も不要です。
[参考記事] 相続税の基礎控除とは?計算で相続税申告の要否がわかる3000万円+(600万円×法定相続人の数)=基礎控除額
(2) 相続税の額を減らす制度
障害者控除
障害者の相続人については、85歳に達するまでの年齢に10万円または20万円を乗じた金額が、障害者控除として相続税額から差し引かれます。
[参考記事] 相続税の障害者控除とは未成年者控除
未成年の相続人については、20歳に達するまでの年齢に10万円を乗じた金額が、未成年者控除として相続税額から差し引かれます。
相次相続控除
前回の相続から10年以内に次の相続が発生した場合には、度重なる税負担を軽減するために、一次相続の際に納めた相続税額のうち一定額が二次相続の相続税額から差し引かれます。
配偶者に対する相続税額の軽減
配偶者の相続人については、1億6,000万円または配偶者の法定相続分のいずれか大きい方の金額までの相続については、相続税がかかりません。
詳しくは以下のコラムをご覧ください。
[参考記事] 相続税は配偶者控除で遺産総額1億6000万円まで非課税に!4.被相続人が生前にできる非課税対策
このように相続税は、非課税財産や控除・特例を利用することで、多額の節税を行うことができます。
何の対策もしなければ、頑張って貯め続けた財産に相続税が課されて少なくはない額を国に納めなければならないため、その他にも生前の対策は非常に重要です。
相続税と同様に、贈与税にも非課税枠があるため、それも十分に活用することがカギになります。
(1) 暦年贈与による対策
暦年贈与には年間110万円の基礎控除額があるため、毎年その枠を利用して贈与を繰り返すことで、相続税のかかる財産自体を減らす方法です。この方法は相続税対策の代表格であり、多くの人が実行していると言われています。
仮に10年それを繰り返したとすると、最大1,100万円を贈与税も相続税もかけることなく移転させることができます。
ただし、相続開始前3年以内に行われた贈与については、生前贈与加算の対象となる点に注意しましょう。暦年贈与は、御高齢になってから始めるのではなく、お元気なうちから始めた方が良いとも言えます。
[参考記事] 生前贈与と税金|贈与税の計算と控除を活用した節税対策(2) 教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与
教育資金の一括贈与
教育資金の一括贈与は、30歳未満の人が直系尊属から教育資金の贈与を受けた場合において、1,500万円までが非課税になる制度です。
制度の適用を受けるためには、銀行や信託銀行などの金融機関と教育資金管理契約を結び、30歳未満の子や孫名義の教育資金口座を開設します。そして、贈与者がそこへ資金を預け入れることで贈与になります。
その後、口座名義人は教育資金が必要な都度、金融機関へ領収書などを提出して引き出します。
ただし、口座の名義人が30歳に達した時点で残高がある場合には、それは教育資金として使わなかったお金であるため、贈与税の課税対象になります。
結婚・子育て資金の一括贈与
結婚子育て資金の一括贈与も似たような制度です。
20歳以上50歳未満の人が直系尊属から結婚子育て資金の贈与を受けた場合において、金融機関で専用口座を開設し、そこに贈与者が資金を預け入れた場合には、1,000万円(結婚資金は300万円)までが非課税になります。
引き出す際には、結婚子育て費用の領収書などを提出し、50歳に達した時点で残高がある場合には、贈与税の対象になります。
暦年贈与の基礎控除は年間110万円しかありません。これらの制度を利用すると、口座の開設や引き出す際の手間はありますが、一度に多くの財産を非課税で贈与することができます。
なお、この2つの制度は、2023年3月31日までの期間限定の制度である点に注意しましょう。ただ今後の社会情勢に応じて、期間が延長される可能性もあります。
(3) 贈与税の配偶者控除の利用
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、自宅または自宅を取得するための資金の贈与があった場合には、贈与税の配偶者控除の適用を受けることができます。
控除額は最大2,000万円で、さらに前述の、暦年贈与の基礎控除と併用できるため、2,110万円まで非課税で贈与することができます。
5.まとめ
非課税財産は相続税自体かからない財産、控除と特例は非課税に近付けることができる制度です。
今現在、非課税財産を所有していない、または控除や特例の適用要件に該当していない場合でも、以上に述べた生前の対策によって、非課税に近付けるよう対応することは十分可能です。
被相続人になる方が制度を賢く利用し、相続人が負担する相続税を最大限減らしてあげることは、円満な相続へ繋がっていきます。