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相続放棄

遺産相続の後から借金(債務)が判明したらどうすれば良い?

遺産相続では、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続の対象に含まれます。
そのため、被相続人に借金があった場合には、相続人が借金を相続することになります。

借金を相続したくないという場合には「相続放棄」という手段がありますが、遺産分割後に被相続人の債権者から督促状が届き、借金の存在が判明するという場合もあります。
このような場合にはどのように対処したらよいのでしょうか。

今回は、遺産相続後に知らなかった借金が判明した場合の対処法について解説します。

1.被相続人に借金がある場合の対処法

まずは、被相続人に借金がある場合の一般的な対処法について説明します。

借金を相続したくない場合には、以下の相続放棄と限定承認という方法が考えられます。

(1) 相続放棄

相続放棄とは、プラスの財産とマイナスの財産を含めたすべての権利義務を一切引き継がない相続方法のことをいいます。

相続放棄をすることによって、相続放棄をした相続人は「初めから相続人ではなかった」ものとして扱われることになります(民法939条)。

相続放棄は、借金を相続することから回避できますが、それと同時に預貯金や不動産なども一切相続することができません。そのため、相続放棄を選択する場合には、十分に相続財産調査を行って、被相続人のプラスの財産がマイナスの財産を下回っていることが明らかになった場合に行うようにしましょう。

相続放棄 [参考記事] 相続放棄とは|メリット・デメリットから注意点、手続き方法を解説

(2) 限定承認

限定承認とは、相続人が相続したプラスの財産の範囲内で被相続人の借金などを弁済するという相続方法のことをいいます(民法922条)。

限定承認をすることによって、相続人はプラスの財産とマイナスの財産のすべてを相続することになりますが、相続をしたプラスの財産の範囲内に限って責任を負うことになります。

したがって、後日借金の存在が明らかになったとしても限定承認すれば、自分が相続したプラスの財産を売却して返済に充てれば足り、借金全額を返済するのに足りなかったとしてもそれ以上責任を負うことはありません。

ただし、限定承認は相続放棄とは異なり、相続人単独で限定承認の手続きを行うことはできず、相続人全員の同意が必要になります。

[参考記事] 限定承認とは|使うべき人や注意点、手続きの流れ

2.後から借金があることが判明した場合の注意点

相続開始時点で借金の存在がわかっていれば、上記のような相続放棄や限定承認によって対処することができます。
しかし、遺産分割協議後などに借金が判明した場合にはどうすれば良いのでしょうか。

(1) 相続放棄・限定承認はできない

相続放棄または限定承認をするためには、「法定単純承認事由」に該当する行為をしていないことが必要となります。
法定単純承認事由とは以下の事由です(民法921条)。

  • 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき
  • 相続人が熟慮期間中に限定承認または相続放棄をしなかったとき
  • 相続人が限定承認または相続放棄をした場合であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき

遺産分割協議は、通常、プラスの財産とマイナスの財産の全容を把握したうえで、その承継について共同相続人間で行われるものであるため、遺産分割協議が成立すればそれは「相続財産の処分」と評価されます。

したがって、遺産分割協議が成立した後は、原則として相続放棄や限定承認はできないことになります。

【例外的に相続放棄ができるケース】
遺産分割協議を行っていたとしても、過去の裁判例の中には、遺産分割協議自体が錯誤によって無効になる場合(大阪高裁平成10年2月9日決定)や自らは被相続人の遺産を全く承継することがないと信じて、公正証書遺言から逸脱していた不動産に関してのみ遺産分割協議書を作成したような場合(東京高裁平成12年12月7日決定)においては、例外的に「処分」に該当しないと判断したものもあります。
そのため、遺産分割協議をしたとしても上記のような特別な事情が認められる場合には、例外的に相続放棄や限定承認を行うことができる場合があります。

また、相続放棄または限定承認をする場合には、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません(民法915条1項)。
相続をするかどうかをじっくりと考えるための期間であることから、この期間のことを「熟慮期間」といいます。

遺産分割後に借金の存在が判明した場合には、通常、3ヶ月の熟慮期間経過後であることが多いため、やはり原則として相続放棄や限定承認を行うことはできないことになります。

【例外的に熟慮期間の起算点を遅らせることができる場合】
3ヶ月の期間経過後に相続放棄や限定承認ができるかどうかは、熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」の解釈が問題となります。
最高裁判所は、熟慮期間の起算点については、「相続放棄のための熟慮期間は、相続人が相続すべき積極及び消極財産の全部又は一部の存在を認識したとき又は通常これを認識しうべきときから起算すべき」としています(最高裁平成13年10月30日決定)。
また、3ヶ月の期間が経過していたとしても、例外的に、相続人が相続の対象となるプラスとマイナスの両方の財産が存在していないと誤信していたために相続放棄の手続きをとる必要がないと考えて熟慮期間を徒過した場合には、その誤信について過失がないことを条件に、起算日を遺産の認識時または認識可能時に繰り下げることができるとしています(最高裁昭和59年4月27日判決)。しかし、遺産分割後に借金の存在が判明したという事案では遺産分割によってプラスの財産の存在は認識していますので、相続放棄を行うことは難しいといえるでしょう。

(2) 遺産内容の重要な部分に関する錯誤がある場合

民法が相続放棄の申述について、3ヶ月の熟慮期間を設けた趣旨は、当該期間の中で被相続人の遺産の構成、内容について相続人らに調査を尽くさせることにあります(民法915条2項)。
このような趣旨に照らせば、民法は相続人に対して、相続財産の調査を行ったうえで、相続放棄をするかどうかを判断するように求めているものといえます。

したがって、相続人が熟慮期間内に調査を尽くしたにもかかわらず、債権者からの誤った回答によって相続財産が存在しないものと信じ、相続放棄をすることのないまま熟慮期間が経過してしまった場合には、相続人において遺産の構成について錯誤に陥っているといえます。

そのため、相続人にそれ以上の債務の調査は、事実上不可能になっていますので、熟慮期間の趣旨に照らして、相続人が錯誤に陥っていたことを認識した時点から熟慮期間が開始することになります(高松高裁平成20年3月5日決定)。

このような裁判例を前提とすると、被相続人が生前利用していた金融機関に問い合わせたところ「負債はない」との誤った回答がなされた場合には、遺産分割協議を経た後であっても例外的に相続放棄や限定承認ができる場合があります。

3.相続放棄ができない場合の対処法

上記のように相続放棄や限定承認が認められなかった場合には、被相続人から相続した借金についてはどのように対処すればよいのでしょうか。

(1) 消滅時効の援用

借金を相続した場合でも借金の消滅時効が完成している場合には、消滅時効を援用することによって借金の返済義務を免れることができます。

遺産分割後に借金が判明するということは、そもそも長期間取引がなかった借金である可能性があります。クレジットやサラ金業者の借金も時効期間は5年間ですので、その間取引がなかったという場合には時効になる可能性があります。

債権者からの督促に応じて返済をしてしまう前に、専門家に依頼をして時効の可能性を調査してみるとよいでしょう。

(2) 任意整理

時効になっていないのであれば、相続人には相続した借金の返済義務があります。
借金の金額が少なく、相続した財産や相続人自身の財産から返済することができれば特に問題はありません。

しかし、返済が困難な金額である場合には、弁護士に依頼をして任意整理を行うということも一つの方法です。

任意整理では、債権者と交渉を行うことによって返済方法の変更や将来利息のカットなどに応じてもらえる可能性がありますので、返済の負担を軽減することができます。

(3) 法的整理(自己破産、個人再生)

任意整理も難しいという場合には、自己破産や個人再生といった法的整理を検討しなければなりません。法的整理をすることによって、裁判所が借金の減免を法的に認めてくれますので、相続した借金に関する問題を抜本的に解決することができます。

しかし、自己破産や個人再生にはデメリットもあります。どの方法が最適かは置かれている状況によって異なりますので、専門家と相談をしながら決めていくと良いでしょう。

4.まとめ

家族であっても被相続人の財産をすべて把握しているわけではありません。相続が開始し、遺産分割協議を終えた後に初めて借金の存在が判明することも珍しくありません。

相続財産調査を怠ると思わぬ不利益が生じることもありますので、相続が開始した場合には速やかに弁護士に相談して、相続財産調査を十分に行っておくことが大切です。

相続に関するお悩みは、相続に強い泉総合法律事務所の弁護士にどうぞお気軽にご相談ください。

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