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相続に関する税金

相続税は配偶者控除で遺産総額1億6000万円まで非課税に!

平成27年施行の相続税法改正により基礎控除額が引き下げられたことに伴い、相続税の納付対象者が増えています。

配偶者の税額軽減(配偶者控除)は相続税の有効な節税手段となっており、課税対象者のほとんどが利用していらっしゃることでしょう。

一方で、配偶者ご自身の相続まで考えると、この配偶者の税額軽減(配偶者控除)にはデメリットもあります。

そこで、今回の記事では、配偶者の税額軽減(配偶者控除)について説明するとともに、そのデメリットについても分かりやすくご説明いたします。

1.相続税の配偶者の税額軽減(配偶者控除)とは

まず、配偶者の税額軽減(配偶者控除)とはどのようなものか、および、配偶者の税額軽減(配偶者控除)を使うための要件について説明します。

(1) 配偶者の税額軽減とは

配偶者の税額軽減(配偶者控除)とは、配偶者が受け取る遺産額が、「1億6,000万円」「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い金額までは相続税がかからないという制度です。

つまり、配偶者に対しては、少なくとも1億6,000万円までは相続税がかからないということになります。

また、被相続人と配偶者の間に子供がなく、他に被相続人の直系尊属や兄弟姉妹、甥姪もいない場合には、相続人は配偶者のみとなり、すべての遺産を相続することになります。したがって、この場合、配偶者の法定相続分は「1」となり、相続税がかからないことになります。

(2) 配偶者の税額軽減が設けられた理由

配偶者の税額軽減(配偶者控除)が定められたのは、主に、次の3つの理由のためです。

  • 被相続人の財産形成には、少なからず配偶者の貢献があったため
  • 配偶者の老後の生活を保障するため
  • 被相続人と配偶者という「同一世代間」での財産移転になり、次の相続(配偶者を被相続人とする相続)までの期間が短く、短期間に、同じ財産に複数回課税するのを避けるため

(3) 配偶者の税額軽減の適用要件

配偶者の税額軽減(配偶者控除)を受けるためには、次の要件を満たすことが必要です。

戸籍上の配偶者であること

まず、戸籍上の配偶者である必要があります。
婚姻期間の長短は適用要件にはなっていません。よって、婚姻期間が50年以上でも1年未満でも配偶者の税額軽減(配偶者控除)が適用できます。

一方、事実上の結婚生活を送っていたとしても、籍を入れていない、いわゆる「内縁関係・事実婚の妻や夫」には、この配偶者の税額軽減(配偶者控除)は認められません

相続税申告期限まで遺産分割が完了していること

配偶者の税額軽減(配偶者控除)は、実際に取得した財産を基に計算することになっており、相続税の申告期限までに分割されていない財産は対象になりません。

ただし、相続税申告期限に遺産分割が間に合わない場合は、相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し納税を済ませた上で、申告期限から3年以内に遺産分割を行うと、配偶者の税額軽減(配偶者控除)の対象になります。

相続税の申告期限後3年以内に分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合は、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割されたときも、税額軽減の対象になります。

遺産分割が確定した結果、納めた税額が不足する場合は修正申告を行い、納めた税額が多すぎた場合は更正の請求を行います。

 相続税申告書を提出すること

配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用する場合は、相続税申告書を提出する必要があります。

必要書類等は「4. 配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用する場合の注意点」をご参照ください。

2.相続税の配偶者の税額軽減(配偶者控除)の計算方法

ここでは、最初に相続税の計算手順を説明し、その後、いくつか典型的なパターンを使って配偶者の税額軽減(配偶者控除)の効果を見ていきます。

(1) 相続税の計算手順

遺産総額の算出

最初に、各相続人や受遺者が取得した次のような財産を加算し、借金などの債務を控除して遺産の総額を算出します。

  • 預貯金、不動産、株式といった被相続人の財産
  • 被相続人の死亡保険金や死亡退職金(それぞれ、500万円×法定相続人数を控除)
  • 生前贈与された財産の一部(相続時精算課税、死亡3年以内の生前贈与分)
  • 借金などの債務は控除

基礎控除額の算出

次の計算式で基礎控除の額を算出します。

  • 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人数

課税遺産総額の算出

次の計算式で課税される遺産総額を算出します。

  • 課税遺産総額=遺産総額-基礎控除額

相続税総額の算出

①各相続人の法定相続分で相続税を計算

それぞれの法定相続人が、法定相続分で遺産を相続した仮定して、それぞれの相続人の相続税を算出します。

②相続税の総額を計算

法定相続人それぞれの相続税をたして「相続税総額」を求めます。

  • 各相続人の実際の相続税額を計算
    相続税総額を実際の相続分で按分して、各相続人の実際の相続税額を計算します
  • 配偶者の税額軽減(配偶者控除)の計算
    配偶者の相続分のうち、1億6,000万円以下、あるいは、法定相続分相当額以下については配偶者の税額軽減(配偶者控除)が使えますので、この控除を考慮して、配偶者の実際の相続税額を計算します。

(2) 計算例

では、ここからは次のケースに基づいて、シミュレーションしてみましょう。

遺産総額:5億円
法定相続人:配偶者、長男、長女
基礎控除額:4,800万円(3,000万円+600万円*3人)
課税遺産総額:45,200万円(遺産総額-基礎控除額)
相続税総額:13,110万円

法定相続割合 法定相続分 相続税率 控除額 法定相続分の相続税
配偶者 1/2 22,600万円 45% 2,700万円 7,470万円
長男 1/4 11,300万円 40% 1,700万円 2,820万円
長女 1/4 11,300万円 40% 1,700万円 2,820万円
総額 13,110万円

配偶者の遺産相続額が1億6,000万円以下、あるいは、法定相続割合以下の場合

実際の分割割合を、配偶者2億円、長男1.5億円、長女1.5億円とします。配偶者の相続分は、2億円/5億円となり、法定相続分の1/2以下となります

「配偶者の相続税額」=「相続税総額」×(「配偶者の相続分」/「遺産総額」)
=13,110万円×(2億円/5億円)=5,244万円

配偶者の相続税額は5,244万円と算出されますが、配偶者の相続額が法定相続分以下のため、配偶者の税額軽減(配偶者控除)により、配偶者の相続税はゼロとなります。

ちなみに、他に相続人となる子供2人が支払う相続税は、合計7,866万円です。

配偶者の遺産相続額が、1億6,000万円・法定相続割合より多い場合

実際の分割割合を、配偶者4億円、長0.5億円、長女0.5億円とします。この場合、配偶者の相続分は、4億円/5億円と、法定相続分の1/2より多くなります。

「配偶者の相続税額」=「相続税総額」×(「配偶者の相続分」/「遺産総額」)
=13,110万円×(4億円/5億円)=10,488万円

配偶者の相続税額は10,488万円と算出されますが、この例では、配偶者の法定相続分までは配偶者の税額軽減(配偶者控除)により非課税となります。

「配偶者の法定相続分の相続税額」=「相続税の総額」×1/2=13,110×1/2=6,555万円

よって、配偶者の相続税額は、10,488-6,555=3,933万円となります。

3.配偶者の税額軽減(配偶者控除)のデメリット

夫婦のどちらかが亡くなった時の相続を一次相続、残された配偶者が死亡した時の相続を二次相続といいます。

一次相続で、配偶者の税額軽減(配偶者控除)の上限一杯まで利用した遺産分割を行うと、配偶者に遺産が集中して、取得する財産の総額が増えます。
加えて、二次相続では、配偶者の税額軽減(配偶者控除)は使えず、また、法定相続人の数も減るため、基礎控除額や死亡保険金・死亡退職金の控除額も減ってしまいます。

その結果、二次相続の相続税が高額になるケースがあります。

前記「(2)計算例」のケースを使い、相続税が高額になるケースを確認します。

【一次相続】
遺産総額:5億円
法定相続人:配偶者、長男、長女
基礎控除額:4,800万円(3,000万円+600万円*3人)
課税遺産総額:45,200万円(遺産総額−基礎控除額)
相続税総額:13,110万円

加えて、配偶者独自の財産として2億円を所有していたとします。

(1) 一次相続で配偶者が法定相続分を相続する場合

まず、一次相続で配偶者が法定相続分を承継した場合を考えてみます。

①一次相続

一次相続で、配偶者が法定相続割合である1/2(2.5億円)を相続する場合、配偶者の相続税は非課税となり、長男と長女の相続税額の合計は6,555万円となります。

②二次相続

遺産総額:4.5億円(独自財産2億円+一次相続分2.5億円)
法定相続人:長男、長女
基礎控除額:4,200万円(3,000万円+600万円*2人)
課税遺産総額:40,800万円(遺産総額−基礎控除額)
相続税総額:12,960万円

法定相続割合 法定相続分 相続税率 控除額 法定相続分の相続税
長男 1/2 20,400万円 45% 2,700万円 6,480万円
長女 1/2 20,400万円 45% 2,700万円 6,480万円
総額 12,960万円

二次相続では配偶者の税額軽減(配偶者控除)は使えないため、子供2人の納税額は合計12,960万円と、高額になってしまいます。

このケースでの一次相続と二次相続の相続税の合計額は、19,515万円となります。

(2) 一次相続で配偶者が何も相続しなかった場合

次に、一次相続で配偶者が何も相続しなかった場合を考えてみます。

①一次相続

一次相続で配偶者が何も相続せず、すべてを長男・長女が相続したと仮定します。

この場合の長男と長女の相続税額の合計は13,110万円となります。

②二次相続

遺産総額:2億円(独自財産2億円のみ)
法定相続人:長男、長女
基礎控除額:4,200万円(3,000万円+600万円*2人)
課税遺産総額:15,800万円(遺産総額−基礎控除額)
相続税総額:3,340万円

法定相続割合 法定相続分 相続税率 控除額 法定相続分の相続税
長男 1/2 7,900万円 30% 700万円 1,670万円
長女 1/2 7,900万円 30% 700万円 1,670万円
総額 3,340万円

二次相続では配偶者の税額軽減(配偶者控除)は使えないため、子供2人の納税額は合計3,340万円となります。

このケースでの一次相続と二次相続の相続税の合計額は16,450円となります。

このシミュレーションのように、条件によっては、一次相続で配偶者の税額軽減(配偶者控除)をフルに使わない方が、一次相続と二次相続の相続税合計額が少なくなるケースがあります。

4.配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用する場合の注意点

(配偶者控除)の適用にあたっては、配偶者の税額軽減(配偶者控除)のデメリット以外の注意点もあります。

(1) 相続税の申告が必須

配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用した結果、相続税がかからない場合でも、相続税の申告書を提出する必要があります。

相続税がかからないからといって、申告が不要というわけではありません。無申告では、配偶者の税額軽減(配偶者控除)の適用を受けることはできないのです。

配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用するためには、次の書類を提出します。

  • 申告書の第5表「配偶者の税額軽減額の計算書」
    (下記の添付書類)
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し
  • 遺産分割協議書の写しを添付するときは、相続人全員の印鑑証明書

申告書の第5表「配偶者の税額軽減額の計算書」の記入に際しては、基本的には、「2.相続税の配偶者の税額軽減(配偶者控除)の計算方法」で計算した金額を記入して、最終的には「配偶者の税額軽減額」を求めて記載します。

(2) 相続税申告後に新たな財産が見つかった場合

相続税の申告後に新たに相続財産が見つかった場合は、修正申告を行います。
修正申告の場合でも配偶者の税額軽減(配偶者控除)を受けることが可能です。

ただし、税務署の指摘を受けて修正申告する場合は、配偶者の税額軽減(配偶者控除)が受けられない可能性がありますので注意しましょう。

(3) 隠蔽仮装行為があった場合

隠蔽仮装行為があった場合は、隠蔽されていた財産については配偶者の税額軽減(配偶者控除)が適用できません。

なお、隠蔽行為とは、主に次のような行為のことをいいます。

  • 帳簿書類改竄、偽造、変造、虚偽の表示、破棄、隠蔽を行う行為
  • 課税財産の隠匿、架空の債務、捏造して課税価格を圧縮する行為
  • 虚偽の答弁によって、課税財産の存在を知りながら課税財産を申告しない行為
  • 名義資産、架空名義などの状態を利用して課税財産を申告しない行為

(4) 配偶者が遺産分割前に死亡した場合

遺産分割協議が終わらないうちに、不幸にして配偶者が亡くなってしまうことも考えられます。

この場合は、亡くなった配偶者が生存しているものとして遺産分割を行い、配偶者が受け取ることになった相続財産について、配偶者の税額軽減(配偶者控除)を受けることができます。

5.まとめ

今回は、「配偶者税額軽減(配偶者の税額軽減(配偶者控除))」について見てきました。

この配偶者の税額軽減(配偶者控除)は、長年連れ添った配偶者に非課税で遺産相続させることができる良い制度ですので、有効に利用すべきだと思います。

一方で、一次相続で配偶者の税額軽減(配偶者控除)枠を目一杯利用した結果、二次相続の納税額が高額になり、一次相続と二次相続をトータルで考えると、納税の観点で損をするケースもあります。

ポイントは、配偶者の税額軽減(配偶者控除)の利用を前提としつつも、二次相続まで考えて、いくらまで配偶者の税額軽減(配偶者控除)を使えば良いか(配偶者への相続額をいくらにするか)を考慮して遺産分割を行うことです。

相続経験豊富な専門家に相談すると、二次相続含めた最適な相続の仕方をアドバイスしてもらえます。

相続は、目の前の一次相続だけでなく、次の二次相続も考慮に入れて考えるべきです。

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