遺産整理は自分でできる?弁護士に依頼すべき理由
被相続人が死亡した後は、被相続人が所有していた財産の解約や名義変更といった「遺産整理」を行うことになります。
被相続人の遺産がたくさんあるという場合には、遺産整理の内容も多岐にわたるため、非常に煩雑な手続となります。
相続人の方がご自身ですべての手続をすることができれば良いですが、不慣れな手続では時間も労力もかかってしまいますので、プロに依頼をすべきケースもあります。
今回は、遺産整理の必要性・内容と、遺産整理を弁護士に依頼するメリットについて解説します。
1.遺産整理が重要な理由
遺産整理とは、一般的には、「亡くなった被相続人の財産を相続するための手続」を指す言葉として使われています。
遺産整理の具体的な流れとしては、以下のようになります。
- 相続財産の調査
- 相続人の確定
- 財産目録・相続関係図の作成
- 遺産分割協議
- 遺産分割協議書の作成
- 相続財産の名義変更
- 相続税の申告
被相続人が亡くなった場合には、速やかに遺産整理を行い、必要な相続手続を完了させることが大切です。遺産整理をきちんと行わないと以下のような問題が生じる可能性がありますので注意が必要です。
(1) 相続財産の漏れで遺産分割のやり直しが必要になる
遺産整理の内容として、相続財産の調査があります。
相続財産の調査は、遺産分割の前提となる財産を洗い出すという重要な作業です。相続財産の調査をしっかりと行わず、相続財産に漏れがあるような場合には、再度遺産分割をやり直さなければならなくなります。
また、漏れていた遺産が重要なものであった場合には、当初の遺産分割協議自体が無効になってしまうという可能性もありますので、相続財産調査はしっかりと行うことが大切です。
(2) 登記などが漏れて後々問題になる
遺産整理の内容として相続財産の名義変更があります。
被相続人が不動産を所有していた場合には、被相続人名義から不動産を相続した相続人名義へと登記名義を変更する必要があります。
相続登記を怠っていると、不動産登記上からは現在の所有者が判明せず、将来不動産を売却しようとした場合に煩雑な手続が必要になる可能性があります。
(3) 法定の期限内に手続を終えることができない
遺産整理の内容として相続税の申告があります。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりませんが、遺産整理を疎かにしていると、10か月以内に相続税の申告に必要となる相続人調査、相続財産調査、遺産分割協議などを終えることができず、法定の期限を徒過してしまう可能性があります。
相続税の申告期限を守らなかった場合、延滞税や加算税といったペナルティが課されるだけでなく、相続税申告にあたって有利な制度や特例を利用することができなくなる結果、過大な相続税の負担を強いられる可能性があります。
2.遺産整理の内容
では、遺産整理をする場合にはどのようなことをすればよいのでしょうか。
以下では、代表的な遺産整理の内容について紹介します。
(1) 預貯金の名義変更・解約手続
被相続人名義の預貯金口座がある場合には、名義変更・解約手続が必要となります。
預貯金口座の名義変更・解約手続は、相続人が単独で手続をすることができず、相続人全員の同意を得て手続を行うのが原則です。
そのため、まずは、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が相続財産である預貯金を取得するのか、誰が代表相続人として預貯金の名義変更・解約手続を行うのかを決めなければなりません。
預貯金の名義変更・解約手続に必要となる書類は、金融機関によって異なる場合もありますが、一般的には以下のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 遺産分割協議書
これらの書類をそろえて、金融機関の窓口で預貯金の名義変更・解約の手続を行います。
[参考記事] 銀行口座の相続手続き|期限はある?凍結解除はどうやる?(2) 不動産の所有権移転登記手続
被相続人が所有していた土地、建物といった不動産は、被相続人名義から不動産を相続した相続人名義へと登記名義を変更する必要があります。
これを「相続登記手続」といいます。
相続登記手続をするには、その前提として遺産分割協議が成立していることが必要となりますので、相続人全員で誰が不動産を取得するのかを決めなければなりません。
法定相続分に応じて共有とすることもできますが、共有状態の不動産だと将来トラブルになる可能性がありますので、できる限り単独所有にすることが好ましいといえます。
遺産分割協議が成立した場合には、法務局で以下の書類を提出して相続登記を行います。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産を相続する相続人の住民票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書
- 固定資産評価証明書
ご自身で相続登記手続が難しいという場合には、司法書士に依頼して行うという方法もあります。
[参考記事] 不動産の遺贈を受けたら登記を忘れずに|相続登記の必要性・手続き(3) 生命保険・損害保険の名義変更手続
生命保険については、受取人が指定されている場合は、受取人固有の財産として扱われることになりますので相続財産には含まれません。
そのため、生命保険から死亡保険金が支払われたとしても遺産分割の対象から除外することができます。
被相続人が損害保険に加入していた場合には、損害保険を解約した場合の解約返戻金が相続財産となります。
もっとも、損害保険については、解約をせずに名義変更をしてそのまま継続するという方法も考えられます。
どちらの方法を選択するかについては、遺産分割協議の際に相続人同士でよく話し合って決定することが大切です。
(4) 上場株式・投資信託等の名義変更・解約手続
上場株式、投資信託などは相続財産に含まれますので、名義変更・解約手続が必要となります。
上場株式、投資信託などは証券会社や金融機関を利用して購入するのが一般的ですので、相続の手続についても証券会社や金融機関を窓口として行います。
必要となる書類は証券会社や金融機関によって異なってきますので、相続が発生した場合には、被相続人が取引をしていた証券会社や金融機関に問い合わせてみるとよいでしょう。
(5) 年金・社会保険の手続
被相続人の社会保険や年金については、相続財産には含まれませんので遺産分割の対象外となります。
しかし、被相続人が死亡した場合には、年金や社会保険について特別な手続が必要になりますので忘れずに行いましょう。
年金
被相続人の年金については、相続人に承継されることなく死亡によって年金を受給する権利が消滅します。
そのため、年金受給者が亡くなった場合には、最寄りの年金事務所に「年金受給権者死亡届」を提出し、年金の支給停止手続を行う必要があります。
この手続は、国民年金の場合は死亡から14日以内、厚生年金の場合は死亡から10日以内に行う必要があります。
社会保険の手続
国民健康保険や社会保険の被保険者が死亡した場合には、葬祭や埋葬に要する費用の一部について支給を受けることができます。
葬祭費(埋葬料)の支給を受けるためには、所定の手続を行う必要がありますので、忘れずに手続を行いましょう。
3.遺産整理を弁護士に依頼するメリット
遺産整理は、相続人がご自身で行うこともできますが、以下のようなメリットがありますので弁護士に依頼をすることをおすすめします。
(1) 書類の収集や登記手続などを一任できる
遺産整理を行う際には、戸籍謄本、住民票の写し、戸籍の附票の写しなどさまざまな書類を収集しなければなりません。
被相続人の本籍地が遠方であったり、結婚・離婚などによって本籍地が何度も変わっていたりする場合には、複数の市区町村役場に申請をしなければすべての書類を取得することができません。
弁護士に依頼をすることによって、必要書類の収集はすべて任せることができますので、書類収集に要する時間や労力を大幅に軽減することができます。
また弁護士の多くは司法書士や税理士といった他の分野の専門家とも提携をしていますので、相続登記手続や相続税の申告が必要になった場合でも弁護士を窓口としてすべての手続を行うことが可能です。
(2) スムーズな遺産分割を実現できる
被相続人が遺言書を残さずに死亡した場合には、被相続人の遺産は、相続人による遺産分割協議によって分割することになります。
しかし、遺産分割協議では、各相続人の利害が対立することになるため、お互いの意見の衝突によって遺産分割協議が成立するまでに長期間を要することも珍しくありません。
弁護士は、相続人の代理人として遺産分割協議に参加することができ、相続人同士で争いのあるケースであっても法的観点から冷静に話し合いを進めることができますので、当事者同士で話し合いをするよりもスムーズに遺産分割を成立させることができます。
(3) 専門的なアドバイスにより、経済的不利益等を回避できる。
前述のとおり、遺産の内容に関する判断一つとっても、専門的な知識が必要な場面が多いので、その際に専門家である弁護士がいることで、遺産整理に関する判断間違いや、それによる経済的不利益等を回避することができます。
4.まとめ
遺産整理はさまざまな内容が含まれますので、遺産がたくさんあるという場合では非常に煩雑な手続となります。
相続人ご自身で遺産整理を行うこともできますが、期限の徒過や相続財産の漏れなどのリスクがありますので、遺産整理は、専門家である弁護士に任せるのが安心です。
遺産整理の手続に不安があるという方は、お早めに弁護士にご相談ください。