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遺産分割

賃貸借契約で貸主が亡くなったらどうなる?相続と貸主・借主の関係

賃貸借契約 相続

被相続人が収益物件を所有しているケースでは、相続財産の中に含まれる不動産が第三者に対して賃貸されていることが多くなります。
では賃貸借契約の貸主が死亡すると、相続によって賃貸人たる地位はどのように取り扱われるのでしょうか。

賃貸借契約の相続における取り扱いは、賃貸人にとっては物件をどのように活用できるのか、賃借人にとっては今後も物件に住み続けられるのかどうかという観点から、きわめて重要な問題です。

今回は、賃貸借契約の貸主が亡くなった場合の相続処理や、法律上の留意点などについて詳しく解説します。

1.賃貸人が亡くなった場合の相続処理

賃貸借契約の賃貸人が亡くなった場合には、賃貸人たる地位(貸主としての立場)および敷金返還債務は、結論としていずれも相続の対象となります。
まずは、賃貸人たる地位の相続に関する基本的なルールを見てみましょう。

(1) 賃貸人の地位が相続人に承継される

賃貸人が死亡したとしても、民法上、賃貸借契約の終了事由には該当しません。

したがって、相続によって自動的に、賃貸人たる地位を相続人が承継することになります。

(2) 敷金返還債務も相続人が承継

不動産などの賃貸借が行われる際には、賃借人から賃貸人に対して「敷金」が差し入れられるケースがよくあります。
敷金は、賃貸借契約から生じる一切の債務を担保する目的で差し入れられる金銭ですから(民法622条の2第1項)、賃借人の未履行債務への充当が行われない限りは、賃貸借契約終了の際に、賃貸人から賃借人に対して返還する必要があります。

この敷金返還債務についても、賃貸人たる地位と同様に、相続の対象となります。

最高裁の判例上は、所有権移転に伴って賃貸人たる地位が承継された場合、未払賃料債務に敷金を充当したうえで、その残額についての権利義務関係が新賃貸人に承継されると判示されています(最高裁昭和44年7月17日判決)。

したがって、相続によって相続人が賃貸人たる地位を承継した場合にも、相続開始時点での未払賃料債務に敷金を充当した後、その残額に係る敷金返還債務を相続人が承継します。

(3) 不動産の賃貸借は簡単には解除できない場合がある

賃貸人たる地位を承継した相続人が、賃貸借契約を終了させて別の人に目的物を貸した方が良いのではないかと考えるケースもあるかと思います。

しかし、借地借家法が適用される不動産の賃貸借である場合、賃貸借契約を簡単に終了させることはできません。

<借地借家法の適用対象>

  • 建物所有目的の土地賃貸借契約
  • 建物賃貸借契約

というのも、借地借家法が適用される不動産賃貸借契約は、期間が満了した場合でも、貸主による更新拒絶・解約には正当事由が必要とされているからです(借地借家法5条・6条(借地)、26条・27条・28条(借家))。

この正当事由は非常に厳格なものとなっているため、賃貸人から賃貸借契約を終了させることはきわめて困難となっています。

そのため、借地借家法の適用がある賃貸借契約の賃貸人たる地位を承継した相続人は、当面の間、賃貸借契約が存続することを前提とした物件の運用方法を検討すべきでしょう。

2.相続人が複数のケースにおける賃貸人の地位

相続人が複数いる場合、賃貸人たる地位は、遺言等の定めがない限りいったん相続人全員が共同で承継することになりますが、最終的には遺産分割協議によって賃貸人を定めることもできます。

(1) 賃貸人の地位はいったん相続人全員で承継する

賃貸人たる地位をいったん相続人全員が共同で承継するのは、遺産分割未了の段階における相続財産は相続人全員の共有とされているためです(民法898条)。

賃貸人たる地位も相続財産の一部なので、遺産分割未了の段階では相続人全員の(準)共有となり、賃借人に対する賃貸人としての諸債務を負担することになります。

また、遺産分割により新たな賃貸人が決まるまでの賃料債権は、「遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得」します。(最高裁平成17年9月8日判決)。

(2) 遺産分割協議で賃貸人の地位を承継する相続人を決める

賃貸借契約の賃貸人たる地位は、他の相続財産と同様に、相続人全員による遺産分割協議によって承継人を決定します(民法907条1項)。

遺産分割協議では、相続人が合意する限り、どのような形で遺産を分配しても構いません。
したがって、物件に対する相続人のニーズや、他の相続財産との兼ね合いなどを考慮しながら、誰が賃貸人たる地位を承継するかを決めることになります。

なお、遺言書によって賃貸人たる地位を承継する相続人が定められている場合には、賃貸人たる地位は遺産分割の対象から外され、遺言書で指定された相続人が承継します(ただし、相続人全員が合意すれば遺言書と異なる内容の分割も可能です)。

(3) 対抗要件を備えれば、誰が承継するかについて賃借人の承諾は不要

相続人による賃貸人たる地位の承継については、対抗要件を備えれば、賃借人の承諾を得ることは不要です。

民法605条の2第1項では、以下のいずれかの方法により賃借人が賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位が譲受人に移転するものと定められています。

  • 不動産賃貸借の登記(民法605条)
  • 土地上に登記済みの建物を所有(土地賃貸借の場合。借地借家法10条1項)
  • 建物の引渡し(建物賃貸借の場合。借地借家法31条)

さらに、目的物の譲渡による賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗(主張)するためには、不動産の所有権移転登記も具備する必要があります(民法605条の2第3項)。

上記はいずれも「譲渡」に関する規定ですが、こうした規定になっている趣旨は賃借人による賃料二重払いの危険を防ぐことにあるとされており、相続による承継の場合にも同様に当てはまります。

したがって、「賃貸借についての対抗要件」と「所有権移転登記」を経ることによって、相続人は賃借人の承諾を得ることなく、賃貸借契約の賃貸人たる地位を承継し、これを賃借人に対抗(主張)することができるのです。

3. 新賃貸人となる相続人がすべき賃借人への手続き

賃貸人たる地位は、相続発生や遺産分割の完了に伴い自動的に移転するので、法律上必須となる手続きは特にありません。

しかし、相続による賃貸人の変更に関して、賃貸人(相続人)・賃借人間でコミュニケーションのミスが生じると、後のトラブルの原因になります。
そのため、以下の対応を順次行っていくとよいでしょう。

(1) 賃料の振込先を変更する

賃料が従前どおり被相続人の口座に振り込まれてしまうと、払い戻しをするためには、金融機関との間で相続手続きを行う必要があります。
しかし、金融機関の相続手続きには時間がかかるケースも多く、長期間資金が拘束されてしまうことにもなりかねません。

そのため、相続による賃貸人たる地位の承継が問題になっている場合には、まずは賃貸借契約の定めに従い、賃料の振込先を変更しましょう。
変更の方法は賃貸借契約に定められていますが、賃貸人(相続人)から賃借人に対して通知をすることで変更ができるケースが多いです。

(2) 新しく賃貸人となる相続人を賃借人に通知する

遺産分割協議(または遺言書)によって、新しい賃貸人となる相続人が確定したら、新賃貸人の住所・名前・連絡先などを賃借人に通知しましょう。

なお前述のとおり、賃貸人たる地位の移転を賃借人に対して対抗するには、「賃貸借の対抗要件」と「所有権移転登記」を備える必要があります。
そのため、賃借人に対する通知を行う前に、これらの対抗要件・登記を備えておきましょう。

(3) 相続に伴う賃貸人変更に関する覚書を締結すると安心

相続による賃貸人たる地位の移転が起こった後も、賃貸借契約の内容は従前どおりです。
そのため、契約書を締結し直したり、契約内容を変更したりする必要は特にありません。

しかし、相続によって賃貸人の変更があったこと自体は、契約上明らかにしておく方が望ましいです。
そのため、新賃貸人の相続人と賃借人の間で、相続によって新賃貸人が賃貸人たる地位を承継したことを確認する覚書を締結しておくとよいでしょう。

参考として覚書の雛形を挙げておきます。

4.賃貸人たる地位を相続した場合における相続税の取扱い

不動産賃貸借契約上の賃借権は、賃借人に強力な権利を認めるものであるため、相続税の計算上も、一定の減額が割り当てられます。

(1) 借地権割合・借家権割合に応じて相続税が減額される

賃借権の相続税評価額は、目的物自体の相続税評価額に、借地権割合・借家権割合を乗じて求められます。

借地権割合・借家権割合は30~70%程度の高率になることが多いです。

借地借家法が適用される不動産賃貸借はそもそも存続期間が長いうえ、厳しい更新拒絶事由が定められています。
そのため、目的物に関する経済的価値の大部分が賃借人に移転していると評価され、その評価を相続税にも反映すべきと考えられているのです。

その結果、賃借権の負担付きで不動産を相続した相続人に課される相続税は、負担なしの場合に比べてかなり減額されることになります。

(2) 賃料が相場より安すぎる場合は使用貸借とみなされるおそれ

ただし、相続されたのが賃貸借契約に基づく賃借権なのか、それとも無償の使用貸借契約に基づく使用借権なのかについては、実質的な観点から判断されます。

たとえば、相続税評価額を下げるために、名目的な賃料のみを設定して賃貸借契約を締結したとします。
この賃料が相場よりも安すぎる場合には、実質的に使用貸借と相違ないと判断され、賃借権の負担がない不動産として相続税評価が行われる可能性があるので、十分注意しましょう。

5.貸主の相続についてのよくある質問(FAQ)

  • 賃貸物件のローンが残っている場合はどうなるの?

    被相続人が賃貸アパートや賃貸マンションを建設するために金融機関などから借りたローンが残ったまま相続が開始してしまうことがあります。

    ローンなどの借金は、相続人が法定相続分にしたがって承継するため、金融機関は、各相続人に対して相続分に応じて請求することができます。

    遺産分割協議でローンを承継する相続人を決めることはできますが、あくまで内部的な取り決めであり、金融機関にその旨を主張することはできません。これは、遺言書にローンの承継者が記載されていても変わりません。

    ローンを承継する相続人を決めて返済するのであれば、金融機関の承諾を得る必要があります。ただし、金融機関は、当該相続人の返済能力やアパートの収益性などを審査することになるでしょう。

    審査に通らなければ新たに連帯保証人を立て、審査に通ると、債務引受契約を締結することになります。賃貸物件に抵当権が設定されているのであれば、債務者変更登記も必要となります。

  • 賃借人に対して必要になる相続人の手続きは?

    新たに賃貸人となる相続人が賃借人との対応に必要となる手続きは次の通りです。

    • 賃料振込先の変更の通知
    • 賃借人に対する対抗要件の具備
    • 新たな賃貸人の通知
    • 賃貸人変更に関する覚書を締結

    相続から新賃貸人が決まるまでに間がない場合には、振込先の変更と新しい賃貸人の通知は、同時に行ってもいいでしょう。

6.まとめ

賃貸借契約の賃貸人が死亡した場合、賃借人の承諾を得ることなく、相続人が賃貸人たる地位を承継することができます。

賃貸人たる地位の承継に、法律上必須の手続きは特にありませんが、コミュニケーションのミスやトラブルを防止するため、賃料振込口座の変更や覚書の締結などの対応をとっておきましょう。

相続が発生した段階で、もし賃貸人たる地位の承継が問題になりそうな状況が生じた場合には、お早めに相続に精通した泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
弁護士が、必要な手続きや適切な対応などに関するアドバイスを差し上げ、賃貸借契約に関する後のトラブルを防止できるようにサポートいたします。

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