妻・子供などに遺言書で全財産を相続させることはできる?
生前の相続対策として一般的に行われているのが「遺言書」の作成です。
遺言書を作成することなく亡くなったら、民法が規定する法定相続分に従った遺産の分け方になりますので、妻や子どもに対して全財産を残したいという場合には、遺言書を作成しておく必要があります。
もっとも、特定の相続人に全部の遺産を相続させる内容の遺言書を作成した場合には、他の相続人の遺留分を侵害するおそれがありますので、遺産を相続した相続人が「遺留分」をめぐる争いに巻き込まれてしまう可能性もあります。
そのため、遺言書を作成する場合には、遺留分にも配慮した内容で作成することが大切です。
今回は、妻や子どもにすべての遺産を相続させる遺言書を作成する場合の注意点について解説します。
1.遺言書の内容自体は自由
遺言書を作成する場合には、法律上の要件を満たしたものである必要があります。
「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」などの遺言書の形式については、法律上厳格な要件が定められていますが、遺言書の内容については、実は基本的に制限はありません。遺言者が自由にその内容を決めることができます。
遺産は、そもそも遺言者の財産ですので、それをどのように処分するかについては本人が決めることができるのは当然のことといえます。
そのため、「全財産を妻に相続させる」という内容の遺言書であったとしても、それは有効な遺言書です。
なお、全財産を特定の相続人に相続させる場合の遺言書のサンプルを紹介しますので、こちらをご参照ください。
また、遺言書(自筆証書遺言)の書き方については、以下の記事をご参照ください。
[参考記事] 正しい遺言書の書き方|作成のポイントと自筆証書遺言の要件2.遺留分に注意
一方で、特定の相続人に全部の遺産を相続させる内容の遺言書を作成する場合には、他の相続人の「遺留分」にも配慮をする必要があります。
(1) 遺留分とは?
遺留分とは、相続人の生活保障などの目的から法律上認められている最低限の遺産の取得割合のことをいいます。
すべての遺産を特定の相続人に相続させる内容の遺言書では、他の相続人が取得する遺産は何もありませんので、他の相続人の遺留分を侵害することになります。
このような内容の遺言であっても法律上有効な遺言ですが、遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求をしてくる可能性がありますので注意が必要です。
遺留分についての詳しい説明については、以下の記事をご参照ください。
[参考記事] 遺留分とは|概要と遺留分割合をわかりやすく解説
(2) 遺留分への対策
他の相続人の遺留分を侵害するおそれがある場合には、以下のような対策をとる必要があります。
①遺留分に配慮した内容の遺言書を作成する
すべての遺産を特定の相続人に相続させる内容の遺言書だと他の相続人の遺留分を侵害してしまいます。
遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額請求をされることがほぼ確実に予想されるような場合には、そのような遺言書を作成したとしても、結局は遺留分に相当する金銭を支払わなければなりません。
そのため、すべての遺産を相続させる内容の遺言書ではなく、「遺留分に相当する遺産についてのみ他の相続人に相続させる」という内容の遺言を作成することによって、相続開始後の遺留分をめぐる争いを回避することができます。
②生前に遺留分放棄をしてもらう
生前に相続放棄をすることはできませんが、生前に遺留分を放棄することは可能です。
遺留分を放棄する場合には、遺留分権利者が家庭裁判所に申立てをして、裁判所の許可を得ることによって遺留分の放棄をすることができます。
ただし、申立てをすれば必ず認められるというわけではなく、以下の要件を満たす必要があります。
- 本人の意思によるものであること
- 合理的な理由があること
- 代償性があること
③付言事項の活用
付言事項とは、遺言書に記載する事項のうち法的拘束力のない事項のことをいいます。家族へのメッセージや、葬儀や納骨の希望を伝える場合などに付言事項が利用されます。
遺留分の侵害が生じる場合には、付言事項において、「遺言者は、遺留分権利者が遺留分侵害額請求をしないことを求める」などの内容を残しておくことによって遺留分侵害額請求を事実上抑止する効果が期待できます。
なぜ遺留分を侵害する内容の遺言書を作成したのかについての詳細な理由を付け加えておくことによって、遺言者の気持ちが伝わり、遺留分権利者の納得が得やすくなるといえます。
また、付言事項とあわせて、生前に遺留分を侵害することになる相続人としっかりと話し合いをすることによって、より理解を得やすくなるでしょう。
④生前贈与によって相続財産の総額を減らす
上記のような方法では、遺留分侵害額請求を回避することができない場合には、遺留分侵害額を減らすことが遺留分対策になります。
遺留分侵害額は、相続財産の額を基準に計算されますので、計算の元となる相続財産を減らすことができれば、遺留分侵害額も減らすことができます。
たとえば、すべての遺産を相続させたい相続人に対して、生前贈与によって財産を移転することができれば、遺留分侵害額を減らしながら、特定の相続人により多くの遺産を渡すことが可能になります。
生前贈与をする場合には、贈与税が課税されることになりますが、年間110万円までの非課税枠を利用した贈与や居住用不動産を贈与した場合の2000万円の配偶者控除などを利用することによって贈与税の負担なく贈与を行うことも可能になります。
ただし、相続開始前10年間に行われた贈与については、遺留分の計算の基礎となる財産に含まれることになりますので、生前贈与による遺留分対策は、早めに行うことをおすすめします。
生前贈与についての詳しい内容について、以下の記事をご参照ください。
[参考記事] 相続に備えて生前贈与を行うメリット・デメリット⑤生命保険の活用
受取人が指定されている生命保険の死亡保険金については、受取人の固有の財産とみなされ、相続財産には含まれません。
そのため、生命保険の受取人をすべての遺産を渡したい妻などと指定しておくことによって、死亡保険金を遺留分の対象から外すことが可能になります。
ただし、税法上は、死亡保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象になりますので注意が必要です。
[参考記事] 生命保険の活用が相続税対策になる!3.遺言書の作成・生前の対策は弁護士へ
遺言書の作成などの生前の相続対策をお考えの方は、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします
(1) 有効な相続対策をアドバイスしてもらえる
生前に行うことができる相続対策には、遺言書の作成以外にもさまざまな方法があります。
どのような方法が最適であるかについては、資産状況、家族関係、ご本人の希望などによって異なってきます。そのため、お客様に最適な相続対策を実施するためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。
当事務所では、お客様のお話をしっかりとお伺いしたうえで、最適な相続対策をご提案いたします。家族信託にも対応しておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
(2) 遺言書の作成をサポート
遺言書を作成する場合には、法律上の要件を満たした遺言書にしなければなりません。
民法では、遺言書の形式について厳格な要件を定めており、その1つでも欠いてしまうとすべて無効になってしまいます。相続争いを防止しようと思い遺言書を作成したにもかかわらず、無効な遺言書となってしまえば無用な争いを生んでしまうことになります。
そのようなリスクを回避するためにも、まずは弁護士にご相談ください。弁護士であれば有効な遺言書を作成できることはもちろん、将来相続人同士で争いにならないような内容の遺言書作成に向けたアドバイスをすることができます。
4.まとめ
特定の相続人にすべての遺産を相続させる内容の遺言書でも有効に作成することができますが、遺留分に関する争いが生じる可能性があります。
効果的な遺留分対策を講じるためにも、まずは専門家である弁護士にご相談ください。