高齢者に債務(借金)がある場合の生前対策
被相続人が多額の借金を抱えたままの状態で亡くなると、相続人がその借金を引き継いで返済をしていかなければなりません。
借金を相続したくない場合には、相続放棄をすることによって、借金の返済を免れることができます。
しかし、あらかじめ借金があることが分かっている場合には、なるべく生前に対策を講じることによって借金の相続を回避したいと考える方も多いでしょう。
生前にできる対策としてはどのようなものがあるのでしょうか。
今回は、高齢者に借金がある場合の生前対策について紹介します。
1.債務(借金)も相続の対象
相続が開始した場合には、被相続人の一身に専属したものを除き、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになります(民法896条)。
被相続人の権利義務には、不動産や預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれますので、被相続人に借金があった場合には、それらはすべて相続人に相続されることになります。
被相続人に借金がある場合には、相続放棄をすることによって借金の相続を回避することができます。相続放棄は、被相続人に借金がある場合に非常に便利な制度ですが、生前対策としては利用することはできません。
相続放棄は、相続が開始してから行うものですので、被相続人の生前(相続開始前)に相続放棄をすることはできないのです。
[参考記事] 生前に相続放棄はできるの?2.借金がある場合の生前対策
生前に相続放棄の手続きを行うことはできませんが、以下のような方法をとることによって、生前であっても借金を減らしたり、相続時の負担を軽減したりすることができます。
(1) 債務整理によって借金を減らす
生前に借金を返済することができる見込みがない場合には、債務整理を行うことを検討すると良いでしょう。債務整理を行うことによって、借金を減額することができ、場合によっては借金をゼロにすることも可能です。
債務整理の方法には、主に、①任意整理、②自己破産、③個人再生という3つの方法があります。
①任意整理
任意整理とは、債権者と個別に(任意の)交渉をすることによって将来の利息をカットしたり、返済期間を延長してもらったりする方法です。
現在の返済額では、借金の返済を継続することが難しい方でも、月々の返済額が少なくなれば返済を継続することができる場合があります。そのような場合には、任意整理を行うことによって借金の完済を目指すことができます。
ただし、任意整理では利息のカットが中心になりますので、借金総額を大幅に減額することはあまり期待できません。
そのため、多額の借金があり、多少借金を減らしてもらっても現在の収入では返済が困難という方では、任意整理は不向きでしょう。
なお、過去に払いすぎていた利息がある場合には、払いすぎていた利息を過払い金として返還してもらえることがあります。
②自己破産
自己破産とは、裁判所に申立てをすることによって債務(借金)の支払義務を免除してもらう方法です。多額の借金があったとしてもほとんど全ての借金を0にすることができます(税金などの一部の債務を除く)。
自己破産には年齢制限はありませんので、借金の生前対策としては非常に有効な手段となります。
しかし、自己破産は借金を0にすることができる反面、手持ちに高価な資産がある場合には、最低限のものを除きすべて手放さなければなりません(当面の生活に必要な財産や家具家財は手元に残すことができます)。
例えば、自宅を所有している方だと、自己破産によって原則として自宅を失ってしまうので、資産と負債の状況を踏まえて慎重に判断する必要があります。
③個人再生
個人再生とは、裁判所に申立てをすることによって、借金の総額を大幅に減額してもらう方法です。自己破産のように借金がゼロになるわけではありませんが、借金の総額を大幅に減額することができます。
自己破産と比較したときの個人再生の最大のメリットは、必ずしも資産を手放さなければならないわけではなく、また、住宅ローンがあったとしても自宅を手放さなくても良い可能性が高いという点です。
住宅ローン以外に多額の借金がある場合には、多くのケースで自宅を残しつつその他の借金を減らすことができます(住宅ローンは引き続き返済していく必要があります)。
高齢者の場合、年金収入があれば個人再生の手続きを利用することは可能です。
しかし、年金額によっては借金の返済をするだけの金額を捻出することができず、個人再生ができない可能性もありますので注意が必要です。
(2) 生命保険に加入して死亡保険金を残す
相続放棄をした場合には、借金だけでなく不動産や預貯金といったプラスの財産についても相続することができなくなります。
被相続人の死後に相続放棄を検討している場合には、相続放棄をした相続人が経済的に不安定な状態に置かれないようにするために生前に対策を講じておくことが重要となります。
その場合の方法としては、生命保険に加入して受取人を相続人に指定しておくことが有効な手段となります。
被相続人が死亡した場合の死亡保険金は、相続財産には含まれず、受取人固有の権利として扱われます。そのため、相続放棄をしたとしても死亡保険金を受け取ることが可能です。
このような生命保険を利用することによって、やむを得ず相続放棄をすることになった相続人に対しても一定の財産を残してあげることができます。
[参考記事] 受取人の死亡保険金は遺産分割の対象になる?相続税は課税される?(3) 生前贈与によって財産を譲渡する
生前贈与をする場合には、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の額が110万円以下の場合には、贈与税が課税されません。これを「暦年課税」といいます。
この暦年課税を利用することによって、贈与税の負担なく、財産を相続人になる予定の人に移すことができます。
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生前贈与によって財産を得たとしても相続放棄をすることは可能ですので、生命保険と同様に相続放棄後の生活を保障するための手段として生前贈与は有効な手段となります。
ただし、プラスの財産がマイナスの財産よりも少ない状態で生前贈与を行った場合には、債権者を害する行為であるとして、債権者から詐害行使取消権を行使され、生前贈与が取り消されるリスクもありますので注意が必要です。
3.生前に借金の問題を解決したい方は早めに弁護士に相談を
借金に関する生前対策には様々なものがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。どのような手段を選択するのが最適であるかについては、その人の資産や負債の状況によって異なってきます。
正確な知識がない状態で安易に生前対策を行ってしまうと、場合よっては無意味なものになってしまう、新たな争いを生むなどの可能性もあります。
より効果的な生前対策を行うためにも、専門家である弁護士に相談をして、最適な手段を判断してもらうようにしましょう。
また、債務整理は弁護士などの専門家に依頼して行わなければ難しい手続きです。
弁護士に依頼をすることによって、債権者とのやり取りや裁判所への申し立てといった煩雑な手続きの多くの部分を任せることができますので、本人の負担は相当軽減されることになります。
高齢者に借金があることが分かった場合には、一度泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。