相続人に未成年者がいるときの遺産分割と注意点
被相続人が亡くなり相続が開始した場合には、遺言等がない場合には、相続人全員による遺産分割協議によって被相続人の遺産を分けることになります。
しかし、被相続人が若くして死亡した場合や代襲相続が発生した場合などには、相続人の中に未成年の相続人が含まれていることがあります。
相続人に未成年者がいるときには、どのように遺産分割を進めていけばよいのでしょうか。
今回は、相続人に未成年者が含まれる場合の遺産分割と注意点について解説します。
1.未成年者は遺産分割協議に参加できない
未成年者には十分な判断能力が備わっていないと考えられているため、法律上、単独で法律行為を行うことはできません。
たとえば、未成年者が携帯電話の契約をする際に親の同意書を求められるのもその理由からです。
被相続人の遺産を分ける話し合いである遺産分割協議も法律行為であるため、未成年者は、遺産分割協議に参加する資格がありません。
したがって、仮に未成年者を参加させて遺産分割協議を成立させたとしても、当該遺産分割協議は、相続人全員による遺産分割協議がなされたとはいえず、無効となってしまいます。
2.未成年者が遺産を相続する方法
そこで、共同相続人に未成年者がいる場合には、以下のような方法によって相続の手続きを進めていく必要があります。
(1) 法定代理人による遺産分割
法定代理人は、未成年者の代わりを務めることができます。法定代理人とは、法律の規定によって代理権を有すると定められた者のことをいいます。未成年者の場合には、親権者である父と母が共同で法定代理人になります。
そのため、相続人に未成年者が含まれる場合には、未成年者の親権者である父と母が共同で法定代理人として遺産分割協議に参加して遺産を分割することができます。
【共同親権】
民法818条3項では「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。」と規定されており、ポイントは「父母が共同」というところです。したがって、父または母が単独では遺産分割協議ができません。
(2) 法定代理人との利益相反が問題となる場合
ただし、未成年者の利益と法定代理人の利益が相反する場合には、法定代理人は未成年者の代理人となることはできません(民法826条1項参照)。
たとえば、父親が早くして亡くなり、配偶者である母親と未成年者である子どもが相続人になった場合に、法定代理人でもある母親が自分の相続分を増やして、子どもの相続分を減らするなどが利益相反行為となります。
利益相反になるかどうかは、客観的にみて利益相反の状態にあるかどうかで判断します。したがって、実際に法定相続分どおりの遺産分割がなされたとしても、利益相反の状態が解消されるわけではありません。上記の例では、母親の相続財産が増えれば、自動的に子どもの相続財産が減るため、客観的に利益相反の状態にあるのです。
このような利益相反のケースでは、次の特別代理人の手続きが必要です。
(3) 特別代理人による遺産分割
特別代理人とは、法定代理人が代理権を行使することができない事情や代理権行使が不適切な事情があるときに、家庭裁判所によって選任される特別な代理人のことをいいます。
上記のように法定代理人である親権者と未成年者とが利益相反の関係にある場合には、特別代理人を選任する必要があります。
3.特別代理人が不要になるケース
しかし、次のような場合には、法定代理人である親権者と子が利益相反とはならず、特別代理人の選任は不要となります。
(1) 法定相続分により遺産を承継する
遺産を法定相続分で承継する場合には、遺産分割協議が必要ありません。そのため、未成年者のために特別代理人を選任する必要もありません。
ただし、この場合には、相続財産が共有状態となり、相続財産に不動産や株式が含まれていると、後々相続関係が複雑になってしまうというといったデメリットがあります。相続開始後、直ぐに売却してしまうといったケースなどを除いてはあまりお勧めできません。
(2) 親権者の相続放棄や離婚
親権者である法定代理人自身が当該相続において相続人にならない場合には、未成年者の法定代理人として代理権を行使することができます。
たとえば相続放棄をした場合や父親が死亡してもそれ以前に夫婦が離婚していたような場合には、親権者である母親は配偶者ではなくなっているので、相続人にはならず、子どもの法定代理人になれます。
もっとも、この場合でも子どもが複数いる場合には、一方の子どもを優遇するなどの利益相反のおそれがありますので、やはり親権者が複数の子どもの法定代理人として参加することはできません(民法826条2項)。
(3) 未成年者が成人になるまで待つ
未成年者が成人になれば単独で法律行為を行うことができるため、代理人により遺産分割協議を行う必要はありません。
しかし、未成年者が幼い場合には、10年以上も遺産分割手続きを放置しなければならなくなります。
遺産分割手続きが完了しなければ、遺産の処分もできず、相続財産の管理に支障がでることもあり、長期間放置することはあまり現実的な方法とはいえません。
4.特別代理人の選任方法
法定代理人の利益相反が問題となる場合には、通常は特別代理人を選任することになります。そこで次に、特別代理人の要件と手続きの流れをご説明します。
(1) 特別代理人には誰がなれるのか
特別代理人には、相続人など相続の当事者でなければ基本的に誰でもなることができます。弁護士や司法書士などの特殊な資格が必要なものではなく、親戚や友人などに依頼することも可能です。
未成年者が複数いる場合に、1人の特別代理人が2人以上の未成年者の代理人になるとやはり利益相反が生じてしまうため、未成年者の数に応じた特別代理人を選任する必要があります。
親族や知人に適当な人物がいないときや、相続人間で遺産分割方法などに争いが予想されるときには、弁護士などの専門家にお願いするとよいでしょう。
(2) 特別代理人選任の手続きと流れ
申立人が申立先の裁判所に必要な書類を提出することによって、裁判所が特別代理人を選任します。
特別代理人の選任にあたっては、申立書に特別代理人の候補者を記載すれば、特別な事情がない限り、その候補者が特別代理人に選任されます。
申立人
特別代理人の選任申立をすることができるのは、親権者または利害関係人です。利害関係人とは、当該相続における他の相続人などのことをいいます。
申立先
特別代理人の選任申立は、未成年者である子どもの住所地を管轄する家庭裁判所にします。
申立てに必要な費用
特別代理人の選任申立にあたっては、以下の費用が必要になります。
- 収入印紙:800円分(子ども1人につき)
- 連絡用の郵便切手(金額や組み合わせは申立てをする裁判所に確認してみてください)
申立てに必要な書類
以下のとおりの書類が必要となります。
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 親権者または未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
- 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)
- 利害関係を証する資料(戸籍謄本など)
5.相続人に未成年者がいる場合の注意点
相続人に未成年者がいる場合には、以下の点に注意が必要です。
(1) 遺産分割協議書案が重要
特別代理人を選任する際には、どのような内容で遺産分割を行う予定かを記載した遺産分割協議書案を家庭裁判所に提出しなければなりません。
遺産分割協議書案は、原則として未成年者の法定相続分は最低限確保する内容で作成する必要があります。未成年者に著しく不利な遺産分割協議書案では、家庭裁判所が特別代理人の選任を許可しない可能性もあるからです。
ただし、遺産の内容によっては、必ずしも法定相続分を確保することができないこともあります。そのような場合には、特別代理人選任申立書などに、なぜそのような分割方法になったのかについての理由を明記することが必要です。
裁判所を納得させるだけの合理的な理由を記載することで、特別代理人の選任が認められやすくなります。
(2) 遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議には、未成年者の代わりに法定代理人(共同親権の観点から父母の2名)または特別代理人が参加することになります。遺産分割協議がまとまった場合は、遺産分割協議書への署名・押印についても未成年者の法定代理人(共同親権の観点から父母2名の連名)または特別代理人が行います。
その際には、当該法定代理人または特別代理人の実印と印鑑証明書が必要になります(法定代理人の場合には共同親権の観点から父母2名分の実印と印鑑証明書が必要です)。
(3) 相続税の未成年者控除
相続人が未成年者である場合には、未成年者控除を利用することによって相続税から一定の金額を控除することができます。
未成年者控除では、「未成年者が20歳になるまでの年数×10万円」を相続税から差し引くことができます。相続税が発生するケースでは未成年者控除を利用して相続税の負担を軽減させるとよいでしょう。
6.まとめ
未成年者が相続人に含まれる場合には、通常の相続手続きとは異なり特別の手続きが必要になることがあります。
必要な手続きをとらずに遺産分割協議を進めてしまうと、せっかく成立した遺産分割協議が無効になってしまうリスクもあります。
手続きに不安がある方は、ぜひ一度泉総合法律事務所までご相談ください。