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相続放棄

損害賠償債務も相続放棄できる?相続人が請求を受けた場合の対処法

損害賠償債務は、交通事故・近隣トラブル・契約上の債務不履行など、様々な要因によって発生します。

これらの損害賠償債務を抱えたまま債務者が亡くなってしまった場合、相続人が損害賠償債務を引き継ぐのが原則です。
しかし、「相続放棄」をすれば、被相続人が負っていた損害賠償債務の相続を免れることができます。

今回は、損害賠償債務の相続放棄について、法的な論点や手続き、さらに被害者に支払いを求められた場合や、実際に支払ってしまった場合の対処法などを解説します。

1.被相続人の損害賠償債務も相続放棄できる

被相続人が負担していた損害賠償債務は、相続放棄をすれば、相続を免れることが可能です。

相続放棄」とは、被相続人の遺産を一切相続しないという意思表示です(民法939条)。

相続放棄をすると、初めから相続人にならなかったものとみなされます。
その結果、被相続人が有していた資産を相続できない代わりに、負債を相続する必要もなくなります。

相続放棄をするメリットがあるのは、主に被相続人の資産額を負債額が上回っており、相続財産全体がマイナスとなっている場合です。
この場合、相続放棄をすることにより、マイナスの財産の相続を回避することができます。

相続放棄 [参考記事] 相続放棄とは|メリット・デメリットから注意点、手続き方法を解説

被相続人が負担していた損害賠償債務についても、相続放棄の対象となります。

「損害賠償債務を本人が払えないなら、家族が払うのが筋ではないか」
「相続放棄によって、損害賠償債務が回収できなくなると、被害者にとって酷ではないか」という意見もあるでしょう。

たしかに道義的には、上記のように言える部分があるかもしれません。
しかし、被害者が受ける不利益よりも、相続によって過大な債務を負担する相続人の不利益を保護するというのが、現行民法上の価値判断となっています。

したがって、相続放棄をすれば、被相続人が負っていた損害賠償債務を、(元)相続人が支払う必要はありません。

2.相続放棄の手続きに関する注意点

相続放棄の手続きは、民法によって厳密にルールが決まっています。

特に、期間制限と法定単純承認については、注意点をよく理解したうえで、適切にご対応ください。

(1) 家庭裁判所に申述書等を提出する

相続放棄は、家庭裁判所に対して申述を行う方法によって行います(民法915条1項)。
それ以外の方法(たとえば他の相続人に口頭や書面で伝えるなど)では、相続放棄は認められないので注意しましょう。

相続放棄の申述を行う際には、家庭裁判所に申述書その他の書面を提出する必要があります。
必要書類等については、以下のページをご参照ください。

参考:相続の放棄の申述|裁判所

相続放棄 申述書 [参考記事] 相続放棄申述書の書き方と注意点|記入例で項目ごとに解説

(2) 相続放棄の期間

相続放棄は原則として、「相続の開始を知った時から3か月以内」に行わなければなりません(民法915条1項)。

相続放棄を行う前提として、被相続人の資産と債務のどちらが多いかを比較し、相続放棄の要否を判断しなければなりません。
しかし、財産の調査などに時間がかかっていると、相続放棄の期間を経過してしまうおそれがあります。

期限に間に合うように手続きを行うためにも、被相続人に損害賠償債務などが判明した場合には、早めに相続放棄の検討に着手しましょう。

相続放棄 期間 [参考記事] 相続放棄の期間(熟慮期間)は原則3ヶ月以内|起算点はいつから?

なお、相続放棄の期限を伸長してもらうことが可能な場合もありますので、相続放棄の期限が迫っている方は、ぜひ弁護士に御相談ください。

(3) 期限を過ぎても相続放棄できることがある

上記の期限を過ぎた場合でも、家庭裁判所の判断で相続放棄が認められる可能性があります。

特に、相続人が被相続人の債務を把握することが困難な事情があり、債務の存在に気付かなかった場合には、期限後の相続放棄が認められる可能性が高いです。

目安としては、債務の存在を知ってから3か月以内に申述を行えば、相続放棄申述が受理されることが多いです。ただし、裁判所で申述が受理されたとしても、債権者から事情を争われることがありますので、上記の条件を満たすよう、債務を知った経緯など、申述する内容については慎重に検討しましょう。

このように、期限を過ぎてしまっても相続放棄が認められる余地はありますので、諦めずに弁護士へご相談ください。

(4) 法定単純承認が成立すると相続放棄できない

相続放棄を行う際に、もっとも注意しなければならないのが「法定単純承認」(民法921条)です。
法定単純承認が成立すると、相続放棄が認められなくなり、また既にした相続放棄の効力が失われてしまいます。

法定単純承認が成立するのは、以下のいずれかに該当した場合です。

<法定単純承認事由>
①相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為と短期賃貸借を除く)
②相続開始を知った時から3か月以内に、限定承認または相続放棄をしなかったとき
③限定承認または相続放棄をした後でも、以下のいずれかの行為をした場合
・相続財産の全部または一部を隠匿したこと
・相続財産の全部または一部を私的に消費したこと
・相続財産の全部または一部を、悪意で相続財産目録に記載しなかったこと

特に、相続財産を使ってしまう行為については、法定単純承認に該当するリスクが高いので要注意です。
相続放棄の可能性が視野に入っている場合には、相続財産には極力手を付けないようにしましょう。

やむを得ず相続財産を使う場合でも、事前に必ず弁護士へご相談ください。

3.相続放棄をしたのに被害者から支払いを請求されたら

相続放棄をした後で、債権者に当たる被害者から損害賠償債務の支払いを請求された場合、以下の方針に従って対処しましょう。

(1) 損害賠償債務を支払う必要はない

まず、相続放棄をした以上は、損害賠償債務を含めて、被相続人の債務を支払う必要はありません

被害者から激しい取立てに遭ったとしても、相続放棄をしたことを伝えて、請求をきっぱり断りましょう。その上で、必要であれば警察への被害申告などをなされることをお勧めします。

(2) 「相続放棄受理証明書」の提示が有効

相続放棄をしたことについて被害者が信用しない場合には、家庭裁判所の発行する「相続放棄受理証明書」を提示することが効果的です。

相続放棄受理証明書は、相続放棄の申述が行われた事実を家庭裁判所が公的に証明する書類です。

被害者としても、相続放棄についての確固たる証拠を提示されれば、請求を諦める可能性が高いでしょう。

4.相続放棄前後に被害者へ支払ってしまった場合

相続放棄をするよりも前に、あるいは相続放棄をした後に、被害者に対して損害賠償金を支払ってしまったという場合があるかもしれません。

この場合、支払い済みの損害賠償金を取り返すことはできるのでしょうか?

(1) 被害者への支払いは「第三者弁済」として原則有効

相続放棄の前後で被害者に支払った損害賠償金を、被害者本人から返してもらうことは、難しいケースが多いです。

相続放棄をした人から見ると、被相続人の損害賠償債務は相続財産(=他の相続人)が負担しており、「他人の債務」という位置づけになります。

しかし民法上は、他人の債務の弁済も、原則として有効とされています(民法474条1項)。これを「第三者弁済」と言います。

第三者弁済として有効である以上は、被害者は、相続放棄をした人から弁済を受けた損害賠償金を保持する権利があります。
そのため、相続放棄をした場合でも、被害者本人から損害賠償金を返してもらうことは難しいのです。

ただし、以下のいずれかに該当する場合には、損害賠償金の第三者弁済が無効または取消しとなり、被害者本人から返してもらえる可能性があります。

  • 損害賠償金の第三者弁済が無効な場合(民法474条2項、3項)
  • 詐欺または強迫によって損害賠償金を支払った場合(民法96条1項)

(2) 他の相続人に精算を請求できる

相続放棄をした人が、損害賠償金を代わりに支払った場合、本来の債務者である他の相続人に対して求償権および原債権を取得します。
これを「弁済による代位」と言います(民法499条)。

求償権および原債権を行使することによって、相続放棄をした人は、他の相続人から損害賠償金の返還(精算)を受けられます

なお、相続放棄をしていない他の相続人がいない場合には、相続人不在のケースにおける相続手続きに従い、相続財産から弁済を受けることが可能です(民法957条1項)。

【相続財産を使って損害賠償を支払った場合、法定単純承認に注意】
相続放棄をした人が、被相続人の損害賠償債務を支払う際、相続財産に含まれる金銭を充てた場合には、前述の「法定単純承認」に注意が必要です。
相続財産を処分する行為は、原則として、法定単純承認事由に該当します(民法921条1号本文)。ただし、保存行為については例外的に、法定単純承認事由に該当しないものとされています(同号但し書き)。
この点、損害賠償債務の弁済期が到来している場合には、相続財産を用いた弁済も保存行為として、法定単純承認事由に該当しないという考え方が有力です。
しかし、法定単純承認の成否については、厳密な法的検討が必要となるため、必ず事前に弁護士へご相談ください。

5.まとめ

被相続人の損害賠償債務についても、相続放棄をすれば相続を回避できます。

相続放棄には、相続の開始を知った時から3か月以内という期間制限があるので、早めの対応が必要です。
被相続人の資産と負債を比較したうえで、負債が上回っているようであれば、すぐに相続放棄の検討を開始しましょう。

相続放棄の期限が迫っている方も、期限の伸長できる可能性もありますので、ぜひご相談ください。

また、期限後でも相続放棄が認められる場合もありますので、もし期限が過ぎてしまっても、諦めずに弁護士へご相談ください。

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