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相続放棄

限定承認とは|使うべき人や注意点、手続きの流れ

家族が亡くなり相続が開始したとき、実は相続人にはいくつかの選択肢があります。一般的には相続人同士が話し合って遺産を分割していきますが、被相続人が借金をしていたとき等には相続放棄を選択する人も少なくありません。

しかし実は、相続放棄以外に、限定承認という選択肢もあります。

この記事では、限定承認とはどんな制度で、どんなメリット・デメリットがあるのか、どんな人が利用すべきかなどをわかりやすく解説します。記事後半では実際の手続きの流れも解説しますので、限定承認を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。

1.限定承認とは

(1) 限定承認とはどのような制度か

限定承認とは、相続人が、相続によって得た積極財産(プラスの財産)の範囲内でのみ被相続人の債務および遺贈を弁済するという留保付きの相続方法のことをいいます(民法922条)。

通常どおり相続(単純承認)すると、相続人は、積極財産(プラスの財産)と消極財産(マイナスの財産)のすべてを相続することになるので、マイナスがプラスを上回っているときは、相続人自身の財産で債務を返済する責任を負います(民法920条)。

しかし、限定承認をすれば、相続した積極財産を処分した範囲で消極財産の返済に充てれば足り、それ以上の借金等が残ったとしても相続人自身の財産で返済する責任を負うことはないのです。

(2) 相続放棄との違い

相続放棄とは、積極財産と消極財産のすべての相続を拒否することをいいます。相続放棄をした相続人は初めから相続人でなかったものとして扱われます(民法939条)。

このように、相続放棄は、相続を全面的に拒否して、積極財産と消極財産のいずれも相続することなく相続手続きから完全に離脱するのに対し、限定承認は、一応相続はするものの、積極財産を超える消極財産については引き受けないという違いがあります。

相続放棄 [参考記事] 相続放棄とは|メリット・デメリットから注意点、手続き方法を解説

2.限定承認のメリット・デメリット

限定承認には、以下のようなメリットとデメリットがあります。限定承認を検討している方は、これらを理解した上で慎重に行うようにしましょう。

(1) 限定承認のメリット

限定承認をするメリットとしては、以下のものが挙げられます。

①積極財産を超える借金を返済する必要がない

単純承認をすると、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産をすべて引き継がなければなりません。十分な財産調査を行わずに、安易に単純承認をしてしまうと、後日、多額の借金の存在が明らかになったとしても、原則として、その借金から逃れることはできません。

限定承認は、相続をした積極財産の範囲内でしか責任を負うことはありませんので、後日借金の存在が明らかになったとしても、相続した積極財産を上回る借金について自腹で返済するという事態を回避することができます。

②不動産を手元に残すことができる

相続放棄をしてしまうと、借金などのマイナスの財産だけではなく、預貯金や不動産などのプラスの財産についても相続することができなくなってしまいます。被相続人名義の不動産に相続人が居住しており、今後も居住する予定である場合には、相続放棄をしてしまうと、自宅を失うという不利益を被ることになってしまいます。

限定承認をすることによって、不動産の価値相当額の借金を返済する必要がありますが、自宅を残すことができるというメリットがあります。

③後日発見された財産についても相続可能

借金が多いからという理由で相続放棄を選択した場合には、後日、借金を上回る多額の財産が見つかったとしても、錯誤などによる相続放棄の取消しが認められない限り(民法919条2項)、その財産を相続することはできません。

限定承認では、後日発見された財産についても相続することが可能ですので、積極財産と消極財産の内容が明らかでないときには、とりあえず限定承認をしておくことによって、単純承認と相続放棄のデメリットを回避することが可能になります。

(2) 限定承認のデメリット

限定承認をするデメリットとしては、以下のものが挙げられます。

こうしたデメリットから、限定承認は実際にはあまり用いられていません。

①相続人全員の同意が必要

相続放棄をする場合には、各相続人が独自に判断して行うことができますので、他の相続人の意向とは関係なく手続きを行うことができます。

しかし、限定承認の手続きについては、相続放棄の場合とは異なり、限定承認に対する相続人全員の同意が要件とされています(民法923条)。これは個別の限定承認を認めた場合に生じる、各自の相続分に応じた清算という煩雑な手続を回避するためとされています。

そのため、相続人のうち一人でも限定承認に反対をしている人がいたり、一人でも単純承認をしてしまった者がいたりするときには、限定承認の手続きを行うことができません。

ただし、共同相続人が、相続放棄をした場合には、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされるため(民法939条)、その他の共同相続人の同意を得ることで限定承認をすることができます。

②手続きが煩雑

相続放棄をする場合には、家庭裁判所に申述をして、それが受理されれば相続放棄の手続きは完了します。

しかし、限定承認の場合には、積極財産の範囲で消極財産を返済しなければなりませんので、限定承認が受理された後も、相続債権者および受遺者に対する公告(民法927条)、相続財産の換価(民法932条)、相続債権者および受遺者に対する弁済などの清算手続きをとらなければなりません。

限定承認は、相続人がご自分で手続きすることを前提として制度設計されてはいますが、弁護士などの専門家に依頼しなければ難しいのが現実です。

単純承認や相続放棄と比べて、手続きが非常に煩雑であるということが、限定承認があまり用いられていない理由の一つです。

③譲渡所得税が課税される

単純承認の場合には、相続時に譲渡所得課税は行われず、相続人が後日不動産を売却などしたときに、譲渡所得税が課税されることになります。相続人がそのまま不動産を所有し続けるのであれば、譲渡所得税が課税されるということはありません。

しかし、限定承認の場合には、被相続人から相続人に対し資産の譲渡がなされたものとみなされ、被相続人に対し「みなし譲渡所得税」が課税されることになります(所得税法第59条1項1号)。

相続人が限定承認で得た資産を後日売却する際に、被相続人がその資産を取得したときの取得費用を前提とした値上がり益に課税をすると、被相続人の生前に発生していた値上がり益に対する税金も相続人が負担することとなり、結果として、相続財産以上の租税負担が生じてしまい、限定承認の趣旨に反してしまう危険があります。

そこで、限定承認の場合は、被相続人の生前に発生していた値上がり益に対しては、相続開始時点で、被相続人に対する課税としてしまおうというのが「みなし譲渡所得税」制度なのです。

もっとも、みなし譲渡所得税は被相続人の債務ですので、限定承認の手続き内で他の債務と一緒に清算されることになりますが、相続人としては、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告を行わなければならないなどの手間が生じるというデメリットがあります。

④限定承認後、遺産が残った場合には相続税が課税対象となる

限定承認後、最終的に遺産が残った場合には、相続税の課税対象になります。ただし、相続税には基礎控除があり、財産が多少残ったような場合であれば、実際に相続税が課されることは稀でしょう。

しかし、被相続人の死亡により、相続税の非課税枠を超える保険金や死亡退職金を受け取った場合には、相続税が課される可能性は高くなります。

3.限定承認の活用と使うべき人

限定承認には、上記のようなメリットとデメリットがありますが、具体的にどのような場面で利用すればよいのでしょうか。限定承認を活用すべきケースとしては、以下のようなパターンが挙げられます。

(1) 借金はあるが事業を承継したい場合

被相続人が事業をしており、相続人がその事業を引き継ぐというケースでは、限定承認が有効となることがあります。

このようなケースでは、共同相続人のうち一人が単純承認をし、他の共同相続人が全員相続放棄をする方法もありますが、限定承認を利用することによって、プラスマイナスゼロ以上の状態から事業を再開することが可能になります。

借金が多く、事業継続が苦しいという場合には、相続を機会に事業再建の手段として限定承認の手続きを利用してみるのもよいかもしれません。

(2) 不動産など手元に残したい遺産がある場合

限定承認のメリットでも解説したとおり、限定承認することで、相続人が居住する不動産など手放したくない遺産を相続することが可能になります。限定承認の場合には、家庭裁判所で選任された鑑定人の評価額を限定承認した者が弁済することによって、競売に代えることが認められています。これを「先買権(さきがいけん)」といいます(民法932条ただし書)。

この制度を利用することで、不動産や先祖伝来の家宝などの価値ある財産を手元に残すことが可能です。不動産などを残したい人で、ある程度の資力があるときには、限定承認を検討してみてもよいでしょう。

(3) 借金の総額が不明な場合

被相続人に借金があるようだけれども、具体的にどれくらいあるかがどうしてもはっきりしないという状況の場合には、限定承認を検討する余地があります。

単純承認をしてしまうと、予想外に高額な借金があったことが判明したとしても、錯誤などによる単純承認の取消しが認められない限り(民法919条2項)、相続放棄や限定承認を行うことはできません。

逆に、相続放棄をしてしまうと、予想外に借金が少なく、積極財産の方が大幅に上回っているという場合でも、やはり取消が認められない限り、一切財産を相続することができなくなってしまいます。

そのため、どうしても借金の総額が不明なときには、限定承認をしておくという方法があり得ます。

ただし、後述するように限定承認の手続きは非常に手間のかかるものですので、借金などの債務の総額が判明しないようなケースでは、熟慮期間の伸長を申し立て、時間をかけて債務や財産を調べていくほうがお勧めできることも多いです。

4.限定承認の手続きと費用

限定承認の手続きの具体的な流れと、限定承認にかかる費用については、以下のとおりです。

(1) 限定承認の手続きの流れ

①家庭裁判所への申述

限定承認をするときには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下の書類を提出して、限定承認をする旨の申述を行います。相続人が複数人いるときには、相続人全員が共同して申述する必要があります(民法923条)。

ただし、相続放棄をする者がいる場合には、その者の申述は不要になります。

  • 限定承認の申述書(民法924条)
  • 財産目録(民法924条)
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人全員の戸籍謄本
  • その他申述人と被相続人との関係で必要な追加書類など

②相続債権者および受遺者に対する公告および催告

限定承認の申述が受理された後は、限定承認者によって相続財産の清算手続きが行われます(民法927条以下)。相続人が複数いるときには、家庭裁判所によって選任される相続財産管理人によって清算手続きが行われることになります(民法936条1項)。

そして、清算手続きとしてまずは、すべての相続債権者および受遺者に対して、限定承認をした旨と権利がある場合にはそれを申し出るよう求める内容の公告をしなければなりません(民法927条1項)。

③相続財産の換価

金銭以外の相続財産を売却して弁済をする必要が生じたときには、限定承認者は相続財産を競売によって売却をする必要があります(民法932条本文)。

もっとも、前述のとおり、限定承認者が、被相続人の遺産の取得を希望するときには、家庭裁判所の選任した鑑定人の評価額を支払って競売を止め、相続財産を引き取ることができます(民法932条ただし書)。

④相続債権者および受遺者に対する弁済

相続財産の換価が終了した場合には、相続債権者および受遺者に対する公告期間満了後に以下の順序で債権額の割合に応じて弁済を行います。

  1. 先取特権や抵当権などの優先権を有する債権者(民法929条ただし書)
  2. 公告・催告期間内に申し出があり、または知れている相続債権者(民法929条本文)
  3. 公告・催告期間内に申し出があり、または知れている受遺者(民法931条)
  4. さらに剰余財産があれば、申出をせず、または知れなかった相続債権者および受遺者(民法935条)

⑤相続人による財産の受領

相続債権者および受遺者に対する弁済が終了した時点で、限定承認の手続きは終了となります。相続債権者および受遺者に対する弁済をしてもなお相続財産が残ったときには、限定承認者がその財産を取得することができます(民法922条)。

(2) 限定承認の費用

限定承認の申述にあたっては、以下の費用がかかります。

  • 収入印紙:800円分
  • 連絡用の郵便切手:金額と組み合わせは裁判所によって異なりますので、申述をする裁判所にお問い合わせください。

(3) 限定承認の期限(熟慮期間)

限定承認の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内とされています(民法915条1項本文)。期限までに家庭裁判所に限定承認の申立てを行わなければ、単純承認をしたものとみなされますので注意が必要です。

もし、期限内に限定承認すべきか判断ができないようであれば、期間の伸長の申立てをすることによって、上記の期間を延ばしてもらうことができます(同項ただし書)。実務上は、3か月から6か月程度の伸長が認められることが多いです。

5.まとめ

限定承認については、手続きの煩雑さやすべての相続人の同意が必要などの理由から利用はあまり進んでいません。もっとも、限定承認には単純承認や相続放棄ではできないようなことも行えますので、適切に使えば制度としては魅力のあるものです。

限定承認の手続きの煩雑さについては、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めることで、煩わしさを一定程度回避することができるでしょう。

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