永代供養には家族信託|活用方法・死後事務委任との違い
「死後もきちんとお墓などを整えて供養してもらいたい。しかし、家族がしっかり供養してくれるかどうか不安だ」
このようなお悩みをお抱えの場合、永代供養を目的とした「家族信託」の活用を検討しましょう。
家族信託を活用することで、死後の永代供養につき、契約の裏付けを得ることができます。
また、あらかじめ信頼できる人に永代供養を任せておけば、安心して余生を過ごすことができるでしょう。
この記事では、永代供養を目的とした家族信託の仕組みや、死後事務委任との違いなどについて解説します。
1.永代供養とは?
永代供養とは、霊園や寺院などが親族などに代わって死者を供養することをいいます。
親族が遠方に住んでいたり、疎遠であったりする場合には、お墓参りなどの供養を行う人がいなくなってしまうケースがあります。
このような場合、霊園や寺院などに永代供養を依頼すると、お墓を設置したうえで遺骨を埋葬し、掃除や儀式などを定期的に行ってくれます。
なお、「永代」といっても未来永劫供養してもらえるわけではなく、17回忌・33回忌・50回忌など、各霊園や寺院によって期限が決まっているのが通常です。
2.安心できる永代供養には家族信託も一案
霊園や寺院などに永代供養を依頼する際には、費用を霊園や寺院に支払う必要があります。
また、供養関連の仏具などについても誰かが保管しなければなりません。
そこで、生前に家族信託を設定して、信頼できる受託者に永代供養関連の事務を依頼することが有効です。
(1) 家族信託とは?
家族信託とは、信頼できる親族などに対して財産を信託譲渡し、その管理・処分を任せる法律行為をいいます。
家族信託の当事者は、以下のとおりです。
委託者:財産を受託者に対して信託譲渡する人
受託者:委託者から信託譲渡を受けた財産の管理・処分を行う人
受益者:信託財産の運用・処分によって得られた収益の分配を受ける人
永代供養目的の家族信託において、上記の当事者が誰になるかは後で解説します。
→家族信託
(2) 永代供養で家族信託を使うメリット
①信頼できる人に永代供養を任せられる
永代供養目的の家族信託には、生前から信頼している人に対してあらかじめ永代供養を依頼できるというメリットがあります。
遠方に住んでいたり、疎遠であったりする親族は、相続した資金の中から永代供養の費用を支出することを嫌がるケースも多いです。
また、仏具などの物品についても、適切に管理されないおそれがあります。
家族信託を設定して、信頼できる親族などをあらかじめ受託者に指定しておけば、ご自身の死後にきちんと永代供養が行われる確実性が高まるでしょう。
②永代供養の資金の使い道を指定できる
永代供養を目的とした家族信託では、永代供養の費用に充てるための資金を受託者に対して信託します。
その際、信託契約で定めることにより、信託財産(資金)の使い道を永代供養目的に限定することが可能です。
たとえば遺言などで、「永代供養をするために使ってほしい」と付言して遺産を譲り渡したとしても、その遺産をどのように使用するかは基本的にもらった側の自由です。
これに対して家族信託の場合、信託財産の使い道を委託者(=被相続人)が指定できます。
さらに、永代供養の方法や期間についても、信託契約の中で定めておくことが可能です。
そのため、被相続人の意思を反映した形で永代供養が行われる可能性が高まるメリットがあります。
3.永代供養のための家族信託の仕組み
永代供養を目的とした家族信託は、大要以下の仕組みによって運用されます。
(1) 委託者=被相続人
委託者となるのは、永代供養をされることになる被相続人です。
被相続人は、永代供養のための費用に充てるための資金などを拠出し、受託者に対して信託します。
(2) 受託者=永代供養事務を行う親族など
受託者となるのは、永代供養に関する事務を信頼して任せられる親族などです。
受託者は、信託財産である資金などの形式的な所有者となりますが、実際には受益者のために信託財産を管理する立場にあります。
また受託者は、信託契約で定められている通りに永代供養を行う義務を負います。
(3) 第一受益者=被相続人
永代供養目的の家族信託の受益者は、当初は委託者(被相続人)としておきます。
ただし、相続が発生した段階で、被相続人が有していた信託受益権は相続の対象となります。
そのため、遺言または信託契約によって、信託受益権の承継先を指定しておくとよいでしょう。
(4) 第二受益者=相続人など
家族信託が終了した際に、残った信託財産(残余財産)を受け取る人は信託契約において定めることができます(信託法182条1項)。
このとき、残余財産を受け取る人のことを、もともと受益者であれば「残余財産受益者」、そうでなければ「帰属権利者」と呼びます(これ以降は便宜上、両者を「第二受益者」と総称します)。
永代供養目的の家族信託は、永代供養の期間が満了した段階で終了し清算されることになります。
その際、第二受益者は、永代供養の費用を支払った後で残った信託財産を受け取ります。
(5) 資金使途は永代供養に限定する
信託契約においては、信託財産の使途を定めておくことができます。
永代供養目的の家族信託の場合、信託財産の使途は永代供養に限定しておきます。
受託者は、信託契約に定められているとおり、永代供養目的に限定して信託財産(資金)を使用しなければなりません。
もし受託者が信託契約上の資金使途に違反した場合、受託者の注意義務違反を構成します(信託法29条1項)。
(6) 永代供養の期間を定めておく
霊園や寺院によって差はありますが、永代供養には期限があります。他方、信託財産も有限ですので、無限の供養というわけにはいかない場合もあります。
そこで、あらかじめ供養をお願いする霊園や寺院と相談したうえで、信託契約の中に永代供養の期間を定めておきましょう。
そして、永代供養の期間が満了したら、信託を清算して二次受益者に残余財産を帰属させる旨も信託契約に規定しておきます。
4.死後事務委任との比較
死後の永代供養を親族などに任せる際には、「死後事務委任契約」による方法も考えられます。
[参考記事] 死後事務委任契約とは|活用方法や遺言との違いなどを解説しかし、永代供養事務については、死後事務委任よりも家族信託による方が法的安定性の点で勝っていると評価できます。
その理由は以下の通りです。
(1) 家族信託では財産の信託が問題なく可能
死後事務委任の場合、財産の処分に関する代理権を無制限に認めると、遺言制度が骨抜きにされてしまう問題点が指摘されています。
遺言が厳格な要式行為とされているのに対して、死後事務委任は極論すれば口頭でも行えます。
つまり、本来遺言によって行われるべき財産の処分が死後事務委任によって方式を問わず行われることは、遺言制度の潜脱であるという見解が存在するのです。
この点に関して確立した判例法理はないため、死後事務委任によって財産の処分をどこまで委託できるかどうかは、その境界線があいまいな状況といえます。
これに対して家族信託の場合、委託者から受託者に対して財産の管理・処分を委託することが当然に予定されています。
したがって、永代供養の資金を委託者から受託者に信託譲渡すること自体については、法的な疑義はないため、この点で死後事務委任よりも法的安定性が高いと評価できるでしょう。
(2) 家族信託は被相続人が死亡しても終了しない
死後事務委任は「委任」契約であるところ、民法上、委任は委任者の死亡によって終了すると定められています(民法653条1項)。
この規定は任意規定であり、契約で別途定めれば排除できると解する説が有力であるものの(最高裁平成4年9月4日など)、必ずしも確定的な見解とは解されていません。
これに対して家族信託の場合は、委託者が死亡したとしても、信託の終了事由に該当するまでは家族信託が存続します。
さらに、家族信託の場合は事務処理について受託者が判断できる事項が多いのですが、死後委任の場合、死後に委任者の意思を確認できないので、事前に細かく事務処理に関する委任事項を定める必要がある、という違いがあります。
永代供養を目的とする場合、当然委託者(被相続人)の死後も契約を存続させる必要がありますので、その使い勝手から言っても、死後事務委任よりも家族信託が勝るといえるでしょう。
(3) 家族信託は被相続人が死亡しても解除されない
死後事務委任が「委任」であることと関連してもう1点、委任者による解除権の相続に関する問題が存在します。
すなわち、委任者はいつでも委任契約を解除できるところ(民法651条1項)、仮に委任者の死亡後も委任契約が存続して、その契約上の地位が相続人に承継されるとし、この委任契約の解除権も委任者の死亡によって相続ないし承継されるかどうかが問題となるのです。
もし委任者の解除権が相続ないし承継される場合、相続人が「死後事務委任を解除する」と主張すれば、契約が解除され、被相続人の意思が実現しなくなってしまいます。
このような弊害を回避するため、委任者の解除権の相続を制限する考え方が有力に主張されていますが、委任契約上の地位を承継した、相続人の解除権を制限する合理的な理由を見出しにくいこともあり、確立した見解は存在しません。
これに対して家族信託の場合、委託者に対して自動的に解除権が認められることはありません。
また、委託者の地位が相続されないことを信託契約で定めることも可能です。
そのため、家族信託を利用すれば、相続人によって信託契約の解除を主張されるリスクを回避できるメリットがあります。
【永代供養目的で家族信託を利用する際には遺留分に注意】
永代供養を目的として家族信託を設定する場合には、信託受益権が遺留分侵害額請求の対象となり得る点に念のため注意しておきましょう。
信託受益権を遺言によって相続人などに遺贈する場合や、信託終了に伴い第二受益者に残余財産を帰属させる場合には、その経済的利益が遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります(東京地裁平成30年9月12日判決参照)。
家族信託と遺留分の関係については、以下の記事で裁判例をベースに解説しているので、併せてご参照ください。
【参考】 家族信託と遺留分|信託契約を無効とした判決を踏まえて解説
5.まとめ
ご自身の死後も確実に永代供養をしてもらいたい場合、信頼できる受託者をあらかじめ指名したうえで家族信託を設定する方法が有効です。
家族信託は、永代供養目的以外にも、相続に関連する場面においてさまざまな活用方法が考えられます。
遺言書と並んで、相続に向けた生前対策の主要な方法として注目されていますので、ご関心をお持ちの方は泉総合法律事務所の弁護士まで是非ご相談ください。