相続分の指定とは?
遺言書の書き方の1つに「相続分の指定」があります。被相続人の意思を反映させて、遺言で各々の相続人の相続割合を指定する方法です。
この方法を使えば、法定相続分とは違った、遺言者の思い通りの割合で財産を承継させることができます。
今回の記事では、この「相続分の指定」に焦点を当てて説明します。
1.相続分の指定とは?
(1) 遺産の分割方法の決まり
まず、遺産分割方法について、相続分の指定に焦点を当てて説明します。
相続人が1人の場合は、その相続人1人が100%遺産を取得することができますので、遺産の分割方法を考える必要がありません。
しかし、相続人が2人以上いる場合、遺産の取得割合を決めなければなりません。もし相続分の指定がなければ、法定相続分に従って遺産の取得割合を決めることになります(民法900条)。
例えば相続人が、配偶者と長男、次男、三男の子供3人の場合には、法定相続分は、配偶者が1/2、残り半分を子供3人で按分し、各子供は1/6ずつ取得することになります。
[参考記事] 法定相続人の範囲と法定相続分をわかりやすく解説しかし、この遺産の取得割合は、遺言によって変えることができます。
これを「相続分の指定」といいます。
例えば、相続人が、配偶者と子供3人の場合は、遺言で「相続人各々が1/4ずつ相続する」といったように法定相続分と異なった相続分の割合を指定することができます。
民法902条には、次のように定められています(ちなみに、902条2項の条文中の「前二条の規定」とは、法定相続分についての規定です)。
- 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。(民法第902条第1項)
- 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。(民法第902第条2項)
また、民法902条2項は次項でご説明する「一部の相続人の相続分を指定しておく場合」に該当します。
なお、遺言が存在せず法定相続分で分割する場合も、遺言書の相続分の指定により指定相続分で分割する場合でも、相続人間の遺産分割協議で合意すれば、遺産分割協議の合意割合で分割することができます。
(2) 「相続分の指定」があった場合の分割方法
相続人全員の相続分を指定しておく場合
例えば、相続人が配偶者と長男、次男、三男の子供3人で、遺言により「配偶者に1/6、長男に1/2、次男に1/6、三男に1/6を与える。」というように、相続人全員の相続分の指定が遺言書でなされている場合には、原則、遺言書の「相続分の指定」に従って遺産を取得します。
一部の相続人の相続分を指定しておく場合
では、相続人が長男、次男、三男の子供3人のみの場合で、遺言により「長男に1/2を与える。」というように、長男の相続分だけを指定したような一部の相続人の相続分のみの指定がなされている場合には、どうのように遺産分割をすれば良いのでしょうか。
この場合のように、一部の相続人にのみ相続分が指定されている場合は、他の相続人が、指定相続分を除いた残りの財産を法定相続分で分割することになります。
この例では、相続分の指定がない次男と三男について、原則、法定相続分で分割され、次の通りとなります。
- 長男:1/2(遺言による相続分の指定)
- 次男:1/4(残りの財産の法定相続分)
- 三男:1/4(同上)
ただし、相続人に配偶者がいる場合は注意が必要です。
「長男に1/2を与える。」という上記例と同じ文言の遺言書が、配偶者と長男、次男、三男の子供3人の相続人に遺されたとします。
このケースでは、次の2つの解釈が成り立ちます。
解釈1:配偶者を優先しない解釈
→長男に1/2を与え、残りの1/2を、配偶者を含めて法定相続分で分ける。
(配偶者1/4、長男1/2、次男1/8、三男1/8)解釈2:配偶者を優先する解釈
→配偶者に全財産の1/2与え、残りを相続分の指定通りに分ける。
(配偶者1/2、長男1/4、次男1/8、三男1/8)
遺言内容をどのように解釈するかによって、遺産分割の割合が変わってしまいます。
被相続人の意思に反した解釈をされないためにも、遺言書には、共同相続人全員の相続分を指定しておくか、配偶者の相続分を含めて記述し、誤解を生じないようにしておく必要があります。
そうしないと、結局、被相続人が望む相続がされないこととなるばかりか、遺言の解釈をめぐって相続人間での争い(いわゆる「争続」)が発生してしまうことになります。
(3) 債務がある場合
相続財産には、預貯金や不動産といった通常の財産に加えて、借金等の負債も含まれます。
この負債(債務)についても、原則、相続分の指定にしたがって各相続人が相続することになります。
(4) 第三者による相続分の指定の方法
相続分の指定は、遺言で相続割合を指定することもできますし、第三者に指定割合を委託することもできます。
例えば、遺言で「遺産分割割合をどうするかについては、Aに一任する。」というように遺言書に記載することで、相続分の指定を第三者(この場合は「A」)に委託することができます。
2.相続分の指定をする際の注意点
相続分の指定は被相続人の意思を反映させて遺産分割ができる方法ですが、実際に使う上では注意すべき点があります。
ここでは、相続分の指定をする際の注意事項について見ていきます。
(1) 遺留分に注意
遺留分とは、法律上保障された、相続人が受け取れる一定割合の相続財産のことです(民法1042条以下)。
遺言による相続分の指定であっても、他の相続人の遺留分を侵害した場合は、遺留分侵害額を請求される可能性があります(民法1046条)。
例えば、相続人が子供3人(長男、次男、三男)の場合で、三男とは折り合いが悪く、長年実家に寄り付かないとします。
このような場合でも、遺言により「長男に3/4、次男に1/4を与える。」というように、長男と次男に財産を与え、三男には何も与えないような相続分の指定をすると、三男の遺留分を侵害することになります。
遺留分について他の相続人とトラブルになる可能性もありますので、遺言書を作成する場合は遺留分に配慮するように注意が必要です。
[参考記事] 遺留分とは|概要と遺留分割合をわかりやすく解説(2) 遺産分割協議が必要
遺言による相続分の指定があったとしても、あくまで「相続割合」を指定しているだけですので、具体的にどの財産を誰が相続するかを決めないといけません。
相続人間で遺産分割協議を行い、どの財産を誰が取得するかを合意して、遺産分協議書を作成する必要があります。
(3) 債権者の権利
被相続人に「債務」がある場合も、原則、相続分の指定にしたがって、相続人がその債務を相続することになります。
しかし、相続分の指定やこれに基づいて作成した遺産分割協議書については、債権者には何の効力もありません。
つまり、債権者は、相続分の指定や遺産分割協議書に拘束されません。
そのため、債権者としては、相続分の指定の割合に従って請求することもできますし、原則通り、法定相続分通りの割合で相続人に請求することもできるとされています。
[参考記事] 相続法改正|相続分の指定があるときの債権者に対する義務の承継3. まとめ
今回は、「相続分の指定」について見てきました。
遺言で相続分の指定を行うことにより、法定相続分と異なった割合で相続されることができますので、被相続人の意思をある程度反映させた遺産分割の方法として活用することができます。
一方で、「遺留分侵害の問題」や「債務がある場合の債務負担割合」等、注意すべき点もあります。
また、相続分の指定は相続割合を指定するだけですので、具体的な財産について、誰がどの財産を相続するか決めないといけません。
特に、相続財産に不動産が含まれていると、不動産の評価をめぐる問題や不動産の分割の問題は避けて通れません。
このように、遺言作成には色々と考慮すべき点がありますので、相続分の指定を行いたいと考えている方はもとより、遺言書を作りたいと考えている方についても、相続に詳しく経験豊富な法律事務所などに相談されることをお勧めします。
泉総合法律事務所には、遺言書作成を含め、相続に関する様々な専門知識豊富な弁護士が揃っております。遺言書作成について、お悩みやご不明な点がございましたら、是非一度、お気軽にご相談ください。