相続税が払えない場合はどうすればいい?
相続財産が不動産中心の方、特に大都市圏にお住まいの方は、お持ちの不動産の評価額が高く相続税が膨大になってしまい、相続税を払えないことがあります。
相続税を支払わずに放置しておくと、延滞税などのペナルティがかかるとともに、最悪の場合財産を国に没収されてしまいます。
相続税は現金納付が原則ですが、他の方法で支払うこともできます。
そこで、今回の記事では「相続税を手持ちの現金で支払えない場合の対応方法」について説明します。
1.相続税を払わないとどうなる?
原則、相続税は現金で納税しないといけませんが、以下のように相続税を支払えないケースが起こってしまうことがあります。
- 相続財産のほとんどが不動産の場合
- 不動産と預貯金の相続人が分かれる場合
- 遺産分割協議がまとまらない場合
相続税を納付せずに放置し、納付期限である10ヶ月以内に相続税の申告・納付を行わなかった場合は「無申告」となります。
その結果、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されます。
また、相続税を払わないで放置したままにしておくと、最終的には国に財産を差し押さえられてしまいます。
2.相続税が払えない場合の対処法
では、相続財産の中に相続税を支払う現金がない場合、その相続税をどのようにして工面すれば良いのでしょうか。
(1) 相続人の手持ち資金で支払い
相続財産の中に相続税を支払う現金がない場合は、まず、相続人自身の手持ちの預貯金から支払うことを検討します。
この場合は、相続財産の不動産などを売却せずに相続税を支払えますが、一方で相続人の預貯金の財産が減ってしまいますので、相続人の生活のキャッシュフローなどに悪影響が出る可能性があります。
(2) 遺産を売却して納付資金を捻出
相続人自身の手持ち資金がない場合は、相続した遺産の売却も選択肢の1つです。
後述する通り、相続した遺産を「物納」することもできますが、不動産を物納する場合は、市場価格より低い「相続税評価額」で物納することになります。
不動産の相続税評価額は、一般的に市場価格の70~80%となることが多くなりますので、不動産を物納するよりは、市場価格で売却した⽅がお得になる場合があります。
一方で、遺産を売却して納税することには、次のデメリットもあります。
- 相続税の納税期限が10ヶ月以内と決められているため、不動産を買いたたかれるリスクがある。
- 不動産の売買に時間がかかれば、相続税の納税期限に間に合わないリスクがある。
- 不動産の売却によって譲渡所得税がかかる。(相続税の取得費加算の特例を使って譲渡取得税を軽減させることは可能)
(3) 遺産を担保にしてローンを組む
不動産などの遺産を売却する代わりに、その資産を担保にして金融機関からお金を借りて相続税を支払う事もできます。
後でご説明します「延納」の利子と比べて、金融機関の金利の方が低く有利なことがあります。
また、相続した不動産を売却する前提で金融機関から「つなぎ資金」として融資を受けることもでき、この場合は短期融資となりますので、金融機関の金利などの条件がさらに良くなることもあります。
一方で、金融機関から融資を受けた場合は、当然ですが利子を含めて返済していかなければなりません。
相続人はローン返却計画をきちんと立てて、計画的に返済していくことが求められます。
(4) 延納
相続税は、金銭によって一括で支払うことが原則です。
金銭での一括納付が困難な場合は、最⻑20年の分割で納めることができ、これを「延納」と言います。
ただし、延納をするには担保が必要ですので、不動産・国債/社債などを担保として差し入れなければいけません。
延納では多額の相続税を一括で払わなくてすみますので、経済的に余裕ができます。
一方で、延納をする場合は利⼦税を別途支払う必要があります。
延納にかかる利子税の割合は相続財産に占める不動産の割合に応じて異なり、例えば、相続財産に占める不動産の割合が75%以上の場合、この不動産にかかる利子税の割合は「3.6%」です。
ただし、この延納利子税は昨今の低金利時代にそぐわないので、特例制度として「特例割合」が設けられており、この特例割合を使って利子税を計算します。
この特例割合は、「国内銀行への貸出約定平均金利」を考慮して算出し、例えば相続財産に占める不動産の割合が75%以上の場合、この不動産にかかる利子税の割合は「0.7%」となります。
詳細は、下記の国税庁のWEBページをご覧ください、
【参考】「No.4211 相続税の延納」国税庁
なお、延納を希望する場合は、次の要件を全て満たしている必要があります。
- 相続税額が10万円を超えていること
- 金銭で納付することが困難であり、その納付を困難とする金額の範囲内であること
- 延納税額および利子税の金額に相当する担保を提供すること(ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下の場合は、担保は必要ない)
- 延納申請期限までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること
(5) 物納
相続税は現金で納付するのが原則ですが、「延納」によっても現金で納付することが困難な場合は、現金の代りに相続財産の一部で納付する「物納」が認められています。
物納可能な財産には次のように優先順位が決められているため、物納する相続財産を自由に選ぶことはできません。
- 第1順位:不動産(土地/建物)、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
- 第2順位:非上場株式等
- 第3順位:動産(車、家具/家電等)
物納のメリットは、相続した不動産を他人に売却した場合は譲渡所得税がかかりますが、国に物納する場合は税金がかからない点です。
一方で、前述した通り、物納は相続税で評価した価格で納付することになりますので、一般の取引価格に比べて低い金額で納付することになります。
3.預金が凍結されているときの対処法
金融機関に被相続人が死亡した旨の連絡が入ると、被相続人の口座は凍結されて、引き出すことができなくなります。
凍結されている口座を解除するためには、原則、遺産分割協議に合意して、その遺産分割協議書と必要書類を金融機関に届け出る必要があります。
遺産分割協議に合意できず口座が凍結されたままの場合は、例外的に、次の方法により預金を引き出すことができます。
(1) 納税資金分だけ遺産分割を合意
相続遺産全体の遺産分割の合意ができない場合、取り敢えず納税資金の分だけ遺産分割の合意を行い、金融機関の口座凍結を解除する方法です。
金融機関の口座が解除されれば、現金を引き出して相続税を納税することができます。
(2) 金融機関に対して法定相続分の預金の払い出し請求
納税資金分の遺産分割協議でも難航する場合は、金融機関に対して法定相続分の預金の払い出しを請求することができます。
この方法により、凍結された口座から法定相続分の預金の払い出しを受け、相続税を納税することができます。
4.まとめ
相続税の納付は相続発生後10ヶ月以内と定められています。
10ヶ月と聞くと長くて余裕があるように思いますが、10ヶ月はあっという間に過ぎてしまいます。余裕を持って、計画的に相続手続きを行うことが大切です。
泉総合法律事務所は、相続問題について知識豊富な、安心してご相談いただける法律事務所です。遺留分から遺産分割協議まで様々なご相談に対応しております。
また、相続税の経験豊富な税理士とも提携しており、ご紹介することもできます。
相続問題や相続税についてお悩みであれば、是非一度ご相談ください。