任意後見制度とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説

世界保健機構や国連の定義によると、65歳以上の高齢者の全体の人口に占める割合が7%を超えた社会を高齢化社会、14%を超えた社会を高齢社会、さらに21%を超えた社会を超高齢社会といいます。
総務省の推計によれば、令和2年9月の時点での日本の高齢化率は、28.7%となり、超高齢社会に突入しています。
高齢者の割合が増えることによって心配なのが、認知症などによって支援が必要になる高齢者の増加です。
特にご自身が認知症になった場合には、周りの家族に迷惑をかけてしまう可能性もありますので、元気なうちから準備しておくことが重要です。
今回は、判断能力の低下に備えて事前に後見人を決めることができる制度「任意後見制度」について解説します。
1.任意後見制度とは
任意後見制度とは、将来、認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、本人に十分な判断能力があるうちに後見人をあらかじめ自分で選び、財産管理や療養看護などの代理権を与え、任意後見監督人が選任されたときから効力が生じる成年後見制度の一種です。
通常の委任契約とは異なり、家庭裁判所から選任された任意後見監督人が受任者(任意後見人)の事務を監督しますので、本人の判断能力が低下した後の受任者による代理権濫用のおそれも回避することができる制度です。
本人の意思を十分に反映させつつ、代理権濫用のおそれも回避することができる制度であるため、超高齢社会の現代においては積極的に活用が期待される制度であるといえます。
2.任意後見制度と法定後見制度の違い
任意後見制度と法定後見制度とはどのような違いがあるのでしょうか。
(1) 法定後見制度とは
法定後見制度とは、家庭裁判所により選任された後見人など(成年後見人、保佐人、補助人)が、既に判断能力の低下した本人の利益を考えながら、本人が法律行為をする際に同意をしたり、本人が後見人などの同意を得ないで行った法律行為を取り消したり、本人を代理して法律行為をしたりすることで、本人を保護する制度のことをいいます。
法定後見制度は、本人がどの程度の判断能力を有しているかによって、以下の3種類に分類されます。
- 後見-判断能力が欠けているのが通常の方(例、重度の認知症)
- 保佐-判断能力が著しく不十分な方(例、中程度の認知症)
- 補助-判断能力が不十分な方(例、軽度の認知症)

(2) 法定後見制度との違い
任意後見制度と法定後見制度には、主に以下のような違いがあります。
任意後見制度 | 法定後見制度 | |
---|---|---|
利用時期 | 本人に十分な判断能力がある時点 | 本人の判断能力が低下した時点 |
後見人の選任主体 | 本人 | 家庭裁判所 |
後見人の権限 | 任意後見契約によって定めた行為 | 民法所定の法律行為 |
取消権の有無 | ない | ある |
①利用時期
任意後見制度は、本人に十分な判断能力がある時点で将来の財産管理などに関する事務を行うものや行われる事務の内容をあらかじめ決めておくことができる制度です。
これに対して法定後見制度は、本人の判断能力が低下した時点で本人の親族などの家庭裁判所への申立てによって利用される制度です。
そのため、任意後見制度の方が、判断能力が低下した時点の財産管理などについて本人の意思を反映させやすい制度だといえます。
②後見人の選任主体
任意後見制度は、任意後見契約によって本人が後見人を選ぶことができます。信頼できる親族や専門家(弁護士、司法書士など)を任意後見人に選任することができるため、将来の財産管理などの場面で本人の意向を反映させやすくなります。
これに対して、法定後見制度は、家庭裁判所が後見人を決めることになります。
法定後見制度の申立時に後見人の候補者を立てることができますが、裁判所はそれとは異なる人を後見人に選任することもありますので、必ず希望が通るとは限りません。
③後見人の権限
任意後見制度は、本人の生活、療養看護、財産管理に関する事務に関してあらかじめ任意後見契約で定めた範囲で任意後見人に権限が与えられます。
これに対して、法定後見制度では、民法が定める一定の権限や家庭裁判所の審判によって与えられた範囲の権限を行使することができます。
④取消権の有無
任意後見制度では、任意後見人に与えられる権限は代理権のみであり、任意後見契約によっても取消権を与えることはできません。
これに対して、法定後見制度では、補助人や保佐人には限定がありますが、取消権が与えられています。
3.任意後見制度の種類
任意後見制度には、即効型・将来型・移行型といった3つの種類があります。
本人の健康状態や生活状態にあわせて、どのタイプの任意後見制度が合っているかを検討しましょう。
(1) 即効型
即効型とは、任意後見契約を締結した後、すぐに家庭裁判所に対し任意後見監督人の選任申立てを行うというものです。
任意後見契約時にすでに本人の判断能力が低下し始めており、すぐにでも任意後見を始めたいという場合にはこれを選ぶとよいでしょう。
なお、軽度の認知症であれば、任意後見契約自体は可能です。
(2) 将来型
一般的に任意後見契約を締結する場合には、生活支援、療養看護、財産管理などに関する事項について委任契約を締結します。
しかし、将来型は、後述する「移行型」のように生活支援、療養看護、財産管理などに関する委任契約は締結せずに、任意後見契約のみを締結するというものです。
(3) 移行型
任意後見契約の中でも最も使い勝手が良いのが移行型のタイプです。任意後見契約の締結と同時に、生活支援、療養看護(見守り契約)、財産管理などに関する委任契約の締結をするというものです。
それによって、本人の判断能力があるうちは当初の委任契約に基づく見守り事務などを行いながら、本人の判断能力が低下した後に任意後見に移行することになります。
判断能力があるといっても、年齢を重ねるうちに身体機能が低下して、それまで自分でできていたことが難しくこともあります。
現在のサポートともに将来の財産管理もお願いしたいという場合には有効な手段です。
4.任意後見制度のメリットとデメリット
任意後見制度には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
任意後見制度の利用をお考えの方は、メリットとデメリットを比較しながら検討してみましょう。
(1) 任意後見制度のメリット
任意後見制度のメリットとしては、以下のものが挙げられます。
①任意後見人を自分で選ぶことができる
任意後見制度では、判断能力が十分ある時点で自らの希望する人を任意後見人にすることができます。
法定後見制度では、誰が後見人になるかわからないという不安がありますので、信頼できる人物に自分の将来の財産管理などを任せることができるというのは大きなメリットです。
②任意後見人の権限もあらかじめ決めることができる
任意後見人の権限は、任意後見契約によって定められた事項に限られます。そのため、自分が希望する支援の内容をあらかじめ契約に盛り込んでおくことによって、自分の判断能力が低下した後も自分の意思を反映させた財産管理などを行うことが可能になります。
法定後見制度では、本人の利益を考えながら後見人は行動することになりますが、本人がどのような希望を示していたかがわからないため、十分に本人の意思を反映させることはできません。
③後見監督人による監督が期待できる
任意後見制度では、任意後見人の事務処理を家庭裁判所によって選任された後見監督人が監督することになります。
本人の判断能力がなくなった後も、任意後見人による不当な財産処分を防止することが可能となりますので、安心して利用をすることができます。
(2) 任意後見制度のデメリット
任意後見制度のデメリットとしては、以下のものが挙げられます。
①死後の処理を委任することができない
任意後見人の権限は、本人の死亡によって終了します。
そのため、本人が死亡した後の葬儀、自宅の片づけ、相続手続きなどを任意後見人に委任することはできません。
②取消権がない
任意後見人には、法定後見人に認められている取消権が存在しません。
本人が消費者被害になどによって不利な契約を締結してしまったとしても、任意後見人には、その契約を取り消す権限はありません。そのため、本人の保護としては不十分な場合もあります。
5.任意後見の流れ
最後に、任意後見制度を利用する場合の一般的な流れとしては以下の通りです。
(1) 任意後見契約の締結
任意後見契約の締結は、公正証書によって行います。公証人が関与することによって本人の真意による適正かつ有効な契約が締結されることを制度的に担保することが目的です。
任意後見契約を締結し、公正証書の作成が完了すると、公証人から登記申請がなされて、登記事項証明書に任意後見人である旨が記載されることになります。
(2) 任意後見監督人選任の申立
任意後見契約の締結後、本人の判断能力が低下した場合には、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行います。
任意後見監督人を選任するためには、少なくとも本人の判断能力が法定後見の「補助」に相当する程度になっていることが必要になります。
(4) 任意後見契約の発効
任意後見契約は、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されたときから効力を生じることになります。
任意後見契約が発効した後は、任意後見人は、任意後見契約に従って事務処理を行い、定期的に任意後見監督人に事務処理状況を報告しなければなりません。
6.まとめ
超高齢社会が進むにつれて任意後見制度の利用も増えてくることが予想されます。
任意後見制度を利用するためには、判断能力が十分なうちに行わなければなりませんので、制度の利用を検討し始めたのであればすぐに行動することをおすすめします。
任意後見制度の利用にあたって分からないことや不安なことがあれば、弁護士にご相談ください。