成年後見人、保佐人、補助人の代理・同意事項の変更は可能?
障害や認知症等で判断能力が不十分なご家族がいらっしゃる方の中には、成年後見制度を利用している方、これから利用することを検討している方がいらっしゃると思います。
成年後見制度を利用すると、成年後見人・保佐人・補助人に就いた人は、障害を持った本人に代わっていろいろな法律行為ができるようになります。
そこで、今回の記事では「成年後見制度での代理権・同意権・取消権」に焦点を当てて、
- どのような代理権・同意権・取消権が与えられるのか
- その与えられた権限は、あとから変更できるのか
について見ていきます。
1.成年後見制度とは
まずここでは、成年後見制度の概要と、「後見」「保佐」「補助」という3つの類型に与えられている権限について見ていきます。
認知症や知的障害、精神障害など(以下、「精神障害等」といいます。)の理由で判断能力の不十分な方は、不動産や預貯金等の財産を管理したり、介護等のサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、治療や入院の手続き等を行う必要があっても、自分でこれらのことを行うのが難しい場合があります。
また、自分に不利益な契約であっても、その契約内容がよく理解できずに契約を結んでしまい、結局、悪質商法等の被害にあってしまうおそれもあります。
このような判断能力の不十分な方を保護し、支援するのが成年後見制度です。
成年後見制度は、本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれます。
(1) 後見類型:成年後見人/成年被後見人
成年被後見人とは、精神障害等の理由で、常に判断能力を欠く状況にあり、家庭裁判所の後見開始の審判を受けた人のことです。
成年被後見人を保護・支援するために、家庭裁判所によって選任された人が成年後見人です。
(2) 保佐類型:保佐人/被保佐人
被保佐人とは、精神障害等の理由で、判断能力が相当程度低下してしまった(判断能力が著しく不十分である)と家庭裁判所で保佐開始の審判を受けた人のことです。
被保佐人を保護・支援するために、家庭裁判所によって選任された人が保佐人です。
(3) 補助類型:補助人/被補助人
被補助人とは、精神障害等の理由で、判断能力が低下してしまった(判断能力が不十分である)と家庭裁判所で補助開始の審判を受けた人のことです。
被補助人を保護・支援するために、家庭裁判所によって選任された人が補助人です。
家庭裁判所によって選任された成年後見人、保佐人、補助人は、「代理権」、「取消権」、「同意権」を行使することにより、本人の保護と支援を行います。
2.成年後見制度の代理権・同意権・取消権
(1) 代理権
成年被後見人、被保佐人、および、被補助人に代わって契約等の法律行為を行う権限です。
ただし、成年被後見人・被保佐人・被補助人といった類型によって、各々の判断能力の不十分さに違いがありますので、その類型によって代理権の範囲が異なっています。
成年被後見人
成年被後見人は、自分一人ではほとんど何もできないため、財産に関する法律行為について、成年後見人に包括的に代理権と財産管理権が与えられています。
被保佐人
保佐人については、当然に、代理権が認められているわけではありません。
保佐人に代理権を与える場合は、「代理権付与」を家庭裁判所に申し立てる必要があり、代理権付与の審判がなされると、保佐人はその審判で定められた特定の法律行為を、被保佐人に代わって行うことができます。
ただし、付与される代理権は、民法第13条で定められた特定の法律行為の範囲に限られます。
なお、民法第13条については、次のサイトをご参照ください。
【参考】「民法」|e-gov法令検索
被補助人
補助人についても、原則、代理権は付与されていませんが、被保佐人と同様に、「代理権付与」を家庭裁判所に申し立てることができます。
家庭裁判所で代理権付与の審判がなされると、補助人は、その審判で定められた特定の法律行為を、被補助人に代わって行うことができます。
ただし、保佐人と同様に、付与される代理権は、民法第13条で定められた特定の法律行為の範囲に限られます。
(2) 同意権・取消権
同意権・取消権とは、本人が契約しようとすることに対して同意を与え、同意を得ずに本人が勝手に契約した場合、その契約を取り消すことができる権限のことをいいます。
ただし、成年被後見人・被保佐人・被補助人の3つの類型によって、各々の判断能力に違いがありますので、その類型によって同意権・取消権の範囲が異なっています。
成年被後見人
成年後見人には同意権がありません。
成年被後見人の場合は、たとえ同意を与えたとしてもそのとおりに法律行為ができる可能性は低いので、同意権そのものに意味がなく、不要と考えられているためです。
しかし、成年後見人は、成年被後見人が行った全ての法律行為について、それが不利益なものだと判断すれば、その法律行為を取り消すことができます。
ただし、例外として、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については取消権が認められていません。
被保佐人
お金を借りたり、保証人となったり、不動産等重要な財産の売買を行ったり、新築・改築・増築などを行うといった、民法第13条で定められた一定の行為について、当然に、同意権・取消権が認められています。
また、家庭裁判所の審判により、民法13条所定の行為以外についても、同意権・取消権を与えることができます。
被保佐人がこれらの定められた一定の行為を行う場合には、その保佐人の同意を得なければなりません。
また、保佐人の同意を得ずに契約した場合は、保佐人はその契約を取り消すことができます。
被補助人
被補助人は被保佐人に比べて、財産管理等についての保護や支援の必要度は小さくなります。
保佐人には民法第13条で定められた行為についての同意権・取消権が当然に与えられていますが、補助人に対しては、原則、同意権・取消権は与えられていません。
補助人に同意権・取消権を与えるためには、「同意権・取消権付与」を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
家庭裁判所で同意権・取消権付与の審判がなされると、家庭裁判所の審判で定められた特定の行為についてのみ、補助人に同意権・取消権が与えられます。
家庭裁判所の審判で定められた特定の行為については、補助人の同意を得なければなりません。
被補助人が補助人の同意を得ずにこれらの行為をした場合は、補助人はその契約を取り消すことができます。
ただし、補助人に与えられる同意権・取消権は、民法第13条で定められた特定の法律行為の範囲に限ります。
(3) 成年被後見人・被保佐人・被補助人の代理権・同意権のまとめ
次の表に、成年被後見人・被保佐人・被補助人の代理権・同意権・取消権についてまとめますので、ご参照ください。
類型 | 後見 | 保佐 | 補助 |
---|---|---|---|
本人 | 成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 |
本人の状態 | 常に判断能力を欠く状況 | 判断能力が相当程度低下(著しく不十分) | 判断能力が低下(不十分) |
保護・支援する人 | 成年後見人 | 保佐人 | 補助人 |
代理権 | 無条件に、財産に関する法律行為について、包括的な代理権を付与 | 家庭裁判所に申し立て、代理権付与の審判により定められた特定の行為に対して代理権を付与
(民法第13条所定の行為の範囲に限る) |
家庭裁判所に申し立て、代理権付与の審判により定められた特定の行為に対して代理権を付与
(民法第13条所定の行為の範囲に限る) |
同意権・取消権 | 同意権なし
無条件に、日常生活に関する行為を除く全ての法律行為についての包括的な取消権を付与 |
無条件に、民法第13条で定められた特定の行為について、同意権・取消権を付与
家庭裁判所に申し立て、同意権・取消権付与の審判により定められた特定の行為に対しても同意権・取消権を付与 (民法第13条所定の行為以外) |
家庭裁判所に申し立て、同意権・取消権付与の審判により定められた特定の行為に対して同意権・取消権を付与
(民法第13条所定の行為の範囲に限る) |
3.代理権・同意権・取消権の変更はできるのか?
代理権や同意権・取消権については、民法に定められています。
ここでは、代理権や同意権・取消権の変更が可能かどうかについて見ていきます。
(1) 代理権や同意権・取消権は法定化されている
代理権や同意権・取消権については、民法第9条、第13条、第17条などに定められています。例えば、次の通りです。
民法第9条
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。民法第13条第1項
被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
民法で定められているこのような代理権や同意権の内容を変更することはできません。
一方で、保佐人や補助人においては、家庭裁判所の審判により特定の法律行為に対して代理権や同意権・取消権を付与することがでるように定められていますので、追加の代理権や同意権・取消権を与えたり、不要になったものを削除したりすることはできます(民法第876条の4第3項、民法876条の9第2項)。
詳しくは、「(3) 保佐人・補助人の代理権・同意権・取消権の変更」をご参照ください。
(2) 類型変更による代理権・同意権・取消権の変更
成年後見制度では、精神障害等による判断能力の程度によって、後見、保佐、補助の3つの制度が用意されていますが、判断能力が低下して、補助であった判断能力が保佐のレベルになり、保佐であった判断能力が後見のレベルになることもあります。
逆に、判断能力が回復し、保佐から補助へ、後見から保佐への変更もあるかもしれません。
このように、本人の判断能力により類型が変わることがあり、類型が変わると、当然に、代理権・同意権・取消権の範囲も変わります。
この場合に類型を変更するためには、改めて、該当する類型で後見・保佐・補助開始の申立てを行う必要があります。
いずれにしても、まず、管轄の家庭裁判所や弁護士などの専門家にご相談するようにしてください。
(3) 保佐人・補助人の代理権・同意権・取消権の変更
保佐人や補助人については、家庭裁判所の審判により特定の法律行為に対して代理権や同意権・取消権を付与できるものがあり、このような権限については、追加の代理権や同意権・取消権を与えたり、不要になったものを取り消したりすることは可能です。
例えば、次のようなケースです。
代理権
保佐人・補助人ともに、民法第13条所定の行為の範囲で、家庭裁判所に申し立て、審判により代理権を付与することが可能で、後から追加や取消が可能となります。
同意権・取消権
保佐人については、民法第13条所定の行為以外に関して、家庭裁判所に申し立て、審判により同意権・取消権を付与することが可能で、後から追加や取消が可能となります。
民法第13条所定の行為以外とは、例えば、13条では短期賃貸借(同法第602条)について同意権・取消権を与えていますが、期間に関係なく全ての賃貸借について同意権・取消権を与えてもらいたい場合に家庭裁判所に申し立てることができます。
補助人については、民法第13条所定の行為の範囲で、家庭裁判所に申し立て、審判により同意権・取消権を付与することが可能で、後から追加や取消が可能となります。
保佐人・補助人の代理権や同意権・取消権を変更する場合は、家庭裁判所に変更の申立てを行い、審判により定める必要があります。
変更に必要な申請書や添付書類等については、所轄の家庭裁判所にご確認ください。
4.まとめ
今回は、「成年後見制度の代理権・同意権・取消権について、どのような権限が与えられるのか、その与えられた権限は変更できるのか」について見てきました。
人生100年時代といわれる超高齢化社会の中、すでに認知症などで成年後見制度を利用している方も多いかと思います。
成年後見制度の代理権・同意権・取消権については民法で定められています。
成年後見人に与えられているこれらの権限は変更することはできません。
一方で、保佐人や補助人に与えられている権限については、家庭裁判所の審判で付与される権限があり、このような権限については、変更することができます。
また、本人の判断能力の状況の変化により、類型を変える場合がありますが、類型が変わると権限内容も変更になります。
成年後見人等に与えられる権限を含めて、成年後見制度は、私たちにとってはあまり馴染みのない制度です。
成年後見制度をすでに利用している方をはじめ、成年後見制度の利用を考えている方についても、相続の経験豊富な信頼できる法律事務所にご相談されてはいかがでしょうか。