家族信託の終了時の精算について
家族信託はどのように終了を迎え、そして終了の際には当事者は何をしたら良いのでしょうか。
家族信託は、注目されてからまだ歴史が浅く、家族信託の終了に関する実務については情報が少ないのが実情です。
今回は、家族信託の終了時の精算について詳しく解説します。
1.家族信託は終了事由の発生で終了
家族信託が終了するのは、終了事由が発生した時です。その終了事由は信託法に定められています。
信託法163〜164条に定められている終了事由のうち、主なものは次の通りです。
- 委託者・受益者の信託を終了する旨の合意があったとき
- 信託の目的を達成したとき、または、達成できなくなったとき
- 受託者が受益権の全部を固有財産として保有し、1年間継続したとき
- 受託者がいない状態が1年間継続したとき
- 信託行為で定めた事由が発生したとき など
家族信託の終了は、終了事由の発生タイミングや、信託内容の設計により異なります。
詳しくは以下のコラムをご覧ください。
[参考記事] 家族信託はいつ終了する?信託の終了事由と期間中の解除2.家族信託終了には信託業務の清算が必要
終了事由が発生したあとには、信託業務の清算を行わなければなりません。精算が結了してはじめて、その家族信託は終了します。
信託終了後の清算事務を行う人のことを「清算受託者」といいます。
実務上では清算受託者は、信託終了時の受託者がそのままなるケースがほとんどです。実務上、残余財産の帰属先が受託者となっている場合には、受託者がそのまま清算受託者となり、清算後の残余財産を引き継ぐケースが多いです。
もちろん弁護士などの専門家が清算受託者になることも可能です。清算事務の負担が大きい場合などには検討されると良いでしょう。
(1) 清算受託者の職務
信託法177条には、清算受託者の職務について次のように定められています。
① 現務の結了
すでに発生していて、対応が必要な事務をすべて終わらせます。② 信託財産に属する債権の取立ておよび信託債権に係る債務の弁済
信託財産の運用収益に当たる金銭債権があれば回収し、信託運営に要する費用などのうち未払いのものがあれば支払うなど、債権債務関係を清算します。③ 受益債権に係る債務の弁済
残余財産の給付を内容とするものを除く受益権について、受益者に対する支払いを行います。
受益者への弁済は、信託債権者に対する弁済よりも後に行われるのがポイントです。④ 残余財産の給付
①~③をすべて終えた後、残った財産を所定の者に給付します。
誰が残余財産を得るかは、後ほど解説します。
要するに清算受託者は、信託財産に関する債務を支払い、残ったプラス財産(残余財産)を整理して、帰属権利者などへ信託財産を引き渡す業務を行います。
(2) 清算受託者の権限
信託法第178条第1項には、清算受託者は、信託の清算のために必要な一切の行為をする権限を有すると定められています。
そして、次に該当する場合には、清算受託者は信託財産を競売にかけることもできます(同法同条第2項)。
① 受益者または帰属権利者が残余財産の受領を拒んだ場合や、受領することができない場合において、相当の期間催告したとき
② 受益者・帰属権利者の所在が不明なとき
①の場合で信託財産を競売に付した場合には、遅滞なく受益者または帰属権利者へその旨を通知しなければなりません(同法同条第3項)。
ただし、損傷その他の事由によって競売を急がなければ価額が下落してしまう物については、催告なしで競売に付することができます(同法同条第4項)。
【清算中の信託財産についての破産手続きの開始】
信託財産の清算を行う際、信託財産に関する債務をプラス財産で完済することができない場合(債務超過の場合)には、清算受託者は直ちに信託財産についての破産手続開始の申立てを行わなければなりません(同法179条第2項)。
破産者は清算受託者ではなく、信託財産自体となります。
3.家族信託終了後の残余財産
では、家族信託が終了した後の、残余財産の行く先にはどうなるのでしょうか。
(1) 残余財産は債務の弁済後に給付できる
信託財産に係る債務を弁済するまでは、残余財産を給付してはいけません(同法181条)。
ただし、債務の弁済をまだしていなくても、それに必要な分を別に留保している場合は除かれます。
(2) 残余財産の帰属先
清算結了後、残余財産は次の人へ引き渡されます(同法182条第1項)。
① 信託行為で残余財産受益者に指定された者
② 信託行為で残余財産の帰属権利者に指定された者
③ ①②の定めがない場合、まはた①②の者が権利放棄した場合には、委託者または委託者の相続人を帰属権利者として指定する定めがあったものとみなす
④ ③でも帰属が決まらない場合は、清算受託者に帰属する
【残余財産受益者と帰属権利者の違い】
残余財産受益者とは、残余財産の給付も受けることができる旨が信託内容となっている受益者のことをいいます。信託期間中は受益者であり、終了後も残余財産を受け取れる受益者になります。
対して、帰属権利者とは、残余財産を受け取る点では残余財産受益者と同様ですが、清算中に限って受益者となる人であり、信託期間中は受益者ではありません。
少し分かりにくいので、例を使って解説します。
委託者A(死亡)・委託者Aの相続人B・残余財産受益者C・清算受託者D
信託行為で残余財産受益者にCが指定されているため、本来であれば残余財産はそのままCに帰属します。
しかし、Cが権利放棄した場合にはBが帰属権利者となります。さらにBも権利放棄した場合には、最終的にDが残余財産を取得することになります。
(3) 残余財産に不動産があれば登記が必要
信託財産が不動産である場合には、家族信託が開始した時点で委託者から受託者へ所有権移転登記がされているため、清算結了に伴い、受託者から帰属権利者などへ「所有権移転登記及び信託抹消登記」を同時申請することになります。
ただし、帰属権利者が受託者であった場合には、次の2つの見解があります。
- 「信託財産引継」を登記原因として帰属権利者の固有財産となった旨の登記
- 「信託財産引継」を登記原因として所有権移転登記
1.は権利の変更登記となるため、受託者が登記権利者、受益者が登記義務者となります。
これに対して2.は同一人物での単純な所有権移転登記になります。
この2つの見解については先例や通達が少なく、登記所と協議をして進める必要がありますが、実務上では②による登記が多いようです。
(4) 信託終了に際してかかる贈与税・相続税
家族信託が終了した場合、残余財産受益者と帰属権利者で課税の有無が変わります。
残余財産受益者では、受益者と残余財産を取得する人が同一であり、財産の移転はないため贈与税や相続税はかかりません。
しかし帰属権利者は財産の移転になるため、贈与税または相続税がかかります。
4.まとめ
家族信託が終了し、残余財産が誰に帰属するかは、家族信託を終了するうえで重要なポイントです。
しっかりと家族会議を行い、必ず終了事由、清算受託者、帰属権利者などを含め信託の終了を見据えた信託内容を設計しましょう。
信託終了時にかかる税金についても注意が必要です。家族信託の検討から終了まで一連して弁護士に相談されると安心です。
泉総合法律事務所では、家族信託についてもご相談を承っております。家族信託は、日本ではまだ比較的新しい制度であり、それほど多くの専門家が扱っているわけではありません。もし、家族信託でお悩みがあれば、是非一度、家族信託に精通した泉総合法律事務所にご相談ください。