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遺産分割

配偶者間の遺贈・贈与に関する持ち戻し免除の推定|相続法改正について

2019年7月1日に施行された改正相続法により、配偶者間での遺贈・贈与について、特別受益の「持ち戻し免除」の推定規定が新設されました(民法903条4項)。

「持ち戻し免除」の推定規定により、被相続人と同居していた配偶者の居住権が、従来よりも強力に保護されます。
被相続人の配偶者の方、およびそれ以外の相続人の方は、「持ち戻し免除」の取り扱いにおける注意点を理解しておきましょう。

この記事では、2019年施行・改正相続法によって新設された、配偶者間での遺贈・贈与に関する持ち戻し免除の推定について解説します。

1.特別受益の持ち戻しに関する基礎知識

特別受益の「持ち戻し免除の推定」について解説する前提として、「特別受益の持ち戻し」とは何かについて簡単に解説します。

まず「特別受益」とは、相続人が被相続人から受けた、以下のいずれかに該当する遺贈または贈与をいいます(民法903条1項)。

①すべての遺贈
②以下のいずれかに該当する贈与
・婚姻のための贈与
・養子縁組のための贈与
・生計の資本としての贈与

これらの遺贈・贈与は、被相続人から相続人に対する恩恵・優遇的な側面を有します。特に生前に行われる場合は「遺産の先渡し」と言われることもあります。

この点を踏まえて、相続において他の相続人との公平を図るため、原則として以下のとおり、特別受益の「持ち戻し」をしたうえで相続分が計算されます。

特別受益がある相続人の相続分
=(相続財産額+特別受益額)×相続割合-特別受益額

それ以外の相続人の相続分
=(相続財産額+特別受益額)×相続割合

このように、「特別受益の持ち戻し」とは、特別受益がある相続人の相続分を減らし、それ以外の相続人の相続分を増やすことによって、相続人間の公平を図る制度です。

特別受益の持ち戻しに関しては、以下の記事で詳細に解説しているので、併せてご参照ください。

[参考記事] 特別受益の「持ち戻し」とは?計算方法や注意点、持ち戻し免除を解説

2.相続法改正の重要ポイント|「持ち戻し免除の推定」とは?

2019年7月1日に施行された改正相続法では、上記で解説した「特別受益の持ち戻し」について、「持ち戻し免除の推定」に関する規定が新設されました。

以下では、新たに設けられた「持ち戻し免除の推定」の概要について解説します。

(1) 特別受益の持ち戻しは、被相続人の意思で免除が可能

相続分を決定する際に適用される「特別受益の持ち戻し」は、被相続人が「持ち戻しを免除する」等異なった意思を示した場合、その意思従うこと、つまり「持ち戻し」を免除することが定められています(民法903条3項)。

民法上、相続分や相続財産の帰属先の決定は被相続人自身が所有する財産の処分に関する事項であるため、被相続人の意思を最大限尊重すべきという考え方が採用されています。

その一環として、「特別受益の持ち戻し」についても、被相続人の意思表示による免除が認められているのです。

(2) 長年連れ添った配偶者の住居を守るため「持ち戻し免除の推定」が認められた

相続法改正前の民法では、特別受益の「持ち戻し免除」には、常に被相続人による明示の意思表示が必要とされていました。

そのため、遺言書の中で「持ち戻し免除」についての記載がないケースでは、ほとんどの場合、特別受益の「持ち戻し免除」が認められませんでした。

このような改正前民法のルールで問題になりやすかったのが、被相続人と長年連れ添った配偶者の住居である建物・敷地を巡る「特別受益の持ち戻し」です。

たとえば、被相続人が配偶者に対して住居の建物・敷地を生前贈与した一方で、特別受益の「持ち戻し免除」については何ら意思表示が行われなかったとします。

仮に、配偶者に対する住居の建物・敷地の生前贈与が「特別受益の持ち戻し」の対象となるとした場合、生前贈与を受けた建物・敷地の金額が、本来の相続分(に基づいて受け取れるはずの金額)から引かれてしまうので、配偶者の相続できる財産が大きく減ってしまいます。

さらに、他の相続人に対する遺産分割をするため、やむなく建物・敷地を売却して現金化する方法を選択し、配偶者が建物・敷地から出て行かざるを得なくなり、その結果、被相続人の財産に依拠してきた配偶者の生活が脅かされるケースも増えてしまいました。

このように、配偶者が相続において不利になる結果は、必ずしも被相続人の意思に沿うものとは考えられないため、法制度上の問題点として指摘されていました。

そこで、配偶者に対する居住用建物・敷地の遺贈および贈与については、一定の要件の下で、被相続人の明示的な意思表示がなくても、特別受益の「持ち戻し免除」を推定する旨の規定が設けられたのです(民法903条4項)。

(3) 「持ち戻し免除」が推定されることの効果

特別受益の「持ち戻し免除」が推定される結果、「持ち戻し免除」を主張する側(配偶者)は、被相続人が「持ち戻し免除」の意思表示をしたことを立証する責任から解放されます。

これに対して、「持ち戻し免除」を否定する側(他の相続人)は、被相続人が「持ち戻し免除」をしない旨の意思表示をしていた旨の反証を行わなければなりません。

持ち戻し免除の効果が認められれば、配偶者は住居(自宅)の建物・敷地を保持しつつ、それ以外の相続財産について、法定相続分に従った相続権を行使できます。

3.「持ち戻し免除の推定」が認められるための要件

民法903条4項により、配偶者に対する遺贈・贈与について、特別受益の「持ち戻し免除」が推定されるための要件は以下のとおりです。

(1) 遺贈または贈与の対象が居住用建物・敷地であること

相続法改正で新設された特別受益の「持ち戻し免除の推定」の制度は、前述のとおり、被相続人の配偶者が被相続人の死後も住居を確保することを目的としています。

そのため、「持ち戻し免除」が推定される遺贈・贈与の対象は、配偶者自身が居住するための建物・敷地であることが要件となります。

なお、「居住用」という要件の判断の基準時は、遺贈であれば相続開始時、贈与であれば贈与時と解されています(※9頁)。

中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)の補足説明

つまり、「将来いつか住むための」建物・敷地を遺贈・贈与するという場合には、特別受益の「持ち戻し免除の推定」は認められません。

特別受益の「持ち戻し免除の推定」を受けるには、遺贈・贈与の時点で、その建物・敷地に配偶者が現に居住しているか、少なくとも近い将来居住の用に供する具体的な予定があることが要求されます。

(2) 遺贈または贈与の時点で、婚姻期間が20年以上であること

特別受益の「持ち戻し免除の推定」は、被相続人と「長年」連れ添った配偶者の住居権を保護する制度です。

そのため、遺贈または贈与の時点で、婚姻期間が20年以上に及んでいることが、推定規定適用の要件とされています。

なお、婚姻期間が連続20年以上に及んでいない場合(結婚・離婚を繰り返した場合)でも、婚姻期間が通算20年以上であれば、特別受益の「持ち戻し免除の推定」が及ぶという解釈が有力です(※7頁)。

民法(相続関係)部会資料24-2 補足説明(要綱案のたたき台⑶)

4.持ち戻し免除の推定規定に関する注意点

相続法改正により、特別受益の「持ち戻し免除の推定」に関する規定が設けられたとはいえ、推定規定の効力に頼り切ってしまうと、かえって相続トラブルの原因になりかねません。

特に被相続人となる方が配偶者の住居を確保するため、遺言書などによる生前対策を行う場合には以下の点に留意しておく必要があります。

(1) 遺留分との関係では、持ち戻し免除は認められない

特別受益の「持ち戻し免除」は、相続分計算だけでなく「遺留分」の計算においても問題になります(民法1043条1項、1044条1項、3項)。

法定相続人に対する遺贈・贈与は、以下のいずれかに該当する場合に、遺留分計算において持ち戻しの対象となります。なお相続分計算の場合と異なり、生前贈与は「相続開始前の10年間」と、持ち戻しの期間が10年に限定されています(同1044条3項)。

①すべての遺贈
②以下のいずれかに該当する贈与であって、相続開始前の10年間に行われたもの
・婚姻のための贈与
・養子縁組のための贈与
・生計の資本としての贈与

遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた相続の最低保障額です。

このような趣旨から、遺留分については相続分とは異なり被相続人が自由に決定すべきものではないため、そもそも特別受益の「持ち戻し免除」が認められていません。

したがって、「持ち戻しの免除の推定」規定についても、当然に適用がないことになります。

よって、被相続人が配偶者に対して、居住用建物・敷地を遺贈または贈与したうえで「持ち戻し免除」をしたとしても、配偶者が他の相続人から遺留分侵害額請求(民法1046条1項)を受けてしまう可能性は十分考えられます。

遺留分侵害額請求は、相続人同士の間で深刻なトラブルの原因になりかねないので、生前贈与や遺言書の作成を行う際には、各法定相続人の遺留分に配慮するのが望ましいでしょう。

(2) 遺言書で持ち戻し免除の有無を明記しておくのが望ましい

特別受益の「持ち戻し免除の推定」は、あくまでも推定であって、反証があればその効力を覆されます。

そのため、配偶者以外の相続人が「持ち戻し免除の推定」を覆すための反証を試みた結果、相続争いが泥沼化してしまうというケースもあり得ます。

「持ち戻し免除」に関する相続人同士の紛争を予防するためには、推定規定が存在するとしても、遺言書の中で明示的に「持ち戻しを免除する」と記載しておくことが有効です。

特に公正証書遺言であれば、遺言書の有効性が問題となることも少ないので、「持ち戻し免除」に関してトラブルが発生する可能性を最小限に抑えられるでしょう。

5.遺贈・贈与の持ち戻しについてよくある質問(FAQ)

  • 配偶者居住権も持ち戻し免除の対象になる?

    「配偶者居住権」とは、一定の要件を満たす配偶者が、被相続人と暮らしていた家屋に、生涯住むことができる権利で、(※)被相続人の配偶者を保護するために、新設されました。

    この配偶者居住権も、持ち戻し免除の推定規定の対象です(民法1028条3項)。

    配偶者居住権は遺言書でも設定できるため、ご自宅以外に主な財産がない場合などには、その旨を記載しておくといいでしょう。

    なお、配偶者居住権の成立要件等については、「配偶者居住権とは?メリット・デメリットと使い方を解説」をご一読ください。

    ※ 設定時に存続期間が定められている場合には、その期間に従います。

  • 被相続人の配偶者に特別受益の持ち戻し免除が推定される要件は?

    被相続人の配偶者に、特別受益の持ち戻し免除が推定される要件は次の通りです。

    • 遺贈または贈与の対象が居住用建物・敷地であること
    • 遺贈または贈与の時点で、婚姻期間が20年以上であること

    ただし、遺留分との関係では、持ち戻しの免除は認められません。

  • 特別受益の持ち戻し免除の推定にはどんな効果がある?

    特別受益の持ち戻し免除の推定があると、配偶者は被相続人の持ち戻し免除の意思表示を立証する必要がありません。

    しかし、あくまで推定であることから、他の相続人の反証が認められれば、特別受益を持ち戻して相続分を算出することになります。

6.まとめ

相続法改正によって新設された特別受益の「持ち戻し免除の推定」規定は、配偶者の住居を確保するという観点から重要な意義を持ちます。

しかし、遺留分や推定を覆すための反証などに関して、相続人同士のトラブルが生じる可能性は依然として残ります。

そのため、弁護士に相談して遺言書などを通じた効果的な生前対策を実施しておくことが望ましいでしょう。

特別受益の持ち戻しに関する相続トラブルを未然に防ぐための生前対策(生前贈与の実行、遺言書作成等)については、お早めに泉総合法律事務所までご相談ください。

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