遺産分割前に知っておきたい相続財産の調査方法|遺産の種類別に解説
相続が発生した場合には故人が有していた財産を調べる必要があります。これを「相続財産の調査」といいます。
通常、被相続人と親族がいくら身近な関係であっても、被相続人の財産の全てを漏れなく把握しているということは、余りありません。これが生前に被相続人との交流が殆どない親族ともなれば、相続財産を全く把握出来ていないことも珍しくありません。
しかし、正確な相続財産調査を行なわなければ、その後の遺産分割協議において思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあります。
今回は、遺産分割前に知っておきたい相続財産の調査方法について解説します。
1.相続財産の調査はなぜ必要?
相続財産の調査が必要とされる理由には、主に以下のようなものがあります。
(1) 遺産分割協議のため
遺産分割協議は、被相続人が有していた遺産を話し合いによって相続人同士で分ける手続きです。
そのため、遺産分割協議をする前に、被相続人がどのような財産を有していたのか、分割する対象を明らかにしなければなりません。
もし、相続財産の調査に漏れがあった場合には、それらの遺産を対象として、再度、全相続人による遺産分割協議を行なうことになるため、相続人の負担が大きくなります。
確かに、当初から「遺産分割協議後に発見された遺産については○○が取得する」という内容で遺産分割協議を成立させることで、再度の遺産分割協議を回避することは出来ます。
しかし、これも、高額な遺産が漏れていたという場合には、共同相続人同士で不満が生じ、最悪、遺産分割協議自体が無効となり、やはり遺産分割協議を改めてやり直さなければならないというリスクもあり得ます。
そのため、遺産分割協議の前に、正確に相続財産調査を完了しておくということは、その後の無用なリスク・トラブルを防ぐ意味でも、非常に重要なのです。
[参考記事] 遺産分割協議の進め方は?注意点や期限はある?(2) 相続放棄をするかどうかを判断するため
相続財産の調査は、プラスの財産(資産)の調査だけでなく、借金などのマイナスの財産(負債)も対象にして行ないます。
相続が発生したとしても、プラスの財産より借金の方が多いような場合には、相続放棄を選択する方も多いでしょう。
相続放棄をするかどうかを判断するためには、プラスの財産とマイナスの財産がそれぞれどのくらいあるのかを正確に把握しない限り、適切な判断を下すことが出来ません。
しかも、相続放棄については期限がありますので、後から借金の存在が判明したとしても、相続放棄の期限を経過していれば、相続放棄を選択することは出来ません。
そのため、相続財産の調査は、相続放棄をするかどうかを判断するためにも必要になります。
(3) 相続税申告のため
相続が発生した場合には、相続税が課税される可能性がありますが、相続財産の金額が、基礎控除額(3000万円+法定相続人の人数×600万円)以下であれば、相続税の申告は不要とされています(なお、この計算における法定相続人とは、相続放棄前の相続人を指しているので、相続放棄の有無で計算結果は変わりません)。
相続税の申告が必要かどうかについては、相続財産の調査をしなければわかりません。
相続財産の調査が不十分で、実際は相続税の申告が必要であるのにそれを怠った場合には、相続人に対して、ペナルティとして延滞税などが課されるリスクがあります。
そのため、相続財産の調査は、相続税申告の要否を判断し、正確な納税額を算定するためにも必要になります。
[]2.相続財産は具体的にどうやって調査する?
では、相続財産はどのように調査をすればよいのでしょうか。
ここでは、代表的な財産として、不動産・預貯金・株式・借金について具体的な調査方法をご説明します(調査が必要な財産がこれだけという意味ではないので、注意して下さい)。
(1) 不動産の調査方法
不動産の調査には、主に以下の二つの方法があります。
①登記簿の確認
調査したい不動産が特定されているのであれば、不動産の登記制度を利用して、登記事項証明書(登記簿謄本)を取得することで、確認をすることが出来ます。
登記事項証明書では、甲区欄で所有名義人を確認出来ますが、併せて、乙区欄で、担保権(負債)の有無を確認出来ます。
また、共同担保目録付の登記簿謄本であれば、共同担保に入っているその他の不動産も確認出来ます。
もっとも、この方法は、登記されている特定の不動産の所有名義を確認することが出来るにとどまりますので、調査の前提として、不動産の所在に関する情報が必要であり、被相続人が生前に不動産を所有していたことは確かだけれども、その不動産の所在が全く分からないというようなケースや、そもそも建物の登記がなされていないようなケースでは、登記簿情報を調べることが出来ません。
なお、登記事項証明書と同じく法務局で取得可能な資料として、公図があります。
公図では、隣接地に被相続人名義の不動産があるかどうかを確認出来る他、各不動産の位置関係や土地の形状に関する情報を確認出来ます。
②名寄帳の確認
調査したい不動産が特定されていない場合に、市区町村から郵送された固定資産税の納税通知書が被相続人の自宅に残っていれば、調査の重要な糸口になります。固定資産税の納税通知書を発行した市区町村から名寄帳(固定資産課税台帳)を取得することで、被相続人名義の不動産の有無を確認することが出来るからです。
名寄帳とは、市区町村が不動産の所有者に固定資産税を課税するにあたり、特定の個人が当該市区町村において所有している不動産を一覧表に纏めたものです。
そのため、名寄帳を確認することによって、当該市区町村内で、被相続人が不動産を有していたかどうかを明らかにすることが出来ます。
市区町村では、固定資産税の評価に際して現地調査を行っていますので、建物が未登記という場合であっても(登記簿謄本では把握出来ない建物でも)、名寄帳には記載されているのが一般的です。
但し、名寄帳は、自治体単位で備え付けられているものですので、名寄帳を取得した自治体とは別のところにも不動産があるという場合には、その自治体からも名寄帳を取得する必要があります。
被相続人の不動産が複数の自治体に点在しているような場合には、漏れのないようにしましょう。
また、非課税認定されている私道など非課税の不動産は、名寄帳には記載されませんので注意が必要です。
(2) 預貯金の調査方法
故人の預貯金の調査は、口座を有していた金融機関に対して全店照会を行ない、預貯金残高証明書や取引履歴などを取得する方法によって行ないます。
但し、照会をする前提として、被相続人がどこの金融機関に預貯金口座を有していたかを特定しなければなりません。
被相続人の自宅に金融機関の通帳やキャッシュカードがあれば、預貯金口座のある金融機関が判明します。
もっとも、最近は、無通帳の口座やネットバンクなどを利用している方もいるため、手元に通帳やキャッシュカードが存在しないこともあります。そのような場合には、メールや郵便物などを確認して、取引のある金融機関があるかどうかを調査するとよいでしょう。
被相続人の自宅などに金融機関を特定する資料が一切ないという場合でも諦める必要はありません。生活するには、預貯金口座は必要不可欠ですので、どこかの金融機関で口座を開設している可能性があります。
手間はかかりますが、被相続人の生活圏を中心に、目ぼしい金融機関全てに被相続人の口座の有無についての照会をかけることで口座の存在が判明することがあります(被相続人が引っ越しをしており、それ以前に作った口座をそのまま使い続けている可能性が考えられる場合は、引っ越し前の生活圏の金融機関に対しても、照会をかけることを検討すべきかと思われます)。
なお、残高証明書や取引履歴の取得請求には、当該請求者が相続人の1人であることを証明するための資料として、戸籍謄本類が必要となります。
(3) 株式の調査方法
被相続人がどのような株式を有していたかについては、株主総会の招集通知や被相続人が取引をしていた証券会社からの取引残高報告書等で知ることが可能です。
被相続人が取引していた証券会社がわかれば、当該証券会社に対して、保有する株式についての照会をかけることで被相続人の株式の内容を把握することが出来ます。
他方、取引をしていた証券会社が不明な場合には、証券保管振替機構に登録済加入者開示請求をすることによって証券会社を特定することも可能です。具体的な手続きについては、証券保管振替機構のホームページに記載があります。
なお、ここまでご説明したのは上場会社の株式の調査方法であり、非上場会社の株式の調査については妥当しません。
(4) 借金の調査方法
被相続人がどこから借り入れをしているかについては、まずは、被相続人の自宅の郵便物、契約書などを確認します。返済の履歴などが預貯金通帳に記載されていることもありますので、被相続人の通帳や預貯金の取引履歴を確認することも有効な手段です。
被相続人が不動産所有者の場合は、所有不動産に担保を設定している場合もあります(担保権に関する情報は、不動産登記簿謄本の乙区欄で確認出来ます)。
被相続人の相続開始時の借金額については、被相続人が借り入れをしている債権者に対して、借入金残高証明書を請求することによって判明します。
これらの手段で判明しなかった場合には、信用情報機関に借入状況の開示を請求することもできます。
消費者金融については日本信用情報機構(JICC)、クレジット会社についてはCIC、銀行については全国銀行協会(全国銀行個人情報センター)にそれぞれ照会をかけます。照会をかけてから回答が来るまで1か月程度かかることもありますので、早めに行動するようにしましょう。
ただし、個人間の金銭の貸し借りについては、信用情報機関には登録されていませんので、契約書などが残されていない限り、把握するのは困難でしょう。
同様に、被相続人が、誰かの保証人となっていたかどうか(保証債務の有無)の確認も、調査が難しいことが多いです。
3.相続財産はいつまでに調査する?
相続財産の調査をいつまでにしなければならないという期限はありません。
但し、前述のとおり、相続財産の調査をするのは、相続放棄をするかどうかの判断をするためという目的もあります。
相続放棄は、相続開始を知ってから3ヶ月以内という法定の期限があり、この期限経過後の相続放棄の手続は、例外的にしか認められず、非常にハードルが高くなります。
そのため、まずは、相続放棄の期限である3ヶ月を目安として、相続財産の調査を行なうとよいでしょう。
仮に、3ヶ月以内に相続財産の調査が終了しないとしても、家庭裁判所に対して、(そこまでの調査状況を報告した上で)相続放棄の期間の伸長の申立てをすることによって、相続放棄の期限を延ばすことが可能です。
[参考記事] 相続放棄の期間(熟慮期間)は原則3ヶ月以内|起算点はいつから?4.相続財産の調査を弁護士に依頼するメリット
相続財産の調査は、煩雑で手間はかかるものの、ご自分ですることも不可能ではないでしょう。
しかし、相続財産の調査を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
(1) 正確かつ迅速な相続財産の調査が可能
相続財産の調査は、相続放棄の判断には欠かせないものであり、産分割手続をスムーズに進めるためにも、正確に行うことが不可欠となります。
弁護士であれば普段から相続案件を多数扱っており、相続財産調査をするためには、どのような機関に対して、どのような照会をかければよいかを熟知しています。
また、弁護士は、弁護士会照会という弁護士にしか認められていない照会を行うことが出来ますので(弁護士法23条の2)、個人では調査が出来ないような(やれるとしても調査にかかる時間・費用のコストが大きい)財産についても容易に調べることが出来ます。
相続財産の調査は、慣れない方だととても時間がかかる作業ですので、正確かつ迅速な調査が可能な弁護士に相続財産の調査を任せることが安心です。
ちなみに、弁護士が相続財産調査にかかる時間は、さほど複雑でない案件であれば1ヶ月程度、費用の相場は、10万円~30万円前後でしょう。
(2) 相続手続全般のサポートを受けられる
相続財産の調査が完了した後は、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
遺産分割協議では、相続人同士の利害が絡み合うため、円満に解決しないこともあります。話し合いで解決出来ない場合には、家庭裁判所の調停や審判になることもありますし、場合によっては訴訟が必要になることもあります。
そんな時、弁護士は、相続財産の調査だけでなく、依頼者の代理人として、遺産分割協議をまとめることが可能です。
当事者同士では、それまでの個人的な関係から、どうしても先に感情的になってしまい、実質的な話し合いが進まないという場合であっても、弁護士が法的観点から説得的に話し合いを進めることによって、感情論を排除した円満な話し合いを進めることが可能です。
遺産分割では、法律上の複雑な問題が生じることが多いため、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めることをお勧めします。
5.まとめ
相続財産の調査は、調査する財産の種類や内容によって、選択すべき調査方法が異なってきます。
相続財産の調査を適切に行なわなければ、遺産分割協議においてトラブルが生じ、解決までに長期間を要することもあります。
正確かつ迅速に相続財産の調査を行うためには、相続人個人では難しいこともありますので、その場合には、信頼できる弁護士に相談しましょう。
遺産分割でお困りの際は、ぜひ泉総合法律事務所へご相談ください。