特定財産承継遺言とは|遺贈との違いや登記、作成上の問題点について
「遺言書」を作成することにより、被相続人は、自分の意思を反映させて相続人に遺産分割をしてもらうことができます。
「長男に、A不動産を相続させる」というような遺言書を作ることがありますが、このような遺言書を「特定財産承継遺言」と言います。
今回の記事では、「特定財産承継遺言とはどのような遺言か」について説明します。
1.特定財産承継遺言とは
(1) 特定財産承継遺言とは
特定財産承継遺言とは、遺言書の一種で、「遺産に属する特定の財産を相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」のこと、つまり「特定の財産を特定の相続人に相続させる旨を記した遺言」のことです。
以前は「相続させる旨の遺言」と呼ばれていましたが、2019年7月1日の民法改正により「特定財産承継遺言」と呼ばれるようになりました。
一方で、「長男に財産50%を相続させる」のように、財産の一定の割合を指定して承継させるといった財産の包括的な割合を記載する遺言書も存在します。
(2) 特定財産承継遺言の効力
相続が発生した場合は、一般的には、相続人の間で遺産分割協議を行って分割方法を決めます。
しかし、特定財産承継遺言がある時は、遺言の効力発生時に、その財産の所有権が直接指定された相続人(受益相続人といいます)に帰属します。
その結果、その相続財産については、遺産分割協議の対象ではなくなります。
(3) 特定遺贈との違い
特定の財産を遺言で承継させる方法には、「特定財産承継遺言(相続)」と「特定遺贈」がありますが、両者には次のような違いがあります。
特定財産承継遺言は、相続人に対してのみ可能
特定財産承継遺言は、「相続人のみ」を対象とすることができ、「相続人でない人」は対象とすることはできません。
一方、包括遺贈も含め遺贈では、「相続人」と「相続人でない人」の両方を対象にすることができます。
特定財産承継遺言は、単独での登記が可能
相続財産が不動産で、特定財産承継遺言により相続した場合は、相続した者が単独で所有権移転登記ができます。
一方、特定遺贈の場合は、他の相続人全員で共同して登記申請しなければならないので、手間がかかります。
特定財産承継遺言は、農地の相続に許可が不要
相続財産が農地で、特定財産承継遺言により相続した場合は、農業委員会の許可が必要ありません。
一方、特定遺贈の場合は、農業委員会の許可が必要となります。
特定財産承継遺言は、賃借権の相続に賃貸人の承諾が不要
相続財産が賃借権で、特定財産承継遺言により相続した場合は、賃貸人の承諾は必要ありません。
一方、包括遺贈も含め遺贈の場合は、賃貸人の承諾が必要となります。
相続放棄をする際の違い
指定された相続人(受益相続人)が相続放棄すると、その人は最初から相続人ではなかったことになります。
相続人ではなくなりますので、相続財産を受け取ることはできなくなり、結果的に特定財産承継遺言によって指定された財産も取得することはできません。
一方、相続人が遺贈により財産を受け取った場合は、相続放棄して相続人でなくなったとしても、遺贈された財産は取得することができます(ただし、包括遺贈では指定された割合で債務も承継することになります)。
[参考記事] 包括遺贈と特定遺贈の違いをわかりやすく解説2.特定財産承継遺言と登記について
特定財産承継遺言で受け取る不動産は、法定相続分より多い場合がほとんどだと思われます。
取得した法定相続分の不動産については、登記をしていなくても第三者に対して権利の主張ができます。
対して、法定相続分を超える部分については、登記をしていないと第三者に対して権利の主張ができません。
そのため、特定財産承継遺言で法定相続分を超えて相続する場合は、第三者対抗要件としてできるだけ早く登記を行う必要があります。
登記を行わないと、不動産の売却等ができないだけでなく、万一、他の相続人が不動産を先に登記して第三者に売却してしまったときに、法定相続分を超える部分の返還を請求できなくなってしまいます。
3.特定財産承継遺言を作成する上での問題点
最後に、特定財産承継遺言を作成する際の注意点について説明します。
場合によっては、遺留分の侵害等の相続トラブルになってしまう可能性もありますので、注意が必要です。
(1) 書き方によって解釈がわかれることがある
特定財産承継遺言の書き方によっては、次のように解釈が分かれることがあります。
- 特定財産だけを与える趣旨か
- 法定相続分の中に特定財産を含める趣旨か
- 法定相続分に加えて特定財産を与える趣旨か
例えば、被相続人の自宅不動産や複数の銀行預金、有価証といった財産を、長男・次男・長女の3人で相続したとします。
遺言書に「自宅不動産を長男に相続させる」とだけ記載した場合、長男は自宅不動産だけを相続するのか、自宅不動産も加味して相続人3人が法定相続分で分割するのか、自宅不動産を除いてその他の財産を法定相続分で分割するのかが曖昧です。
曖昧さをなくすためには、相続財産をすべて網羅した遺言(例えば、自宅不動産とA銀行の預金は長男、B銀行の預金は次男、有価証券及び遺言に記載のない財産は長女)とするか、遺言に記載されていない財産の分割方法を指定(例えば、遺言に記載のない財産は法定相続分で分割)しましょう。
(2) 遺留分を侵害する可能性がある
遺留分とは、法律上保障された、相続人が受け取れる一定割合の相続財産のことです。
特定財産承継遺言であっても、遺留分を侵害された他の相続人は、遺留分侵害額請求をすることができます。
他の相続人とトラブルになる可能性もありますので、遺言者は、遺留分を十分考慮して遺言書を作成する必要があります。
(3) 配偶者居住権の設定はできない
「配偶者居住権」は、相続開始時に配偶者が被相続人所有の建物に居住していれば、「遺産分割協議」、「遺言による遺贈」または「死因贈与契約」によって取得することができるとされています。
配偶者居住権は、「遺言による遺贈」は認められていますが、「特定財産承継遺言」で設定することができませんので注意が必要です。
配偶者居住権で設定ができない理由は、配偶者が「配偶者居住権を希望しない」場合、特定財産承継遺言で設定されていると、配偶者居住権のみを個別に放棄することができないため相続放棄をするしかなく、配偶者の利益を害するおそれがあると解されるためです。
[参考記事] 配偶者短期居住権とは?配偶者居住権との違いや期間を解説4.まとめ
今回は、「特定財産承継遺言」に焦点を当てて説明しました。
特定財産承継遺言は、特定の財産を特定の相続人に承継させることができますので、被相続人の意思を反映させて確実に財産を譲りたい場合に有効な方法です。
一方で、遺言の書き方は思ったほど簡単ではなく、適切な書き方をしないと相続トラブルの原因となる可能性もあります。
遺言を作る場合、円滑な相続を推し進めるためにも、相続の経験豊富な法律事務所にご相談されることをお勧めします。
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