公正証書遺言に欠かせない公証役場・公証人とは
遺産分割調停や審判の件数は、増加傾向にあります。高齢者人口の増加がその主な理由と言われています。そこで、遺産分割のトラブルを避けるために、一般的には「遺言」を作成することになります。
遺言の中でも「公正証書遺言」は、様式が厳格なため、紛失や改ざんのおそれがない書式です。
そこで、今回は、公正証書遺言を作成する場合に依頼する「公証人」がどんな人で、公証役場が何をするところで、どんなことができるのか、および「公証人による遺言の作り方」について解説します。
1.公証人の仕事とは
「公証人」という言葉はよく耳にしますが、公証人とはどんな人で、どんな仕事を行っているのでしょうか?
この章では、
- 公証人とは
- 公証人の仕事
- 公証人になれる人
について見ていきます。
(1) 公証人とは
公証人とは、中立かつ公正な立場で国の公務である「公証事務」を行う法律の専門家で、法務大臣によって任命される国家公務員です(公証人法)。
全国で約500名の公証人がいます。
(2) 公証人の仕事
公証人は公証事務を担っており、当事者や関係者からの依頼を受けて、わたしたち市民の権利を保護して、私的なトラブルを未然に防ぐことを目的として仕事を行っています。
公証人の仕事(公証事務)は大きく3種類に分類されます。
- 公正証書の作成
- 認証の付与
- 確定日付の付与
公正証書の作成
「公正証書」とは、公証人がその権限において作成する公文書のことを指します。
「遺言」、「離婚」、「任意後見契約」、「金銭消費貸借契約」、「土地建物賃貸借契約」といった公正証書の作成がこれにあたります。
この記事のテーマである「公正証書遺言」は、ここの仕事にあたります。
認証の付与
「認証」は、私署証書(作成者の署名または記名押印のある私文書)が作成者の意思に基づいて正当な手続きで作成されたことを公証人が証明するものです。
株式会社などの「定款」や契約書などの私文書などの認証がこれにあたります。
確定日付の付与
「確定日付の付与」は、私署証書に公証人が確定日付印を押捺して、その日にその文書が存在したことを証明するものです。
これにより、後日、日付の書き換えられた私文書などによるトラブルを未然に防ぐことができます。
(3) 公証人になれる人
公証人は次のような法律の専門家で、公募に応じた者の中から法務大臣が任命した人です。
- 判事や検事などを長く務めた法律実務の経験豊かな者
- 多年法務事務に携わり、法曹有資格者に準ずる学識経験を有する者で検察官・公証人特別任用等審査会の選考を経た者
実際のところとしては、検察官や裁判官が定年後に就くことが多いと言われています。
2.公証役場とは
次に、公証役場とは何をするところなのか、公証役場にできることをご紹介します。
(1) 公証役場とは
公証人は、中立かつ公正な立場で公証事務を行い、私的トラブルを未然に防ぐことを目指しています。
その公証人が執務する事務所が公証役場で、この公証役場で公証事務を行います。
公証役場は法務省法務局の管轄する役所で、全都道府県に設置されており、国内に約300ヶ所あります。
なお、公証役場と市区町村役場とはよく混同されますが、全く違う組織です。
(2) 公証役場の利用方法
公証人に対する相談は無料ですから、公証役場に連絡して要件を伝えましょう。
公正証書の作成、認証の付与、または確定日付の付与を依頼した時の手数料については、依頼内容によって手数料が違いますので、「日本公証役人連合会」の「❿ 手数料」WEBページをご覧ください。
(3)「公正証書遺言」作成の手数料
公正証書遺言の作成手数料は、遺言により相続させる財産の価額を目的価額として計算します。
遺言は、相続人ごとに別個の法律行為になりますので、相続人が2人以上の場合は、相続人ごとに作成手数料がかかります。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
【出典】公証人手数料令第9条別表
一例として、「公正証書遺言」を作成する時の手数料は、次のようになります。
例1:総額1億円の財産を妻1人に相続させる場合
上記「日本公証役人連合会」のWEBページより、手数料は4万3000円となります。例2:妻に6,000万円、長男に4,000万円の財産を相続させる場合
同様に、妻の手数料は4万3000円、長男の手数料は2万9000円となり、その合計額は7万2000円です。
遺言加算
公正証書遺言の場合は、遺言加算という特別の手数料が加算されます。
1通の公正証書遺言における目的価額の合計額が1億円までの場合は、1万1,000円が加算されます。
上記の例では、目的価格の合計額が1億円のため、上記手数料に1万1,000円の遺言加算が加わり、合計8万3,000円となります。
保管費用
作成された公正証書遺言の原本は公証人が保管しますが、保管のための手数料は不要です。
なお、上記以外に、証人の日当や、遺言者が病気等で公証役場に出向くことができない場合の追加費用がかかる場合があります。
詳細は、公証役場にお問い合わせください。
3.遺言における公証人の役割
ここでは、遺言作成における公証人の役割について見てきます。
一般的な遺言には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。
この中で、公証人が関与する遺言は、次の2種類があります。
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
ちなみに、公正証書遺言、秘密証書遺言については、公証役場に特に管轄はなく、どの公証役場に依頼しても構いません。
最寄りの公証役場は、「日本公証役人連合会」のWEBページより検索し、探し出すことができます。
(1) 公正証書遺言における公証人の役割
依頼者(遺言者)が公証人に遺言内容を伝えて、公証人は、遺言者に代わって遺言を作成しますので、遺言者は、自筆で遺言を書く必要がありません。
ここでは、公正証書遺言の作成手順を追って、公証人の役割を見ていきます。
事前に遺言者と遺言内容について打ち合わせ
下記について、事前に打ち合わせを行います。
- 相続財産、法定相続人や法定相続分を確認する
- 何のために、誰のために作るのか(遺言の目的)を確認する
- 誰に、何を相続させるか、具体的な内容を確認する
- その他、遺言の細かな文言を詰めていく
公正証書遺言の作成
作成の当日は、本人と証人2名が公証役場に出向き、下記の要領で公正証書遺言を作成します。
証人2名は、実際のところは、公証役場の方で手配してくれます。
- 公証人が遺言を作成し、本人と証人2名の前で、公証人が作成した遺言の内容を読み上げる
- 内容に問題がなければ、本人と証人2名 が証書に署名・押印する
以上で、公正証書遺言が完成します。
公正証書遺言の保管
作成した公正証書遺言は、次の方法で保管されます。
- 原本は公証役場が保管
- 正本と謄本を本人に手渡し
ちなみに、原本と同じ効力をもつ写しを「正本」といい、効力のない写しが「謄本」です。
なお、公正証書遺言作成において、本人が公証役場に行けない場合は、自宅や病院、介護施設等に公証人や証人などが出張して遺言を作成することもできます。
公正証書遺言の作成に必要な書類
公正証書遺言の作成に必要な主な書類は、次の通りです。
- 遺言者の発効から3ヶ月以内の印鑑登録証明書
- 相続させる場合:遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本
- 遺贈する場合:受遺者の住民票
- 遺言者の財産についての資料
不動産:固定資産税通知書又は固定資産税評価証明書と登記事項証明書
預金:金融機関、支店名が分かる資料- 証人の住所、職業、氏名、生年月日のわかる資料
(2) 秘密証書遺言における公証人の役割
秘密証書遺言とは、読んで字のごとく、遺言の中身を秘密にしておく遺言です。
公証人が遺言を作成するのではなく、遺言者自身が遺言を作成します。
公証人は遺言の中身を知らず、遺言の存在のみを証明することになります。
遺言者が遺言作成、封印
前述した通り、秘密証書遺言は、遺言者が自分で遺言を作成します。
- 遺言者が自分で(あるいは、専門家に依頼して)作成し、署名・押印する
- 遺言者が、その遺言を封筒に入れ、遺言で用いた印で封印する
公証人・証人に遺言を提出
公証役場に出向き、遺言の入った封筒を提出します。
- 遺言者が、公証人と証人2人以上の前に遺言が入った封筒を提出し、自己の遺言であることと氏名・住所を申述する
秘密証書遺言では、公証人による内容の確認はありません。
公証人・証人・遺言者が署名し押印
最終的に、公証人・証人・遺言者が封紙に署名し、押印して秘密証書遺言を完成させます。
- 公証人が、その遺言を提出した日付、遺言者の申述(自己の遺言であること、および氏名・住所)を封紙に記載する
- 公証人、証人、遺言作成者本人が封紙に署名し押印する
この手続きで、秘密証書遺言が完成します。
4.まとめ
今回は、公証人や公証役場について、特に遺言の観点で見てきました。
あまり馴染みのない人たちですが、公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する場合は必要不可欠な存在です。
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、どの遺言を作るにしても、遺言には最低限守らなければいけない様式やルールが有り、これらに不備があると遺言自体が無効になってしまうこともあります。
そこで、遺言作成をお考えの方は、遺言作成にも詳しい泉総合法律事務所に是非一度ご相談ください。当事務所所属の弁護士とともに、公正証書遺言という方法での遺言作成を一緒に考えていきましょう。