家事従事型寄与分とは?|要件や計算方法について
個人事業主や小規模企業者においては、配偶者や子ども等親族で事業を営んでいらっしゃる方も多いと思います。
被相続人の事業の手助けをしていた配偶者の方やお子様等の中には、「家事従事型寄与分」が認められ、遺産分割の際に寄与分が考慮されることがあります。
今回の記事では、この「家事従事型寄与分」について説明します。
1.家事従事型寄与分とは
(1) 寄与分とは
寄与分については、「民法第904条の2」で次のように定められています。
民法第904条の2
1.共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2.前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
ちなみに、条文中の「第900条から第902条までの規定」とは、民法第900条「法定相続分」、民法第901条「代襲相続人の相続分」民法第902条「遺言による相続分の指定」が定められた規定です。
つまり、寄与分とは、「被相続人の財産の維持または増加について特別に寄与した者」が、遺産分割にあたって、法定相続分や遺言による相続分の指定よりも多くもらうことができるという制度です。
寄与分として認められるものには5種類あり、その中の1つが「家事従事型寄与分」です。
- 被相続人が経営する家業に無償に近い形で従事(家事従事型)
- 被相続人へ金銭を出資(金銭出資型)
- 被相続人に対して療養看護(療養型)
- 被相続人を扶養して生活費を負担(扶養型)
- 被相続人が所有する財産の管理(財産管理型)
なお、寄与分につての詳細は次のコラムをご覧ください。
[参考記事] 寄与分とは|対象になる人や認められる要件を解説(2) 家事従事型寄与分とは
家事従事型寄与分は、被相続人の営んでいた事業に関して労務の提供を行うことで認められる寄与分です。
例えば、被相続人が農業や商店といった家業を営んでいて、配偶者や子どもなどが手伝っていたようなケースです。
具体例として、従事型寄与分を認めた、東京高等裁判所の裁判例をご紹介します。
東京高等裁判所 平成元年12月28日 決定
被相続人Aは農業を営んでおり、長男Bが、中学卒業後、農業後継者として相続財産の増加・維持に寄与していました。
長男Bは被相続人Aより早世しましたが、その後も、長男Bの配偶者とその子ども(Bの代襲相続人)が農業に従事して相続財産の維持に貢献した事実を踏まえ、Bの子どもの寄与分を相続財産額の半額と定めました。
家事従事型寄与分として認められるためには、次の要件を満たしている必要があります。
- 無償、あるいは、無償に近い状態で従事していたこと(無償性)
- 労務の提供が長時間継続していること(継続性)
- 労務の内容がかなりの負担を要するもの(扶助義務を超えた労務の提供)であること(専従性)
- 労務の提供により、財産の維持又は増加について特別に寄与していたこと
2.家事従事型寄与分の計算
次に、家事従事型寄与分の金額を求める考え方を説明するとともに、その計算の実例をご紹介します。
(1) 家事従事型寄与分の算出の考え方
家事従事型寄与分の金額については、基本的に、下記の算式で求めた金額が目安となります。
家事従事型寄与分=寄与者が通常得られたであろう年間の給付額×(1-生活費控除割)×寄与年数-現実に得た給付
「寄与者が通常得られたであろう年間の給付額」は、同業他社の給与額などを参考にしますが、通常、国の統計資料、賃金センサスの平均賃金を用います。
「生活費控除割合」は、生前に、被相続人から生活費相当額を受取っていた割合です。
(2) 家事従事型寄与分の計算例
次のケースをもとに、家事従事型寄与分およびその他の相続財産の分割について見ていきます。
母親は八百屋を営んでおり、5年間、長男が母親を手伝って八百屋を切盛り、財産の増加に貢献した。
遺産分割協議で、長男が家事従事型寄与分を主張して、相続人間で下記の寄与分の合意を得た。被相続人(母親)の財産:6,000万円
相続人:長男、次男、長女の3人
寄与者が通常得られたであろう年間の給付額:30万円/月×12ヶ月=360万円
生活費控除割合:0.2
寄与年数:5年
現実に得た給付:5万円/月×12ヶ月×5年間=300万円家事従事型寄与分={360万円×(1−0.2)×5年−300万円}=1,140万円
家事従事型寄与分1,140万円が認められた結果、遺産分割の対象となる財産は
「6,000万円−1,140万円=4,860万円」
となります。
この遺産分割の対象財産を法定相続分で分割すると、一人あたり1,620万円となります。
その結果、各相続人が承継する遺産の額は、次の通りとなります。
- 長男:2,760万円
- 次男:1,620万円
- 長女:1,620万円
3.家事従事型寄与分を主張するために
最後に、他の相続人に家事従事型寄与分を認めてもらうためのポイントについて見ていきます。
(1) 遺産分割協議で自ら主張する
寄与分については、相続人間で協議を行い、合意を得る必要があります。
まず、相続人同士による遺産分割協議で、寄与分について主張しないといけません。
遺産分割協議でまとまらなければ、家庭裁判所に申し立てを行い、調停、審判へと進んでいきます。
(2) 労務の提供がわかる資料の提出
遺産分割協議で主張する際には、家事従事型寄与の具体的な内容が分かる証拠を用意する必要があります。
例えば、次のような書類を用意します。
- 寄与者本人関係の資料:確定申告書、給与明細書、預金通帳、日記、業務日報、タイムカード等
- 被相続人関係の資料:確定申告書、預金通帳等
- 会社関係の資料:税務申告書、会計帳簿等
4.まとめ
今回は、「家事従事型寄与分」に焦点を当てて説明しました。
家事従事型寄与分とは、被相続人の営んでいた事業(農業や商店等)を手伝っていた時に認められる寄与分です。
家事従事型寄与分として認められるためには、無償・無性に近い状態(無償性)、長時間継続(継続性)、扶助義務を超えた労務の提供(専従性)等の要件を満たす必要があります。
また、寄与分を得るためには、相続人間の合意を取る必要がありますので、遺産分割協議で自ら主張し、遺産分割協議で合意できなければ、家庭裁判所の調停・審判に持ち込むことになります。そこで必要になるのが、相続に詳しい弁護士です。
泉総合法律事務所は、相続に強い法律事務所です。寄与分についても、安心してお任せいただけます。
寄与分についてお悩みを抱えていらっしゃる相続人の方は、是非一度ご相談ください。