非公開株式の評価と相続手続きの流れ|相続税は?
日本において、証券取引所に上場されている企業は1%にも満たず、残り99%以上が非上場企業、つまり株式を公開していない企業です。
このような状況ですので、中小企業の経営者を初め、非公開株式をお持ちの親族の方の中には、事業承継や非公開株式の相続に頭を悩ませている方も多いと思います。
そこで、今回の記事では、非公開株式の相続税評価と相続手続きの流れについてご説明します。
1.非上場株式の相続手続き
非上場株式の相続手続きの流れ自体は、基本的に上場株式と同じです。
上場株式の相続については、下記の記事をご覧ください。
しかし、非上場株式は、上場株式と比べて主として次の点が異なります。
- 株式の評価において、公表されている株価がないので、複雑な計算をして評価しないといけない
- 通常の株式のように証券会社を通した株式の名義変更はできないので、自分自身で非上場株式の発行会社と直接やり取りをしないといけない
ここでは、これらの違いを含めて、非上場株式に特化した相続手続きについて説明します。
(1) 株式発行会社への申し出
上場株式の場合は証券会社に申し出を行いますが、非上場株式は証券会社を通した売買は行いませんので、非上場株式を発行する会社に直接申し出る必要があります。
(2) 税理士・会計士などによる株式の評価
上場株式であれば金融商品取引所によって株価が公表されていますが、非上場株式の場合は公表されている株価がありませんので、計算により株価を求めます。
非上場株式の評価は、相続人の立場(オーナーか否か)や会社の規模などにより計算方法が異なっていますので、税理士や会計士など専門家に依頼して株式の評価を行うことをお勧めします。
相続税を申告しないといけない場合は、正当性のある評価を行わないといけませんが、相続税申告が不要で遺産分割のためだけの場合は、その評価額は当事者が納得できれば問題ありません。
(3) 遺産分割協議
遺言があれば、基本的に遺言の通りに遺産分割を行います。
遺言がない場合は、上場株式の場合と同じように、相続人の間で遺産分割について協議して遺産分割協議書を作成します。
非上場株式の場合は、被相続人が中小企業のオーナー社長の場合も多く、その場合は事業承継として誰が事業を引き継ぐのかが重要なポイントになります。
(4) 株式の名義変更
遺産分割協議書ができましたら、その株式の相続人は、株式を発行した会社あるいは株式名簿管理人が別にいればその管理人に株式を相続した旨を連絡して、株式の名義変更を依頼します。
なお、非上場株式の場合はそれぞれの会社で相続手続きが異なるので、具体的な手続方法については株式を発行した会社に直接ご確認ください。
(5) 相続税申告
上場株式の場合と同じように、相続開始日から10ヶ月以内に、相続時申告と納税を行います。
2.非上場株式の相続税評価の方法
基本的には、株主(被相続人)が同族株主(会社の経営⽀配⼒を持っている)か、それ以外の株主かによって、評価方法が大きく違います。
- 同族株主:原則的評価方法
- 同族株主以外の株主:特例的評価方法
なお、この評価方法は「原則」ですので、実際に評価する際には、税理士や会計士など専門家に依頼することをお勧めします。
(1) 同族株主とは
会社の株主のうち、ある株主とその同族関係者の有する議決権割合が30%以上である場合、その株主及びその同族関係者のことを「同族株主」と言います。
なお、同族関係者には次の者が含まれます
① 株主の親族(六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族)
② 株主と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
③ 株主の使用人
④ 株主から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者
⑤ ②から④までに掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
ただし、議決権割合が50%超を占める株主グループがある場合には、50%超を占めるグループだけが「同族株主」となり、それ以外は30%以上であっても「同族株主」には該当しません。
(2) 同族株主等の評価方式:原則的評価方式
会社の経営⽀配⼒を持っている同族株主等の場合は、原則的評価方式で評価します。
原則的評価方式には次の3つの方式があり、会社の規模によって使う評価方法が異なります。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- その併用
①類似業種比準方式
類似業種⽐準⽅式とは、業種ごとの標準的な会社(類似業種)の株価をもとにして、対象の会社の株価を算定する⽅式です。
「配当金額」「利益金額」「純資産価額(簿価)」の3つの基準を比べて評価します。
参考までに、類似業種比準方式での株価は次の算式で求めます。
類似業種比準方式の株価=A×{(b/B+c/C+d/D)/3}×E×{1株当たりの資本金額等/50円}
A:類似業種の株価
B:類似業種の1株あたりの配当金
C:類似業種の1株あたりの利益
D:類似業種の1株当たりの純資産(帳簿価額)
b:自社の1株当たりの配当金
c:自社の1株当たりの利益
d:自社の1株当たりの純資産(帳簿価額)
E:調整率(大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5)
なお、類似業種の株価など(A、B、C、D)は、国税庁ホームページに掲載されています。
【参考】「令和2年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)」国税庁
②純資産価額方式
純資産価額⽅式とは、会社の総資産(時価評価)から負債を差し引き、その上で、含み益に対する法⼈税相当額を差し引いた残りの⾦額により評価する⽅法です。
これは、現在の会社を解散させた場合に、株主に返ってくる⾦額をもとに株価を算定する方法です。
純資産価額方式での株価は、次の算式で求めます。
純資産価額方式の株価=(総資産額-負債-含み益の法人税相当額)/(発行株式数)
③会社規模による評価方法の使い分け
上記で、「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」を説明しましたが、実際の株価評価においては、会社規模によりこの評価方法を使い分ける必要があります。
総資産価額、従業員数及び取引金額により「大会社」「中会社」「小会社」に区分して、原則として次のような方法で評価をします。
- 大会社:原則として、類似業種比準方式により評価します。
- 小会社:原則として、純資産価額方式によって評価します。
- 中会社:大会社の類似業種比準方式と、小会社の純資産価額方式を併用して評価します。
併用の場合、会社の規模によって、併用割合が違います。
会社規模(大会社、中会社、小会社)の判定、および、中会社の両方法の併用割合については、次の国税庁WEBページを参照ください。
【参考】「(取引相場のない株式の評価上の区分)」国税庁
(3) 同族株主以外の株主:特例的評価方法
同族株主以外の株主の場合は、特例的評価方法として「配当還元方式」で評価します。
配当還元方式とは、過去2年間の平均配当金額を10%で割り戻して、非上場会社の株価を求める方法です。
配当還元の株価=(年間配当金額)/(10%)
つまり、今後もらえるであろう10年間の配当金額をもとに、株価を求めます。
年間配当額は過去2年間の配当金額の平均値を使います。
年間配当額が2円50銭未満の場合は、2円50銭として計算します。
3.非上場株式を相続する際のポイント
ここでは、非上場株式を相続する際に知っておいたほうが良いポイントについて見ていきます。
(1) 高い相続税となる可能性
非上場株式ですので、公表された取引に使われる株価はありません。
そのため、普段は「株式にどれだけの価値があるか」は意識していないのが普通ですが、実際に相続税評価を行ってみると評価額が高額になり、相続税が想定以上に高くなるケースが多くあります。
相続に困らないように、また、事業承継の観点でも、下記の事業承継税制(相続税の納税猶予)を活用するなどを検討することをお勧めします。
(2) 事業承継税制(相続税の納税猶予)を活用する場合
事業承継税制とは、円滑化法に基づいて認定を受けることにより、後継者が取得した一定の資産について贈与税や相続税の納税が猶予され、その後継者の死亡などにより納税が免除される制度です。
この事業承継税制には、事前に承継計画などを提出する「特別措置」と、相続発生などの事後に行う「一般措置」の2つの制度があります。
今回の記事では、相続発生の事後に行う「一般措置」について説明します。
①会社の要件
次のいずれにも該当しない会社であることが必要です。
- 上場会社
- 中小企業者に該当しない会社
- 風俗営業会社
- 資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く)
②後継者(相続人)の要件
後継者は、次の要件を満たす必要があります。
- 相続開始の日の翌日から5ヶ月を経過する日において、会社の代表権を有していること
- 相続開始の時において、後継者および後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
- 相続開始の時において、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
相続開始の直前において、会社の役員であること(被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く)
③先代経営者(被相続人)の要件
先代経営者は、次の要件を満たす必要があります。
- 会社の代表権を有していたこと
- 相続開始直前において、被相続人および被相続人と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
④円滑化法の認定
相続開始後8ヶ月以内に、会社の要件、後継者(相続人)の要件、先代経営者等(被相続人)の要件を満たしていることについて、「円滑化法の認定」の申請を行う必要があります。
⑤税務署へ申告
相続税の申告期限までに、この制度の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書および一定の書類を税務署へ提出するとともに、納税が猶予される相続税額および利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。
【事業承継税制のメリットとデメリット】
事業承継税制の最大のメリットは、総株式数の最大3分の2までの株式について、その相続税の80%が猶予・免除される点です。
一方で、事業承継税制を使うと、当該株式を保有し続けることが求められ、それに加えて、事業承継後5年間は雇用の8割以上を維持するという条件もありますので、不景気の時でも雇用維持をしなければなりません。
この条件をクリアしないと、特例の適用が終了してしまいますので、猶予されていた相続税を納税しないといけなくなります。
よって、この事業承継税制による納税猶予は、事業を無事に次世代につなぐことができて初めてメリットを受けることができると言えます。
(3) 相続した非上場株式を売却する場合
非上場株式の場合は、売買が制限されている「譲渡制限付株式」が大多数だといわれており、株式売買が制限されている場合がほとんどです。
譲渡制限付株式というのは、売買をする際に会社の承認が必要と定款で定められた株式のことです。
譲渡制限付株式を売却したい場合は、会社に対して「譲渡承認請求」を行い、会社の承認が得られない限り売却することはできませんので、まずは会社の承認を取りましょう。
ただし、譲渡承認請求が「不承認」となった場合には、会社に対して「会社または指定買取人による買取請求」を行うことができます。
4.まとめ
今回は、非公開株式の相続税評価と相続手続きの流れについてご紹介しました。
非公開株の相続は、日本で証券取引所に上場されている企業は1%にも満たないことを考えると、非常に多くの方が直面する問題だと言えます。
中小企業の経営者の方にとっては、事業承継問題そのものですので、切実な課題だと思います。
相続財産に非上場株式が含まれている方、あるいは中小企業の経営者の方などで非上場株式をお持ちの方、事業承継でお悩みの方は、相続の経験豊富な法律事務所にご相談されることをお勧めします。
泉総合法律事務所では、相続税に詳しい税理士とも提携しており、相続や事業承継についてのご相談にも万全の体制を整えております。
「備えあれば憂いなし」です。なるべく早いタイミングで、事業承継対策や相続対策を行っておくことをお勧めします。