仮想通貨の相続手続き
家電量販店のビックカメラやコジマをはじめとして仮想通貨が使える店舗も増えていますので、実際に仮想通貨を使っている方も増えてきているかと思います。
それに伴い、今後、相続財産に仮想通貨が含まれる人も増えてくるのではないかと考えられます。
そこで、今回の記事では、「仮想通貨の相続」に焦点を当てて、仮想通貨の相続手続き、および、仮想通貨の評価方法等について説明します。
1.仮想通貨と相続
まず、仮想通貨とはどのようなものか、また、その仮想通貨が相続の対象なのかどうかについて説明します。
(1) 仮想通貨とは
仮想通貨とは、「資金決済に関する法律(いわゆる資金決済法)第2条5項」において、次のように定義されています(※日本においては、資金決済法の改正(令和2年5月1日施行)により、法令上「仮想通貨」は「暗号資産」という名称に変更されています。今回の記事では「仮想通貨」という名称に統一して使用します)。
資金決済法第2条から抜粋
5 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
要約すると、次のものが仮想通貨と定義されています。
- 物品の購入等で、代金の支払いのために不特定の者に対して使用できるもの
- 法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる(財産的価値がある)もの
- インターネット上で分散管理され、電子的に記録し、移転できるもの
ただし、仮想通貨は、法定通貨(日本円や米国ドル等)ではありません。
法定通貨は国家や中央銀行により発行されその価値が保証されていますが、仮想通貨は国家や中央銀行によってその価値が保証されているものではありません。
仮想通貨の主なものには、次のものがあります。
- ビットコイン(BTC)
- ライトコイン(LTC)
- イーサリアム(ETH)
- イーサリアムクラシック(ETC)
- モナコイン(MONA)
- リップル(XRP) など
(2) 仮想通貨は相続の対象
仮想通貨については、前項で見ましたように、資金決済法により「財産的価値」がある、と定められています。
仮想通貨にも、預貯金や株式等と同じように、財産的価値があることになります。
また、財産的価値がある仮想通貨を相続した場合に、相続税が課されるのかどうかについては、下記「平成30年3月23日の参議院財政金融委員会での答弁」により、仮想通貨にも相続税が課税されると解釈されています。
「仮想通貨については資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されておりますので、相続税が課税される。」
2.仮想通貨の相続手続き
では、仮想通貨の相続手続きはどのように行えばいいのでしょうか。
(1) 相続手続きの流れ
次の手順に従い、仮想通貨の相続手続きを行います。
仮想通貨交換業者を調べる
まずは、被相続人が取引を行なっていた取引所(仮想通貨交換業者)を調べます。
仮想通貨交換業者からの郵便物で確認するか、仮想通貨交換業者の名前だけでも分かればインターネットで検索することにより調べることができます。
仮想通貨交換業者へ相続した旨を連絡
被相続人が取引を行なっていた仮想通貨交換業者に連絡し、被相続人が死亡したことを届け出て、当該仮想通貨を相続した旨を伝えます。
仮想通貨交換業者からの残高証明書等を確認
仮想通貨交換業者から残高証明書等が送られてきます。
残高確認書には、死亡日現在の仮想通貨の残高が記載されていますので、その内容を確認します。
仮想通貨交換業者が口座凍結
銀行等と同様に、仮想通貨交換業者に死亡を届け出ることにより、被相続人の口座が凍結されます。
以降、当該口座での取引ができなくなります。
仮想通貨交換業者から必要書類の通知
仮想通貨交換業者から、相続に必要な書類が通知されます。
一般的には、下記のような、預貯金債権等の相続と同様の書類が必要になりますが、詳細は仮想通貨交換業者からの指示に従ってください。
- 住民票除票など、被相続人死亡の事実が分かる書類
- 戸籍謄本、法定相続情報一覧図など相続関係が分かる書類
- 代表相続人の本人確認書類
- 遺言書や遺産分割協議書等、遺産の帰属が分かる書類
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- その他、仮想通貨交換業者から指示された届出書類
仮想通貨交換業者へ必要書類を送付
仮想通貨交換業者の指示に従い、必要書類を送付します。
仮想通貨交換業者が口座解約、代表相続人の口座への送金
仮想通貨交換業者の口座の仮想通貨をそのまま引き継ぐのではなくて、仮想通貨から日本円に換金して、その日本円が代表相続人の預金口座に振り込まれます。
なお、被相続人の口座は解約になります。
(2) 仮想通貨のパスワードが不明な場合は?
国内の仮想通貨取引所等に口座がある場合
被相続人の口座が国内の仮想通貨取引所等にある場合は、IDやパスワードがわからなくても大丈夫な場合がほとんどです。
前項の相続手続きを踏むことにより、通常は、仮想通貨交換業者が対応方法をアドバイスしてくれますので、その指示に従いましょう。
海外の仮想通貨取引所に口座がある場合
国内に比べて、海外の仮想通貨取引所に口座があった場合は厄介です。
海外での仮想通貨取引所では、IDやパスワード以外に「プライベートキー(秘密鍵)」が必要な場合もあり、外国語を使いながらの交渉・相続手続きを行なうことになります。
この交渉や手続きはハードルが高いものになり、最悪の場合は、パスワードや秘密鍵がわからないと現金化できない可能性もあります。
【生前の相続準備(IDやパスワードが不明とならないように)】
仮想通貨は、一般的な銀行のように通帳やカードがあるわけではなく、インターネットを介して、IDやパスワード等によりやり取りを行いますので、所有する本人(被相続人)以外は実態を把握することが困難だと言えます。仮想通貨も大切な財産ですので、相続に備えて準備しておくことが必要です。
どこの仮想通貨取引所に仮想通貨があるのか、その口座のIDやパスワードは何か、相続が発生した場合はどうすれば仮想通貨を換金できるのかといったことを、残された遺族が分かるように残しておきましょう。
3.仮想通貨の相続で課税される税金
仮想通貨は相続税の対象ですので、相続税評価を行う必要があります。
最後に、仮想通貨の相続税評価について見ていきます。
(1) 仮想通貨は相続税の対象
仮想通貨の相続には相続税が課税される
前項で見てきましたように、仮想通貨には財産的価値があり、相続税の課税対象になります。
パスワードが分からなくても相続税は課税される
IDやパスワードがわからないと簡単には仮想通貨が引き出せず、海外の仮想通貨取引所に口座がある場合は、最悪、現金化できない可能性があります。
しかし、仮にパスワードがわからなくて仮想通貨が引き出せなくても、以下の通り、前述した参議院財政金融委員会での答弁から、相続税は課税されるとされています。
「相続人が被相続人の設定したパスワードを知らない場合であっても、相続人は被相続人の保有していた仮想通貨を承継することになりますので、その仮想通貨は相続税の課税対象となる。」
(2) 仮想通貨の相続税評価
仮想通貨の相続税評価は、「評価方法の定めのない財産の評価」の方法に沿って評価します。
一般的に、仮想通貨は、仮想通貨交換業者が公表する課税時期(相続開始日)における取引価格によって相続税評価を行います。
一般的に利用されている仮想通貨は、活発な取引市場が形成されており、それによって一定の相場が成立し、客観的な交換価値が明らかとなっているためです。
なお、活発な取引市場が存在しない仮想通貨の場合には、客観的な交換価値が存在しませんので、仮想通貨の内容や性質、取引実態等を考慮して個別に評価することになります。
4.まとめ
今回は、「仮想通貨の相続」について見てきました。
近年、仮想通貨の流動性が増しており、また、投資として仮想通貨を保有する方も増えていますので、今後、相続財産に仮想通貨が含まれるケースは増えてくるものと考えられます。
仮想通貨も相続財産に含まれますが、文字通り、仮想の通貨であり、仮想通貨の保有者以外にはその実態がつかみづらいのが現実です。
そのため、実際に相続後、仮想通貨の存在の調査を行なうことは、IDやパスワードの問題が発生することがあります。
仮想通貨を持っている方は、自分の相続の事も考えて、前出の通りIDやパスワードについて遺族が困らないように準備しておくことが大切です。遺族の納税負担のことを考えてもすべきことと思われます。
相続が発生していて仮想通貨が含まれている方はもちろんのこと、仮想通貨をお持ちの方についても、生前対策として相続に強い法律事務所にご相談されてはいかがでしょうか。
泉総合法律事務所では、相続問題に強い法律事務所です。もし、相続財産の仮想通貨についてお困りのことがありましたら、是非一度ご相談ください。