相続登記とは|概要・必要性・手続きの流れ
相続によって不動産を取得した場合、所有権を保全するため、速やかに相続登記の手続きを行いましょう。
相続登記が遅れてしまうと、他の相続人が勝手に不動産を処分した場合などに不動産の所有権を失ってしまうおそれがあるので注意が必要です。
将来的に相続登記の義務化も予定されているため、弁護士などの専門家に相談して、早めに相続登記を完了しておきましょう。
この記事では、相続登記の概要・必要性・手続きの流れなどを解説します。
1.相続登記とは?
相続登記とは、法務局が保管している不動産登記簿に、相続による不動産の承継(所有権移転)を記録することをいいます。
不動産は重要かつ価値の高い資産であることから、登記を通じて所有権等の所在を公示する仕組みが整備されています。
相続によって不動産を取得した人は、相続登記を経ることにより、第三者に対して相続による所有権の移転を主張できるようになるのです。
2.相続登記の意義
相続登記が必要となるのは、相続によって取得した所有権を保全するためです。
もし相続放棄を怠り、未登記の状態を放置してしまうと、最悪の場合不動産の所有権を失うこともあり得るので注意しましょう。
(1) 相続により取得した所有権を確実なものにする
民法上、不動産に関する権利を取得した場合には、登記をしなければ権利の取得を第三者に対抗できないと定められています(民法177条)。
なお、相続の場面では、法定相続分の範囲に限り、登記なくして遺産である不動産の取得を第三者に対抗できると解されています(民法899条の2第1項参照)。
しかし、法定相続分を超える部分については、遺産承継の事実を第三者に対抗するためには、相続登記を経なければなりません。
複数の相続人が存在するケースで、遺産に不動産が含まれている場合、不動産はいずれかの相続人が単独で承継するのが一般的です。
この場合、法定相続分を超えて不動産を相続することになるので、不動産全体の所有権取得を第三者に対抗するため、相続登記を経る必要があります。
(2) 相続登記を怠った場合に発生するトラブル
不動産の相続登記を怠った際に具体的なトラブルが発生するのは、他の相続人が勝手に共有持分を譲渡した場合です。
例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
<設例>
- 相続人は配偶者Aと子Bの2人
- 遺言により、配偶者Aは不動産Xの遺贈を受けた。しかし、Aは不動産Xの相続登記を経ていなかった。
- 子Bは、不動産Xにつき、Aに無断で法定相続分(2分の1)に対応する共有持分の相続登記を経た後、当該共有持分をCに譲渡した。
- Cは、Bから取得した不動産Xの共有持分(2分の1)につき、移転登記を経由した。
上記の設例では、本来遺言により、Aが不動産Xの所有権を100%取得できるはずでした。
しかし、Aは不動産Xの相続登記を経ていなかったため、自らの法定相続分である2分の1の共有持分についてのみ、第三者に不動産Xの権利を主張できるに過ぎない状態でした。
その状態で、CがBから不動産Xの共有持分(2分の1)を取得し、共有持分権移転登記を経由しています。
AはCに対して、2分の1の共有持分の限度で不動産Xの権利を主張できるに過ぎません。
したがって、Cが取得した共有持分(2分の1)について、Aは「自分のものだ」と反論できる立場にないのです。
その結果、不動産XはAとCの2分の1ずつの共有となり、Aは本来得られるはずだった権利を半分失うことになってしまいました。
このように、思わぬ展開によって不動産に係る権利を失う事態を防ぐためにも、早めに相続登記の手続きを完了しておくことが大切です。
3.相続登記の手続きの流れ
相続登記の手続きは、不動産の承継人を確定した後、法務局に必要書類を提出して行います。
(1) 不動産を承継する人を確定する
まずは、遺産に含まれている不動産を誰が承継するかを確定する必要があります。
遺言により、不動産に関する「特定遺贈※」(民法964条)が行われている場合には、遺言で指定された者が不動産の承継人となります。
※特定遺贈:具体的に遺産を特定したうえで行われる遺贈(遺言による贈与)のこと。これに対して、遺産の割合を指定して行われる遺贈を「包括遺贈」という。
これに対して、特定遺贈がない場合や、特定遺贈を受けた人が遺贈を放棄(民法986条1項)した場合には、遺産分割協議によって不動産の承継人を決定することになります。
(2) 相続登記の必要書類を揃える
不動産の承継人が確定したら、相続登記を行うために必要な書類を準備します。
相続登記の必要書類は以下の通りです。
①登記申請書
②相続発生および相続人を特定するための以下の書類
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本および除籍謄本
・相続人全員の現在の戸籍謄本
③相続人全員の住民票の写し
④遺産分割協議書(遺産分割により承継人を定めた場合)
⑤遺言書(遺言により承継人を定めた場合)
⑥委任状(代理人申請の場合)
上記のうち、登記申請書の作成には一定の作法があり、不慣れな方が対応するのは難しいかもしれません。
もし登記申請書の作成方法がわからない場合には、弁護士などの専門家に相談することをお勧めいたします。
(3) 法務局に登記申請を行う
必要書類が揃ったら、法務局に相続登記の申請を行います。
法務局では、必要書類を確認のうえ、不備があれば補正などを行った後、登記申請書と添付書類が受理されます。
その後一定の事務処理期間を経て、登記申請日付で相続登記が完了します。
4.相続登記に必要となる費用
相続登記に必要となる費用は、主に「登録免許税」と「専門家への依頼費用」です。
(1) 登録免許税
相続登記の手続きを行う際に、法務局に対して登録免許税を納付する必要があります。
登録免許税の税率は、原則として不動産の価額の1000分の4(0.4%)です。
ただし、先行する相続について相続登記が未了のケースで、被相続人を登記名義人とするために土地の相続登記を行う場合には、令和4年(2022年)3月31日までに登記手続きを行う場合に限り登録免許税が免税となります。
この免税特例は、建物の相続については適用されないので注意しましょう。
【参考】相続登記の登録免許税の免税措置について|法務局
(2) 専門家への依頼費用
相続登記の申請は自分で行うこともできますが、登記申請書の作成や必要書類の準備に不安がある場合や、面倒な場合には、専門家に依頼することも有効となります。
相続登記の手続きを取り扱うのは、主に司法書士です。
司法書士に相続登記を依頼する場合の費用は、不動産1件当たり5万~10万円程度が相場となっています。
泉総合法律事務所の弁護士に相続手続きをご依頼いただければ、提携先の司法書士をご紹介のうえ、相続登記についてもワンストップで対応可能ですので、お気軽にご相談ください。
5.相続登記の義務化について
相続登記を行わなかったとしても、現行法上は、特に過料などのペナルティが科されることはありません。
(ただし前述のとおり、二重譲渡によって所有権を失うリスクはあります)
しかし、相続登記の義務化に関する不動産登記法の改正案が閣議決定済であり、2023年度を目処に施行が予定されています。
【参考】「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」(令和3年2月2日閣議決定)|法務省
相続登記の義務化が検討されている背景には、所有者不明の不動産について、管理責任者を明確化するなどの目的が存在します。
上記の改正案が実際に施行された場合、相続による不動産の所有権取得から3年以内に相続登記の申請を行うことが義務付けられます。
この相続登記の義務に違反した場合、10万円以下の過料に処されるおそれがあります。
このように、いずれは相続登記が義務化される可能性が高いことを考えると、多少面倒であっても、今のうちに相続登記の手続きを完了しておくに越したことはないでしょう。
泉総合法律事務所の弁護士にご依頼いただければ、相続登記についても一括して対応が可能なので、ぜひお早めにご相談ください。
[参考記事] 相続登記の義務化!改正内容と罰則【2024年版】6.まとめ
相続により不動産を取得した場合、相続登記を行うことによって不動産の所有権を確実なものとすることができます。
不動産の権利を保全するため、またいずれ施行される可能性が高い相続登記の義務化法案に対応するためにも、早い段階で相続登記の手続きを完了しておくことをお勧めいたします。
相続登記への対応を含めて、不動産の相続に関するお悩みは、何でもお気軽に泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。