生前整理でやること・進め方
生前整理とは、自分が亡くなった後に残された家族が困ることがないように、身辺整理や財産整理をしておくことをいいます。
「終活」という言葉が一般的になってきたこともあり、元気なうちから早めに生前整理をしておこうと考える方も増えてきているようです。
もっとも、効果的な生前整理を行うためには、生前整理の方法を理解した上で行う必要がありますし、法律面や税金面で不安がある場合には、専門家への相談も不可欠となります。
今回は、この生前整理の方法について、詳しく解説します。
1.生前整理をすることのメリット
生前整理をすることによって以下のようなメリットがあります。
(1) 自分の希望を死後に相続人へ示せる
生前整理として、遺言書を作成することなく死亡した場合には、民法が規定する法定相続分に従って遺産を分けることになります。
[参考記事] 法定相続人の範囲と法定相続分をわかりやすく解説しかし、生前の家族との関係性によっては、より多くの遺産を渡したい方や、反対に最低限の遺産しか渡したくないという方もいるでしょう。
また、生前にお世話になった方など相続人以外の方に遺産を渡したいと考えることもあるかもしれません。
このような希望は、遺言書の作成といった生前整理を行わなければ実現することは不可能です。
また、遺産の分け方については特に希望がないという方であっても、葬儀や納骨についての希望、家族へメッセージを残したいという方もいるはずです。
このような希望も生前整理の際にしっかりと残しておかなければ、相続人に伝わることはありません。
(2) 相続人に発生するトラブルを減らすことができる
推定相続人が行方不明である、認知症で判断能力がない方がいるという場合には、相続人同士でトラブルが生じる可能性があります。
また、現金・預貯金以外の遺産が多いという場合には、遺産の評価や分割方法をめぐってトラブルが生じる可能性もあります。
生前整理によって遺言書を作成しておけば、行方不明や認知症による相続トラブルを回避することができますし、生前整理によって財産を処分して現金化しておけば遺産の評価や遺産分割方法をめぐって争いになるということを回避することができます。
[参考記事] 相続で揉める家族・トラブルがある家族の特徴(3) 相続人の負担が減る
生前整理を行うことなく亡くなった場合には、相続人に以下のような負担を生じさせることになります。
- 通帳やキャッシュカードの保管場所がわからない
- どの銘柄の株式や投資信託を購入していたのかがわからない
- 保険金を請求したいがどの保険会社と契約をしていたのかわからない
- 借金があるか不明のため相続するか判断できない
- 大量の遺品を処分するための費用がない
生前整理によって自分が所有している財産や負債を一覧にしておくことによって、亡くなった後、相続人が相続財産調査に要する手間を大幅に軽減することができます。
財産を把握している本人がこれらの手続きを行った方が圧倒的に手間も労力も少ないといえます。
大切な家族に負担をかけることのないように生前にしっかりと生前整理を行うようにしましょう。
(4) 断捨離にもなり、身の回りがスッキリする
長い人生を生きていると、どうしても物などが多くなってしまいます。いつか捨てようと思っていてもなかなか手を付けることができず、押し入れや物置の中に詰め込んでしまっているという方も少なくないでしょう。
生前整理を行うことによって、必要なものと不要なものを仕分けすることができ、断捨離によって身の回りのものをスッキリさせることができるというメリットもあります。
過去の思い出の品に触れながら、家族のことを思い返し、遺言書やエンディングノートを作成してみるとよいでしょう。
(5) 万一の場合の備えになる
今は健康で元気だとしても、突然病気になって入院してしまうということもあります。また、交通事故などに巻き込まれて突然亡くなってしまうということもあります。
いつ亡くなるかについては、誰にも予想することができませんので、突然亡くなってしまった場合に残された家族が困らないようにしておかなければなりません。
元気なうちから早めに生前整理を行っておくことによって、万が一の場合の備えになります。
生前整理はご本人に労力や費用がかかることになりますが、相続発生後はその負担は遺族に行くことになりますので、大切な家族への負担を軽減するためにも先に行っておいて損はないといえるでしょう。
2.生前整理の方法
生前整理として行うこととしては、以下のようなことが挙げられます。
(1) 不用品の処分
生前整理は、身の回りの不用品の処分から始めていくと良いでしょう。
現在使っていないものについては、今後も利用することはほとんどないでしょうから、処分してしまっても問題ないケースが多いです。
また、不動産を所有している方は、不動産の処分についても検討すると良いでしょう。
「不動産は相続人に相続されるから生前に処分する必要はないのでは?」と考える方もいますが、不動産を処分することによって相続人の負担を軽減することにつながるケースもあります。
たとえば、遺産の大部分が不動産である場合には、遺産を相続した相続人としては、相続税を支払うための現金が不足するという事態に陥ることもあります。
そのため、あらかじめ不動産を処分して現金化しておくことができれば、相続人に納税資金を残すことが可能になります。
(2) 遺言書の作成
法定相続分とは異なる遺産の分割を希望する場合には、生前に遺言書を作成しておく必要があります。
また、相続人の中に行方不明の方や認知症の方がいるような場合には、遺産分割協議を行うためには、不在者財産管理人や後見人の選任が必要になりますので、相続人の負担は非常に大きくなります。
しかし、遺言書を作成しておくことによって、遺産分割協議は不要となりますので、相続人の負担は大幅に軽減されることになります。
[参考記事] 正しい遺言書の書き方|作成のポイントと自筆証書遺言の要件(3) 財産目録の作成
相続開始後は、相続人が被相続人の相続財産調査を行い、それを前提として遺産分割協議をすることになります。
しかし、相続人は、被相続人の財産のすべてを把握しているというわけではありませんので、相続人による相続財産調査では漏れが生じてしまうこともあります。
また、遺言書を作成して遺産の分け方を検討する際にもどのような財産があるのかを正確に把握していなければ適切な内容の遺言書を作成することは難しいといえます。
このように財産目録の作成は、相続人の相続財産調査の負担を減らして、適切な遺言書を作成するために不可欠の作業だといえます。
財産目録には、現金・預貯金、不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も記載する必要があります。また、受取人が指定されている生命保険金などは相続財産には含まれませんが、相続税の課税対象になりますので、これも記載しておくようにしましょう。
なお、財産目録の形式については特に決まりはありませんが、以下のような記載例を参考にしてください。
[参考記事] 遺言書につける財産目録の書き方|パソコン作成も可能!(4) デジタル遺品の整理する
デジタル遺品とは、パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器に保存されたデータや個人情報のことをいいます。インターネットバンキングや仮想通貨・FXの情報などもこのデジタル遺品に含まれます。
デジタル遺品の問題点は、客観的にその存在が明らかでないため、相続人が見落としてしまう可能性があるという点です。
仮想通貨やFX取引については、相続人が気付かず放置していると大幅な価格の変動によって多額の追加証拠金が請求されるということもあります。
そのため、デジタル遺品がある場合には、解約をするか財産目録に記載するなどの対応が必要になります。また、SNSのIDやパスワードについてもエンディングノートに記載しておくことがおすすめです。
(5) エンディングノートの作成
遺言書は、主に遺産の分け方を記載しますので、それ以外の葬儀や納骨などの希望や家族へのメッセージについては、エンディングノートを活用するのがおすすめです。
エンディングノートについては、書店でも簡単に手に入りますので遺言書を作成する前の準備として利用してみてもよいでしょう。
(6) 生前贈与
生前整理として、自身の財産を相続人または第三者に生前贈与するということも有効な相続対策となります。
年間110万円までの生前贈与であれば非課税となりますので、非課税枠の範囲で長期的に資産の移転をすれば、相続税の課税対象となる財産を減少させることができます。
[参考記事] 相続に備えて生前贈与を行うメリット・デメリット3.生前整理は一気に行わず、長期的・計画的に
上記のとおり生前整理の方法にはさまざまなものがありますので、すべてを一気に終わらせるのは非常に大変な作業であり、無理に進めると途中で挫折してしまう可能性もあります。
そのため、生前整理をする場合には、元気なうちから早めに手を付けて、少しずつ進めていくことをおすすめします。
また、効果的な生前整理を行うためには、弁護士などの専門家のサポートが必要不可欠となります。
遺言書の作成、生前贈与、財産目録の作成、デジタル遺品の整理などで分からないことがあった場合には、早めに専門家に相談をするようにしましょう。
4.まとめ
生前整理をするには本人の手間と費用がかかりますが、それ以外のデメリットはほぼありません。
死後の相続人の負担を減らすためにも早めに生前整理に着手するようにしましょう。
生前整理をすることは相続対策にもつながります。
専門家である弁護士と相談をしながら、効果的な対策を検討してみてはいかがでしょうか。