未登記建物を相続する際の手続き|表題登記・所有権保存登記
亡くなった被相続人が登記されていない建物(未登記建物)を所有していた場合、その未登記建物も相続の対象となります。
未登記建物を承継した相続人等は、速やかに「表題登記」と「所有権保存登記」を行うことが必要です。
今回は、未登記建物を相続した際に必要となる、表題登記と所有権保存登記について解説します。
1.未登記建物とは?
いわゆる「未登記建物」とは、「表題登記」が行われていない建物を言います。
不動産の登記簿は、「表題部」と「権利部」に記載が分かれています。
このうち「表題部」の事項を記録して、登記簿を作成するのが「表題登記」です。
建物の場合、表題部の記録事項は以下のとおりです。
所在・地番・家屋番号・種類・構造・床面積 など
未登記建物は、不動産登記簿上ではその存在を確認することはできません。
しかし、現実には存在する建物であるため、未登記建物も相続の対象となります。
2.未登記建物を相続した場合に必要な2つの登記手続き
未登記建物を相続した場合、「表題登記」と「所有権保存登記」の2つの登記手続きを行う必要があります。
①表題登記
未登記建物に関する基本的な情報を不動産登記簿に登録するため、表題登記を行います。
②所有権保存登記
未登記建物の所有権を公示するため、所有権保存登記を行います。不動産登記簿のうち「権利部」に記録されます。
3.未登記建物につき各登記手続きを行わないデメリット
未登記建物を相続したにもかかわらず、表題登記や所有権保存登記を行わないと、過料の制裁を受けたり、最悪の場合未登記建物の所有権を失ってしまったりするリスクがあります。
いずれにしても、将来的には登記手続きが必要になる可能性が高いため、早めに表題登記と所有権保存登記の手続きを行っておきましょう。
(1) 不動産登記法上、過料の制裁を受ける可能性
未登記建物を相続によって取得した場合、所有権取得の日から1か月以内に、表題登記を申請することが義務付けられています(不動産登記法47条1項)。
違反した場合には、「10万円以下の過料」に処される可能性があります(同法164条)。
実際に過料の制裁が科されたケースはほとんどないと考えられますが、表題登記の懈怠は、法律上の義務違反に当たることを認識しておきましょう。
(2) 未登記建物の所有権を第三者に対抗できない
不動産の所有権は、登記がなければ第三者に対抗できないものとされています(民法177条)。
そのため、未登記建物の所有権を有していても、その所有権を第三者に主張することはできません。
未登記建物所有権の第三者対抗要件を欠いている場合、以下の設例のような弊害が生じてしまうおそれがあります。
<設例①>
・被相続人は生前、未登記建物XをAに対して賃貸していた。
・相続人Bは、未登記建物Xを被相続人から相続した。
設例①のケースでは、相続によってBが未登記建物Xの所有権を被相続人から承継したことに伴い、Aとの賃貸借契約に関しても、Bが被相続人から賃貸人たる地位を承継します(民法605条の2第1項)。
しかし、Bは未登記建物Xについて、対抗要件である建物所有権登記を具備していないので、賃貸人たる地位の承継を賃借人Aに対抗することができません(民法605条)。
そのため、Bは未登記建物Xの所有権保存登記手続を完了するまでの間、Aに対して賃料を請求できないのです。
<設例②>
・相続人Cは、未登記建物Yを被相続人から相続した(法定相続分2分の1)。
・C以外の唯一の相続人であるD(Cの弟)は、同じく相続した未登記建物Yの共有持分権(法定相続分2分の1)をEに譲渡した。
・EはCより先に、未登記建物Yの共有持分権(2分の1)につき、共有持分権の登記を得た。(注)
設例②のケースでは、Cは未登記建物Yにつき、自らの法定相続分に相当する「2分の1」の共有持分権をEに主張できます。
しかし、残りの「2分の1」については、未登記建物に対する権利をEに対抗することができません(民法899条の2第1項)。
EはCよりも先に、未登記建物Yの残りの共有持分権(2分の1)について、共有持分権の登記を経由しています。
その時点で、当該共有持分権をEが取得したことが確定し、CとEは建物Yを共有することになります。
(注)なお登記のルール上、共有権者Eが単独で、自己の共有持分のみの保存登記手続はできないのですが、共有権者は「共有者全員のために」保存登記手続ができるため、共有権者Eが、このような保存登記手続をした場合、登記面上は、EとCの、各2分の1の割合による持分保存登記がなされることになります。
Cとしては、相続によって未登記建物Yの完全な所有権を取得できるはずだったのに、Eにその半分を奪われてしまっては大損害でしょう。
(3) 将来売却する際には登記が必要
将来的に未登記建物を売却する際には、未登記建物について所有権登記を経由することが必須になります。
所有権登記がなければ、その建物について、本当に売主に所有権があるのかどうかわからず、買主が安心して購入できないからです。
具体的な売却予定はないとしても、いつかは未登記建物を売却する時期が来るでしょうから、相続直後の段階で適切に登記手続きを行っておきましょう。
4.未登記建物に関する登記手続きの申請場所・必要書類・費用
未登記建物の登記手続きについて、申請場所・必要書類・費用の概要をまとめました。
(1) 表題登記・所有権保存登記の申請場所
未登記建物に関する表題登記・所有権保存登記の申請場所は、未登記建物が所在する地域を管轄する法務局の登記所です。
地域ごとの管轄法務局は、以下のページから検索できます。
参考:管轄のご案内|法務局
(2) 表題登記の申請書類
未登記建物の表題登記を申請する際に必要となる主な書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 建物図面、各階平面図
- 建築確認申請書
- 確認済証
- 工事完了引渡証明書
- 施工業者の印鑑証明書
- 所有者の印鑑証明書
- 所有者の住民票
- 現地の案内地図(Google Mapなどで可)
- 委任状(代理人申請の場合)
なお、未登記建物を相続した場合、上記の必要書類が不足するケースもあります。
その場合には、上申書を作成・提出するなど、追加対応が発生することがあるので、ご自身でなされる場合は、所轄の法務局に、事前の登記相談をすることをお勧めします。
(3) 所有権保存登記の必要書類
未登記建物の所有権保存登記を申請する際に必要となる主な書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 所有者の住民票
- 住宅用家屋証明書(登録免許税を軽減するために必要)
- 委任状(代理人申請の場合)
(4) 表題登記・所有権保存登記の登録免許税
不動産の登記手続きを行う際には、「登録免許税」の納税義務が発生することがあります。
未登記建物の表題登記の手続きを行う際には、登録免許税はかかりません。
これに対して、所有権保存登記の手続きを行う際には、登録免許税が発生します。
所有権保存登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の0.4%です。
ただし、住宅用家屋証明書を提出すれば固定資産税評価額の0.15%に軽減されるほか、各種の特例を活用して税率を軽減できる場合があります。
5.表題登記・所有権保存登記を依頼できる専門家
以上述べた通り、表題登記・所有権保存登記手続には、必要書類を揃えるのに、専門的な知識や経験が必要とされます。
そこで、かかる各登記手続を専門家に依頼することをお勧めします。
未登記建物の表題登記は、土地家屋調査士に依頼することができます。
また、未登記建物の所有権保存登記は、司法書士に依頼するのが一般的です。
ただ土地家屋調査士と司法書士をそれぞれ探して個別に依頼するのは、二度手間で面倒に思われるかもしれません。
そこで、かかる未登記建物の相続を含む相続手続全体をまとめて弁護士にご依頼いただければ、提携先の土地家屋調査士や司法書士をご紹介いたしますので、お客様の労力は大きく軽減されるかと思います。
また、未登記建物相続以外の、遺産分割に関する問題についても、具体的な状況に合わせて、弁護士が親身になってアドバイスすることができます。
相続財産の中に未登記建物が含まれている場合は、一度弁護士までご相談ください。