法定相続情報一覧図とは|自分で作る方法・見本・テンプレ
相続手続きを進めていくにあたって避けて通ることができないのが、戸籍謄本などの収集です。
被相続人と相続人の関係性によっては、膨大な量の戸籍を収集しなければならないこともあり、遺産分割協議、相続登記、預貯金の払戻しなど手続きの都度、戸籍謄本を集め直さなければならないとなると非常に大変な作業となります。
このような場合には、「法定相続情報一覧図」を利用することによって、何度も戸籍謄本を集めなければならない手間を省くことができます。
これは平成29年5月からスタートした比較的新しい制度ですのであまり聞きなれない制度かもしれませんが、非常に便利な制度ですので積極的に利用していくことをおすすめします。
今回は、法定相続情報一覧図の概要や作り方などについてわかりやすく解説します。
1.法定相続情報一覧図とは?
法定相続情報一覧図とはどのような書面になるのでしょうか。また、法定相続情報一覧図を作成するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
(1) 法定相続情報一覧図の概要
法定相続情報一覧図とは、被相続人の相続人が誰であるのかを分かりやすく図式化した書面になります。
被相続人の相続人だけを抜粋した家系図のようなものとイメージしてもらえればわかりやすいでしょう。
このような法定相続情報一覧図は、平成29年5月から利用がスタートしましたが、その背景には、所有者不明の不動産の増加という問題があったからです。
所有者不明の不動産が増加すると、空き家の放置、公共事業用地の取得の困難、農地集約の妨げなどさまざまな社会問題が生じてしまいます。このような所有者不明の不動産の増加の要因の一つとして、相続登記をする際の戸籍収集の煩雑さが挙げられます。
そこで、戸籍収集の負担を軽減し、相続登記を促進するために、この法定相続情報一覧図の制度が創設されたのです。
(2) 法定相続情報一覧図のメリット
法定相続情報一覧図を作成するメリットとしては、以下の点が挙げられます。
①1枚の書面で相続関係が証明できる
法定相続情報一覧図は、原則として1枚の書面に当該相続における相続人の情報が記載されています。
これまでは、相続関係を証明するためには、戸籍謄本、改正原戸籍謄本、除籍謄本といった膨大な書類を集めなければなりませんでしたが、法定相続情報一覧図があれば、1枚の書面だけで証明することができます。
②スムーズな相続手続きが可能
相続手続きには、相続登記、預貯金の払戻し、株式や自動車などの名義変更、相続税の申告などのさまざまな手続きがあります。
そして、これらの手続きを行う際には、その都度相続関係を証明する資料の提示が必要になります。
複数の金融機関に預貯金口座を有しているという場合には、金融機関ごとに預貯金の払戻しの手続きをしなければなりませんが、戸籍謄本を利用する方法では、一つの金融機関で手続きをしている間は別の金融機関では手続きをとることができません。
同時に手続きを進めていくためには、複数セットの戸籍謄本が必要になりますが、それでは取得費用が高額になってしまいます。
これに対して、法定相続情報一覧図は、法務局から複数枚取得することができますので、上記のような手間や費用はかかりません。
(3) 法定相続情報一覧図の取得費用と有効期間
法定相続情報一覧図を利用する場合には、一切費用はかからず無料で利用することができます。追加で法定相続一覧図が必要になったとしても、無料で再交付を受けることもできます。
ただし、法定相続情報一覧図の保管期間は5年間と定められていますので、5年を経過した場合には、再度、法定相続情報一覧図を作成して、法務局に申し出る必要があります。
2.法定相続情報一覧図は自分で作れる?
法定相続情報証明制度の利用の申し出をすることができるのは、被相続人の相続人またはその代理人とされています。
そのため、法定相続情報証明制度に基づく法定相続情報一覧図は、相続人個人でも作成することは可能です。
法定相続情報一覧図を作成するためには、戸籍謄本などの必要書類を揃える必要はありますが、戸籍謄本などの収集ができて、家系図のような一覧図を作成することができるようであれば、申請自体はそこまで難しいものではありません。
もっとも、相続手続きを弁護士に依頼した場合には、法定相続情報一覧図の作成は、相続手続きの一環として弁護士が作成してくれることが多いです。
遺産分割で相続人間の争いが予想される、自分では法定相続一覧図の作成に不安があるという方は、弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。
3.法定相続情報一覧図の作り方
以下では、法定相続情報一覧図の作成方法を紹介します。
(1) 必要書類の収集
法定相続情報一覧図の作成に必要となる書類としては、以下のものが挙げられます。まずは以下の書類を収集しましょう。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改正原戸籍謄本、除籍謄本
- (兄弟姉妹が相続人の場合)被相続人の父母の出生から死亡までの戸籍謄本、改正原戸籍謄本、除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- (一覧図に相続の住所を記載した場合)相続人の住民票の写し
(2) 法定相続情報一覧図の書式
法定相続情報一覧図は、一般的なA4サイズの紙を縦置きで利用して、明瞭に判読することができるように記載することとされています。
記載方法については、手書きでの作成でもパソコンでの作成でもどちらでも構いません。
法定相続情報一覧図には、下から約5センチメートルの範囲に認証文が付されますので、法定相続情報一覧図の下から約5センチメートルの範囲には余白を設ける必要があります。
(3) 法定相続情報一覧図に記載する内容
<配偶者・子1人の場合の記載例>
法定相続情報一覧図に記載する内容としては、以下のものが挙げられます。
①被相続人の表示
被相続人の氏名、生年月日、最後の住所、死亡の年月日を記載します。
被相続人の氏名には「被相続人」と併記します。また、最後の住所と一緒に最後の本籍を記載することもできますが、住民票の除票が廃棄され存在していない場合には、最後の住所に代えて必ず最後の本籍を記載しなければなりません。
②相続人の表示
相続人の氏名、生年月日、被相続人との続柄を記載します。続柄は、戸籍に記載されている続柄を使用し、配偶者であれば「夫」や「妻」、子どもであれば「長男」、「長女」などと記載します。
相続人のなかに相続放棄をした人や相続欠格に該当する事由がある人がいる場合でも当該相続人の表示は必要となります。
他方、相続廃除をされた人については、法定相続情報一覧図への記載は不要です。
記載をするかどうかのポイントは、戸籍に記載があるかどうかです。相続放棄や相続欠格という事情は戸籍には記載されませんが、相続廃除は戸籍に記載されますので、戸籍の記載から明らかに相続人でない人がいるときには、その人を除外する必要があるのです。
なお、法定相続情報一覧図の申し出をする相続人については、相続人の氏名の隣に「(申出人)」と記載します。
③作成者の表示と押印
法定相続情報一覧図には、作成の年月日を記載します。また、法定相続情報一覧図を作成した申出人または代理人は、住所を記載し、記名押印をします。
④図表の作成
被相続人と相続人とを線で結ぶなどして被相続人を起点とした相続人の関係性が一見してわかるような図を記載します。
なお、法定相続情報一覧図の書式や記載例については、法務局のホームページに掲載されていますのでそちらをご参照ください。
(4) 作成後は法務局に保管および交付の申し出
作成した法定相続情報一覧図、法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書と必要書類を法務局の窓口に提出します。
申し出をする法務局は、以下の法務局になりますので、申し出をする方が最も都合のよい場所を選べばよいでしょう。
- 被相続人の本籍地
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人の住所地
- 被相続人名義の不動産の所在地
なお、法定相続情報一覧図の保管および交付の申出は、法務局に持参して行う場合の他、郵送による方法も認められています。申出から1週間程度で、法務局の認証印のある法定相続情報一覧図の交付を受けることができます。
4.相続問題の解決は弁護士への依頼がおすすめ
法定相続情報一覧図の作成はそこまで難しいものではありませんので、記載例などを参考にすれば相続人の方が個人で作成するということも十分に可能です。
しかし、相続手続きは、法定相続情報一覧図の作成をすればそれで終了というわけではありません。遺産を分けるためには、相続人による遺産分割協議が必要になりますし、その前提として相続財産調査も必要になります。
相続人同士で遺産の分け方について意見の対立がある場合には、それを調整しなければならず、そのためには相続に関する専門的知識が必要となってきます。
そのため、相続が発生した場合には、法定相続情報一覧図の作成も含めて、すべて弁護士にお願いをするのが安心だといえます。