車を相続するために必要な名義変更手続きと費用について
車の所有者が死亡した場合、その車に関してどのような手続きを行う必要があるのでしょうか。
今回は、親族がお亡くなりになってから慌てないように、相続した車に必要な手続きについて、乗り続けずに売却または廃車にする場合も含めて解説します。
1.自動車の相続に名義変更手続きが必要な理由
所有者が死亡した車は、死亡時点から遺産分割協議で相続人が決まるまで、相続人全員の共有財産となります。
通常、車の相続人が決定した後は、遺産分割協議書を作成して車の相続手続きを行う流れとなります。
車の場合は、共有名義による所有が可能であり、共同相続人の複数名義で登録することも可能です。もちろん、相続人1人の単独相続の場合は、当然ながら遺産分割を行う必要はなく、遺産分割協議書は不要です。
また、遺言書に車の所有者となるべき相続人が指定されている場合には、その所有権をその相続人が承継するため、遺産分割協議書の代わりに遺言書が必要となります。
車の相続手続きに期限はなく、手続きしないことに対する罰則もありません。自宅の駐車場に、ただ置き続けるのであれば問題ないように思えます。
しかし、車の名義を相続人に変更しなければ、いざ売却や廃車しようとしたときに、売却も抹消登録もできません。車の所有者でない人が売却手続きや廃車手続きをすることはできないのです。
相続手続きを行う際には戸籍謄本など、相続人全員のものが必要になります。
不動産や銀行の相続手続きなどと並行して行えば、書類収集の負担も軽減することができるため、放置せずに一気に行ってしまいましょう。
2.車の相続|名義人の確認
車の相続が発生したら、まず車の名義人の確認をしましょう。被相続人が乗っていたからといって、必ずしも被相続人が所有者だとは限らないからです。
車の名義人は、車検証で簡単に確認できます。
名義人が被相続人であった場合には、そのまま相続手続きに入ります。
その車をローンや残高クレジットで購入し残高がある場合には、名義人は信販会社やディーラーになっているため、相続手続きとはならず、相続人が残債を一括返済したあと相続人への名義変更手続きを行います。
3.車の相続|名義変更に必要な書類・費用について
車の名義変更手続きは決して難しい手続きではありませんが、各県に1箇所しかない運輸支局に行かなければならない点も考慮すると、代行も前向きに検討すると良いでしょう。
ディーラーや行政書士などに依頼すると、代行手数料は1~3万円程度です。
必要書類は、複数の相続人がいる相続の場合と、相続人1人の単独相続の場合とで異なります。
また軽自動車の場合には、必要書類が少なくなるなど普通自動車に比べて手続きが簡便になります。
(1) 車の名義変更手続きに必要な書類
複数の相続人のうちの特定の相続人の名義に変更する場合の必要書類等
車検証
車内に置くことが義務付けられています。ほとんどの車は助手席前のダッシュボード内にあるでしょう。
なお、車検切れの車では相続手続きはできません。
戸籍謄本
被相続人の死亡の事実と、相続人全員の記載があるものが必要となります。
印鑑証明書
新所有者を含む相続人全員が手続きを行う場合は、発効から3ヶ月以内の相続人全員分が必要となります。
遺産分割協議により代表相続人(新所有者となる相続人)が手続きを行う場合には、代表相続人のものが必要となります。
実印または委任状
新所有者を含め相続人全員が手続きを行う場合に、本人が運輸支局で手続する際には、相続人全員(新所有者となる相続人を含む)の実印が、他人に依頼する場合には、実印を押印した委任状が必要となります。
遺産分割協議により代表相続人(新所有者となる相続人)が、運輸支局で手続きを行う場合には、代表相続人の実印が、他人に依頼する場合には、実印を押印した委任状が必要となります。
車庫証明
車を駐車する場所を管轄している警察署で取得します(※発行から1ヶ月以内のもの)。なお、被相続人と新所有者となる相続人が同居家族の場合は不要となる場合があります。
車庫証明証紙代…普通自動車2,500~2,800円程度、軽自動車500円程度(都道府県ごとに若干異なります)
譲渡証明書
相続人全員(新所有者となる相続人を含む)が手続きを行う場合は、新所有者以外の相続人全員の譲渡証明書(実印を押印したもの)が必要です。
遺産分割協議書
遺産分割協議により代表相続人(新所有者となる相続人)が手続きを行う場合には、相続人全員の実印を押した遺産分割協議書が必要です。
遺産分割協議書は、特定の遺産についてのみ記載したものも有効であり、次のサイトからダウンロードした自動車用の遺産分割協議書を作成しておくと、手続きの際に便利です。もちろん、すべての遺産がまとめて記載されている遺産分割協議書であっても手続きは可能です。
【参考サイト】「登録手続き」遺産分割協議書|国土交通省
相続人が1人の単独相続の場合の必要書類等
単独相続の場合も複数の場合と同様ですが、遺産分割協議書と譲渡証明書が必要ありません。
- 車検証
- 戸籍謄本
- 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
- 実印または委任状
- 車庫証明
車の相続人が遺言書で指定されていた場合の必要書類等
被相続人が遺言書を残しており、車の相続人が記載されていた場合には、遺産分割協議書に代えて遺言書が添付書類になります。
なお、秘密証書遺言、自筆証書遺言書(法務局の保管制度を利用した場合を除く)には、家庭裁判所による検認が必要です。
- 車検証
- 戸籍謄本
- 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
- 実印または委任状
- 車庫証明
- 遺言書
軽自動車の場合の必要書類リスト
相続した車が軽自動車の場合には、普通自動車のように遺産分割協議書などが必要なく、簡易的な手続きで済みます。
(2) 名義変更手続に必要な費用
必要書類が揃ったら、運輸支局で名義変更手続きを行います。
各都道府県に1箇所しかないため、遠い場合もあります。書類不備で出直すことのないように、しっかりと準備してきましょう。
各都道府県の運輸支局については、下記URLからご確認ください。また、軽自動車については、軽自動車検査協会で手続きを行います。
名義変更の登録手数料:500円(検査登録印紙を運輸支局で購入し、手数料納付書に貼付)
【参考サイト】自動車:全国運輸支局等のご案内 – 国土交通省
4.自動車保険の引継ぎ
相続した車に引き続き乗り続ける場合には、自動車保険の名義変更手続きを必ず行いましょう。
放置した状態で万が一、事故を起こしてしまった場合には、補償が受けられない可能性があります。
自賠責保険は車両に付される強制的な保険であるため、名義人以外が事故を起こしても補償されます。しかし、だからといって放置していいものではなく、無用なトラブルを避けるためにも、任意保険と同時に名義変更をしましょう。
5.相続した車を売却する場合
車を売却する場合であっても、一度相続人へ名義変更手続きが必要です。
手続き自体は相続人への名義変更と同様です。その後、売却先へ名義変更をします。
一般的には売却先業者が先導して手続きを行ってくれるため、相続人は流れに沿う形で大丈夫です。
被相続人から直接売却先へ名義変更できたら早いのですが、それはできないので注意しましょう。
必要書類は、普通自動車と軽自動車で異なります。
(1) 普通自動車の場合
- 車検証
- 自賠責保険証
- リサイクル券
- 印鑑証明書
- 委任状
- 戸籍謄本
- 譲渡証明書(売却先の業者が用意するものです。記載して実印を押印します。)
- 委任状(売却にかかる名義変更手続きを売却先業者に依頼する場合には必要です。)
- 遺産分割協議書(売却する旨を記載しておきます。その車を売る権利があることを証明します。)
- 実印
(2) 軽自動車の場合
軽自動車は、譲渡証明書、委任状、印鑑証明書が不要で、実印に代えて認印で済む点が異なります。
- 車検証
- 自賠責保険証
- 自動車税納税証明書
- 戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 認印
6.相続した車を廃車にする場合
廃車にする場合も売却の場合と同様に、まず相続人へ名義変更をし、その後、一時抹消または永久抹消の手続きを行います。
これも車を引き渡す廃車買取業者が先導して行うため、相続人は指示される書類を準備する形になります。
(1) 一時抹消
一時抹消とは、その名称通り、車の登録を一時的に抹消する手続きです。
一時抹消を行うことによってその車は公道を走れなくなりますが、自動車税や自賠責保険を払う必要がなくなります。
また乗ることにした際には、再登録をすれば元通りになるため、長期入院や海外へ長期出張する場合などに利用されます。
相続の場合では、形見の車なのでいずれ乗るつもりでいるが、今は乗らないという場合などが考えられます。
一時抹消に必要な書類等
- 車検証
- 印鑑証明書
- 戸籍謄本
- 遺産分割協議書(遺産分割協議により代表相続人が手続きを行う場合、抹消を行う相続人が車の所有権を持つことに相続人全員が同意していることを証明するために必要です。)
- ナンバープレート
- 実印または委任状
(2) 永久抹消
永久抹消とは、その車の登録を永久に抹消する手続きです。一時抹消と同様に、自動車税や自賠責保険が不要になるのはもちろんのこと、自動車重量税の還付もあります。
一度手続きをすると再登録は不可能であるため、二度と確実に乗らないという場合に選択します。形見の車が非常に古いため、もう乗らずに展示物とする場合などが挙げられます。
永久抹消の場合には、財産の処分行為に当たらないため、遺産分割協議書は必要なく、相続人の1人が単独で申請することができます。
永久抹消に必要な書類等
- 車検証
- 印鑑証明書
- 戸籍謄本
- 解体に係る「移動報告番号」および「解体報告記録がなされた日」
- ナンバープレート
- 実印または委任状
7.まとめ
人が死亡した際の相続手続きは多岐に渡るため、期限がなく、すぐに手続きを行わなくても困らない車についてはどうしても後回しにしがちです。
しかし放置してしまうと、処分しようと思った時にできず、不都合が発生してしまいます。
車の相続手続きに必要な書類は、銀行の相続手続きなどと共通しているものが多いため、ついでに行ってしまった方が効率も良いでしょう。