未支給年金は相続放棄しても受け取ることができる!
被相続人が年金受給者であった場合、必ず未支給年金が発生します。
未収年金は遺族が受け取ることになりますが、相続放棄している場合にも受け取って良いのでしょうか?
結論から言いますと、相続放棄をしていても受け取ることはできます。
今回は相続放棄した人が未支給年金を受け取る場合について、詳しく解説します。
1.未支給年金とは?
最初に、未支給年金とはどのような年金なのかを解説しましょう。
(1) 未支給年金とは
未支給年金とは、年金受給者であった被相続人がまだ受け取っていない年金のことです。
公的年金は後払いであり、偶数月の15日前に前月と前々月分が振り込まれるようになっています。
例えば、8、9月分が10月15日に振り込まれることになるため、10月5日に受給者が死亡した場合には、8、9、10月分を未支給年金として受け取ることができます(年金の受給権が10月に消滅するため、消滅月である10月分の年金は、未支給年金となります)。
年金は後払いである仕組みであることから、受給者が本来受け取れるはずたった年金を受け取らないまま死亡するため、これを遺族が受け取ることになるのです。
したがって、被相続人がいつお亡くなりになっても、未支給年金は発生します。
また、「未支給」には、次の2つのケースがあり、どちらも対象になります。
- 既に年金を受給中に死亡した場合
- 年金受給の手続きを行う前に死亡した場合
(2) 未支給年金となり得る年金の種類
未支給年金は、老齢年金の他に、病気やケガをして障害状態になった時に65歳未満でも受け取れる「障害年金」や、年金の被保険者が死亡した場合に、その人に生計を維持されていた遺族が受け取れる「遺族年金」を受給していた人が死亡した場合にも発生しますので、確認を怠らないようにしましょう。
なお、未支給年金とは別に、遺族には遺族年金が支給される可能性がありますが、未支給年金と遺族年金とは違うため、請求の手続きは別になります。
2.相続放棄しても未支給年金を受給できる理由
相続放棄をすると、相続財産を受け取ることはできません。
ではなぜ、未支給年金は受け取ることができるのでしょうか。
それは、未支給年金は固有財産に該当するからです。
代表的な固有財産に、死亡保険金があります。死亡保険金は被相続人の死亡を原因として発生はしますが、被相続人の財産ではなく、受取人の固有財産となります。
未支給年金も同様の取り扱いとなり、相続放棄をした人でも受け取ることができるのです。
相続放棄は、相続財産を売却、譲渡、費消など手を付けた後では行うことができなくなりますが、未支給年金は相続財産ではないため、受け取った後でも相続放棄をすることが可能です。
未支給年金に関しては、次のような判例もあります。
国に対して未支給年金の支払いを求めた裁判の途中で原告が死亡し、その遺族がその裁判を承継できるのかどうかが争点となりました。
遺族は裁判を承継することはできず、裁判は終了しましたが、最高裁判所は、その中で、
「国民年金法19条1項は、『年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。』と定め、同条5項は、『未支給の年金を受けるべき者の順位は、第一項に規定する順序による。』と定めている。右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである。」
としています(最判平成7年11月7日)。
【出典サイト】裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
3.未支給年金を受け取ることができる遺族
ただし、未支給年金は誰でも受取人となれるわけではありません。次に該当する場合で、かつ、年金受給者と「生計を同じくしていた」人でなければなりません。
以下の番号の通りの優先順位があり、優先順位が高い人が生存している場合には、それより低い順位の人は受け取ることができません。
また、同順位の人が複数いる場合には、そのうちの1人が代表して受け取ります。
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- その他これら以外の3親等内の親族
「生計を同じくしていた」とは、次に該当するような場合をいいます。
- 住民票上、同一世帯である場合
- 住民票上、世帯は別であるが住所が同一である場合
- 住所が住民票上異なっているが、同じ家で生活を共にし、家計を一にしている場合
- 単身赴任や就学などにより住所が住民票上異なっているが、経済的な援助や定期的な音信や訪問が行われている場合
4.未支給年金を受け取る方法
未支給年金を受け取るためには、年金事務所または年金相談センターへ死亡の届け出と未支給年金の請求の届け出が必要になります。
特に死亡の届け出には期日があり、国民年金は死亡日から14日以内、厚生年金と共済年金は死亡日から10日以内と意外と早いため注意しなければなりません。
基本的な書類は次の通りですが、ケースごとに異なるため、事前に提出先の年金事務所に確認しておくと間違いありません。
死亡の届け出の必要書類
- 受給権者死亡届
- 被相続人の年金証書
- 死亡の事実を明らかにできる書類(死亡診断書のコピー、死亡届の記載事項証明書など)
未支給年金の請求の届け出の必要書類
- 未支給年金・未支払給付金請求書
- 被相続人の年金証書
- 被相続人と請求人の続柄を明らかにできる書類(戸籍謄本など)
- 被相続人と請求人が生計を同じくしていたことが明らかにできる書類(住民票など)
- 受け取りを希望する金融機関の通帳やキャッシュカード(ネット銀行などは対応していない場合があります。)
- 被相続人と請求人が別世帯の場合は「生計同一についての別紙の様式」
様式は日本年金機構のホームページからダウンロードすることができます。
【参考サイト】
年金を受けている方が亡くなったとき|日本年金機構
死亡した方の未払い年金を受け取ることのできる遺族がいるとき|日本年金機構
5.未支給年金を受け取る際の注意点
最後に、未支給年金を受け取る場合の注意点を解説します。
(1) 早めに手続きをする
手続きをしないまま放置すると、年金事務所は死亡の事実を把握することができないため、亡くなった年金受給者の受け取り口座を解約していない場合には、年金受給者が生きているものとして年金が振り込まれてしまいます。
もちろん、受け取る権利がない年金であるため、返金請求を受けることになります。
なお、バレなければ良いともらい続けた場合には不正受給であり、詐欺罪といった刑事罰の対象となる可能性があります。
(2) 未支給年金の受給権には時効がある
未支給年金の受給権には消滅時効があり、被相続人の年金支払い日の翌月の初日から起算して5年と定められています(国民年金法第102条第1項・厚生年金保険法第92条第1項)。
これを過ぎると未支給年金を受け取ることができなくなるため、注意しましょう。
(3) 未支給年金は所得税の対象になる
未支給年金は、受取人の固有財産であるため、相続税の対象になりません。(ただし、前述した死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の対象になります。)
その代わり受取人の一時所得になるため、未支給年金を受け取った年の一時所得の金額から、特別控除額50万円を差し引いた残額に対して所得税がかかります。
受け取った年の翌年3月15日までに忘れずに確定申告を行いましょう。50万円を超えない場合には所得税発生しないため、確定申告も不要です。
(4) 繰り下げ受給の確認
被相続人が年金の繰り下げ受給の待機期間中に死亡した場合には、65歳から死亡した月までが未支給年金になるため、遺族は請求できます。
この場合の時効の起算は65歳からとなるため、早めに請求しなければなりません。被相続人が65歳以上であるにもかかわらず、年金を受給していなかった場合には、その有無を必ず確認しましょう。
6.まとめ
未支給年金の受け取りと相続放棄は関係ありません。相続放棄をしている人、これから相続放棄を行おうとしている人いずれも受け取ることが可能です。
未支給年金は年金受給者であれば必ず発生するものであり、遺族が請求しなければ受け取れないことに注意してください。