生前贈与で必要になる契約書について
生前贈与は、贈与する側と贈与される側の合意により行われますが、この合意は口約束でも構わず、必ずしも契約書を作成する必要はありません。
一方で、生前贈与では、契約書を作成しないと、後々いろいろと問題になることがあります。
そこで、今回の記事では「生前贈与の契約書」に焦点を当てて、
- 生前贈与で契約書を作成すべき理由
- どのような内容の契約書を作成すべきか
などについてご説明します。
1.生前贈与では契約書を作成すべき理由
(1) 贈与の確実な履行を促す
契約書がない口頭だけの合意の場合は、生前贈与を確実に実施してもらえる保証はなく、贈与者の気が変わってしまっても、合意をしたとの証拠が残っていません。
対して、贈与契約書を作成しておくと、贈与を確実に実施してもらえます。
(2) 贈与があったことを証明できる
贈与については、相続税法上、被相続人が亡くなる前の駆け込み贈与を避けるために、原則、死亡前3年以内に贈与された財産は相続財産とみなされる、と定められています。
また、死亡の3年より前に行われた贈与についても、相続時の遺産分割では、相続人間の公平を図るために、その生前贈与分も考慮して遺産分割を行うことも多くあります。
贈与契約書を作成しておくことにより、贈与があった事実を証明することができますので、相続時の手続きや遺産分割を、よりスムーズにかつ公平に行うことができます。
(3) 税務署に贈与を否定されるリスクを回避する
相続税の申告の際に、その申告や納税された相続税が正しいかを確認するために、税務署による相続税の税務調査を受けることがあります。
この税務調査におけるチェックポイントの一つが「生前贈与」についてです。
生前贈与に関して、主に、次の2点がチェックされます。
名義預金
名義預金とは、たとえば、「名義は子供になっているが、実質的に管理しているのは子供ではなく親である預金」のことです。
子供名義の口座を作りその口座に生前贈与としてお金を振り込んでも、口座の管理を親が行なっていると、親の相続税の税務調査の際に、税務署に「名義預金」として親の財産と判断されてしまい、相続税の課税対象となってしまいます。
定期贈与
定期贈与とは「一定の財産を、定期的に贈与すること」、例えば「10年間毎年100万円、合計1000万円贈与する」このような贈与のことです。
定期贈与では、合計1000万円の贈与契約があって、それを毎年分割して贈与しているとみなされますので、1000万円に対して贈与税がかかります。
生前贈与を行なった都度贈与契約書を作成しておくことにより、親が勝手に行っている名義預金ではなく、受贈者である子供との合意のもと贈与を行なっている事実が証明できます。
また、定期贈与でもなく都度の贈与であった事実も証明する事ができます。
なお、名義預金については、贈与契約書の作成に加えて、子供が口座の管理も子供行っている必要があります。
例えば、通帳や印鑑の管理を子供にまかせて、可能であれば、その口座を子供に使ってもらうようにしましょう。
2.贈与契約書の書き方
ここでは、贈与契約書に記載すべき項目や、実際の贈与契約書の雛形について見ていきます。
(1) 贈与契約書に記載すべき項目
贈与契約書の書き方には、厳密なルールはありません。
しかし、後になって誤解やトラブルが起こらないように、次の項目を盛り込むようにしましょう。
- 贈与者の氏名・住所
誰が贈与するのか、贈与者の氏名と住所を記載して押印します。- 受贈者の氏名・住所
誰に贈与するのか、受贈者の氏名と住所を記載して押印します。- 贈与する日付
いつ贈与するのか、贈与契約の締結の日付と実際に贈与を実行する日付を記載します。- 贈与財産
何を贈与するのか、贈与財産の種目、内容、金額など財産に関する情報を記載します。- 贈与方法
どうやって贈与するのか、贈与の方法を記載します。
(2) 贈与契約書のひな形
次に、現金、不動産、株式を贈与する場合の贈与契約書のひな形をご紹介します。
現金を贈与する場合
不動産を贈与する場合
株式を贈与する場合
3.贈与契約書作成上の注意点
贈与契約書を作成する上で気をつけなければならない点が何点かあります。
ここでは、贈与契約書作成上の注意点について見ていきます。
(1) 契約書は2通作成
贈与契約書は、贈与者と受贈者の双方が1通ずつ保管できるよう、2通作成しましょう。
(2) 不動産の贈与には印紙が必要
贈与する財産によっては印紙が必要になります。
現金や株式などの動産を贈与する場合には、印紙は必要ありませんが、土地や建物といった不動産を贈与する場合は印紙が必要になります。
贈与契約書に契約金額の記載がなければ200円、契約金額の記載がある場合は、その金額に応じた印紙を貼付します。
不動産の無償贈与の場合は、200円の印紙を貼付することになります。
(3) 暦年贈与では贈与毎に契約書を作成
前節で見たように「定期贈与」とみなされないように、暦年贈与では贈与毎に契約書を作成しておくことが大事です。
定期贈与とみなされると、過大な贈与税が課税されてしまいますので、注意しましょう。
(4) 署名は自筆しておく
贈与契約書は、パソコン、例えばWordで作成しても構いません。しかし、「署名」については自筆で記載しましょう。
(5) 契約書の押印はできれば実印で
押印は実印でなくても認印でも構いませんが、より信頼性を高めるために、できれば実印を押印すればベストです。
(6) 受贈者が未成年の場合
受贈者が未成年の場合は、親権者の同意が必要です。
受贈者の氏名・住所・押印に加えて、親権者の氏名・住所・押印が必要になります。
4.まとめ
今回は、「生前贈与の契約書」について見てきました。
贈与は贈与者と受贈者の合意で成立しますので、必ずしも贈与契約書は必要ありませんが、後々のトラブル防止の観点から、贈与契約書は作成しておくべきです。
また、贈与契約書の書き方には厳密なルールはありませんが、誤解やトラブル防止のために、契約書に盛り込むべき項目がありますので、それらの項目を網羅した契約書を作成する必要があります。
生前贈与は節税対策にも活用できますので、実際に生前贈与をお考えの方はもとより、節税対策でお悩みの方についても、贈与や相続の経験豊富な信頼できる法律事務所に声をかけてみてはいかがでしょうか。