死後事務委任契約開始後の基本的な流れ
死後事務委任契約は委任者が死亡してからが本番です。受任者は契約内容通り、確実に死後事務を進めていかなければなりません。
死後事務委任契約開始後に受任者がやらなければならないことは、どのような事務を委任されたか契約内容によってそれぞれ異なりますが、基本的な流れは同じです。
今回は、死後事務委任契約が開始した後に受任者ができることの流れを解説します。
1. 役所への死亡届提出
死後事務委任契約では、委任者が、受託者に死亡届などの提出を依頼することができます。
「死亡届」は亡くなった方の戸籍を削除するための書類で、死亡の事実を知った日から7日以内に故人の本籍がある役所の戸籍課に提出しなければなりません。
死亡届の用紙は死亡診断書と同一となっているため、受任者は、死亡を確認した医師が作成した死亡診断書(または死亡検案書)を受け取り、死亡届側に必要事項を記入して役所へ提出します。
死亡診断書には発行対象者が定められている場合が多く、第三者である受任者がいきなり請求しても発行してもらえない可能性があり、受任者は、死後事務委任契約書を見せることで、死亡届の提出を委任されていることが証明できます。
詳しくは、後述しますが、こういったケースに対応するためにも、死後事務委任契約書は、できるかぎり公正証書化しておくほうがいいでしょう。
死亡届の提出時には、役所から入手した死体火葬許可申請書(市区町村によって名称や様式が異なります。)を一緒に提出することで代わりに発行される火葬許可証を、葬儀社へ渡します。
受任者が1人で数多くの委任事務を行わなければならない場合には手が回らないこともあり、葬儀社に死亡届と死体火葬許可申請書の提出を代行してもらうことも可能です。
【出典サイト】「死亡届」|法務省
2. 葬儀・火葬・埋葬に関する手続き
死後事務委任契約で受任者が葬儀や埋葬を依頼することも可能です。
葬儀や埋葬は、すべて委任者との契約内容通りに進めますが、装花の種類など取り決めていない細かな点が見つかった場合には、受任者が臨機応変に対応することになります。
(1) 委任者の希望に沿った方法での葬儀・火葬を行う
葬儀は委任者の人生最後の締めくくりであるため、委任者は、葬儀の内容に関する希望を受任者へしっかりと伝え、契約しておく必要があります。
受任者は、会葬者や関係者への連絡、喪主の依頼など、契約内容にある通りに実行していき、葬儀の主宰を務めることになります。
葬儀の上限金額だけでなく、葬儀会場の選定基準(和洋式等のコンセプト、会場の大きさ)、精進落としでふるまう料理、香典返しの品まで、できるだけ詳細に決めておくことをおすすめします。
(2) 委任者の希望にあった墓地・納骨堂への埋葬や散骨
葬儀と火葬が終わると、受任者は、遺骨を委任者の希望通りに墓地や納骨堂等への埋葬、または、委任者の希望の場所で散骨します。
菩提寺(先祖代々のお墓のあるお寺)があり、そこに納骨してほしい場合には、菩提寺に連絡して遺骨を持参してもらいます。
永代供養を希望している場合には、対応している寺院や霊園で手続きをしてもらいます。
委任者がその墓地に初めて入る場合には、墓石の建立も委任できます。
これらは委任者だからこそ分かることであるため、葬儀以上にしっかりと希望を伝えておきましょう。寺院の指定や墓石の金額など詳細に希望しておくことが重要になります。
3. 各種行政手続き・公共サービス等の解約・清算
委任者は、受託者に死亡後の各種の事務的な手続きを進めてもらうことができます。
この場合は、期限がある手続きもあるため、埋葬の準備と並行して行っていかなければなりません。
(1) 行政手続き
健康保険の資格喪失届と保険証の返還
健康保険は死亡日の翌日から資格を喪失します。
国民健康保険の場合には、死亡日から14日以内に資格喪失届を役所に提出して、保険証を返還します。
多くのサラリーマンが加入している協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合、事業主が資格喪失届を提出するため、受任者には事業主へ保険証を返還するのみの委任になります。
委任者が65歳以上(第1号被保険者)、または、40歳から64歳未満で介護保険の被保険者であった場合(第2号被保険者)には、介護保険の資格喪失手続きも同時に行ってもらいます。
委任者が何の健康保険や年金に加入しているのか、介護保険の被保険者になっているかどうか、生前に整理して受任者へ伝えておく必要があります。
国民年金・厚生年金の資格抹消
健康保険と同様に、年金も死亡の翌日に被保険者の資格を喪失します。
国民年金の場合には、死亡日から14日以内に資格喪失届を役所に提出します。
厚生年金の場合には、事業主が提出します。
所得税準確定申告
委任者が事業を行っていたなどで、死亡した年に所得税が発生する場合には、死亡日の翌日から4ヶ月以内に所得税の確定申告と納税を行わなければなりません。
顧問税理士がいる場合には、生前に死後事務委任契約のことを伝えて、可能であれば受任者を紹介しておきます。
また、申告には収入や費用に関する領収書などの資料が必要になるため、受任者に保管場所などを伝えておきます。
住民税や固定資産税の支払い
死亡した年度分までは委任者に支払い義務があるため、受任者が納税手続きを行います。
(2) 公共サービスの解約・清算
行政手続きの他にも、細々とした多くの手続きがあります。
これらに期限はありませんが放置していると、携帯の基本料金などのように無駄な月額費用が発生し続けてしまうものもあり、受任者の対応の遅れのせいで損害が発生したと、遺族から受任者が責められてしまう可能性があります。
受任者が効率よく進められるように、委任者は、何をしてもらうのか明確にしておきましょう。
- 電気・ガス・水道
- 電話
- 新聞
- インターネットプロバイダの解約・使用料金の清算
- スマートフォンアプリ
- クレジットカード
- 運転免許証の返納
- パスポートの失効 など
4.勤務先企業・機関の退職手続き
委任者が現役であった場合には、勤務先での手続きも様々依頼することができます。
しかしこれらの手続きは勤務先側が行うものであるため、受任者は死亡の連絡をするのみです。
退職手続き
「死亡=退職」という扱いになるため、健康保険、厚生年金、雇用保険などの資格喪失手続きを勤務先が行います。
受任者は保険証を返還します。
所得税の年末調整
死亡した年の1月1日から死亡日前までに支給された給与分については、勤務先で年末調整が行われ所得税が清算されます。死亡日後に支払われる給与は相続財産になるため、年末調整には含まれていません。受任者には源泉徴収票を受け取ってもらい、遺族へ渡してもらいます。
準確定申告が必要な場合には源泉徴収票が必要になるため、遺族へ連絡してもらい、受任者が再度預かります。
未払い賃金・弔慰金・退職金の受領
遺族が受領します。
5.住居引渡しまでの管理・遺品整理
亡くなる際にケアハウスなどや病院施設にいた場合には、受任者に退去手続きを依頼することもできます。
委任者が借家住まいだった場合には、まず大家・不動産管理会社へ連絡し、退去手続きをして引き渡し日を決めてもらいます。
これらも遺族でなければ手続きでもめる可能性がありますが、死後事務委任契約書を提出して関係性を証明することで解決できることがあります。
次に、自宅や入居施設などの遺品整理を受任者に行ってもらうことについてですが、遺品は相続財産になるため、整理を行うのは相続人が優先します。
委任者に相続人がいる場合には、死後事務委任契約を締結する時点で(推定)相続人から遺品整理に関する整理準備を行う許可を貰い、かつ委任者の死後は相続人として遺品整理に立ち会ってもらうと良いでしょう。
このような問題があるので、死後委任契約においては、相続人の有無について、確認が重要になります。
なお受任者の負担を考慮して、実際の整理を遺品整理業者に依頼しておくと、スムーズな整理と清掃を行うことができます。
6.デジタル遺品に関する手続き
委任者は、受任者にデジタル遺品についての手続きを依頼することもできます。
「デジタル遺品」とは、スマートフォンやパソコン、その内部に保存されたデータ、 SNSやクラウドストレージの保存データなどのことをいい、現代ならではの遺品といえるでしょう。
受託者が、デジタル遺品に関する手続きを依頼された場合、SNS、メールアカウントの削除、フォロワーや友人への通知など、委任者の希望通りに処理することになります。
万が一、ロック解除できない場合には、むやみに何度もトライされてしまうと、解除が不可能になったり、データが消失してしまったりする恐れがあるため、デジタル遺品を扱える遺品業者に依頼するように契約書に注記しておくと良いでしょう。
デジタル遺品はプライベートの塊であり、誰でもあまり人に見られたくないものです。情報流出などの万一が起こることのないように、厳密に取り決めておきましょう。
7.まとめ
死後事務委任契約で受任者が行えることは多岐にわたります。
委任者の生前に契約内容についてしっかりと話し合い、契約開始後を明確にイメージできておくことが、死後事務を流れに沿ってスムーズに進められるコツです。
死後事務委任契約は弁護士にご相談ください。直接の受任者にはならず、受任者をサポートする形も可能です。
泉総合法律事務所では、死後事務委任契約についてのご相談にも対応しております。ご不明な点やご不安な点がありましたら、是非一度、ご相談ください。