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家族信託

家族信託における信託管理人・信託監督人・受益者代理人とは?

家族信託の基本的な当事者は、委託者・受託者・受益者の3者です。
これに加えて、受益者の保護や信託事務の円滑化などを目的として、「信託管理人」「信託監督人」「受益者代理人」が選任されることがあります。

「信託管理人」「信託監督人」「受益者代理人」の役割には共通する部分が多いですが、選任されるケースや権限の内容が少しずつ異なるので、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

この記事では、「信託管理人」「信託監督人」「受益者代理人」の概要およびそれぞれの間の違いについて解説します。

1.信託管理人・信託監督人・受益者代理人とは?

「信託管理人」「信託監督人」「受益者代理人」の3つは、いずれも受益者保護や信託事務の適正化・円滑化などを目的として選任される、信託における役職です。

家族信託を含む「信託」では、受益者が信託財産に対する権利を有します。
しかし何らかの事情により、受益者が権限を行使できない場合や、受益者のサポートが必要となる場合には、受益者の味方として頼りになる人を配置しておく必要があります。

また、受益者が多数である場合には、統一的な窓口となる担当者を用意しておく方が、受託者にとっても信託事務を円滑に遂行することに繋がります。

そこで、「信託管理人」「信託監督人」「受益者代理人」には、受益者の利益を保護し、かつ受託者が信託事務を滞りなく行うための潤滑油としての役割が与えられているのです。

2.信託管理人・信託監督人・受益者代理人の違い

信託管理人 信託監督人 受益者代理人
受益者の有無 なし あり あり
役割
  • 将来の受益者の保護
  • 受託者に対する監督
  • 受益者不在の信託の適正管理
  • 受益者全員の保護
  • 受託者に対する監督
  • 信託事務の円滑化
  • 特定の受益者の保護(代理権あり)
  • 受託者に対する監督
  • 信託事務の円滑化
権限の行使 自己の名をもって行う 自己の名をもって行う 受益者を代理して行う

「信託管理人」「信託監督人」「受益者代理人」の3者には、おおむね共通の役割が与えられています。

ただし、選任される場面や、権限の内容が少しずつ異なるので、それぞれの違いを理解しておきましょう。

(1) 信託管理人は受益者不在の場合に選任

3つの中で、「信託管理人」だけは、受益者が不在のケースで選任されます(信託法123条1項)。

たとえば、以下のようなケースでは、信託の受益者が一時的に不在となります。

  • これから生まれてくる子を受益者として指定した場合
  • 一定の条件を満たした者を受益者とする旨が定められているが、条件を満たす者がまだ現れていない場合
  • 受益者を指定する権利を有する者が、まだ指定権を行使していない場合(信託法89条)
  • 受益者の定めのない信託の場合(信託法258条以下)

これらの場合には、将来受益者が発生したときに備えて、信託が健全に維持・運営されなければなりませんし、受託者はその義務を負っています。
しかし、具体的な受益者がいない段階では、受託者に対する監督が十分に機能しないおそれがあります。

そこで、信託管理人を選任して、受益者のために法律行為をする権限を与えることができるものとされました。

つまり信託管理人には、将来の受益者の利益を保護するために、受益者不在の状態である信託の適正な維持・運営を監督する役割が期待されているのです。

(2) 信託監督人と受益者代理人の違い

「信託監督人」と「受益者代理人」は、信託管理人とは異なり、いずれも受益者が現に存在するケースで選任されます(信託法131条1項、138条1項)。

信託監督人と受益者代理人の役割は、おおむね共通しています。

いずれも受益者を保護するために受託者の職務執行を監督し、さらに受益者が多数の場合には、信託事務の円滑化のために統一的な窓口としての役割を果たすことが期待されています。

その一方で、信託監督人と受益者代理人には大きな違いもあります。

①代理権の有無

まず、「受益者を代理する権限(代理権)の有無」です。

信託監督人は、受益者の代理権を有しません
したがって、信託監督人が受益者のために権限を行使する際には、自己の名をもって行うことになります(信託法132条1項)。

これに対して受益者代理人は、受益者の代理権を有しています(信託法139条1項)。
つまり、受益者代理人の行為は、いずれも受益者本人に直接、その効果が帰属することになります。

また、受益者代理人が選任されている場合には、受益者本人は、受益者としての権利の大部分を自ら行使することができません。
この点を考慮すると、一般に受益者代理人の権限は、信託監督人よりも強力であると評価すべきでしょう。

ただし、信託行為(信託契約・遺言など)によって個別に定めれば、信託監督人に代理権を与えることも、受益者代理人の代理権をはく奪することもできます。

したがって、上記は信託法の原則的なルールというだけで、実際には、信託監督人と受益者代理人の代理権の有無に関する違いは相対的なものとなっています。

②保護対象受益者の範囲

代理権の有無に関する違いと関連して、信託監督人と受益者代理人の間には、保護対象となる受益者の範囲に違いがあります。

信託監督人の場合、受益者全員のために権限を行使する義務を負っています(信託法133条2項)。
つまり信託監督人は、一部の受益者を特別扱いして、その受益者のためだけに行動することは原則として認められません(信託行為で代理権が付与されている場合を除く)。

これに対して受益者代理人は、代理する受益者を指定したうえで選任されます(信託法138条1項)。

したがって受益者代理人は、代理する受益者のためだけに権限を行使すればよく(信託法140条2項)、ほかの受益者のために権限を行使する必要はないのです。

3.信託管理人・信託監督人・受益者代理人の選任方法

信託管理人・信託監督人・受益者代理人の選任方法には、大きく分けて①信託行為による指定と②裁判所による選任の2つがあります。

(1) 信託行為によって指定

信託管理人・信託監督人・受益者代理人は、原則として、信託契約や遺言などの信託行為により指定されます(信託法123条1項、131条1項、138条1項)。

信託行為によって指定された人が就任を承諾することにより、信託管理人・信託監督人・受益者代理人が正式に選任されます。

なお、就任を承諾するかどうかについての回答がない場合には、利害関係人が、相当の期間を定めて確答すべき旨の催告をすることが認められています(信託法123条2項、131条2項、138条2項)。
相当の期間内に確答がない場合には、就任を拒否したものとみなされます(信託法123条3項、131条3項、138条3項)。

(2) 信託管理人・信託監督人は裁判所による選任も可

信託管理人と信託監督人の2つについては、信託行為による指定がない場合や、信託行為で指定された人が就任を拒否した場合には、利害関係人が裁判所に選任を申し立てることが認められています。

裁判所は、信託管理人・信託監督人を選任する必要性や、人選に関する検討を行った上で選任の裁判を行います。

裁判所により選任の裁判があった場合、信託行為による指定が行われた場合と同様に、候補者の承諾により正式に就任が決定します(信託法123条5項、131条5項。拒否することもできます)。

なお、受益者代理人が選任された場合には、代理権および受益者本人の権限行使の制限という強力な法律効果が発生します。

そのため、受益者代理人については、利害関係人の申立てに基づく裁判所による選任は認められていません。

4.誰に任せるべきか

信託管理人・信託監督人・受益者代理人には、受託者の職務執行を客観的に観察・分析し、必要に応じて適正なクレームを入れることのできる人を配置すべきです。

(1) 信頼できる親族

信託に関する知識を有していて、かつ人格的にも信頼できる親族がいれば、その人に信託管理人・信託監督人・受益者代理人を任せることも考えられるでしょう。

親族であれば家庭の事情にも精通しているでしょうし、受託者を近くで観察しやすいメリットもあります。

必要に応じて弁護士に相談できる態勢を整えておけばより安心です。

(2) 弁護士など

信託管理人・信託監督人・受益者代理人としての適任者が親族内にいなければ、弁護士などの専門家に就任を依頼することも有力な選択肢です。

弁護士は信託に関する知識や経験を豊富に有していますので、受託者の職務執行を適正に監督することができます。

また、生前対策や相続手続きとセットで相談・依頼すれば、その過程で弁護士がご家庭の事情にも通じるようになります。

そのため、ご家庭の事情に応じたオーダーメイドの対応という観点からは、生前対策や相続手続きと併せて、家族信託の監督についてもご相談いただくことをお勧めいたします。

5.まとめ

何らかの事情により家族信託の受益者が権利や監督権限を行使できない場合、または行使が困難な場合には、信託管理人・信託監督人・受益者代理人の選任を検討しましょう。

親族の中に適任者がいなければ、弁護士に就任を依頼することも考えられます。
弁護士にご相談いただければ、家族信託のスキーム検討・信託契約書の作成・実際の信託運用など、幅広い範囲で家族信託による生前対策をサポートいたします。

家族信託にご関心をお持ちの方、運用方法についてお悩みの方は、ぜひ一度泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。

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