家族信託契約を公正証書化するメリット・デメリット
家族信託契約の効力を確実なものとするためには、公正証書の方式で契約書を作成することがお勧めです。
今回は、家族信託契約を公正証書化するメリット・デメリット・手続きなどを詳しく解説します。
1.「家族信託」と「公正証書」の概要
まずは、「家族信託」と「公正証書」について、それぞれの基本的な概要を理解しておきましょう。
(1) 家族信託とは?
家族信託とは、委託者が、信頼できる親族などの受託者に財産の所有権を移転し、受益者のためにその財産を管理・処分することを任せる仕組みをいいます。
被相続人となる人が委託者として家族信託を行うことにより、孫の代まで遺産承継の方法を指定できる・認知症対策になるなど、相続・終活対策として近年注目されています。
→家族信託
(2) 公正証書とは?
公正証書とは、公証人が作成する公文書をいいます。
公証人とは、国民の権利義務等に関する適法性などを証明する公務員です。
裁判官・検察官などのOBが就任するケースが多く、公証人が作成する公正証書は、法律文書として高い証明力を有すると考えられています。
2.家族信託契約を公正証書化するメリット
家族信託契約を公正証書の方式で作成することの最大のメリットは、偽造・改ざん・紛失などのリスクがない点です。
①偽造
家族信託契約を作成するのは公証人であり、その際当事者の立会いが必要となります。
そのため、第三者が当事者の名義を冒用して、勝手に家族信託契約を締結することはできません。②改ざん・紛失
公正証書の原本は、公証役場で保管されます。
そのため、第三者により家族信託契約の内容が改ざんされることはなく、また紛失のおそれもありません。
偽造・改ざん・紛失のリスクがないことは、契約書としての信用性が高く認められることにも繋がります。
家族信託は、被相続人となる方の大切な資産に関する契約なので、公正証書の形として万全を期すのがよいでしょう。
3.家族信託契約を公正証書化するデメリット
家族信託を公正証書化するデメリットは、公証役場での手数料がかかる点です。
後に紹介しますが、信託財産の価額に応じて公証役場に手数料を支払う必要があります。
ただし、手数料額自体はそれほど高額ではないので、できる限り公正証書の方法で家族信託契約を作成することをお勧めいたします。
4.家族信託契約を公正証書で作成する手続き
公正証書の方式で家族信託契約を作成する場合、おおむね以下の流れで手続きを行います。
(1) 家族信託契約の内容を検討する
家族信託契約は定型的な書面ではなく、委託者の要望に応じてオーダーメイドで内容を設計する必要があります。
以下のような様々な事項を検討したうえで、家族信託契約に盛り込まなければなりません。
- 信託財産は何か
- 信託財産の管理にはどのような事務が必要か
- 信託財産の運用方法はどうするか
- 誰を受益者とするか
- 信託終了時に財産を受け取る人は誰にするか など
検討内容に漏れが生じることを防ぐためには、弁護士に相談しながら検討を行うことをお勧めいたします。
(2) 家族信託契約書の条項を作成する
正式な契約書を公正証書で作成する前に、家族信託契約書の条項を作成しておきます。
実際に契約書の条項を作成する際には、明確な文言を用いて、かつ取り決めた内容を漏れなく記載しなければなりません。
契約書作成に特有の言い回しや注意点なども存在し、正確に条項を作成するためには十分な注意を要します。
契約書作成の条項作成について不安がある場合には、弁護士のアドバイスを受けると良いでしょう。
(3) 公証役場で公正証書作成の手続きをとる
家族信託契約の条項が固まったら、公証役場にアポイントメントを取り、公正証書作成の手続きを行います。
まずは公証人に対して、事前に作成した家族信託契約の条項を送付し、公正証書作成の準備作業を行ってもらいます。
そして、公正証書作成の準備が整った段階で、契約当事者が公証役場に足を運び、最終確認のうえで原本に署名・押印を施します。
その後、公証人により、公正証書の原本に署名・押印がなされることで、公正証書は完成します。
完成した公正証書の原本は、公証役場で保管されます。
契約当事者は、公正証書の正本および謄本の交付を受けられるので、大切に保管しておきましょう。
なお、公証役場に持参すべき主な必要書類は以下の通りですが、信託財産の内容や当事者などによって異なります。
<必要書類>
- 信託契約書
- 当事者の本人確認書類
- 当事者の印鑑証明書
- 信託財産が不動産の場合、登記事項証明書、固定資産評価証明書(または固定資産税課税証明書) など
実際の公正証書作成手続きをどのように進めるかについては、公証役場との調整を弁護士にご依頼をいただくことをお勧めいたします。
5.家族信託契約を公正証書化する際の費用
家族信託契約を公正証書化する場合、主に「公証役場の手数料」「登録免許税(不動産の場合)」「専門家への依頼費用」がかかります。
(1) 公証役場の手数料
家族信託契約を公正証書化する際の手数料は、公証人手数料令別表の定めに従い、以下のとおりとなります。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43000円+5000万円までごとに13000円ずつ加算 |
3億円を超え10億円以下 | 95000円+5000万円までごとに11000円ずつ加算 |
10億円超 | 249000円+5000万円までごとに8000円ずつ加算 |
信託財産の価額が大きくなればなるほど、手数料の割合は下がる傾向にあります。
(2) 登録免許税(信託財産が不動産の場合)
信託財産に不動産が含まれる場合、信託譲渡による所有権移転の際に登録免許税を納付する必要があります。
信託譲渡による登録免許税は、不動産価格の1000分の4(0.4%)です。
(3) 専門家への依頼費用
家族信託契約の作成を弁護士などの専門家に依頼する場合には、依頼費用が発生します。
弁護士の場合、家族信託の依頼費用は33万円~55万円程度(税込)を下限として、信託財産の価額に応じて決まることが多いです。
詳しい費用感については弁護士にご確認ください。
6.家族信託契約の公正証書化は弁護士に相談を
家族信託を設定する際には、委託者となる方の意向に沿って、信託契約書の内容をきちんと作り込む必要があります。
家族信託を設定する目的は個々人で異なり、また信託財産の種類や運用方法も様々です。
そのため、状況に合わせて適切な契約内容を設計することが大切になります。
弁護士にご相談いただければ、依頼者のご要望やご家庭のご事情に応じて、ご要望を適切に実現できるような契約内容をご提案いたします。
また、信託契約を公正証書化する手続きについても、弁護士が全面的にサポートいたしますので、安心してご依頼いただけます。
家族信託による相続対策をご検討中の方は、ぜひ一度泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。