事業承継は誰に相談すべき?相談先はどこがよいか?
日本の事業承継は、従来、子が家業を継ぐという親族内承継がほとんどでした。しかし、近年では生き方の多様性を親が認めるようになり、子に継がせたいという経営者は減少傾向にあります。社員やM&Aなどの親族外承継もメジャーになりつつあり、事業承継を考えている経営者をさらに悩ませていることでしょう。
何十年も必死に働き、ふと事業承継を考え始めたとき、まずは何をしたら良いのでしょうか。
一朝一夕で済まない事業承継だからこそ、早め早めに専門家へ相談しておくことをおすすめします。
今回は、事業承継の相談先について解説します。
1.事業承継は誰に相談すべきか
事業承継に関しては、税金(税理士)や法律(弁護士)のように、国が定めた専門家がいるわけではありません。
そこで、それぞれの会社の状況に応じて、適切な相談先を選ぶ必要があります。
(1) 弁護士
事業承継にはあらゆる方向から法律や権利が絡んできます。例えば、法律上の紛争回避、相続人の遺留分への考慮、事業承継のための遺言作成、定款の変更、および会社法上の制度利用などです。
法律の専門家である弁護士に相談するメリットは、先だって解決すべき法的課題を発見、解決することができることでしょう。
また、中小企業の経営者はご自分の会社との間に様々な取引を行っていることがあります。例えば、自宅を社宅にしている、経営者の預金を貸し付けている、経営者の土地を会社に貸しているなどです。
経営者の生存中であれば何ら問題ないことではありますが、相続が発生すると、かかる財産は経営者の相続財産になるため問題が発生することが多々あります。
こういったケースに対応するためにも、弁護士であれば、将来の相続対策まで相談に乗ってもらうことができます。必要に応じて遺言書の作成もサポートしてもらえるでしょう。
一方で、弁護士に相談するデメリットとしては、他の相談先に比べて、相談料が高くなる可能性があることが挙げられます。
また、M&Aを考えている場合には、会計や税務の知識も必須になることから、会計士・税理士の力も借りなければならなくなります。そうなると、弁護士と税理士の双方に相談料が必要になるため、相談料が大きな負担になってしまうでしょう。
(2) 顧問税理士
ある程度の規模の中小企業であれば、顧問税理士を雇っていらっしゃることでしょう。顧問税理士であれば、何年にも渡ってその会社を見守ってきており、財政状態はもちろん、普段の会話から経営者家族や従業員の内情まで知っている税理士もいます。
また、税理士は中小企業が主な顧問先であるため、その地域の同世代の事業承継の状況を聞くことができ、ご自分に当てはめて具体的にイメージしやすくなります。
簡単な相談であれば顧問料に込々で行ってもらえることが多いこともあり、事業承継の相談先としてまずは有力な候補になるでしょう。
ただし、税理士のほとんどは事業承継を年間に何件も取り扱っていることは少なく、あっても数年に一度程度です。特にM&Aを行いたい場合には、知識や人脈が足りない可能性があること、また法務を知る弁護士も必要になります。
(3) M&A仲介業者・コンサルティング会社
事業承継に特化した民間の機関です。弁護士や税理士などの士業とは違い、国家資格に基づいて行われているわけではありませんが、事業承継に詳しい専門家が集結しており、様々な角度からの提案を受けることができます。
特に、常に最新の動向を把握しておく必要があるM&Aに関しては頼もしい存在になるでしょう。
また、ほとんどの業者が当たり前に弁護士や税理士と連携しているため、士業にもきちんと相談することができ、法務や税務に外れることはない安心もあります。
M&Aを行う際には、まずは買い手探し、条件交渉、従業員や取引先への説明会、事務的な手続きなど、様々な経過があって完了します。M&A仲介業者やコンサルティング会社であれば、この一連の流れをすべて一手に引き受けてもらえる点が最大の魅力でしょう。
ただしその分、報酬が高額になる可能性がある点に注意しなければなりません。
(4) 取引先金融機関
近年では事業承継に力を入れている金融機関も多く、事業承継専門窓口を設けているところもあるほどです。
特にメインバンクとは長年の付き合いがあるでしょうし、企業側もお客様の立場として士業よりも話しやすいという点が最大のメリットでしょう。
ただ、金融機関に相談したところで、金融機関にはそれほど解決する力がないというのが実情です。
結局は、相談した金融機関から専門家を紹介されるといった二度手間になり、さらにその後の関係性を考えると紹介を断りにくくなります。M&Aを希望する買い手先を紹介されるとなれば、もっと悩ましい状況になるでしょう。
金融機関が事業承継の相談を受けるのは、主に、そこから生まれる利益を得るためです。本来必要ない融資を前提とした事業承継プランなどを提案されることもあり得ます。仲が良いからといって、会社のことを1番に考えてもらえるとは限りません。
また、借入金の返済が終わっている場合には、金融機関との関係が希薄になっているため、さらに誠実な対応が望めない可能性もあります。
(5) 商工会議所
商工会議所は経営者向けの様々なサポートを実施しています。商工会議所ごとに特色があり、取り組みが異なっています。
会員であれば、ほとんどのサービスを無料で受けることができ、様々な専門家へ気軽に相談することができます。事業承継についての知識を無料で得られる点が最大のメリットです。
しかし、どれだけ知識を得たところで、実際に手続きを進めていく際には、弁護士や税理士への依頼が必要になります。
経営者がまだ若く、とりあえず事業承継について勉強しておきたいという場合には適している相談先ではありますが、スピード感を求めている状況には向いていません。弁護士、税理士、M&A仲介業者へまず相談した方が話は早く進みます。
(6) 事業引き継ぎ相談窓口・事業引継ぎ支援センター
中小企業は国の経済を担っている存在であり、国は中小企業の事業承継問題を重く捉えています。
そこで、少しでも事業承継が行われ、継続していく中小企業が増えるように、国は「事業引継ぎ相談窓口」を全国47都道府県に設置しています。中小企業庁から委託を受けた公的機関になり、事業承継に関する相談を無料で受け付けています。
また「事業承継・引継ぎ支援センター」は、「事業引継ぎ相談窓口」よりも、より専門的で具体的な相談が受けられる機関であり、全国に7ヶ所(北海道・宮城県・東京都・静岡県・愛知県・大阪府・福岡県)設置されています。
M&A仲介業者ほど徹底したサポートは受けられませんが、事業承継に特化した公的機関であり、公平な立場から無料で様々なアドバイスを受けられる点がメリットです。
金融機関や商工会議所に相談するよりも、格段に有益な情報が得られる可能性が高いでしょう。
2.事業承継の相談先を見極めるポイント
事業承継の相談先は、色々あることが分かりました。
事業承継は専門家なしで成し遂げることは、ほぼ不可能と思っていて良いでしょう。それだけ専門知識が必要となる手続きになります。
それでは、その中からどうやって相談先を見極めたらよいのかについて解説します。
(1) 無料相談が可能か
事業承継には多額のお金が必要になることがほとんどです。相談料0円は大きな判断基準になるでしょう。
しかし、無料相談ではそれなりのアドバイスしか受けることができません。具体的に事業承継をサポートしてもらうとなると、当然ながら無料の範囲は超えることになります。
無料相談ですべてを賄おうとするのではなく、無料相談でも手に入れられる情報や知識については最大限利用するという感覚でいた方が良いでしょう。
無料相談先としては、金融機関、商工会議所、事業引き継ぎ相談窓口、事業引継ぎ支援センターが該当しますが、この中で最も事業承継に関して豊富な知識を持っているのは、事業引継ぎ支援センターでしょう。県内や隣県にない場合には、事業引き継ぎ相談窓口もおすすめです。
(2) 事業承継・M&Aの実績の確認
事業承継と一言に言っても、会社ごとに状況は異なり、100社あれば100通りの事業承継が行われます。
事業承継を進行していく途中においても、予測できない事態が起こる可能性は高く、そのような場合においても臨機応変に対応できる力は、実績によって養われる部分が大きいです。
弁護士や税理士、M&A仲介業者に依頼する場合には、過去の実績件数を重視しましょう。
(3) 会計・税務・法務に詳しいか
事業承継にこれらの知識は必須となります。ここを疎かにして事業承継を進めることは不可能であり、ここを無視した事業承継は後々トラブルへと発展し、失敗する可能性が高くなります。
弁護士であれば税理士と、税理士であれば弁護士と、M&A仲介業者であれば弁護士と税理士のどちらともと連携体制ができているかどうかは重要です。必要に応じて司法書士や他の専門家が必要になる場合もあるため、弁護士と税理士以外にも連携体制があると安心です。
広告では連携をうたっていても、実際にはすぐに相談できる環境にないということもあるため、注意しましょう。
(4) 報酬体系の確認
公的機関であれば無料相談、相談先によっては初回相談無料などありますが、事業承継を進めていくためには、結局は報酬を支払うことになります。
報酬体系は依頼先によって様々になるため、事前の確認が重要です。特にM&A仲介業者は成功報酬としているところが多いため、高額な事業承継が行われる場合には注意しなければなりません。
報酬を聞いても明確な料金表を提示しない専門家は、怪しいと思ってかかりましょう。
(5) 担当者との相性
事業承継を始めてから完了するまで、その担当者とは年単位を共にすることになります。事業承継は経営者としての最後の大仕事であり、経営者がそれまで何十年と積み上げてきた努力の集大成になります。
その集大成を手伝ってもらう担当者の人柄や実績、実力、コミュニケーション能力なども重要です。
「あ、この人はちょっと。」と思うことがあれば、遠慮なく変更を申し出るか、その依頼先を考え直しましょう。経営者の方のそのような勘は、根拠はありませんが信頼できるものです。
3.まとめ
事業承継は専門家のサポートが必須になります。
まず事業承継についてある程度の知識を得たいという場合には、無料相談を利用しましょう。具体的に実行する際には、弁護士や税理士、M&A仲介業者に依頼します。
まだ漠然としている、何から手を付けて良いか分からないという場合には、とりあえず弁護士へご相談ください。事業承継を行うにあたって、法的な面からその会社に必要なことを紐解いていきます。
泉総合法律事務所では、事業承継のお手伝いもさせていただいております。詳しくは、是非一度ご相談ください。