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遺産分割

相続法改正|遺産分割前の預貯金の仮払い制度とは?

ご家族が亡くなった直後には、葬儀などを中心として多くのお金が必要となります。
もし相続人の方が費用を工面することが難しい場合には、「預貯金の仮払い制度」の活用を検討しましょう。

預貯金の仮払い制度は、2019年の相続法改正で新設された制度です。
今回は、預貯金の仮払い制度について詳しく解説します。

1.遺産分割前の預貯金の仮払い制度とは?

預貯金の仮払い制度とは、被相続人の遺産に属する預貯金の一部を、相続人が単独で引き出すことを認める制度です。

ご家族が亡くなった場合、被相続人の身辺処理や葬儀などに多額の費用がかかります。
その際、被相続人の遺産に属する預貯金を活用するために、「預貯金の仮払い制度」を利用することが有効な解決方法となります。

(1) 被相続人の預貯金の引き出しには相続人全員の同意が原則

分割前の遺産は相続人全員の共有であるため(民法898条)、遺産に属する預貯金を引き出すためには、相続人全員の同意が必要となるのが原則です(民法251条)。
ただし、預貯金の引き出しをするかどうかについて、相続人間で意見が一致するとは限りません。

上記の原則に従うと、一人でも相続人が反対すれば預貯金を引き出すことができないので、特に、被相続人の財産に依拠して生活をしていた相続人が当面の資金確保に難儀する事態が生じてしまう可能性があります。

(2) 民法909条の2「遺産の分割前における預貯金債権の行使」の新設

そこで、預貯金の仮払い制度では、相続人が当面の必要生計費・平均的な葬式の費用などとして必要な資金を確保できるように、一定の上限を設けたうえで、相続人が単独で遺産に属する預貯金を引き出すことを認めたのです(民法909条の2)。

預貯金の仮払い制度を利用して引き出された預貯金は、制度を利用した相続人が遺産分割によって取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。
したがって、預貯金を引き出した相続人は、後で他の相続人に対して引き出した金額を返還する必要はありません。

とは言え、遺産分割協議では、法定相続分にかかわらず、共同相続人の合意によって自由に遺産分割の方法を決めることができます。
したがって、仮払い制度によって預貯金が引き出されたとしても、その金額を遺産分割の際に考慮するかどうかは、遺産分割協議次第となります。

(3) 預貯金の仮払い制度を活用すべきケース

預貯金の仮払い制度を活用することが有効になり得るケースとしては、以下のようなものが想定されます。

  • 葬儀費用としてまとまった資金が必要である
  • 被相続人と同居していた相続人の生活費が不足している
  • 被相続人の借金や、被相続人が借りていた家の賃料を支払わなければならない など

    2.遺産分割前に仮払いを受けられる預貯金の金額は?

    預貯金の仮払い制度は、あくまでも相続人の当面の生活費や葬儀費用などの資金を賄うために認められたものです。

    そのため、仮払いを受けられる金額には、一定の上限が設けられています。
    (なお、仮払金の使途が法律によって限定されているわけではありません。)

    (1) 仮払いの上限額の計算方法

    預貯金の仮払い制度によって仮払いを受けられる預貯金の上限額は、一つの金融機関につき、以下①②のうち、いずれか低い金額となります。

    ①預貯金債権額×3分の1×当該相続人の法定相続分
    ②150万円

    (2) 仮払い金額の計算例

    以下の設例を用いて、遺産分割前に預貯金の仮払いを受けられる上限額を計算してみましょう。

    <設例>
    ・被相続人は、相続開始時点でX銀行に600万円、Y銀行に900万円、Z銀行に1,200万円の預貯金を有していた
    ・相続人は配偶者A、長男B、長女Cの3名
    ・Aは、生活費を工面するため、預貯金の仮払い制度を利用したいと考えている

    上記の設例において、Aが遺産分割前に仮払いを受けられる預貯金の上限額を計算します。

    まず、被相続人が各銀行に対して有した預貯金債権の金額を用いて、「債権額×3分の1×Aの法定相続分(2分の1)を計算すると、以下のようになります。

    X銀行:600万円×3分の1×2分の1=100万円
    Y銀行:900万円×3分の1×2分の1=150万円
    Z銀行:1200万円×3分の1×2分の1=200万円

    このとき、X銀行とY銀行については150万円を超えていないため、上記の金額(①)がそのまま仮払いの上限額となります。
    これに対して、Z銀行については150万円を超えているため、仮払いの上限額は150万円(②)となります。

    したがって、最終的にAが各銀行から仮払いを受けられる金額の上限は、以下のとおりです。

    X銀行:100万円
    Y銀行:150万円
    Z銀行:150万円
    合計:400万円

    3.預貯金の仮払いを受けるための手続き

    預貯金の仮払い制度を利用するためには、被相続人が預貯金を有していた金融機関の窓口で手続きを行う必要があります。

    (1) 金融機関に対して仮払いの申請を行う

    2019年7月1日に改正相続法が施行されて以降、各金融機関では預貯金の仮払い制度への対応を行っています。

    金融機関の窓口や電話で、預貯金の仮払い制度を利用したい旨を伝えれば、必要な手続きを案内してもらえるでしょう。

    (2) 仮払い申請の際の必要書類例

    預貯金の仮払い制度を利用できるのは、相続権を有する共同相続人のみです。
    したがって、金融機関の窓口で預貯金の仮払いを申請する際には、相続権があることを証明するための資料を提出する必要があります。

    預貯金の仮払いを申請する際に必要となる書類の例は、主に以下のとおりです。

    • 被相続人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
    • すべての相続人の戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)または戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
    • 仮払いの申請を行う相続人の印鑑登録証明書

    なお、法務局にて「法定相続情報証明制度」の利用を申し出ている場合、戸籍謄本等については、法務局が発行する「法定相続情報一覧図」の写しで代用することも可能です。

    4.預貯金の仮払い制度を利用する際の留意点

    預貯金の仮払い制度は、相続人の資金不足を解消し得る便利な制度ですが、その一方でトラブル防止のため、以下の各点に留意しておきましょう。

    (1) 法定単純承認が成立する可能性

    預貯金の仮払い制度によって相続人が取得した預貯金は、相続財産の一部としての性質を持ちます。

    したがって、仮払いを受けた預貯金を自分のために使うと、「法定単純承認」(民法921条1号)が成立する可能性があり、それ以降は限定承認(民法922条)や相続放棄(民法939条)ができなくなってしまいます。

    そのため、相続財産の中に多額の債務が含まれている場合には、預貯金の仮払い制度の利用は避けた方が無難でしょう。

    なお、仮払金を葬儀費用に充てた場合、その金額が合理的な範囲に収まっていれば、法定単純承認は成立しないと解されています。

    限定承認や相続放棄が想定されるケースで、葬儀費用に充てるために預貯金の仮払い制度を利用したい場合には、念のため弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

    (2) 仮払金を使ったら領収証を保管すること

    葬儀費用や被相続人の借金の返済など、相続人全員のために使用することを前提として、預貯金の仮払い制度を利用するケースも多いかと思います。

    しかし、仮払いを受けた預貯金の使途を証明できなければ、他の相続人から「自分のために使ったのでは?」などと疑われ、トラブルに発展する可能性もないとは言えません。

    そのため、仮払いを受けた預貯金を使用する際には、必ず領収証を保管しておき、他の相続人に対して使途を説明できるようにしておきましょう。

    5.預貯金の仮払い金額が足りない場合の対処法

    前述のとおり、遺産分割前に仮払いを受けられる預貯金には上限額が設けられているため、仮払いを受けてもなお、生活費や葬儀費用などとして必要な資金が不足することも考えられます。

    その場合には、以下の対応をとることによって、資金不足の問題を解決できる可能性があります。

    (1) 相続人全員の同意を得て上限額を超えた預貯金を引き出す

    遺産分割前の相続財産は、相続人全員の共有となります(民法898条)。
    したがって、相続人全員の同意があれば、「預貯金の仮払い制度」の上限額を気にすることなく被相続人の預貯金を引き出すことが可能です(民法251条)。

    もし他の相続人全員の同意が得られるのであれば、相続人全員の連名で同意書を作成し、金融機関の窓口に提出しましょう。

    金融機関で審査に一定の期間を要する可能性はありますが、相続人全員の同意が確認されれば、最終的に預貯金の払い戻しが認められるでしょう。

    (2) 家庭裁判所に対して仮処分を申し立てる

    遺産に属する預貯金の払い戻しについて相続人全員の同意が得られず、債務の弁済や生活費や葬儀費用支弁等のために、一定額の払い戻しを急いで受ける必要がある場合には、家庭裁判所に対して仮分割の仮処分の申立てを行うことも考えられます。

    遺産分割調停または審判が申し立てられている場合に限られますが、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁などのために必要と認められる場合には、相続人などの申立てにより、家庭裁判所がその者に預貯金を仮に取得させることできるとされています(家事事件手続法200条3項本文)。

    この仮処分申立てを活用すれば、民法上の仮払い制度で認められている上限額を超えて、預貯金の払い戻しを受けられる可能性はあります。

    ただし、同200条3項但書に「他の共同相続人を害するときは、この限りでない。」と定めがあり、民法上の仮払い制度による上限額を超えて払い戻しが認められるかどうかは容易ではない、と思われます。

    また、前述の民法上の仮払い制度とは異なり、家庭裁判所による仮処分はあくまでも暫定的な処分となっています。後の遺産分割調停または審判の結果によっては、仮払いを受けた預貯金を事実上返還しなければならない場合もあるので注意しましょう。

    6.まとめ

    預貯金の仮払い制度は、生活費や葬儀費用などの資金が必要な相続人にとって、非常に使い勝手の良い制度です。

    上限額のルールや法的な注意点などを踏まえて、有効に活用しましょう。

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