療養型寄与分とは?|認められるための要件や計算方法について
長年、ご両親の面倒を見ていらっしゃる方は多いと思いますが、親族間には「扶養義務」がありますので、病気などの際にある程度親族の身の回りの世話をすることは当然のことと考えられています。
そのため、看病や看護に関しては、なかなか寄与分が認められません。
そこで、今回の記事では、自宅で看病や看護を行ったときの寄与分(療養型寄与分)について説明します。
1.療養型寄与分とは
(1) 寄与分とは
生前に、被相続人の財産の維持または増加について特別に寄与した者は、遺産分割にあたって、その分法定相続分よりも遺産を多くもらうことができます。
この増加分を「寄与分」といいます。
この寄与分については、原則、相続人間で合意する必要があります。
寄与分として認められる主なものには、次のものがあります。
- 被相続人が経営する家業に無償に近い形で従事(家事従事型)
- 被相続人へ金銭を出資(金銭出資型)
- 被相続人に対して療養看護(療養型)
- 被相続人を扶養して生活費を負担(扶養型)
- 被相続人が所有する財産の管理(財産管理型)
寄与分の対象者や、一般的な寄与分として認められる要件については、次の記事をご覧ください。
[参考記事] 寄与分とは|対象になる人や認められる要件を解説(2) 療養型寄与分とは
療養型寄与分とは、相続人が、病気等療養中の被相続人の療養看護に従事した場合に認められる寄与分です。
しかし、親族間には「扶養義務」がありますので(民法第877条第1項)、一般的には認められにくい寄与分といえます。
療養型寄与分として認められるためには「特別な寄与」である必要があります。
この特別な寄与であるための「療養看護の必要な要件」は下記のとおりです。
- 被相続人に、近親者による療養看護が必要であること(必要性)
- 無償あるいは無償に近い状態で行われていること(無償性)
- 療養看護が長期間継続していること(継続性)
- 療養看護の内容がかなりの負担を要するもの(上記扶養義務の範囲を超えているもの)であること(専従性)
2.療養型寄与分が認められるための目安
前項で療養型寄与分が認められるための要件を見てきましたが、療養型寄与分が認められるかどうか、一律に判断することは難しいと言えます。
そこでまず、被相続人の「療養看護の必要性」の判断基準として、一般的には「要介護認定」の基準が使われます。
要介護認定(要支援認定も含む)とは、介護保険制度の一環で、介護保険サービスを受けるための審査のことです。
住居地の市区町村に申請して、日常生活に支援が必要な状態か、常時介護が必要な状態かを判断して、「要支援1~2」または「要介護1~5」のどれかに認定されます。
軽度な状態から「要支援1〜2」、「要介護1〜5」であり、療養型寄与分が認められるのは「要介護2」以上の状態であることが目安の1つになります。
3.療養型寄与分の計算
ここでは、療養型寄与分の金額を求める考え方を説明するとともに、その計算の実例をご紹介します。
(1) 療養型寄与分の算出の考え方
寄与分ついては、民法904条の2第1項で、次のように定められています。
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
この条文によると「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」に寄与分を認めるとあります。
つまり、外部の介護人に依頼する介護費用など支出をなくして、被相続人の財産の維持に寄与したケースです。
療養型寄与分の計算においては、この考え方を踏襲しており、次の計算式で寄与分を算出します。
療養型寄与分=職業介護人を雇った場合にかかる金額×療養介護を行った日×裁量割合
「職業介護人を雇った場合にかかる金額」に「療養介護を行った日数」を乗じるのが一般的です。
「職業介護人を雇った場合にかかる金額」については、介護保険における介護報酬基準を参考にすることが多くなります。
介護報酬基準は職業介護人への報酬ですので、親族による介護の場合には裁判所が個別のケースによって判断する「裁量割合」として一定割合が減額されますが、一般的には「0.7~0.8」程度とするケースが多いようです。
(2) 療養型寄与分の計算例
次のケースをもとに、療養型寄与分、および、その他の相続財産の分割についてみていきます。
被相続人(母親)の財産:6,000万円
相続人:長男、次男、長女の3人
長女が、母親と同居して3年ほど療養看護を行っていた。
遺産分割協議で、長女が寄与分を主張して、相続人間で下記の寄与分の合意を得た。
職業介護人を雇った場合にかかる金額:6,000円
療養介護を行った日数:900日
裁量割合:0.7
療養型寄与分=6,000円×900日×0.7=378万円
療養型寄与分378万円が認められた結果、遺産分割の対象財産は
6,000万円−378万円=5,622万円 となります。
この遺産分割の対象財産を法定相続分で分割すると、一人あたり1,874万円となります。
その結果、各相続人は、以下の財産を相続することになります。
長男:1,874万円
次男:1,874万円
長女:1,874万円+378万円=2,252万円
実際に、裁判所が療養型寄与分を認めた判例を、参考までにご紹介します。
相続人は子ども4名で、その中の相続人Aに対して寄与分が認められた例です。
相続人Aは被相続人宅の隣の家に住んでいて、被相続人が認知症になった以降、毎日3度の食事を相続人A宅でとらせるようにした上に、排泄の介助をする等、約3年間献身的に介護を行っていました。
大阪家庭裁判所は、被相続人が認知症となった以降の約3年間の介護について、親族による介護であることを考慮したうえで、1日あたり8000円程度と評価し、876万円を相続人Aの寄与分として認めました。(平成19年2月8日大阪家庭裁判所審判・家庭裁判月報59巻8号47頁)
4.療養型寄与分を主張するためのポイント
最後に、他の相続人に療養型寄与分を認めてもらうためのポイントについて見ていきます。
(1) 遺産分割協議で自ら主張する必要がある
寄与分については、長い間療養看護したからといって、自動的に寄与分が認められるものではありません。
寄与分の金額については、相続人間で協議を行い、寄与分について合意をする必要があるのです。
現実的には、相続人間の遺産分散協議で、寄与分を認めてもらいたい相続人が自ら主張して、相続人間で合意をする必要があります。
合意した寄与分については、遺産分割協議書に記載します。
(2) 療養型寄与を行った証拠を用意
遺産分割協議で主張する際には、寄与した具体的な内容が分かる証拠を用意する必要があります。
例えば、次のような書類が証拠となります。
- 被相続人の健康状態がわかる診断書、カルテ
- 要介護認定結果通知書
- 介護ヘルパーの利用明細書、ヘルパーとの連絡ノート等
- 介護の期間や介護に費やした時間・内容がわかる介護日記等
「療養介護を行った日数」を乗じて寄与分の金額を算出しますので、特に、「介護の期間や介護に費やした時間・内容がわかる介護日記」を詳細に書き留めておくことをお勧めします。
5.まとめ
今回は、「療養型寄与分」に焦点を当てて説明しました。
療養型寄与分は、一般的には認められにくいのが現実です。
しかし、扶養義務の範囲を超えた療養看護を無償で長期間行ってきた等のケースでは、この療養型寄与分が認められる場合があります。
寄与分を認めてもらうためには、遺産分割協議で、自ら主張しなければなりません。
遺産分割協議で合意できなければ、家庭裁判所の調停・審判に持ち込むことになります。
遺産分割協議で揉めそうな場合は言うまでもありませんが、なるべくスムーズな分割協議としたい方は、相続の経験豊富な法律事務所にご相談されてことをお勧めします。
泉総合法律事務所は、相続問題に強い法律事務所です。「これは寄与分として認められるだろうか」「他の相続人が寄与分を認めてくれない」などのお悩みがありましたら、是非ご相談ください。
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