遺産分割調停を有利に進める方法・やってはいけないこと
遺産の評価や遺産分割方法などについて相続人間に争いがあり、遺産分割協議の話し合いではまとまらないときには、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることで解決できることがあります。
多くの方にとって、遺産分割調停は初めての経験でしょう。どのような流れで進んでいくのか、どうすれば有利に運ぶことができるのかなどについて不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、そんな場合でも、あらかじめ遺産分割調停の流れを知っておくことで、安心して調停に臨むことができます。
今回は、遺産分割調停の流れや有利に進める方法についてわかりやすく解説します。
1.遺産分割調停の流れと進め方
遺産分割調停は、一般的に以下のような流れで進んでいきます。
なお、遺産分割調停の流れに沿った具体的な手続きについてお知りになりたい方は、次の記事をご一読ください。
[参考記事] 遺産分割調停とは?調停のメリットと申し立て方法や流れを解説(1) 遺産分割調停の申立
遺産分割調停申立書と必要書類を相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める裁判所に提出して、遺産分割調停の申立てを行います。
(2) 調停期日の設定
遺産分割調停申立書が受理されると、裁判所によって第1回調停期日が決められ、裁判所から相手方に対し、調停申立書類一式と第1回調停期日の日時などが記載された「調停期日通知書」が送られます。
(3) 調停期日
遺産分割調停は、以下のような流れで、問題点を一つずつ確定しながら進行するのが一般的です。
①相続人の範囲の確定
まずは、誰が相続人であるかを確認します。
戸籍が事実と異なっているなど相続人の範囲に関して問題がある場合には、遺産分割調停の前提として人事訴訟などの手続きが必要になります。
また、認知症などにより判断能力に問題がある人が相続人の中にいる場合には、成年後見人の選任といった手続きが必要になることがあります。
②遺産の範囲の確定
遺産分割調停で、遺産分割の対象となるのは、原則として、被相続人が死亡した時点で所有し、かつ、現在も存在する財産です。したがって、申立前に相続財産調査によって被相続人の遺産を確定しておく必要があります。しかし、それが困難なときには、裁判所の調査嘱託を利用することも可能です。
また、遺言書や遺産分割協議書によって分け方が決まっている財産については、遺産分割の対象にはなりません。
なお、誰かが遺産を勝手に使ってしまった場合や、遺産の範囲に争いがある場合には、遺産分割調停ではなく民事訴訟によって解決する必要があります。
③遺産の評価の確定
現金や預貯金などは、現時点の残高がそのまま遺産の評価額になります。しかし、遺産に不動産や有価証券などが含まれている場合には、具体的な評価方法と評価額を相続人間で確定させる必要があります。
当事者間の合意によって評価方法や評価額が確定できない場合には、鑑定手続きが必要になることもあります。その場合の鑑定費用については、(最終的には)各相続人が負担することが多いです。
④各相続人の取得額の確定
遺産の範囲と評価が確定したら、基本的に法定相続分に基づいて各相続人の取得額が決まります。
ただし、相続人に特別受益や寄与分が認められる場合には、それらを考慮したうえで、各相続人の取得額を修正します。
⑤遺産分割方法の確定
確定した各相続人の取得額に基づいて、各相続人に遺産を分割します。
遺産の分割方法には、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割があります。
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(4) 遺産分割調停と遺産分割審判の違い
調停でも合意に至らなかった場合には、「審判」に移行します。
調停と審判の違いは、前者があくまでも当事者同士の話し合いにより、全員が合意することで初めて遺産分割が決まるのに対して、後者は裁判官が強制的な決定で遺産を分割する点にあります。
なお、調停では合意した内容を記載した「調停調書」、審判では審判内容を記載した「審判書」が作成され、どちらも法的な効力を持ちます(ただし、後者は不服がある場合は即時抗告で争うことができます)。
遺産分割協議から調停を経ずにいきなり審判を申し立てることも一応は可能ですが、調停前置主義がとられているため、原則として、裁判所は職権で、審判ではなく調停に付します(家事事件手続法257条)。
[参考記事] 遺産分割審判の進め方と気を付けるべきポイント2.調停を有利に進める心構えやポイント
遺産分割調停は、あくまで話し合いの場です。そのため、自分に有利な調停が成立することもあれば、不利な調停が成立することもあり得ます。
そこで、調停を有利に進めるためのポイントを次にまとめておきましょう。
(1) 主張や証拠をあらかじめ準備する
裁判などとは異なり、調停では、主張書面や証拠の提出は義務ではありません。
しかし、遺産分割調停は、主張内容が複雑になることが多く、長々と口頭で主張内容を説明しても十分に理解してもらえないことがあります。
そこで、ご自分が主張したい内容を調停委員や相手方に理解してもらうために、あらかじめ主張書面に主張すべき事実をまとめて裁判所に提出し、調停期日では要点を説明するなどの工夫が必要になります。
また、単なる主張だけでは、調停委員や相手方を納得させることはできません。主張を裏付ける証拠があるのであれば、積極的に提出するとよいでしょう。
調停期日は、1か月に1回程度しか行われず、1回あたりの時間も2時間程度と限られています。主張や証拠をあらかじめ準備しておくことで、調停をスムーズに進めることができるだけでなく、早期解決ができる可能性も高まります。
(2) 戦略的に譲歩することも重要
遺産分割調停では、遺産の評価や分割方法など決めなければならないことがたくさんあり、すべての内容を争っていたのではなかなか話し合いを進めることができません。
もちろん大事な争点についてはしっかりと争うことが必要です。しかし、争うべき点とそれ以外の点についてメリハリをつけておくことも重要です。
些末な争点については、一定の譲歩の姿勢を示すことで、調停委員に与える印象もよくなります。また、譲歩したことを交渉材料として、重要な争点で有利な条件を引き出すこともできます。
そのため、遺産分割調停では、ご自分の主張に固執するだけでなく、相手方の主張も聞き入れ、譲歩する姿勢も重要となります。
(3) 調停で相手方が嘘ばかり主張する場合
遺産分割調停の相手方が噓ばかり主張するケースもあります。相手方の嘘が大事な争点に関するものであれば、しっかりと争う必要があります。しかし、それらの嘘が争点を外れていれば、反論する必要もないでしょう。
相手方の嘘が明白になればなるほど、調停委員の心証は悪化していきます。間違っても、嘘に対して嘘で対抗してはいけません。しっかりとした主張と証拠を準備しておきましょう。
どうしても気になるのであれば、弁護士に相談しましょう。
3.遺産分割調停中にやってはいけないこと(Q&A)
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調停に欠席してはいけないの?
遺産分割調停で、当事者が欠席することは可能です。したがって、欠席が直ちに当事者に不利益をもたらすというわけではありません。
しかし、折角の主張のチャンスを自ら捨ててしまうことにはなってしまいます。
例えば、相手方の特別受益やご自分の寄与分についての主張が認められれば、相続分が増える可能性もあるのです。
もし、どうしても調停に出席できないのであれば、次のような対策を取ることをお勧めします。
- 平日日中に休めない場合には、弁護士に代理を依頼する
- 遠方で出席が難しい際には、電話会議システムを申請する
- 相続分の譲渡・放棄を検討する
- 出席した相続人の間で合意された内容に従う場合には、「調停条項案に合意する書面」を提出しておく
ちなみに、裁判所の呼び出しを無視して、正当な理由なく無断欠席が継続すると、調停が成立する見込みがないとして調停が不成立となり、遺産分割審判に移行することになります。
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調停に対しての不誠実な対応・態度は影響する?
無断での大幅な遅刻や、調停委員への横柄な態度、相手方への悪口など、調停に対して不誠実な態度を取り続けると、主張の信頼性にも影響してしまいます。
調停は、あくまでも法的な主張をする場であり、調停委員も人の子です。感情的になって不誠実な態度で臨むと却ってご自分にとって不利益をもたらす可能性があるのです。
調停では、誠実に対応するに越したことはありません。
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調停委員への嘘・隠し事は避けるべき?
前述した通り、調停では、嘘に対して嘘で対抗してはならないのはもちろん、ご自分で調停委員に嘘や隠し事をしてはいけません。
嘘や隠し事が発覚すると、調停委員の心証は大きく悪化するでしょう。あくまで調停では、法的な主張に集中すべきです。
4.弁護士なしの遺産分割調停をお勧めできない理由
遺産分割調停を弁護士なしで行うことは可能です。しかし、遺産分割調停を有利に進めていくためには、法的根拠に基づく説得的な主張をしなければなりません。
そこで、相続事件に詳しい弁護士からサポートを受けることが非常に重要になるのです。もし、あなたが弁護士を付けず、相手が弁護士に依頼していたら、不利な状況になることは明白です。
また、遺産分割調停を弁護士に依頼していれば、万一、審判となった場合にも引き続き依頼することが可能です。
遺産分割で争いがある場合には、お早めに弁護士法人泉総合法律事務所までご相談ください。