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遺産分割

相続法改正|法定相続分を超えて権利を承継する場合は対抗要件に注意

2019年7月1日に施行された改正相続法により、法定相続分を超えて遺産を承継する際の対抗要件(権利を主張するために必要なこと)に関するルールが変更されました。

対抗要件の具備は、相続した遺産に関する権利を保全するためにきわめて重要な手続きです。新しいルールの内容を踏まえて適切に対応しましょう。

この記事では、相続法改正により変更された対抗要件のルールについて、改正前後を比較しながら解説します。

1.改正前における遺産承継の第三者対抗要件(判例法理)

遺産承継の第三者対抗要件のルールは、民法の条文に明記されておらず、判例法理によって示されていました。

相続法改正前の判例法理の内容は、相続人・受遺者をかなり厚く保護する内容でした。

まずは、相続法改正前の判例法理について、最高裁判例を引用しながら解説します。

(1) 最高裁平成14年6月10日判決

この判決の事案では、被相続人の遺言によって、配偶者Aが不動産を取得しました。

ところが、他の相続人Bの債権者により、Bの法定相続分に対応する当該不動産の共有持分権の差押え等が行われたため、Aが債権者に対して第三者異議訴訟を提起しました。

この事案では、判決により、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言がある場合、特段の事情がない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに遺産承継の効果が生じる旨が示されました。

その上で、遺言により指定された相続による権利の移転は、「登記(対抗要件)なくして第三者に対抗できる」と判示されました。

その結果、Aは登記なくして、債権者に対して不動産全体の取得を対抗できることになり、差押え等に対するAの異議が認められました。

(2) 最高裁平成5年7月19日判決

最高裁平成5年7月19日判決の事案では、被相続人の子であるCの相続分が、遺言によって「80分の13」と指定されていました。

本事案において、相続人は被相続人の4人の子のみであったため、Cの法定相続分は「4分の1」です。
そこで、Cは、相続財産中の土地について、各相続人の持分を法定相続分の4分の1とする相続登記が経由されていることを利用し、第三者に対して、当該土地の4分の1の共有持分権を譲渡しました。

しかし、Cの実際の相続分は「80分の13」なので、超過分の「80分の7」については無権利の譲渡となります。

上記の事実関係を前提として、最高裁は、登記に公信力がない以上、当該第三者が取得できるのは、遺言によって指定された相続分に対応する「80分の13」の共有持分権にとどまると判示しました。

つまり、遺言によって指定された相続分は、登記なくして第三者に対抗できるとした結果、法定相続分に従った権利の譲渡であっても、その効力の全部または一部が否定されることがあると示されたのです。

(3) 従来の判例の問題点|取引の安全を害するおそれ

上記の各判例によって形成された判例法理は、相続人や受遺者の権利を非常に厚く保護するものでした。

これに対して、相続人等から権利を譲り受ける第三者の視点からは、登記とは異なる内容で遺言や遺産分割がなされていた場合、その内容を知る術はまずありません。

そのため、第三者の視点から見て、取引の安全が阻害される側面が大きい点が問題視されていました。

2.相続法改正による変更内容

そこで、2019年施行の改正相続法により、取引の安全に配慮する形で、相続財産の第三者対抗要件に関するルールが、判例法理から一部変更されることになりました。

(1) 法定相続分の範囲内では対抗要件がなくても第三者に対抗可

法定相続分に対応する部分については、改正相続法でも、上記判例法理から変更がありません。

相続によって承継した権利のうち、法定相続分については、従前どおり登記なくして第三者に対抗することが可能です。

(2) 法定相続分を超える部分について対抗要件を具備する必要

これに対して、改正相続法では、法定相続分を超える部分について、判定法理を立法により変更しました。

改正相続法によると、相続による権利の承継は、遺言・遺産分割のいずれによる場合でも、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないものとしています(民法899条の2第1項)。

したがって、遺言や遺産分割によって法定相続分を超える遺産を承継した相続人は、他の相続人が勝手に当該遺産(の共有持分)を第三者に譲渡してしまう事態に備えて、いち早く登記等の対抗要件を具備しなければなりません。

3.権利の承継に関する改正の具体例

遺産承継の第三者対抗要件に関するルールの変更内容についてイメージを持つために、シンプルな不動産相続の設例を用いて、改正前後での判断過程と結論の違いを検討しましょう。

<設例>
・相続人は、被相続人の子である長男Aと次男Bの2名
・土地XをAにすべて譲渡する旨の遺言あり
・2021年4月1日、Bは土地Xについて、法定相続分に従い、自らの共有持分を2分の1とする相続登記を経由した
・2021年4月3日、Bは第三者Pに対して、土地Xの2分の1の共有持分権を譲渡し、同月5日、Pは当該共有持分権について移転登記を経由した

この設例では、遺言によってAが土地Xの全体を取得しました。
その一方で、Pは共同相続人であるBから法定相続分に対応する共有持分権の譲渡を受け、移転登記を経由しています。

このとき、BからPに譲渡された「土地Xの2分の1の共有持分権」につき、AとPのどちらが権利を取得できるのでしょうか。

相続法改正前:Aが土地X全体を取得できる

相続法改正前のルールに従うと、AはPに対して、土地Xの承継を登記なくして対抗できます。

よって、Pは土地Xの2分の1の共有持分権について登記を具備しているものの、それとは関係なく、Aが土地X全体の権利を取得できます。

この場合、AはPに対して、土地Xの2分の1の共有持分権に係る登記の抹消を請求することが可能です。

相続法改正後:土地XはAとPが2分の1ずつ共有する

これに対して、相続法改正後のルールでは、法定相続分を超えた遺産の承継については、登記がなければ第三者に対抗することができません(民法899条の2第1項)。

この設例では、Aの法定相続分は2分の1です。
したがって、土地Xについて登記を備えていないAは、Pに対して、2分の1の共有持分権の限度でのみ権利を主張できるにとどまります。

その結果、土地XはAとPが2分の1ずつ共有することになります。

以上より、設例の事案では、相続法改正前であればAが土地X全体を取得できたものの、相続法改正後のルールに従えば、Aが相続により承継したはずの土地Xの権利を一部失ってしまうという結果になりました。

このように、相続法改正の前後によって結論が変わってしまうケースもあります。ご自分のケースがどのような扱いになるか、どのような対応が必要かについては、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

4.財産ごとに必要となる対抗要件の内容

最後に、相続によって承継する財産の種類ごとに、必要となる対抗要件の内容の一例を紹介します。

 

財産の内容 対抗要件
不動産 登記(民法177条)
動産(金品など) ①引渡し(民法178条)
②動産譲渡登記(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律3条1項)
自動車 登録(道路運送車両法5条1項)
債権 ①確定日付ある証書による、債務者への通知または債務者による承諾(民法467条1項、2項)
②債権譲渡登記(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項)
株式
株券不発行会社の場合
株主名簿への記載(会社法1301項)
株券発行会社の場合
株券の占有(会社法1311項参照。

なお、相続によって債権を承継する場合に、他の相続人の協力が得られないために債務者に対する通知等が行えず、対抗要件を具備できないおそれがあります。

そのため、債権を承継する共同相続人が、遺言または遺産分割の内容を明らかにして、債務者に承継の通知をした場合には、債権の承継に関する第三者対抗要件が具備されたものとみなされます(民法899条の2第2項)。

5.まとめ

相続法改正により、相続財産の承継に関する第三者対抗要件のルールは、相続人等の視点から見れば、より厳格なものとなりました。

遺言や遺産分割により、ご自分が承継したはずの遺産について、他の相続人が勝手に処分してしまう事態が起こらないとは言い切れません。
そのため、できるだけ早い段階で対抗要件を具備して、権利の保全を図ることが非常に大切です。

遺産相続に関するお悩みやトラブル、手続きでのご不安などは、お早めに泉総合法律事務所までご相談ください。

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