遺産分割調停とは?調停のメリットと申し立て方法や流れを解説
遺産分割調停は、相続人同士の遺産分割協議の交渉が決裂した際に、家庭裁判所で調停委員会に仲介してもらう話し合いのことです。
協議が膠着状態にあるときは、早めに見切りをつけて調停に移行したほうが早期解決に繋がることもあります。
今回は、「遺産分割調停」について、流れや実際の申立て方法について解説します。
調停を検討している方は、ぜひご参考にしてください。
1.遺産分割調停とは
遺産分割調停では、家庭裁判所で相続人同士が調停委員を介して話し合うことで、次のことを決定します。
- 誰が(相続人の範囲の確定)
- 何を(遺産の範囲の確定)
- どのように評価して(遺産の評価)
- どのよう割合で(相続分の具体的割合の決定)
- 分割するのか(分割の決定)
遺産分割調停は、遺産分割協議では結論に至らなかった事柄を、家庭裁判所に持ち込んで調停委員を介して話し合う場なのです。
2. 遺産分割調停の流れと手続きについて
遺産分割調停は、大まかに以下の流れで進行します。
- 遺産分割調停の申立て
- 申立人と家庭裁判所で第1回期日の決定
- 裁判所から相手方に、郵送にて期日の連絡
- 期日に出頭(第1回調停期日)
- 裁判官と調停委員の仲介のもと、(通常、複数回の)調停
- 調停の成立により終了(調停不成立の場合は自動的に審判へ移行)
(1) 遺産分割調停の申立てと申立ての必要書類
遺産分割調停は、遺産分割協議に参加していた相続人などのうちの1人あるいは何人かが、他の相続人全員を相手方にして申し立てる必要があります。
申立人は、共同相続人・包括受遺者(民法990条)・相続分譲受人です。
申立の必書類は下記の通りです。
- 申立書1通(※裁判所のHPでダウンロードできます)
- 記入した申立書の写しを相手の人数分
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 代襲相続がある場合:被代襲者(代襲相続される者)の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の住民票又は戸籍の附票
- 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書および固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券の写し等)
他にも場合によって提出を求められる書類があるので、二度手間になることのないよう、事前に管轄となる裁判所に問い合わせるか、HPで確認するようにしましょう。
申立て費用は、収入印紙代1,200円+郵便切手代です。
郵便切手代は、郵送での連絡に使いますが、具体的な金額は家庭裁判所によっても異なるため、こちらもあわせて確認しておくとよいでしょう。
(2) 遺産分割調停の管轄裁判所
必要書類が揃ったら、遺産分割調停の管轄である家庭裁判所に申立てを行います。
遺産分割調停の管轄裁判所は、次のいずれかになりなす。
- 調停の相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所
- 相続人らの合意によって決めた家庭裁判所
なお、各都道府県の家庭裁判所の管轄については、次の裁判所のHPから確認することができます。
【参考】裁判所の管轄区域|裁判所
(3) 遺産分割調停の期日
調停が開始されると、期日では家事調停委員2人が当事者双方の言い分を十分に聞き、同時に、調停委員が進行状況を随時裁判官に報告して協議しながら進行します。
しかし、調停委員らの仲介のもとで当事者同士が話し合いを行うといっても、一堂に会して協議するわけではありません。
申立人と相手方で控室が分かれており、交代に呼ばれて調停室に入り、調停委員と話をします。当事者同士で顔を合わせる機会は、実はほとんどないのです。
(説明や日程調整の際に、どうしても他の当事者と顔を合わせるのを嫌うのであれば、個別に説明・個別に期日を調整してもらうことができます。)
(4) 遺産分割調停の終了
遺産分割調停が終了するのは、以下の2つの場合です。
①遺産分割調停成立
当事者間の話し合いによって遺産分割の合意ができた場合には、調停成立による終了となります。
当事者が合意した内容については、裁判所の調停調書に記載されます。調停調書は、確定した審判と同一の効力を有しているため、調停で決まった内容に不履行があれば、強制執行を行うことも可能です。
②遺産分割調停不成立(審判への移行)
当事者間で合意が成立しない場合には、調停は不成立となり終了します。調停が不成立になると、特別な申立てをすることなく自動的に「審判」という手続きに移行します。
遺産分割審判は、調停のように当事者が話し合いで解決する手続きではなく、裁判官が当事者の主張や立証を踏まえて、最も適切だと考える遺産分割方法を指定する手続きです。
調停とは異なり、必ず結論は出ます。ただし、全員の希望を叶えることは難しいため、納得できない結論になる可能性もあります。
3.遺産分割調停のメリット/デメリット
次に、遺産分割調停のメリットとデメリットをそれぞれご紹介します。
(1) 遺産分割調停のメリット
膠着状態にある話し合いを前進できる
遺産分割調停の最大のメリットは、膠着状態にある話し合いを前に進められる点にあります。
親族間で協議がこじれると、冷静さを失い、お互い一歩も譲らずに、半ば意地を張っている状態になってしまうこともありえます。
そこで調停という新たな段階に入ることで、心機一転して話し合いを再開するのです。
調停委員を介すことで冷静に話し合いができる
遺産分割協議では、話し合いがヒートアップすると、肉親だからこそ、顔を見ただけで苛立ちを覚えることがあります。
一方、前述の通り、遺産分割調停で話をする相手は、あくまで調停委員であり、直接相手の顔を見ることはほとんどありません。
相手方の顔を見る必要がない分、一人一人が冷静さを保ち、建設的な話し合いができるというメリットがあります。
法的に妥当な解決案を示してもらえる
遺産分割協議の当事者同士だけでは、「自分や相手の希望が、法的に認められるものなのかわからない」といったこともあり得ます。
しかし、遺産分割調停では、裁判官や調停委員から法的に妥当な解決案を当事者に示してもらうことができます。中立の立場から法律に則った解決案を示してもらえるため、双方が納得しやすいというメリットがあります。
(2) 遺産分割調停のデメリット
全員が合意できなければ調停が成立しない
調停はあくまで話し合いなので、調停成立には全員の合意が必要です。
遺産分割協議でさんざん揉めていたことが、調停に移行したからといって、すんなりと合意に至ることは難しいでしょう。解決までにそれ相応の労力を要することは予想されます。
調停で解決を図るためには、一人一人が少しずつでも譲歩することを覚悟しておかなければなりません。
調停には時間がかかる
調停期日が持たれるのは、一般的に1~2ヶ月に1回です。裁判官、調停委員2名、申立人、相手方、裁判所の施設運営スケジュールの全てを考慮したうえで期日とするため、なかなか調整が上手くいきません。
さらに、期日は一般的に1回では終わららないため、時間がかかってしまいます。
半年以内に調停が終わるケースもありますが、年単位のスケジュールになったとしてもおかしくはありません。事案によってはかなりの長期戦になってしまうのです。
平日の日中に家庭裁判所に行かなくてはならない
家庭裁判所で調停を行うのは、平日の日中です。
平日の日中は仕事で忙しい方も多いため、その時間帯に裁判所へ出頭しなければならないことが大きな負担になるでしょう。しかも、家族などに代理をお願いすることはできません。
(3) 協議に進展がなければ遺産分割調停へ
以上のように、調停にはメリットだけではなくデメリットもあります。しかし、それを踏まえても、遺産分割協議で埒があかないようであれば調停に移行するのが賢明でしょう。
遺産分割を放置すると、共同相続人の共有状態が継続して不動産などの円滑な利用が困難となったり、共同相続人の一部が亡くなって次の相続が発生し共有者が増加してしまったりする、という不都合が生じてしまうのです。したがって、遺産分割は早めに完了するべきです。
裁判所の仲介に多少抵抗もあるかもしれませんが、進展のない協議で親族間にしこりを残してしまうくらいであれば、調停での早期解決を検討してみてはいかがでしょうか。
4.遺産分割調停についてのよくある質問(FAQ)
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遺産分割調停はいつまでしなければならない?
遺産分割調停の申立てに、いつまでにしなければならないといった期限はありません。
しかし、相続放棄は、自己のために相続開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続税の申告・納付は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。
遺産分割は、早期に解決するに越したことはありません。
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遺産分割調停の調停委員ってどんな人?何をする?
調停委員は、裁判官(または調停官)1名とともに調停委員会という組織を構成するメンバーを指します。最高裁判所が、原則として以下の要件を満たす40歳以上70歳未満の者の中から任命します。
- 弁護士となる資格を有する人
- 民事または家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する人(医師、司法書士、税理士など)
- 社会生活の上で豊富な知識経験を有する人(大学教授、会社役員、元公務員、民生委員など)
原則として、2名の調停委員が1つの調停事件を担当します。
調停委員は、遺産分割調停において、当事者の話を聞き、争点を整理するとともに、紛争の解決に向けて調整をする役割を担っています。
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遺産分割調停は弁護士に依頼するほうがいい?
遺産分割調停は、スムーズに成立させるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
まず、弁護士に遺産分割調停を依頼した場合、面倒な必要書類の収集や書面の作成等の大部分を任せることができます。さらに、弁護士が調停に代理人として同席し、依頼者の要望を調停委員に伝えることができます。
ご自分だけでは調停委員にうまく話せるか不安も多いでしょうが、弁護士という味方がいれば、話を整理して法的に的確な主張として伝えてくれるのです。
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遺産分割で迷われたら、ぜひ一度泉総合法律事務所にご相談ください。※ただし,着手金・報酬金のいずれについても,相続人が多数,特別受益・寄与分の主張,その他複雑・難解な事案については,別途協議により定めるものとします。
※日当:ご相談時に弁護士からご説明いたします。
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