代償分割とは?概要と注意点をわかりやすく解説
不動産など高額の財産を遺産分割する場合、どのような方法で分割すればよいかは、遺産分割協議において常に大きなポイントの一つです。
不動産などの財産を遺産分割する方法の一つとして「代償分割」があります。
代償分割を活用することにより、不動産を相続人の手元に残しつつ、他の相続人も金銭的な満足を受けることが可能です。
この記事では、代償分割の概要・メリット・デメリット・注意点などについてわかりやすく解説します。
1.代償分割とは?
代償分割とは、一部の相続人に遺産の現物を取得させ、それ以外の相続人が遺産現物を取得した相続人から代償金を受け取るという遺産分割の方法をいいます。
(1) 3つの遺産分割方法について
まずは他の分割方法と比べながらご紹介します。
不動産などの遺産分割方法には、「現物分割」「換価分割」「代償分割」の3つがあります。
「現物分割」は、遺産を物理的に複数の相続人で分けてしまう方法です。
たとえば土地であれば、分筆を行ったうえで、それぞれの筆を各相続人が単独で取得します。
「換価分割」は、遺産を第三者に売却し、その代金を相続人間で分ける方法です。
不動産の場合、通常は不動産業者を介して不動産を処分することになります。
「代償分割」は、現物分割および換価分割と並んで、不動産などの重要な資産を分割する方法として、有力な選択肢となっています。
(2) 不動産の代償分割の具体例
不動産を代償分割する際に、各相続人がどのような形で遺産や代償金を取得するのかについて、設例を用いて解説します。
<設例>
・相続人は配偶者A、子B・C・Dの4人
・土地(相続開始時点の時価6000万円)を代償分割によりBが取得する
設例のケースでは、Bが土地を取得する反面、他の相続人であるA・C・Dに対して代償金を支払う義務を負います。
代償金額は遺産分割協議の中で自由に設定できますが、仮に相続開始時点の時価を基準として、各相続人の法定相続分に従い代償金の金額を決めるとしましょう。
A・C・Dの法定相続分は、それぞれ2分の1・6分の1・6分の1です。
この割合に従うと、A・C・Dが土地の代償金として受け取るべき金額は、それぞれ3000万円・1000万円・1000万円となります。
したがって、BはAに対して3000万円、Cに対して1000万円、Dに対して1000万円を、それぞれ代償分割の代償金として支払うことになります。
2.代償分割のメリット
現物分割や換価分割の方法と比較して、代償分割を行うことには以下のメリットがあります。
(1) 遺産を単独所有として後の紛争を防止できる
遺産を共有のままにしておくと、その活用方法や処分方法などについて、共有者間で紛争が生じる原因になってしまいます。
代償分割をすれば、基本的には遺産が相続人のうち誰かの単独所有となりますので、共有関係から生じるトラブルを防ぐことができます。
(2) 遺産の細分化を防ぎ、効率的な活用が可能
現物分割によって遺産を物理的に分けてしまうと、遺産そのものが細分化され、活用の用途が狭まってしまいます。
代償分割の方法によれば、遺産を物理的に分割する必要がないため、遺産の細分化を防ぎ、引き続き効率的な活用が可能になります。
(3) 遺産を処分せずに相続人の手元に残しておける
例えば換価分割をする場合、第三者に売却してしまうため、相続人の手元に遺産が残りません。
特にマイホームなどの大切な資産を相続人の手元に残しておきたい場合、換価分割をすると期待に反する結果となってしまいます。
代償分割では、相続人の誰かが遺産を承継することになるので、大切な遺産を手放さなければならない事態を防ぐことができます。
3.代償分割のデメリット
遺産分割において代償分割が有効な場面は多い一方で、以下のデメリットに注意する必要があります。
(1) 対象財産の価値評価が難しい
代償分割の場合、遺産を取得する相続人から他の相続人に支払う代償金の金額を決める必要があります。
代償分割では、実際に遺産を売却するわけではないので、代償金の金額を決める際には、対象財産の価値評価を行わなければなりません。
しかし、不動産など客観的な額面が決まっていない遺産については、評価の方法や考え方もさまざまです。
この評価額の決定が、代償分割で最ももめやすい点と言えます。
例えば対象の財産自体を相続する人からすれば、支払う代償金を抑えるため、できるだけ安い評価額にしたいと考えますが、逆に代償金を受け取る共同相続人としては、できるだけ高い評価額にして代償金を受け取るほうが望ましいと考えるでしょう。
鑑定業者に評価を依頼することも可能ですが、鑑定費用が掛かることもデメリットです。
(2) 代償金の支払いができないケースがある
代償分割において大きなネックとなるのが、代償金の支払いです。
代償分割で遺産を取得する相続人は、その遺産を処分することは通常ないので、別途代償金の支払い原資を用意しなければなりません。
しかし、不動産のような高額の遺産が代償分割の対象となる場合は、代償金を支払うためのお金を用意できないケースもあります。
その場合には、代償分割は事実上不可能となるため、現物分割や換価分割の方法を検討する必要があるでしょう。
また、記事の最後のほうでご説明しますが、代償金を払えないのに代償分割で合意してしまい、代償金を払えない・払ってもらえないという問題に発展することもあり、現実的かつ重要な問題です。
4.代償分割を行う際の注意点
代償分割を行う場合、遺産分割協議書の作成や贈与税の課税の関係で、以下の各点に注意が必要です。
(1) 遺産分割協議書において代償分割の内容を明記
遺産分割に関する紛争が蒸し返されることを防止するため、遺産分割の内容は、遺産分割協議書の中で正確に記載することが大切です。
代償分割の内容についても、
- どの遺産が代償分割の対象になるのか
- 代償分割により誰が遺産を承継するのか
- 代償金は誰から誰に支払われるのか
といった事項について、遺産分割協議書に明記しておきましょう。
[参考記事] 遺産分割協議書とは|作成の目的と条文の書き方を文例集付きで解説後の項目で、代償分割に関する条項の文例を紹介します。
(2) 代償金の決め方
代償分割における代償金の金額は、相続人が遺産分割協議によって自由に決めることができます。
ただし、先ほどご紹介したように遺産分割協議書に代償分割の旨を明記しておかないと、代償金の支払いを贈与であると指摘される可能性もあり、注意が必要です。
また、協議書に明記しても、代償金の金額によっては贈与税の課税が問題となる可能性はあります。
たとえば、相続開始時点の時価が3000万円である土地を、相続人Aが代償分割により承継し、他の相続人であるB・C・Dに対して代償金を支払ったとします。
このとき、代償金の金額が合計3000万円以下であれば、A・B・C・Dにそれぞれ以下の金額を基準とした相続税が課税されるだけで済みます。
A:3000万円-代償金の総額
B・C・D:各自が得た代償金の金額
しかし、代償金の金額が3000万円を超える場合には、超過部分については、相続とは無関係にAからB・C・Dに対して経済的価値の移転があったものと評価されます。
したがって、この超過部分については、相続税とは別に贈与税が課税される可能性があるので注意しましょう。
5.代償分割に関する遺産分割協議書の条項記載例
代償分割を行った場合において、遺産分割協議書に規定する条項の文例を紹介します。
第〇条
1. 長女〇〇は、下記の不動産を取得する。
記
(1)土地
所在 〇〇県○○市・・・
地番 〇番〇
地目 ○○
地積 ○○平方メートル(2)建物
所在 〇〇県○○市・・・
家屋番号 〇番〇
種類 〇〇
構造 〇〇
床面積 ○○平方メートル2. 長女〇〇は、前項に基づき不動産を取得した代償として、長男〇〇に対して〇〇万円の債務を負うものとし、これを〇年〇月〇日までに、長男〇〇が別途指定する口座に振り込む方法により支払う。
3. 長女〇〇は、第1項に基づき不動産を取得した代償として、次女〇〇に対して〇〇万円の債務を負うものとし、これを〇年〇月〇日までに、次女〇〇が別途指定する口座に振り込む方法により支払う。
4. 前二項に基づく支払いに要する費用(振込手数料を含む)は、長女〇〇の負担とする。
6.代償分割のためのお金がない場合
遺産分割協議書の中で代償分割の内容を定めたとしても、遺産を取得した相続人が、他の相続人に対して代償金を支払わない(支払えない)ケースがたまに見受けられます。
この場合、他の相続人としてはどのように対処すればよいのでしょうか。
(1) 遺産分割協議書を公正証書化する
代償金の支払いが得られない場合、強制執行手続きによって回収を図ることになります。
代償分割によって承継された遺産がまだ処分されていなければ、その遺産を対象として強制執行を行うこともできるので、早めの対応を心がけましょう。
強制執行手続きを速やかにとるためには、遺産分割協議書を公正証書化しておくことが有効です。
遺産分割協議書を公正証書の方式で作成し、その中で定められた債務について、債務者が直ちに強制執行に服する旨の条項を規定しておけば、その公正証書に基づいてすぐに強制執行の手続きをとることができます(民事執行法22条5号)。
このような公正証書を、「執行認諾文言付き公正証書」や、「執行証書」などと言います。
特に代償分割を行う場合には、大きな金額の代償金の精算が予定されるため、遺産分割協議書を公正証書化しておくメリットは大きいといえるでしょう。
(2) 公正証書化していない場合は訴訟提起
遺産分割協議書を公正証書の方式で作成しなかった場合、代償金を強制執行によって回収するには、訴訟を提起することになります。
訴訟で遺産分割の内容を立証すれば、代償金の支払い義務が認定されますので、債権者側の主張を認める判決が言い渡されます。
債権者勝訴の判決が確定すれば、その確定判決に基づき、強制執行の手続きをとることが可能になります。
しかし、訴訟手続きには大きな手間と時間がかかるため、やはり遺産分割協議書を公正証書化しておく方がよいでしょう。
(3) 債務者に代償金を支払うお金がない場合
強制執行手続きをとったとしても、債務者が代償金を支払うに足る財産(現金)を所有していない場合には、強制執行は空振りに終わってしまいます。
その場合、すぐに代償金を回収することはできません。
債務者が代償金を支払えない場合には、代償金の分割払いなどについて相続人間で合意をして、順次支払ってもらうようにアレンジをするほかないでしょう。
このように、代償金の支払いが行われない事態を防ぐためには、遺産分割の時点で資金調達の目途を立てておくべきです。
代償分割によって遺産を取得する相続人が、代償金を支払うためのキャッシュを確実に準備できるのかどうかを精査し、それができないのであれば、別の遺産分割方法を検討した方がよいでしょう。
7.まとめ
不動産などの代償分割を検討している場合は、弁護士に相談することをお勧めいたします。
代償分割では、適正な代償金を算出するために、専門的な観点からの遺産の価値評価を行い、そのうえで共同相続人間で納得できる金額を定める必要があります。
また、万が一代償金の支払いが滞った場合に備えて、遺産分割協議書を公正証書化しておくことも大切です。
泉総合法律事務所にご相談いただければ、これらの専門的な手続きについても、法律的な知見を活かして、かつ隣接士業とも連携のうえで適切に対応することができます。
遺産分割の方法を含めた相続に関するご相談は、ぜひ泉総合法律事務所にご相談ください。