遺産分割調停を弁護士に相談・依頼するメリットと弁護士費用の相場
相続トラブルには様々なパターンがありますが、多くの人がイメージするのは「遺産についての争い」ではないでしょうか?
「他の相続人が話し合いに応じてくれない」「親の遺産を他の相続人に独り占めにされた」などのトラブルは枚挙に暇がありません。
「自分の親には大した財産がないから関係ない」と思っている人でも、いざ相続となると少ない財産を奪い合って争うケースが散見されます。
そういったトラブルを解決する方法の1つに「遺産分割調停」があります。
そして遺産分割調停は、弁護士に依頼して実行するのが効果的です。
ここでは、遺産分割調停を弁護士に依頼すべき理由と、弁護士費用などについてご紹介していきます。
1.そもそも遺産分割調停とは?
遺産分割調停とは、相続人同士で話し合う「遺産分割協議」がまとまらない場合に家庭裁判所に申し立てて行う手続きです。
ポイントは主に3つあります。
(1) 調停委員が当事者の間に入る
遺産分割調停では、原則として裁判官(または家事調停官。以下便宜上「裁判官」といいます)1名と「調停委員」2名で構成される調停委員会が、その事件を担当します。
調停委員は直接当事者とのやりとりを行い、その内容や進行具合を都度裁判官に報告し、裁判官と協議しながら調停を進めます。
調停の進行状況から、裁判官が直接当事者に説明や対話をすることが適切な場面では、裁判官が調停委員と同席します。
調停では基本的に調停委員会と会話をし、他の相続人と話すことはないため、感情的になることなく冷静に話すことができます。
(2) 調停委員が解決案も提示する
調停委員は当事者たちの話を平等に聞き、当事者たちの意見がまとまらないようであれば、公正中立な立場から具体的な解決案を提案します。
その解決案は調停委員を通して各当事者へと伝えられ、当事者全員が納得すれば調停合意が成立し、調停合意に沿った遺産分割が行われます。
また、調停委員は裁判官と協議して事件解決を目指すので、調停委員会の提案内容は遺産分割に関する法律に則ったものとなります。
このため、争っていた当事者達は、調停委員からの解決案を冷静に受け入れることができ、話し合いがまとまりやすくなります。
(3) 遺産分割調停期日は複数回行われる
多くの場合、遺産分割調停の期日は複数回行われます。
2020(令和2年)年の統計で、遺産分割調停が成立するまでに要した調停期日の回数をみると次表のとおりです。
回数 | 事件数 | 割合 |
---|---|---|
0回 | 0件 | 0 |
1回 | 445件 | 約9.05% |
2回 | 659件 | 約13.40% |
3回 | 665件 | 約13.53% |
4回 | 604件 | 約12.29% |
5回 | 478件 | 約9.72% |
6~10回 | 1,343件 | 約27.31% |
11~15回 | 483件 | 約9.82% |
16~20回 | 127件 | 約2.58% |
21回以上 | 113件 | 約2.30% |
総数 | 4,917件 | 100.00% |
※令和2度司法統計 第45表「遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日回数別―全家庭裁判所」より
遺産分割調停では、単に遺産分割方法がまとまらないケースだけでなく、個別の遺産の財産評価についての争いや、特別受益・寄与分などの主張が絡んでくるため、どうしても期日を重ねる必要があります。
時間はかかってしまいますが、調停委員と裁判官から説明を受けつつ、ひとつひとつの問題点を確認、解決しながら話し合いを進めるからこそ、当事者の理解と納得を得やすく、最終的な合意に達し易いのです。
なお、調停の流れや進め方の詳細は以下のコラムで詳しく解説しています。
[参考記事] 遺産分割調停とは?調停のメリットと申し立て方法や流れを解説2.遺産分割調停を弁護士に依頼するメリット
前述の通り、遺産分割調停ではトラブルの相手ではなく調停委員と会話することになります。
一見ストレスなく話し合うことができそうで、裁判官もいるため弁護士に依頼するメリットはないように思えるかもしれません。
しかし弁護士に依頼せずに遺産分割調停に参加すると、知らない間に、不利な解決案に合意をしてしまう危険性もあります。
ここからは遺産分割調停を弁護士に依頼すべき理由や、弁護士を利用するメリットを紹介していきます。
(1) 自分の意見を法的に正しく主張できる
調停委員の中には、解決を急ぐあまり、当事者の話を十分に聞いてくれない調停委員や、法律問題を丁寧に説明してくれない調停委員もいます。
特に、弁護士を代理人とせず当事者だけで調停に臨んだ方から、「(このような)調停委員の対応に不満を持った」という声が多く聞かれます。
一方で、弁護士に調停申立てを依頼し代理人として同席してもらうと、調停委員の対応は確実に変わります。
専門家が相手では、いい加減な対応をするわけにはいかないからです。
さらに弁護士は、依頼者の言い分を法的に整理し、有利な証拠を選択して調停委員に伝えてくれるため、ご自分だけで調停に出席する場合よりも、主張が通る可能性が高まります。
(2) 遺産分割調停に参加する負担が減る
遺産分割調停が行われるのは平日の日中です。仕事がある人は休みを取る必要があります。
通常、調停は複数回行われるため、場合によっては何度も裁判所に行かなければなりません。人によっては相当な負担がかかってしまいます。
弁護士に依頼すると弁護士が代理出席することができるため、当事者本人が出席しないで済むこともあります。したがって、調停に関する負担を大きく減らすことができます。
(3) 弁護士が味方してくれる
調停委員はあくまで中立の立場で解決案を提示してくれるだけであって、あなたの味方ではありません。
一方、あなたが依頼した弁護士は、100%あなたの立場に立って、あなたの意向に沿った最善の動きをしてくれます。
ときには、あなたが考えもつかない方法を使って、利益を最大化してくれることもあるでしょう。
あなたが少しでも多くの利益を確保したいのであれば、弁護士を使わない手はありません。
3.弁護士に依頼する場合に注意すべき「利益相反」
ただし、弁護士に遺産分割協議や調停を依頼する場合に注意しなければならないポイントがあります。それは利益相反です。
複数の相続人がいる遺産分割では、相続人の1人の取得財産が増えると、他の相続人の取得財産は減るため、相続人間の意見が衝突して、相続人間の利益が相反することが多くなります。
こういったケースでは、弁護士の職務規程が、利益が相反する相続人双方の代理をすることを禁止しています(弁護士職務基本規程第27条第1項)。
例えば、相続人である子供3人のうち、相続人Aと意見が折り合わず、他のB、Cの相続人と遺産分割協議がうまくいかなかったとします。弁護士が、当初は意見が揃っていた相続人B、Cの代理人となりAに対して遺産分割調停を申し立てたところ、調停が進むうちに相続した不動産の評価額などについてBとCも意見が食い違い利益相反となった場合には、弁護士が双方の代理人を降りなければ、懲戒処分を受ける可能性があります。
したがって、複数の相続人が同じ弁護士に遺産分割について依頼する際は、慎重に検討する必要があります。
また、依頼する際には、利益相反についてしっかりと説明してくれる弁護士を選ぶべきでしょう。
4.遺産分割調停を弁護士に依頼する場合によくある質問(FAQ)
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遺産分割調停はなぜ弁護士に依頼すべき?
遺産分割調停を弁護士に依頼すべき理由は、弁護士以外の士業では、遺産分割調停において、相続人の代理人になることができないからです。
司法書士は、遺産分割調停の申立書といった裁判所提出資料の作成や作成のための相談をすることはできますが、相続人の代理人となることはもとより、遺産分割調停にかかわる法的なアドバイスをすることはできません。
行政書士や税理士、社労士などは、裁判所提出書類作成すら行うことができません。
一方、弁護士であれば、依頼を受けた相続人の代理人としてできることに制限はありません。 -
遺産分割調停の弁護士費用相場は?
弁護士に依頼する前に気になるのが弁護士費用です。
現在はオープン価格なので弁護士によって費用は大きく異なりますが、多くの弁護士はかつて弁護士会が定めていた報酬基準をそのまま使っています。
弁護士会の旧報酬基準
ご紹介する報酬の金額は、すべて税別表示です。
経済的利益の額 着手金 報酬金 300万円以下の場合 8% 16% 300万円超~3000万円以下の場合 5%+9万円 10%+18万円 3000万円超~3億円以下の場合 3%+69万円 6%+138万円 3億円を超える場合 2%+369万円 4%+738万円 経済的利益とは、事件が解決したときに依頼者が獲得できる利益の総額です。
遺産分割請求事件の場合、経済的利益は、対象となる相続分の時価相当額です。ただし、分割の対象となる財産の範囲及び相続分について争いのない部分については、その相続分の時価相当額の3分の1の額です。
旧報酬規定による弁護士費用の計算
例えば故人の子供AとBが3000万円の遺産を巡って争い、Aが弁護士に依頼したとします。財産の範囲及び相続分については争いがないものとします。
Aの法定相続分は3000万円の2分の1である1500万円なので、本件の解決で得られる経済的利益は1500万円の3分の1である500万円です。この場合の着手金と報酬金は以下のようになります。
- 着手金:500万円×5%+9万円=34万0000円(税別)
- 報酬金:500万円×10%+18万円=68万0000円(税別)
これに相談料や日当、事件の難易度による加算が行われ、最終的な支払額が決定されます。
泉総合法律事務所の費用については、以下をご覧ください。
→費用について -
遺産分割調停は自分でできる?
遺産分割調停自体は弁護士がいなくても申立てや参加ができます。
しかし実際には遺産分割事件の80%近いケースで弁護士が関与しているというデータがあり(※)、ご自分に弁護士がおらず、相手方にだけ弁護士がいる場合には、かなり不利になってしまう可能性は否めません。※令和2年度司法統計 第47表「遺産分割事件数―終局区分別代理人弁護士の関与の有無別―全家庭裁判所」
反対に、遺産分割調停やその前段階から弁護士を利用することで、自分に有利な状況を作り出すことができます。
弁護士に依頼することで自身の負担を減らしながら利益を最大化することが可能です。遺産分割調停だけでなく、相続全般でお困りの際は、どのようなことでも泉総合法律事務所までご相談ください。