正しい遺言書の書き方|作成のポイントと自筆証書遺言の要件
年々平均寿命や健康寿命が伸びていることもあって、健康で元気なうちに将来のことを考え、遺言書を作成しようと考える方が増えてきているようです。
中でも自筆証書遺言は、ご自分で作成することができますので、広く利用されています。
もっとも、法律が定める要件を満たしていないときには、せっかく作成した遺言書であってもすべて無効になってしまうおそれもあります。そのため、自筆証書遺言を作成しようとするときには、有効な遺言書となるように気を付けなければならないポイントがあります。
今回は、2021年における最新の自筆証書遺言の正しい書き方を、有効に作成する要件とそのポイントを含めわかりやすく解説します。簡単な例文も挙げていますので、参考にしてください。
1.自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、その名のとおり、遺言者本人が作成する遺言書のことをいいます。
自筆証書遺言は、遺言者本人だけで作成することができ、特に費用もかからないことから、誰でも簡単に利用することがでる便利な遺言書です。
他方、自筆証書遺言は、民法が定める要件を一つでも欠いてしまうと遺言書が無効になってしまうので、作成するときには十分に気を付けなければなりません。
せっかく、将来家族が争うことを防止しようとして遺言書を作成したにもかかわらず、その遺言書が無効になってしまったのでは、それまでの苦労が水の泡となってしまいます。
正しく遺言書を作成することによって、回避できる相続争いもありますので、有効に作成するためのポイントを押さえたうえで、遺言書の作成に取り掛かってみましょう。
2.自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言を作成するためには、以下のような要件を満たしている必要があります。
(1) 自筆証書遺言の要件
民法968条1項は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と、自筆証書遺言の要件を規定しています。
- ①遺言者本人が自書すること
- ②日付を記載すること
- ③署名をすること
- ④押印すること
この4つの要件を満たすだけで、有効な遺言書を作成することができるのです。意外と簡単だと思うかもしれませんが、気を付けなければならないポイントもあります。
以下では、各要件について詳しく説明していきます。
①遺言者本人が自書すること
自筆証書遺言は、遺言者本人が自分自身で書かなければなりません。パソコンで作成した遺言書や第三者に代筆してもらった遺言書についてはすべて無効となります。
ただし、民法が改正されたことで、平成31年1月13日から、自筆証書遺言のうち財産目録については、パソコンを利用して作成するといった方法や、預貯金通帳のコピーおよび登記事項証明書を添付するといった方法が可能になりました(民法968条2項。なお、この場合財産目録のすべてのページに署名押印が必要です)。
財産目録は記載内容が細かく、かつ多くなるため、パソコンを利用できるようになったことで修正が容易になり、自筆証書遺言がより利用しやすくなったといえます。
②日付を記載すること
自筆証書遺言には、遺言書を作成した日付を記載します。日付についても自書をする必要がありますので、日付の印を押しただけでは無効になってしまいます。
また、日付は、年月日まで記載する必要があります。そのため、たとえば「令和3年1月」「1月1日」「令和3年1月吉日」といった記載では、遺言書は無効となります。
なお、自筆証書遺言が複数存在する場合には、一番新しい日付の遺言書が有効となります。
③署名をすること
自筆証書遺言には、遺言者がその氏名を記載します。氏名の記載も自書が必要ですので、ゴム印による氏名記載では無効となってしまいます。
遺言者本人との同一性が認められるものであれば、芸名、屋号、ペンネームといったものであっても、遺言の署名としては有効となります。
ただし、かかる特殊な記載をすることは、本人との同一性の点で、遺言書の有効性で争いを生じることがありますので、特段の事情がなければ、戸籍上の姓と名を備えた氏名で署名することを、強くおすすめします。
④押印すること
押印する印鑑については、特に法律上決まりはありません。そのため、実印ではなく、認印や拇印であっても有効です。
ただし、実印以外の印鑑を押印した場合、遺言者以外の第三者が遺言書を作成したとの疑いが生じることがありますので、できる限り実印を使用することをおすすめします。また実印を用いる場合、作成直前に印鑑登録証明書を取得し、遺言書に添付しておくのも良い方法です。
また、遺言書が複数枚になるときには、偽造や差し替えを防止するためにも、ページごとに契印をしておいた方がよいでしょう。
(2) 自筆証書遺言に使用する用紙や封筒について
ここまでご紹介した自筆証書遺言の要件を守っていれば、その遺言書は法律上有効となります。
特に、自筆証書遺言を書く用紙については、法律上の規定は存在しません。便箋、レポート用紙、ノートなど、お好きな用紙に書いていただいてかまいません。
また自筆証書遺言を封筒に入れなければならないといった法律上の規定がないため、封入されていない自筆証書遺言であっても無効にはなりません。ただし、第三者による遺言の偽造・変造を避け、かつ遺言の秘密を保持するために、封筒に入れて封印のうえ、保管することを強くお勧めします。
自筆証書遺言の場合、裁判所で検認手続(遺言書の状態を明確にする手続)を経ることになりますが、その際、遺言が封筒などに封印されていたかどうかは、重要な要素となります。
(3) 遺言として効力が生じる事項
遺言書に書いた内容のすべてについて法律上の効力が生じるわけではありません。遺言として効力が生じる事項のことを「遺言事項」といい、遺言事項については、主に以下のものが挙げられます。
- 子の認知(民法781条2項)
- 未成年者の後見人の指定(民法839条)
- 相続人の廃除または廃除の取消(民法893条、894条)
- 相続分の指定・指定の委託(民法902条)
- 特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
- 遺産分割の禁止(民法908条)
- 遺産分割方法の指定・指定の委託(民法908条)
- 共同相続人の担保責任(民法914条、911条、912条、913条)
- 遺贈(民法964条)
- 遺言執行者の指定、指定の委託(民法1006条1項)
- 遺贈の減殺の順序・割合の指定(民法1047条)
上記の遺言事項以外の事項については、「付言事項」といいます。
付言事項としては、家族に対しての気持ちが書かれることもありますが、「葬儀は、家族葬としてほしい」などの内容が遺言書に書かれることがあります。
このような内容の付言事項については、遺言者の意思に従うのが望ましいとはいえますが、相続人には、遺言者の意思に従わなければならないといった法的拘束力はありませんので、それとは異なる行動をすることも可能です。
3.遺言書の具体的な例文
遺言書の具体的な内容をどのように記載するかについては、自書すること以外に法律上決められた様式はありません。基本的には自由に記載することができますが、内容に疑問が生じないようにしなければなりません。
以下では、遺言書の具体的な条項例についていくつか例文をご紹介していきたいと思います。
(1) すべての財産を相続させる場合の書き方
第〇条 遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、遺言者の子A(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる
(2) 不動産に関する事項がある場合の書き方
①土地を相続させる場合
第〇条 遺言者は、遺言者が所有する下記土地を、遺言者の妻A(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
所 在 ○○市○○町○○丁目
地 番 ○○番○○
地 目 宅地
地 積 ○○.○○平方メートル
②建物を相続させる場合
第〇条 遺言者は、遺言者が所有する下記建物を、遺言者の妻A(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
所 在 ○○市○○町○○丁目○○番地○○
家屋番号 ○○番○○
種 類 居宅
構 造 木造スレート葺2階建
床 面 積 1階 ○○.○○平方メートル
2階 ○○.○○平方メートル
(3) 預貯金に関する事項がある場合の書き方
第〇条 遺言者は、遺言者名義の下記の預金債権を、遺言者の妻A(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
1 〇〇銀行○○支店 普通預金
口座番号○○○○○○〇
2 ○○銀行○○支店 定期預金
口座番号○○○○○○〇
4.有効な遺言書を作成するためのポイント
将来相続人同士の争いを防止するためには、有効な遺言書を作成することが重要です。有効な遺言書を作成するためのポイントとしては、以下のものが挙げられます。
(1) 法律の要件を満たすこと
これまでの繰り返しになりますが、有効な遺言書を作成するにあたって最も重要なポイントが法律の要件を満たした内容で作成するということです。
自筆証書遺言の要件としては、既に説明した①遺言者本人が自書すること、②日付を記載すること、③署名をすること、④押印することの4つだけです。決して難しい要件ではありませんので、一つでも欠くことのないように注意しながら作成しましょう。
自分で作成した自筆証書遺言が法律上の要件を満たしているかどうか不安な方は、弁護士に相談してみるのもよいかもしれません。
(2) 内容を正確に記載すること
法律上の要件を満たすことで自筆証書遺言は有効な遺言書となりますが、その内容が不明確なものであった場合には、遺言者の希望通りの遺産分割が実現できない可能性があります。
たとえば、ある相続人に不動産を相続させたいと考えたときに、「○○市内の不動産をAに相続させる」とだけ記載した場合に、「○○市内」に他にも不動産があるときには、どの不動産を相続させるつもりなのかが判別できません。
このような曖昧な記載では、その部分の遺言事項が無効になったり、相続人間で争いになったりしてしまう可能性がありますので、上記の記載例のように、対象となる財産をできる限り特定できるように記載するようにしましょう。
(3) 遺留分にも配慮する
遺留分とは、法律上保障されている最低限度の遺産取得割合のことをいいます。遺言書で自己の遺留分を侵害されることになった相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することによって、侵害された遺留分相当額を取り戻すことができます。
複数の相続人がいる場合に、特定の相続人にすべての遺産を相続させる内容の遺言書を作成したとしても、それ自体は何ら問題ありません。
しかし、そのような遺言書だと、遺産をもらうことができない相続人からは当然不満が出ることが予想されます。場合によっては、遺留分侵害額請求権の行使によって相続人間で争いが生じることもあります。
遺言書を作成するときには、後々の争いを防止するためにも、一定の金銭を、他の相続人に相続させることを明記するなど、他の相続人の遺留分に配慮した内容で作成することも重要です。
[参考記事] 遺留分とは|概要と遺留分割合をわかりやすく解説5.自筆証書遺言を執行してもらうためのポイント
有効な自筆証書遺言を作成することができても、自分の遺言書を確実に実行してもらえなければせっかくの遺言書が無駄になってしまいます。そこで最後に、自筆証書遺言を執行してもらうためのポイントを2つ挙げます。
(1) 遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言者の指定または家庭裁判所に選任された人で、遺言書の内容を実現する手続きをする人のことをいいます。
遺言事項のうち、認知や相続人の廃除をするためには、遺言執行者による遺言執行が必要となりますので、円滑な遺言執行のためには、遺言で遺言執行者を指定しておくべきです(指定がない場合は、利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求しなければなりません)。
また、遺言で相続人以外の第三者に遺贈をした場合に、遺言執行者の指定がない場合は、相続人が遺贈義務者として義務を履行することになります。
しかし、遺言の内容に不満があるときは、相続人が遺贈による所有権移転登記に協力してくれないことがあるため、遺贈の実現が困難になるケースがあります。
そこで、遺言書により、あらかじめ遺言執行者を指定しておき、遺言執行者のみを遺贈義務者にすることで、死後の遺言の実現をスムーズに進めることができます。
[参考記事] 遺言執行者とは|相続人と同一でもいい?権限やできないことは?(2) 遺言の保管方法
自筆証書遺言を作成したとしても、遺言者の死後、相続人に遺言を見つけてもらうことができなければ遺言の内容を実現することができません。そのため、遺言書をどのように保管するかということも重要な問題となります。
従来は、自宅で保管をするか、誰かに預けるかといった選択肢しかありませんでしたが、2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる自筆証書遺言の保管制度がスタートしました。
この制度を利用することによって、前述の、裁判所での検認手続きも不要になりますので、相続人の負担も軽減されることになります。
そのほかにも、遺言執行者を弁護士に指定し、弁護士に遺言書を保管してもらうという方法も、遺言の内容を実現する手段として有効です。
確実な遺言の実現という観点からは、法務局での保管制度を利用する方法か、弁護士に保管をしてもらう方法を検討してみるとよいでしょう。
6.まとめ
自筆証書遺言は、誰でも簡単に作成できる遺言書ではありますが、いくらサイトの雛形や見本を写しても、自分一人では正しい遺言書の書き方ができているか不安なこともあるかもしれません。
そのようなときには、弁護士に相談してみることをご検討ください(なお、泉総合法律事務所では、公正証書遺言作成のご相談もお受けしております)。