家族信託で行う空き家対策
高齢化が進むにつれて、我が国の空き家問題は深刻になってきています。
しかし、家族信託はこの空き家問題対策としても非常に有効で、空き家の状態から発生するリスクを回避することができます。
今回は、空き家問題の発生原因とそのリスク、そして家族信託によるメリットについて解説します。
1.空き家が発生することによるリスク
まず、なぜ空き家は悪いのでしょうか。空き家になることで起こる問題点・リスクを解説します。
(1) 空き家対策の推進に関する特別措置法の施行
空き家の放置は社会問題となっており、これを改善していくために、2015年5月26日に「空き家対策特別措置法」が施行されました。
これにより、適切に管理されていない空き家がある場合には自治体が調査を行い、問題がある場合にはその空き家を「特定空家」に指定することができます。
特定空家に指定することで、その所有者に管理や状況の改善などについて、市町村長が指導・勧告・命令を行うことが可能になりました。所有者が対応しないなどの状況がある場合には、罰金や行政代執行も可能です。
また、特定空家に指定された空き家は、固定資産税の軽減措置対象から除外されるため、固定資産税が最大で6倍になります。
(2) 空き家から発生するその他のリスク
空き家を所有することには、その他に次のようなリスクもあります。
- 固定資産税がかかる
- 土地・建物の維持管理費がかかる
- 家屋の老朽化の進行が早まる
- 倒壊などで他人に危害が及んだ場合、損害賠償責任が生じる
- 放火リスク上昇・不審者が住み付く、防犯上問題となる
- 治安・景観の悪化で周辺の地価が下落する可能性
- 草木が伸びて隣家へ迷惑をかけてしまう(相隣問題)
- 自宅が荒廃していくことでの心情的影響 など
2.空き家が生まれる原因
空き家になる最大の原因は、高齢化世帯の増加と、子供世帯の核家族化です。
現代は、子が親と同居してその家を代々住み継いでいくということが少なくなり、子が家を出ることで高齢の単身世帯が増え、その後居住者の老人ホームへの入居や入院などによって、その家は空き家となってしまうのです。
そしてこの空き家が、空き家の相続や、所有者の認知症などをきっかけに放置され続けることによって、社会問題と化してしまうのです。
(1) 相続を原因とするもの
相続人がいない
相続人がいない空き家などの財産は、相続財産管理人選任などの手続きを経て最終的に国庫に帰属する流れになります。
しかし、かかる流れに乗らないで放置したとしても、関係者にとっては、固定資産税が増えるなどの実害がないため(相続人不在のため、空き家についての課税対象者がいない)、そのまま放置されてしまうことになります。
相続人が決まらない
相続問題によって遺産分割の交渉が進まず、共有状態となっている場合には、処分をするにも相続人全員の同意が必要となります。
更に共有登記もなされずに放置された状態で、相続人が亡くなるなどして二次相続が発生した場合、相続人が増えて共有関係が複雑化し、場合によっては所有者を特定できなくなってしまう可能性もあります。
その結果、不動産売却などの手続きを行うことができず、そのまま放置せざるを得なくなってしまいます。
相続はしたが遠方で既に持ち家がある
核家族化により、長男であっても実家を受け継がず、自分で持ち家を購入することが多くなっています。
一応相続はしたけれども、遠方であるなどの理由で管理を行うことができず、放置されてしまいます。これらを解消するためには、遺言や生前贈与による対策が考えられます。
しかし、仮に遺言や贈与によって子供に家を承継できたとしても、孫の代で承継したいという者がいない場合、空き家となってしまう可能性があります。
また、生前贈与を行う場合には、贈与を受ける子に贈与税負担が発生するため、かかる税負担を嫌った親が贈与をためらうなどして、結局、相続まで持ち越してしまう、ということもあります。
(2) 持ち主が認知症を発症
売買契約の締結が難しい
認知症などによって判断能力を失ってしまった人は、不動産の売買契約をしても無効になってしまいます。
委任によって子供を代理人として手続きを進めることは可能なのですが、重度の認知症によって判断能力がないと認められる場合には、そもそも代理人を立てることすらできません。
よって、認知症にかかってから死亡するまでの間は放置するしかなくなり、相続が発生したとしても、相続についての話し合いが進まない場合、更に放置され続けてしまう可能性もあり得ます。
この対策として、成年後見制度と財産管理委任契約の利用が考えられます。しかし、成年後見制度は自宅を売却する際には家庭裁判所の許可が必要であることや、成年後見人は家庭裁判所が選任するため、必ずしも親族がなれるわけではないという問題があります。
また財産管理と療養看護に関する委任契約である財産管理委任契約の場合でも、重要な行為である不動産売却の際には、所有者本人の意思確認が必要となるため、その意思確認時に判断能力を失っている場合には、売買契約をすること自体が難しくなります。
3.空き家対策を家族信託で行うメリット
ここまで、空き家のリスクと発生する原因を解説してきました。これらは家族信託を上手に利用することで解消できます。
最後に、今回の本題である、家族信託でできる空き家対策のメリットを解説します。
(1) 自益信託にすると贈与税は発生しない
親を委託者兼受益者、子を受託者、委託者の自宅を信託財産とする家族信託契約を締結すると、いわゆる自益信託(委託者が受益者を兼ねる信託)となり、贈与には該当しないため、贈与税は発生しません。
(2) 受託者の判断だけで委託者の自宅の処分が可能
成年後見制度では、成年被後見人の自宅を売却する際には家庭裁判所の許可が必要です。委任契約でも、委任者の意思確認が必要となります。
家族信託の場合には、受託者の判断のみによって信託財産である自宅を売却することが可能であり、委託者が判断能力を失っていても、さきの財産管理委任契約の場合と異なり、受託者の判断で受託者が売却手続きを進めることができます。
受託者へ任せ切ることに不安がある場合には、信託監督人を設置することで受託者の監督が可能になります。設置する場合には、弁護士などの第三者の専門家に依頼すると良いでしょう。
(3) 数世代先の財産承継まで指定可能
家族信託は遺言とは違い、数世代先の財産承継まで指定することが可能です。そのため、家の承継先がないことを理由に、家が空き家として荒廃していく可能性は低くなります。
(4) 受託者は空き家の管理を放棄できない
受託者は委託者の財産の名義人となって、その信託財産の管理・運用・処分を行うようになるため、信託法では受託者に様々な義務を課しています。
その中の1つに「忠実義務」といって、「受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理をしなければならない。」というものがあります。
受託者が遠方に住んでいたとしても、受託者として家を信託された場合には、遠いからという理由でその管理を放棄することはできません。
4.まとめ
空き家を所有することにはリスクが多く、不要の場合には荒廃しないうちに処分した方が良いケースがほとんどです。
しかし、何も対策しないうちに所有者の方が認知症になった場合や、相続が発生した場合には、空き家と化してしまう可能性があります。
家族信託は空き家対策としても非常に有効ですが、所有者の方が認知症になってしまった後では利用することができません。判断能力を失っている人との契約は無効になってしまうからです。
所有者の方が元気なうちに弁護士に相談し、家族信託契約を締結するなどして、早め早めに計画していきましょう。
泉総合法律事務所では、家族信託についてのご相談も承っております。空き家対策以外にも様々なメリットがある家族信託についてご興味のある方は、是非一度、ご相談ください。