電話加入権は相続財産になる?
かつては当たり前のように購入されていた電話加入権ですが、携帯電話の普及とともに影が薄い存在となっています。
しかし、今でも50歳以上の世帯の多くは電話加入権を所有しており、相続が発生した際には取り扱いに注意しなければなりません。
今回は、電話加入権の相続について解説します。
1.電話加入権は相続財産になるのか
結論からいうと、電話加入権は相続財産になります。
しかし、電話加入権についてご存知なのは壮年期以降の方で、詳しい内容まではご存知ない方も多いはずです。
まずは、電話加入権とは何なのかについて詳しく解説します。
(1) 電話加入権とは
電話加入権とは、NTT東日本とNTT西日本の加入電話回線を契約するための権利をいいます。
自宅などでNTTの固定電話を使用したい場合には、電話加入権を購入することで、通信サービスを受けることができるようになるのです。
正式名称は「施設設置負担金」といいますが、電話加入権という呼び方が通称となっています。
(2) 電話加入権の価格の推移
電話加入権の価格は時代の流れと共に動いています。
NTTの前身である日本電信電話公社が発足した1952年の価格は60,000円でしたが、その後、1960年に10,000円、1968年に30,000円、1971年に50,000円、1976年に80,000円に改定されました。
そして1985年にはNTT(日本電信電話株式会社)が設立されて72,000円になり、2005年に37,800円に改定されて現在に至っています。
(3) 電話加入権を相続するメリット
電話加入権ですが、NTTの固定電話は、相続すると意外なメリットがあるのです。
固定電話で発番した電話番号は、どの光回線に乗り換えたとしても、電話番号を変えずに移動することが可能です。
特に、被相続人が営んでいた事業を引き継ぐ場合には、固定電話の番号が変わってしまうと信用にもかかわる問題になるため、これが変わらないというのは大きなメリットです。
次に、災害への強さです。
記憶に新しい東日本大震災では、大手キャリアの携帯電話回線は混乱に陥り、長い間繋がりませんでした。しかし、NTTの固定電話は安定的に繋がったのです。
これは、電話基地局の特性によるもので、NTTの場合は、基地局が無事であれば、例え停電していても電話機と電話回線は使用できるためです。
固定電話の長い歴史は回線の強さにも繋がっており、災害時には非常に頼りになる存在になることが分かりました。
(4) 電話加入権は相続財産となるのか
電話加入権は購入者の権利であり、売買することも可能です。
よって、購入者の財産であり、購入者が死亡した場合には相続財産になります。
2.電話加入権の相続税評価額
電話加入権は、相続財産になるため、相続税の課税対象でもあります。
電話加入権の相続税評価方法は2021年に見直されています。
まだ改正直後であるため、ここでは最新の評価方法と従前の評価方法のいずれについてもご紹介します。
(1) 現行の相続税評価方法(2021年1月1日以後)
2021年1月1日以後に開始する相続にかかる電話加入権については、次の金額を参酌して評価することとされています。
- 売買実例価額
- 精通者意見価格等
2021年1月1日以後の電話加入権については、家庭用動産に含めて1世帯ごとに一括評価して申告することになりました。
(2) 従前の相続税評価方法(2020年12月31日以前)
2020年12月31日以前の評価方法は、現行ほどシンプルではありませんでした。
電話加入権の状況に応じで次の区分が設けられ、それぞれに評価方法がありますが、一般の電話加入権は、「取引のない電話加入権」に該当し、一律1.500円の評価額でした。
- 取引相場のある電話加入権:課税時期における通常の取引価額
- 取引のない電話加入権:売買実例価額等を基として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額(全国一律1,500円)
- 特殊番号の電話加入権(※):上記2つをベースとして、売買実例価額や精通者意見価格などを参酌し、評価額を増減した金額
※金券ショップなどで売却価格を聞いてみる、ネットオークションで似た番号の金額を調べる、電話加入権の市場に詳しい専門家の意見を聞くなどして評価額を決めます。
従前の電話加入権の相続税評価額は、わずかな金額ですが、相続財産から省いてしまうとそれは申告漏れです。「電話加入権の申告が漏れているということは、他にも漏れがあるのでは?」とあらぬ疑いから、税務署の心象にも影響する可能性があります。
3.電話加入権の相続手続き
最後に、電話加入権に相続が発生した場合の手続きについて解説します。
相続人の誰かが引き継いで使用し続ける場合には名義変更を、誰も使用せず不要な場合には解約または休止の手続きを行います。
(1) 相続には名義変更手続き
電話加入権を相続人が引き続き利用する場合には、名義変更手続きが必要になります。
手続きの流れ
- 名義変更の対象となる電話番号の種類を確認する
- 遺言書の有無を確認する
- 遺言書がない場合には、遺産分割協議で電話加入権を引き続き利用する相続人を決める
- NTT東日本またはNTT西日本に連絡をし、名義変更したい旨を伝える
- 必要書類を準備し、NTTへ郵送する
必要書類
- 電話加⼊権等承継・改称届出書
- 相続人の契約者名・住所・生年月日が確認できる書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)※
- 被相続人の死亡の事実が確認できる書類(死亡診断書、戸籍謄本など)※
※コピー可
様式の取得
NTT東日本
【参考サイト】名義変更のお手続き|NTT東日本
NTT西日本
【参考サイト】承継|電話名義の変更|各種お手続き|加入電話|NTT西日本
(2) 回線を使用しない場合は解約手続き
相続人が誰もその回線を使用しない場合には、解約手続きを行います。
ただし、解約は電話加入権を失う手続きになります。復活させることはできません。
また、電話加入権を購入した際に支払った金額も戻りません。
NTT東日本
オンラインで申し込みを行った後、折り返しの電話がかかってきます。
以下のページからスタートしてください。
電話の休止・解約|不要になったとき|変更のお手続き|電話トップ|Web116.jp|NTT東日本
NTT西日本
オンライン手続きはできないため、下記に電話をしてください。
固定電話から:116
携帯電話から:0800-2000116
必要書類
- 除籍・相続の確認が取れる書類(戸籍謄本または戸籍抄本)
- 手続きする人の本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
(3) 今後使用するかもしれない場合は休止手続きを
当面予定はないが、もしかしたら今後その固定電話を使うかもしれないと思う場合には、休止手続きが良いでしょう。
休止は、電話の権利を最大10年間NTTの方で預かってもらう方法です。
再開する際には電話番号が変わってしまうこと、電話を止める際には2,200円、再開する際には2,200円〜11,000円の手数料が必要になります。
電話を止める際には2,200円と安価であるため、解約を迷っている場合にはとりあえず休止という方法でも良いでしょう。
NTT東日本
解約の場合と同様の流れになります。
電話の休止・解約|不要になったとき|変更のお手続き|電話トップ|Web116.jp|NTT東日本
NTT西日本
オンラインで利用休止の予約申し込み手続きを行います。必要に応じて、担当者より電話連絡があります。
利用休止|利用休止・一時中断・解約|各種お手続き|NTT西日本
(3) とりあえず止めておく場合は一時中断手続き
その固定電話を使うけれども、数ヶ月は不要なため、とりあえず止めておきたいという場合には、「一時中断手続き」が良いでしょう。
一時中断は、休止と同様にいったん止める手続きになりますが、再開する際に電話番号は変わりません。中断期間も無制限です。
しかし、毎月の回線使用料の支払いが必要であること、電話を止める際にも2,200円から11,000円までの手数料が必要であることから、電話回線をそのままの電話番号で利用する可能性が高い場合の選択肢になるでしょう。
NTT東日本
解約、休止の場合と同様の流れになります。
電話の休止・解約|不要になったとき|変更のお手続き|電話トップ|Web116.jp|NTT東日本
NTT西日本
オンライン手続きはできないため、次の番号に電話をしてください。
固定電話から:116
携帯電話から:0800-2000116
4.まとめ
被相続人の多くは、まだ電話加入権を所有していることが想定されます。
電話加入権は相続財産にはなりますが、微々たる金額であるため相続税への影響も小さく、また、相続税評価額の計算についても簡便的なものであり、大した問題にはならないでしょう。
電話加入権の相続が起こった時、一番煩わしいのはNTTとの手続きです。放置することに意味はありません。
解約、休止、中断のいずれかの対応を速やかに進めましょう。