遺留分侵害額請求調停とは|調停の流れや申立て方法などを解説
遺言書によって遺留分に満たない相続分の指定などがなされた相続人は、遺留分を侵害している相続人などに対して遺留分侵害額請求を行うことができます。
まずは相手方との話し合いによる解決を目指しますが、話し合いがまとまらなければ、「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てることになります。
この記事では、遺留分侵害額の請求調停の概要・メリット・流れ・申立て方法・留意事項などを詳しく解説します。
1.遺留分侵害額の請求調停とは
遺留分権利者と遺留分を侵害している相続人などとの間で、遺留分侵害額に関する交渉がまとまらない場合には、裁判手続きによる解決に委ねるほかありません。
遺留分についての裁判手続きには、調停手続きと訴訟手続きの2つがありますが、遺留分侵害額請求については、調停前置主義を採っており、訴訟手続きの前に、調停手続きを経なければならず、いきなり訴訟を提起しても、原則として調停に回されてしまいます。
遺留分侵害額の請求調停では、裁判官・調停委員が当事者間の交渉を仲介し、調停委員が当事者の言い分を公平に聴取し、双方の調整役として交渉がまとまるようにサポートします。
客観的な第三者が仲介者として入ることによって、膠着した話し合いを解決へと導くことが、遺留分侵害額の請求調停の目的です。
また、当事者の合意によって解決策(調停案)をまとめるため、金額や支払い方法についても、実情に合わせた柔軟な解決を模索することができるメリットがあります。
さらに、当事者同士の感情的なしこりが緩和されやすく、調停でまとまった支払いについては任意に履行される可能性が高まるでしょう。
なお、2019年6月30日以前に発生した相続については、「遺留分減殺による物件返還請求等の調停」を行いますが、基本的な流れは以下でご説明するものと変わりません。
2.遺留分侵害額の請求調停を申し立てる方法
遺留分侵害額の請求調停の申し立て先・必要書類・費用について解説します。
(1) 家庭裁判所に対して申立てを行う
遺留分侵害額の請求調停の申し立て先は、原則として、調停の相手方となる遺留分を侵害している相続人などの住所地を管轄する家庭裁判所となります。
ただし、当事者が別の家庭裁判所を申し立て先とすることに合意した場合は、その家庭裁判所に対しても申立てを行うことができます(家事事件手続法245条1項)。
(2) 調停申立ての際の必要書類
遺留分侵害額の請求調停を申し立てる際には、以下の書類を準備する必要があります。
- 申立書およびその写し(相手方の数の通数)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言書写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
- 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券写し、債務の額に関する資料など)
- (被相続人の子およびその代襲者で死亡している人がいる場合)その人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- (相続人に被相続人の父母が含まれており、かつ父母の一方が死亡している場合)その死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
さらに、遺留分の侵害が発生した経緯や、金額の算定根拠などを理解してもらうために、事案の詳細や当事者の主張を記載した書面、および主張を補強するための証拠資料を準備するのが一般的です。
(3) 調停申立てに必要な費用
遺留分侵害額の請求調停には、裁判所に収める手数料としての収入印紙に加え、連絡用の郵便切手が必要となります。
- 収入印紙1200円分
- 連絡用の郵便切手(金額は申し立て先の家庭裁判所に要確認)
これ以外に、弁護士に依頼する場合には弁護士費用がかかります。
3.遺留分侵害額の請求調停申立書の書き方
遺留分侵害額の請求調停の申立書は、裁判所所定の書式に従って記載することになります
参考
「家事調停申立書」
「記入例(遺留分侵害額の請求)」
申立書に記載する主な事項は、「申立ての趣旨」と「申立ての理由」の2つです。
それぞれ、何を書けばよいかについて解説します。
(1) 申立ての趣旨
申立ての趣旨には、申立人が求める調停の結論を記載します。
訴訟における「請求の趣旨」とは異なり、遺留分侵害額の請求調停では、請求額を特定する必要はありません。
そのため、「遺留分侵害額に相当する金銭を支払うとの調停を求める」という内容を記載しておけばよいでしょう。
(2) 申立ての理由
申立ての理由には、遺留分侵害額請求の根拠となる内容を簡潔に記載します。
詳しい経緯や背景事情は実際の調停期日で説明できるので、申立書の段階ではわかりやすく簡潔な記載を心がけましょう。
申立ての理由として主に記載すべき事項は、以下のとおりです。
- 被相続人の名前、本籍地、死亡日
- 相続人全員と被相続人の続柄
- 申立人と被相続人の続柄(申立人が遺留分を有する法定相続人であること)
- 相続財産の内容(持ち戻しの対象となる生前贈与、負債を含む)
- 遺留分を侵害する贈与・遺贈の内容(贈与契約ならば当事者、日付、契約書名。遺贈ならば遺言書の日付、方式)
- 内容証明郵便などによって履行の催告をした場合には、その旨
(3) 申立書の記入例
遺留分侵害額の請求調停の申立書の記入例をご紹介します。
特に申立ての理由については、事案ごとに記載すべき事項が異なるので、書き方の詳細は弁護士にご確認ください。
<申立ての趣旨>
相手方は、申立人に対し、遺留分侵害額に相当する金銭を支払うとの調停を求めます。<申立ての理由>
被相続人○○(本籍○○県・・・)は、〇年〇月〇日に死亡し、相続が開始しました。相続人は、被相続人の子である申立人と相手方、および被相続人の配偶者である〇〇です。
被相続人は、遺産のすべてを相手方に遺贈する旨の〇年〇月〇日付自筆証書遺言書(〇年〇月〇日)を作成しています。
被相続人の遺産は別紙遺産目録記載のとおりであり、負債は別紙負債目録記載のとおりです。申立人は、相手方に対し、上記遺贈が申立人の遺留分を侵害するものであることから、〇年〇月〇日に相手方に到着した内容証明郵便により、遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をしました。
しかし、相手方は金銭の支払いについての話し合いに応じようとしないため、申立ての趣旨記載のとおりの調停を求めます。
4.遺留分侵害額の請求調停を申し立てた後の流れ
遺留分侵害額の請求調停を申し立てた後は、実際の調停手続きに向けた準備を進めましょう。
以下では、遺留分侵害額の請求調停の大まかな流れについて解説します。
(1) 主張書面・証拠の準備
実際の調停期日では、調停委員に対して事案の経緯や、自らの請求を根拠づける事実について説明をすることが必要になります。
その際、口頭説明だけでは言いたいことが正しく伝わるとは限らず、また説得力が欠けることにもなりかねません。
そこで、遺留分権利者として主張したい内容を書面にまとめて提出するとともに、主張する事実を補強する証拠資料を準備しておくことが大切です。
証拠資料としては、各相続財産の存在、不動産の評価根拠などを示すものが特に重要になります。
どのような証拠資料が必要かは事案によって異なるため、弁護士とともに慎重に準備を進めましょう。
(2) 調停期日における交渉
調停期日当日は、家庭裁判所において、調停委員が当事者双方から個別に主張を聞き取ります。
相手方に対する主張の伝達も調停委員を通じて行われますが、伝えてよい情報・伝えてほしくない情報については、当事者が調停委員に対して要望することができます。
交渉がまとまらない場合には、適宜次回期日が設定され、調停案を提示する見通しがつくまで、調停委員を介した話し合いが続けられることになります。
(3) 調停が成立した場合
調停委員は、当事者の言い分を聞き取る中で、裁判官とともに双方が合意できる妥協点を探り、最終的には裁判官によって調停案が作成されます。
調停案に当事者双方が同意すれば、調停は成立となります。
調停成立後、履行がない場合には強制執行が可能
調停が成立した場合、裁判所書記官が作成する調停調書にその旨が記載され、その記載は確定判決と同一の効力を有します(家事事件手続法268条1項)。
したがって、もし遺留分侵害額が調停調書記載のとおりに支払われない場合、遺留分権利者は、調停調書の記載を債務名義として、強制執行の手続きをとることができます(民事執行法22条7号)。
強制執行では、給与債権・預貯金・不動産・車など、債務者が所有するさまざまな財産を差し押さえたうえで、それらを換価・処分することによって債権回収を実現できます。
(4) 調停不成立の場合
一方、調停案についてどちらかの当事者が同意しなかった場合には、調停は不成立により終了します。正当な理由なき欠席や無断欠席が継続する場合にも、話し合いの意思がないとして、裁判所から調停は不成立とされてしまいます。
この場合、調停外で引き続き話し合いでの解決を目指す選択肢もありますが、多くのケースでは訴訟手続きへと移行します。
5.遺留分侵害額の請求調停に臨む際に留意すべきポイント
遺留分侵害額の請求調停は、調停委員(+裁判官)とのやり取りと、相手方との交渉という2つの側面から捉える必要があります。
このことを踏まえると、遺留分侵害額の請求調停に臨む際には、以下の点に留意することが大切です。
(1) 調停委員に対して請求の合理性を説得的にアピールする
調停委員に対して、自分の主張が合理的であることを効果的にアピールできれば、調停委員の側から相手方を説得してくれる可能性が高まります。
そのため、充実した証拠資料を準備して自らの主張を裏付けるとともに、どのような説明をすれば調停委員に言い分をわかってもらえるか、弁護士とともに事前に検討を行いましょう。
(2) 相手の言い分も精査して妥協点を探る
遺留分侵害額の請求調停では、最終的には調停案への合意を目指すことになります。
よって、調停案の内容は、当事者双方にとって納得ができるものでなければなりません。
そのため、遺留分権利者が当初主張していたとおりの金額が、調停案にそのまま反映されるとは限らず、ある程度妥協した金額になるのが一般的です。
調停案を受け入れるべきかどうかは、法的な観点から自分と相手のどちらに分があるかという点に加えて、手続きを長引かせることによるコストとの兼ね合いや、相手の交渉態度なども考慮して決定する必要があります。
いずれにしても、調停における交渉では、考慮すべきことがたくさんあるので、弁護士に相談しながら十分に戦略を練りましょう。
6.遺留分侵害額の請求調停は泉総合法律事務所にご相談を
遺留分侵害額の請求調停では、資料をきちんと準備したうえで、調停委員に対して自らの主張を説得的に伝えなければなりません。
調停手続きが家庭裁判所という不慣れな環境で行われることもあり、当事者の方にとっては、ご自身だけで調停に臨むハードルは高いかと思います。
泉総合法律事務所では、依頼者が適切な金額の遺留分侵害額の支払いを受けられるように、調停手続き全体を通じてサポートいたします。
また、仮に調停が不成立となって訴訟へ移行する場合でも、スムーズに対応することが可能です。
遺留分侵害額請求を検討している方は、ぜひ一度泉総合法律事務所にご相談ください。