相続財産清算人とは?選任申立ての流れや費用、誰がなるのかを解説
被相続人に家族がいない場合や、相続放棄によって相続人がいなくなった場合、遺産を相続する人がいるかいないか最終的に明らかではない場合には「相続財産清算人」が選任されます。
相続財産清算人は、最終的に遺産を国庫に帰属させるまでの間、相続財産の管理などに関する事務を取り扱います。
特に被相続人にお金を貸していた方など(被相続人の債権者)・被相続人から遺贈を受けた方・長年被相続人のお世話をされていた方(特別縁故者に当たる方)などは、相続財産清算人の制度に関する知識を身に着け、ご自身の権利を実現できるように手続きを進めましょう。
この記事では、相続財産清算人の位置づけ・選任方法・事務の内容・費用などについて詳しく解説します。
1.相続財産清算人とは?
民法は「相続人があることが明らかでない場合、(その)相続財産は法人(一つの団体)とする」と定めています(民法951条)。相続財産清算人はその相続財産法人を代表し、管理する者です。
相続財産清算人は、相続人を探し出し、見つからなければ清算手続を行い、最終的に残った財産を国庫に帰属させる手続を行います。
(1) 相続財産清算人と旧相続財産管理人との違い
実は、「相続財産管理人」という名称は、令和5年4月1日施行の民法改正によって「相続財産清算人」に変更になりました。
「相続財産清算人」と改正前の「相続財産管理人」とは基本的に違いはなく、経過措置として改正民法施行前の「相続財産管理人」は、相続財産清算人とみなすとされています(民法付則4条1項)。もっとも、相続人の捜索の公告と、相続債権者や受遺者に対する弁済請求の申出をすべき旨の公告を、重複して行えるようになっており、就任期間の短縮が図られています。
ちなみに、「相続財産管理人」は改正民法でも、相続したまま放置されている土地など、未分割の相続財産について保存に必要な処分を命ずる者として新たに規定されています(民法897条の2)。
(2) 相続財産清算人の選任が必要なケース
相続人の有無が不明な場合
相続財産清算人は、「相続人のあることが明らかでないとき」に選任しなければならないとされています(民法952条1項、951条)。
戸籍上相続人がいないことが分かっている場合
「相続人のあることが明らかでないとき」には、相続人がいるかどうかわからない場合に加えて、戸籍上相続人はいないことがわかっている場合も含まれます。
このような場合には、実質的に遺産を管理する人がいなくなり、遺産が失われる恐れがあるので、相続人を探し、相続人の存在が確認できなければ相続債務の弁済などの清算を行ったうえで、最終的に残った遺産を円滑に国庫へと帰属させるために、相続財産清算人が選任されるのです。
相続放棄により相続人が誰もいなくなった場合
なお、相続人が相続放棄をすると、その者は当初から相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。
したがって、相続放棄の結果、相続人がゼロになった際にも、「相続人のあることが明らかでないとき」に該当するため、相続財産清算人が選任されることになります。
2.相続財産清算人はどのようにして選任される?
(1) 相続財産清算人の選任申立は誰がする?
相続財産清算人は、「利害関係人」または「検察官」の請求によって、家庭裁判所が選任します(民法952条1項)。
申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
「利害関係人」とは、相続財産について利害関係を持つ者をいい、具体的には以下のような人たちが該当します。
- 被相続人の債権者、債務者
- 特定遺贈を受けた人
- 特別縁故者 など
被相続人の財産について相続財産清算人選任の申立てを行う利害関係人がいない(相続人もいない、債権者・債務者もいない)場合、検察官が関係機関(地方公共団体)からの通知を受けて、その職務上、相続財産管理人選任の申立てを行うことになります。
(2) 空き家対策での例外
なお最近では、いわゆる「空き家対策」の一手段(空き家を売却する等)として、被相続人に対して債権を有しない地方公共団体(上記利害関係人ではない)が、検察官への通知をせずに自ら相続財産選任申立を行い、裁判所に受理されているケースもあるようです。
3.相続財産清算人が取り扱う手続きの内容・流れ
相続財産清算人は、管理者のいない遺産を国庫に帰属させるまでの一連の以下の管理事務を、相続財産法人を代表して執り行います。
(1) 家庭裁判所による公告
利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所が相続財産清算人を選任した場合には、家庭裁判所によって選任の旨と相続人の捜索の公告が遅滞なく公告されます(民法952条2項)。
相続人の捜索に係る公告期間は最低限でも6ヶ月以上に設定され(同条同項後段)、相続人としての権利を主張する者が誰も名乗り出なかった場合には、相続財産清算人は、遺産を国庫へ帰属させる手続きなどへ移行します。
(2) 相続財産目録の作成・保存事務
相続財産清算人は、まず相続財産の内容を調査したうえで、相続財産目録を作成しなければなりません(民法953条、27条1項)。
これは、相続財産の内容を漏れなく把握し、管理を行き届かせるためです。
(3) 相続財産清算人の権限
相続財産清算人は、家庭裁判所の命令に従い、相続財産の保存に必要な処分を行うことができる場合があります(民法953条、27条3項)。
本来、相続財産清算人の管理権の外にある「処分」行為(売却、変更等)でも、相続財産「保存」に必要で、かつ家庭裁判所が命ずる形であれば、「処分」行為を実行できる、という例外を定めたものです。
先ほど例示した「空き家対策」における空き家の売却には、この家庭裁判所の許可が必要になるということです。
ただし、不動産の相続登記や、預金の払い戻し、既存債務の履行といった通常の保存行為や管理行為については、相続財産清算人自身の判断で行うことができます。
(4) 相続財産の状況報告
相続財産清算人は、相続財産を最終的に国庫に帰属させるまでのプロセスで、相続債権者および受遺者に対しては債務の弁済を行うため、相続債権者または受遺者の請求があるときは、請求者に対して相続財産の状況を報告しなければなりません(民法954条)。
(5) 相続債権者・受遺者に対する弁済に関する手続き
相続財産清算人が選任された旨の公告があった後、2か月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産管理人は遅滞なく、すべての相続債権者および受遺者に対して、弁済請求の申出をすべき旨を公告しなければなりません(民法957条1項前段)。
この場合、公告期間は最低でも2か月以上に設定されます(同項後段)。
弁済請求の申出に係る公告期間の満了後、相続財産清算人は、その時点で知れている相続債権者および受遺者に対して、債権額の割合に応じて相続財産の中から弁済を行います(同条2項、929条本文)。
ただし、優先権を有する相続債権者に対しては、優先的に弁済が行われます(同条ただし書)。
(6) 特別縁故者への財産分与、最終的な国庫帰属
遺産を国庫に帰属させる前段階として、被相続人との間に特別の縁故があった法定相続人以外の者(=特別縁故者)に対して、相続財産の全部または一部が与えられる場合があります(民法958条の2第1項)。
特別縁故者として相続財産の分与を受けたい人は、相続人の捜索に係る公告期間の満了後3か月以内に、家庭裁判所に対して分与の請求をしなければなりません(同条2項)。
家庭裁判所は、特別縁故者による分与請求を受理した場合、その者の被相続人に対する貢献度などを総合的に考慮して、相続財産の分与を認めるかどうか、また認めるとすればどのくらいの金額かを判断します。
相続財産清算人は、家庭裁判所の決定に従い、特別縁故者に対して、相続財産の全部または一部を交付します。
特別縁故者への相続財産の分与手続きが完了したら、相続財産清算人に対する報酬付与、予納金還付(申立の際、申立人が裁判所に納めた金銭のこと)手続を経て、それでも残った財産は国庫に帰属します(民法959条)。
相続財産清算人は国庫帰属実現のため、最終的に残った相続財産についての計算処理や、名義変更などの手続きを行います。
(7) 管理終了報告書の提出
上記の手続きが完了し、残った相続財産がすべて国庫へ帰属したら、相続財産清算人は管理終了報告書を作成し、家庭裁判所に提出します。
これで相続財産清算人の業務は終了です。
4.相続財産清算人の選任に必要な費用は?
相続人不在の相続財産について利害関係を有する人(被相続人の債権者・特定遺贈の受遺者・特別縁故者など)は、円滑に自らの権利を実現するために、相続財産清算人の選任を申し立てることを検討しましょう。
ただし相続財産清算人の選任申立には、高額の予納金がかかる場合もあります。不動産管理、相続財産管理人に対する報酬など、相応の経費が掛かることが想定される場合です。
そのため、ご自身の権利内容に照らして、相続財産清算人の選任を申し立てることにメリットがあるかどうかを、具体的にシミュレーションしておきましょう。
(1) 申立人が負担すべき費用
相続財産清算人選任の申立人が負担すべき費用は、原則として以下のとおりです。
- 収入印紙:800円
- 連絡用の郵便切手:数千円~1万数千円程度
- 官報公告料:4230円
(2) 相続財産清算人への報酬は原則相続財産から支払われる
相続財産清算人に対しては、相続財産の管理事務などに対応する報酬を支払う必要があります。
相続財産清算人に対する報酬は、原則として相続財産から支出されます。
したがって、相続財産が十分な金額である場合には、相続財産清算人に対して支払う報酬を申立人が負担する必要はありません。
(3) 相続財産から報酬を支払えない場合の予納金の相場
ただし、相続財産の金額が、相続財産清算人の報酬や経費に対して不足する場合には、家庭裁判所が申立人に対して予納金の納付を求めることがあります。
予納金の金額は、相続財産の管理や相続債権者・受遺者に対する弁済など、必要となる手続きの煩雑さなどに応じて変わります。
一般的な予納金の相場は、数十万円~100万円程度になることが多いでしょう。
特に、相続債権者が多数の場合など、相続財産清算人の事務負担が大きい場合には、予納金の金額が高額になる可能性もあるので注意が必要です。
5.相続財産清算人についてのよくある質問(FAQ)
相続財産清算人について法律上、特別の資格が必要との規定はありません。 被相続人との関係や利害関係の有無などを考慮して、相続財産を清算するのに最も適任と認められる人が選ばれます(※)。 一般的には家庭裁判所が地域の弁護士や司法書士などを選任することが多いようです。 ※ 【出典】相続財産清算人の選任|裁判所 相続財産清算人を選任するための費用は、被相続人の債権者などの申立人が負担することになります。 一方、相続財産清算人の報酬や経費は、原則として相続財産から支出されます。 ただし、相続財産の金額が、相続財産清算人の報酬や経費に対して不足する場合には、家庭裁判所が申立人に対して予納金の納付を求めることがあります。 予納金の金額は、相続財産の管理や相続債権者・受遺者に対する弁済など、必要となる手続きの煩雑さなどに応じて変わりますが、一般的な予納金の相場は、数十万円~100万円程度になることが多いでしょう。 相続財産清算人の報酬は、相続財産の国庫帰属など業務終了まで発生しますが、費用の精算及び報酬の支払いが終了した時点で、予納金に残りがあれば、返金されることになります。 相続人が見つかると、相続財産法人は成立しなかったものとみなされる一方で、それまで相続財産清算人が権限内でした行為は、法的な効力を維持します(民法955条)。 さらに、相続人が相続を承認した時点で、相続財産清算人の代理権は消滅し(民法956条1項)、遅滞なく相続人に対して清算に係る計算をしなければなりません(民法956条2項)。
相続財産清算人には誰がなる?
相続財産清算人の費用・報酬は誰がいつまで払うの?
相続人が見つかったら相続財産清算人はどうなるの?
6.まとめ
相続財産清算人は、相続人がいない遺産を円滑に清算するための職務を行う存在で、身寄りのない高齢者が増えている近年では、前述の「空き家対策」も絡んで、その重要性が高まっているといえるでしょう。
相続財産清算人について知っておくべき方は、相続人以外で相続財産に利害関係を有する方、具体的には相続債権者・特定遺贈の受遺者・特別縁故者の方などです。
もしご自身がこれらのいずれかに当てはまる場合には、御自身で相続財産清算人の選任申立を行う必要があるかどうか、検討することをお勧めいたします。